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蛇足~黒髪の冒険者→魔剣使いの少年と神代の少女~


 その後どうなったかって? 勇者は沢山のお嫁さん達と一緒に末永く幸せに暮らしました、ちゃんちゃんで良いじゃないか。え? 今までとても子供向けとは思えない話をしておいて、最後だけ童話みたいな終わり方はやめろだ? 面倒くせぇなぁ。


 じゃあ逆に聞こう、気になるところは? ああ、勇者の子供達か。無事に生まれたよ。そりゃ大国から派遣されてきた助産師と、エリクサー、そして勇者の回復魔法があったんだから当たり前だな。勇者は出産の時に右往左往するばかりでな、泣く子どころか王侯貴族すら黙らせる勇者もこの時ばかりは肝が冷えたって話だ。

 子供達はすくすくと育って、次代の勇魔連邦を支える立派な指導者になったり、優秀な戦士や魔法使い、狩人に錬金術師になったりと大活躍だったらしいぞ。


 他には? ああ、本当に神になったのかって? 今、例の勇者を神として崇めている奴が居るか? そう、それが答えだ。ただ、勇者の墓にもその嫁達の墓にも遺体は入っていないらしいな。ああ、本当さ。何十年か前に学術調査が入ってるから確かな話だぞ。一説によると神の試練を乗り越えたことによって、とある神と仲良くなって、出したりいれたりする関係になっていたらしいからな。案外、永遠の命でも得てそこらをうろついてるかもしれんぞ。え? 下品? 直接言わないだけ良心的だろ。


 最終的に勇者には何人の嫁が居たのかって? そいつはなぁ、そうだなぁ。たくさんだな!

 え? 誤魔化すな? 仕方ねぇなぁ……えーと、まず最初に娶ったのが十人だろ? その後にエルフが二人増えて、さっき言った神も入れるともう一人増える。で、その後鬼人族と大樹海のエルフが一人ずつ、カリュネーラ王女の侍女、大森林のラミアとハーピィが一人ずつ、国を興す前に悪徳貴族から助けた娘達のうち、夜魔族の娘が一人、マウントバスのドワーフの娘が一人、ええと合わせて……ピッタリ二十人だな! 人間のクズ? いやいや、勇者の家庭は最後まで円満だったらしいぞ? それにしたって二十人は多すぎる? うん、俺もそれは思うわ。


 他には――。


「タイシさーん! 出発しますよー!」


 あいよー。んじゃ、呼んでるからここまでだな。ん? 勇者と同じ名前?

 ははは、こんな名前、今どき別に珍しくないだろ? 今やピート大陸全土を支配するクローバー合衆国の祖の名前だぞ?


 ☆★☆


 とある街の近くに広がる森の中。嘗て大森林と呼ばれ、今はフォレスティン自治区と呼ばれている広大な森の一角にその遺跡はあった。

 中に入ったものが誰一人帰ってこない『帰らずの遺跡』と呼ばれる古代魔法文明の遺跡である。

 そんな遺跡の最奥、古代魔法文明の古代人が制御室と呼んでいた場所で、一人の男がぼんやりとした光を放つ端末を操作していた。


 もう少しだ。もう少しで完成する。

 独自に編み出した暗号解読術式をコンソールに走らせ、解析を邪魔しようとする古代魔法文明の対抗術式を順調に無効化しながら作業を進めていく。

 古代魔法文明を焼き滅ぼした最強の兵器、墜ちた旧神の力を砲弾として発射する最強最悪の兵器! その力がもうじき私の制御下に入る。

 この力さえあれば、この俺を馬鹿にしたアカデミーの奴らを見返すことができる。あいつも、あいつも、あいつも見返すことができる。さぁ……さぁ! こい! こい!

 祈りの念が通じたのか、ついに暗号解読術式が古代の魔力炉の起動に必要なパスワードを暴き出す。あとはこのパスワードを入力すれば古代の魔力炉が完全に再起動する。旧神を肉の身体に封じ、その力を無尽蔵に吸い出す旧世界の叡智、擬神炉が息を吹き返すのだ。

 興奮に震える指でパスワードを入力し、間違いがないか何度も確認する。そして、いよいよ確定キーを叩こうとしたその時だった。


 轟!


