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第122話~面談をすることにしました~

本日二度目の更新!_(:3」∠)_

 さて、これからどう動こうかと思ったところでこちらに近寄ってくる女の子に気付いた。着ているのはボロだが、可愛らしい少女だ。獣人のようだが、シェリーのように人間の比率が大きく、獣人らしい特徴は猫耳と尻尾くらいのように見える。ううむ。猫耳美少女、眼福だな。


「あの、貴方は勇者様、ですか?」

「うん、そうだな。君は?」

「私はルミナです。その、お礼が言いたくて。勇者様のおかげで家族と離れ離れにならずに済んで、姉達ともまた会えました。ありがとうございます」


 ルミナと名乗った猫耳少女がちょこんとお辞儀をする。うーん、ちょっと反応に困る。まぁうん、嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいことだけど。


「それは良かったな。今後も無理矢理家族と引き離すような真似はしないつもりだから、家族と一緒に頑張って幸せになってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 顔を上げたルミナは微笑み、家族らしき猫獣人達の元へと帰っていった。父親と母親らしき二人がこちらにお辞儀をしてきたので、手を挙げて応えておく。


「ま、何にせよ感謝されてよかった。そればっかりじゃないだろうけどな」

「そうじゃの。元の場所に戻りたいと思う者も出てくるじゃろう。その時はその時じゃな」

「だな。まず最初の難関は身体検査か……女性はクスハ、頼んだぞ」

「うむ、任せておけ」


 身体検査、というのはそのままの意味のものではない。いや、普通の身体検査もするにはするが、俺とクスハが言っているのは鑑定眼を用いた身体検査のことである。

 鑑定眼で分かる情報は名前、レベル、称号、スキルの四つである。これらの情報を見れば今回入ってきた亜人奴隷の中にスパイや工作員の類がいないかある程度判別できるのだ。今までの経歴に則さない称号やスキルを持っている人物が居ないかどうか、四百名弱の人物を俺とクスハで視るのだ。

 男女別に身体検査自体は実施するつもりなので、それを利用するつもりである。


「あとは犯罪奴隷の扱いだな」

「犯罪奴隷ね……重犯罪者なのよね?」

「そういうことになってるな。どうだかわからんが」


 基本的にこの世界では貴族の権力が非常に強い。貴族の理不尽な要求に逆らって犯罪奴隷に落とされる人も一定数居たりするのだと聞いてもいる。しかし、今回ここに連れてこられた犯罪奴隷がそういった者達であるかどうかはわからない。特に手枷や足枷をつけられていたわけでもなかったようだしな。


「ま、なんとかするしかないだろ。ここでも問題を起こすようなら見せしめになってもらうさ」


 幸いにも、今の所このクローバーでは重犯罪に相当するようなことは起こっていない。つまり殺人や放火、強盗や強姦辺りがまったく起きていないのだ。まだ人口も少ないし、皆顔見知りみたいなものだからかね。それとも、単に俺を始めとする絶対強者がいるからか。

 このクローバーにおける絶対強者は俺だが、クスハやエルミナさんは勿論のこと、俺の私兵部隊であるソーン達も一般的な住人からすると絶対強者と呼べる領域にいる人物だ。というか、このクローバーで衛兵をやっているような連中は一般人から見れば全員絶対強者みたいなもんである。

 低レベルの一般人はレベル十五以上の存在にはまず殴り勝てないからね。これがレベル二十五と四十とかだと、才能とか修練とかによっては低レベル側が勝つ場合もあるんだけど。


「そこで見せしめにする、という言葉が出るあたりは流石主殿よな」

「俺は別に善人じゃないしなぁ。酷いこともするよ」

「うむ、それで良い」


 クスハは俺が何やっても全肯定してくれそうなとこがあるからな。犯罪奴隷に関してはもう一度全員を集めてその対応を協議するか。基本的にはしっかりと面談して注視していく、って形になるだろうけど。


「面談は衛兵隊がメインでやるんだよな?」

「そうじゃな。流石に何百人も主殿が面談するわけにもいくまいて」

「それもそうなんだけどさ」


 ちょっとやってみたかったな、面談。でも俺は俺で色々とやらなきゃならないこともあるからなぁ。なんでもかんでも俺がやるって訳にはいかない。俺は俺にしかできないことをやって、俺以外でもできることに関しては部下に任せる。そういったことが今後は必要になってくるというわけだ。


「あれこれ自分でやらなくていいのは楽だけどなんだか落ち着かないな」

「慣れることじゃな。これからはそういうことが多くなるじゃろ」

「いいや、俺はやるね。生涯現役、現場主義だ」


 両腕を組んでふんぞり返ってやる。毎日毎日デスクワークで腰痛や痔と戦うような日々はごめんだからな。いや、この身体でそうなるとは思えんし、腰痛も痔も回復魔法で治せそうだけど。でも毎日書類仕事で缶詰は絶対に嫌でござる。働きたくないでござる。