 耳を劈く爆音と共に不壊素材として知られる白いクロノミクス製の壁が粉砕され、破片が室内に飛び散る。そんな馬鹿な、あり得ない。


「神に片足を突っ込んでも自由に生きられないとか、世知辛いにも程があるよなぁ」


 気怠げな声でそう言いながら制御室に足を踏み込んできたのは、どこにでもいそうな黒髪の男だった。みすぼらしい革鎧に身を包み、白い材質――恐らくクロノミクスだ――でできた立派な剣を携えた男である。十中八九、冒険者の類だろう。いくらクロノミクス製の魔剣を携えていようと冒険者如き、人類最高の叡智を有する私が恐れるような相手ではない。

 だが、男の発する雰囲気――覇気のようにも感じられるそれが、私の身を竦ませる。


「な、何を言っている? お前は何者だ!?」


 あまりに咄嗟のことで呆気にとられてしまったが、我を取り戻した私はすぐに腰のホルスターから武器を抜き、男に向けた。この武器は古代魔法文明で使われていた強力な魔導銃だ。今の世界で作られている魔導銃とは比べ物にならない高性能な品で、こいつから発射される魔法弾は掠るだけでも対象を無力化することができる。木っ端冒険者など恐るるに足らない。


「言ってもわからんだろうし、わかったとしても信じられんと思うぞ。とにかく……」


 また、あの覇気だ。身が竦み、膝が震える。跪きそうになるのを必死で堪える。

 嫌だ、もう少しなんだ。もう少しで無限の力がこの手に……!


「おいたはそこまでだ」


 ☆★☆


 ここはとある冒険者ギルドの酒場。冒険者達が安酒を舐めながらうわさ話をしている。


「帰らずの遺跡が更地に、ねぇ。見ねぇと信じられねぇな。遺跡ってのはとにかく頑丈じゃねぇかよ?」

「んなこたぁ俺だって知ってらぁ。でも実際にこの目で見てきたんだよ。綺麗さっぱり、跡形もなく更地になってたぜ」


 そんな話をしていると、新たに冒険者ギルドの扉を潜ってくる者達がいる。黒髪の男と、鳶色の髪の女、その姉妹らしき同じく鳶色の髪の女、それと黒い長髪の女、女達は三人共なかなか見ないくらいの美人だ。

 突き刺さる視線をものともせず、四人は依頼が張り出されている掲示板へと足を向けた。


「久々の外出ですし、ワクワクするようなのがいいですね!」

「折角ですから、暫く解決されていないような塩漬け依頼を片付けるのはどうでしょうか?」

「そういう依頼は裏をきちんと取らないと、厄介事に巻き込まれてしまいますよ」

「まぁ、それはそれでいいんじゃないか。ワクワクするようなのって趣旨にも合致するし。あー、皆にも何かお土産を買っていかないとなぁ」


 そう言って男は一枚の依頼用紙を掲示板から剥がし、カウンターへと持っていく。


「チッ、ハーレム野郎め」

「なんだよ、僻みか? 結構やりそうだし、絡むのはやめとけよ」

「そんなことしねぇよ。心の中では滅びろと祈っておくがな……それにしても塩漬け依頼か。お前聞いたことあるか? 消える塩漬け依頼の噂」

「そりゃあるさ。でもあれだろ、どうせただ取り下げられただけって話だろ?」

「いやそれがな、前にギルド職員と呑んだ時に聞いた話なんだが、実際に達成されてるんだとよ。だが、誰が達成したのか記録にも残ってねぇし、クエスト受注を受理した職員も、その依頼を出した依頼人さえも誰が達成したのか覚えてねぇらしい。職員の間では定番の怪談なんだとさ」

「そりゃけったいな話だな。大丈夫かよ、冒険者ギルド」


 そういった情報がきちんと管理されていないというのは大問題である。普通なら大騒ぎしそうなものだが。


「それが何故か問題にならないらしいんだな……って、なんでこんな話してるんだっけか?」

「あぁ……? ま、なんでも良いじゃねぇか。おおい! エールおかわりだ!」


 冒険者の注文に給仕の娘が返事をして、エールが運ばれてくる。ふと冒険者ギルドの出入り口に目を向けると、女達を連れて外に出ていく黒髪の男の姿が見えた。


「ちっ、いいよな、ああいう奴はよ。金にも女にも力にも困ってなさそうだし、いかにも自由って感じだぜ」

「そうだな」


 キィ、と音を立ててスイングドアが揺れ、一組の男女が入ってくる。普通の剣と立派な拵えの幅広の剣を腰に提げた茶色い髪の毛の少年と、銀糸のような煌めく頭髪の少女だ。


「目立つのが入ってきたぞ」

「剣は立派だが……ああ、早速ゴルツの野郎が絡みに行きやがったな」

「ゴルツのアホがぶっ飛ばされる方に大銅貨二枚」

「じゃあ俺はあの坊主がボコられる方に二枚だな。とはいえ、あの嬢ちゃんがゴルツの野郎に何かされるのは気の毒だから、止める用意はしとくぞ」

「へいへい、お人好しなこって」


 二人の冒険者は図体だけはデカい三流冒険者と少年達の動静に注目する。その頃には、三人の美女を連れた黒髪の男のことを気にしている者はもう一人も居なかった。

次回作の予告とかってわけじゃないんです!

ただの後日譚的な蛇足です、はい。


まぁ、このように物語は一つの世界で並行して時に交わり、あるいは交わることもなくただ近づいてまた離れていくという概念を……(ろくろを回す)


これで本当に終わりです! ありがとうございました!

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