「それがタイシらしいかもね」

「ま、確かにタイシは玉座でふんぞり返ってるようなタマじゃないね」


 リファナとデボラが納得したように頷き、シェリーは困ったような顔で苦笑いをしていた。シェリー的にはクスハの意見を支持したいようだ。


「それじゃここで解散、あとは各自の判断で動いてくれ」

「主殿はどうするのじゃ?」

「そうだなぁ……連れてくるだけ連れてきてあとは知らんぷりってのも性に合わないし、ちょっと宿舎の方見てくるかな。リファナ、悪いがちょっと頼まれてくれるか?」

「良いわよ、なに?」

「マールとネーラに布の調達の件がどうなってるか聞いてきてくれ。今日中に動けることがあるなら動いておきたいし」

「わかったわ、じゃあ宿舎でね」


 ニコリと微笑み、リファナが領主館の方に向かって飛んでいく。いや、跳んでいく。前に建物の上をピョンピョン跳んで歩いたのが楽しかったのか、よくああやって町中を移動してるんだよな。なので最近のリファナはクスハの糸で織ったショートパンツをよく履いている。下からは見えないのだ。何がとは言わないけど。


「私は炊き出しの後片付けを手伝ってくるよ」

「私もお手伝いします」

「妾は街を見回ってくるとしよう」

「そっか。一通り見て回ったら屋敷に戻るから、何かあったら宿舎か屋敷に来てくれ」


 了解の旨を返してくる三人に手を振り、てくてくと歩いて宿舎へ向かった元奴隷達の後を追う。流石にこの鎧姿じゃ威圧感あるか。ストレージを使ってぱぱっと普段着に着替えておく。この動作も慣れたもんだよな。

 歩いているとすぐに移動中の彼等の最後尾に追いついた。最後尾を歩いているのはちっちゃい猫耳達だ。


「あ、勇者様?」

「おう。ルミナだったか、さっきぶりだな」


 最後尾を歩いていたのは先程俺に挨拶をしてきた猫耳少女だった。ちっちゃい猫耳達は弟とか妹かな?


「まおーさま、よろいきてないの?」

「おう、ずっと着てると疲れるからな。あと家具とかに擦ると傷がついたりして怒られるんだ」

「まおーさまもおこられるの?」

「ああ、嫁さんには頭が上がらないぞ。お前達の父ちゃんはどうだ?」

「とーちゃんもかーちゃんにおこられてるー!」

「だろ? かーちゃんは強いよな」


 目をキラキラさせてじゃれついてくる小さい猫耳をあやしながらダラダラと元奴隷達の後ろについていく。なんかルミナにガン見されてるな。


「どうした?」

「いえ、その……なんでもないです」

「なんか普通だ、と思ったか? 勇者とか魔王とか呼ばれても、俺もただの人間だぞ。可愛い嫁さんには頭が上がらないし、人並みに欲もあるから基本的には自分のためにしか働かない。お前達を助けたのだって俺には俺の企みがあるんだからな」

「企みですか?」

「ああそうだ。喧嘩を売ってきたゲッペルス王国を困らせてやるついでに、勇魔連邦の国民を増やして国力アップだ。そして俺はお前達を働かせて家でのんびりゴロゴロするのさ。悪い魔王だからな」

「わるいまおー?」

「そうだ、俺は悪い魔王だぞぉフハハハハ。お前達に毎日三食腹一杯飯を食わせて動けなくしてやる」


 首を傾げる小さい猫耳達をくすぐってやると二人はきゃーと笑い声をあげてもっと前を歩いている両親らしき猫耳夫婦の元に駆けていった。子供たちの笑い声に気付いた両親が俺を振り返って笑いながら会釈をして前を――向かずに二度見三度見して目を剥いた。うん、すまない。俺だ。

 気にするな、という意味を込めて手を振るとなんだか二人は恐縮した様子で何度も振り返りながらも子供達をがっしり確保する。ああん、小さい猫耳が。

 ちょっと残念な気持ちを抱えながらすぐ傍のルミナに視線を移すと、なんだか不思議なものを見る目でじっと見つめられていた。何だよそんなに見つめて、照れるじゃないか。


「そんなにガン見されると居心地が悪いんだが」

「すみません。私達にそんなに気さくに接するご主人様というのは珍しい、というか……」

「そうなのか?」

「私達は生きているだけの道具だったので。道具に気さくに接する人などいませんでした」

「Oh……」


 表情に一点の曇りもなくそう言い切るルミナに思わず絶句する。教育が行き届きすぎだろう、前のご主人様……いや、両親の教育か? どっちにしろ徹底しすぎである。


「でも、ここでは違うんですよね。私は料理人にも、お菓子屋さんにもなれるんですよね?」

「おう、いえす。そうだ。努力は勿論必要だが、何にだってなれるさ」

「そうなんですね……私、頑張ります」

「ああ、頑張れ。暫くは宿舎に世話役を置く予定だから、相談してみろ」

「世話役、ですか?」


 世話役、というのは元奴隷達の自立支援を行うべく特別に配備する人員だ。とりあえずは三十人ほどを割り当てており、クローバー内における仕事の割り当て、各種情報の提供、苦情や陳情があった場合の連絡役などを担ってもらう。人員は老若男女、やる気のある人々をクローバー内で集めてみた。獣人やケンタウロスだけでなく川の民やアルケニア、鬼人族に妖精族も混じっている異種族混合メンバーだ。いずれ開設する予定の役所の職員候補でもある。


「なるほど、困ったことがあったらその世話役の方に相談すれば良いんですね」

「そうだな。家族や知り合いにも教えてやってくれよ」

「はい」


 そう返事するルミナはいつの間にか俺の三歩後ろを歩いていた。


「なんでそんなに後ろを?」

「奴隷が主人と並び立って歩くなどとんでもありません」

「いや、もう奴隷じゃないから。あと、俺は君の主人じゃないから」

「そうですね。でもやはり勇者様は私達の王、主様ですから」

「意外にガッツあるな、君」


 職人に向いているのではないだろうか。いずれこの子が料理人なり菓子職人なりになったら是非ご馳走してもらいたいものだ。


「お、着いたな。家族とはぐれないようにしろよ」

「はい」


 頭を下げるルミナにヒラヒラと手を振って宿舎の振り分けをしている世話役達のところへと向かう。そこには世話役達だけでなく、エルミナさんもいた。


「やっぱり来たわね」

「読まれてましたか」

「きっとタイシくんなら来ると思っていたわ」


 エルミナさんがにっこりと花のような笑みを浮かべる。うーん、とびきりの美人に満面の笑みを向けられるとなんというか、未だにちょっと照れる。美女、美少女に囲まれて過ごしてもこればかりはなかなか慣れないな。


「それで、ここで何をするの? 見守るだけ?」

「いや、面談に参加しようかと」

「面談されるの? 大丈夫? 弾かれない?」

「いやする方だよ! される方じゃないよ! されても弾かれないよきっと!」


 よし、面談の流れを想像してみよう。


『特技は極大爆破とありますが?』

『はい、極大爆破です』

『極大爆破とは何のことですか?』

『魔法です』

『え? 魔法?』

『はい、魔法です。敵全員にダメージを与えます』

『その極大爆破は当勇魔連邦において働く上で何のメリットがあるとお考えですか?』

『はい、敵が襲ってきても守れます』

『素敵! 抱いて!』


 完璧だ、何の問題もないな。


「なにか変なことを考えている時の顔だわ」

「完璧です。俺の人生は薔薇色ですね」

「意味がわからないわよ……」


 なんか引き気味のエルミナさんと一緒に世話役達の仕事ぶりを眺める。

 捕虜を収容していた時には一棟に大部屋一つ二十人の収容量だった建物を一棟を四部屋に区切り、四人部屋を四つ作った。基本的には男女で分け、夫婦や家族は同室に割り振るように予め指示してある。今のところはスムーズにいっているようだ。

 エルミナさんと雑談をしながら作業を見守ること小一時間ほどで宿舎の振り分けが終わったようで、昼飯を挟んでから面談を行う流れとなった。


「旦那様、やっぱりここにいたんですね」


 もふもふ系わんこ少女が尻尾を振りながら走り寄ってくる。

 彼女はシータン、彼女も俺のお嫁さんの一人で、獣人三人娘の一人である。全身もふもふ、ケモ度は少々高め、非常にラブリーで夜は野生を発揮する。底なしである。つよい。

 元々料理や裁縫の得意としていて割と手先の器用な娘であったのだが、最近はマールの指南で錬金術を習得している。たまに怪しい薬を作ったりするのはご愛嬌。でもそれを俺の胃袋に投棄するのは切実にやめてほしい。


「シータンはまた炊き出しか?」

「はい! 私こういうのが得意ですし、楽しいので!」


 シータンがそう言ってブンブンと尻尾を振る。うん、可愛いけどその、抱えてる寸胴鍋下手したらシータンより重くない? 中身も重そうな未調理の野菜が詰まってるし。意外と力持ちなんだよね。この子。


「じゃー俺らも手伝いますかー。あ、いや、やっぱエルミナさんはいいです」

「ぐっ、わ、私だってちゃんとやればそれなりに料理はできるわよ?」

「塩と砂糖を間違えたり乾麺を茹でるどころか燃やしたりする人はちょっと……」

「うぐぐ」


 美人でそつなくなんでもこなすように見えるエルミナさんだが、料理の腕だけは壊滅的だ。同じ材料を使って同じ手順で同じものを作っているはずなのにこの世の地獄を顕現させることがある。まさに暗黒料理人である。

 暗黒料理人には隅っこで体育座りをして待機してもらって、シータン達炊き出し班を手伝って昼飯を作る。今日のメニューは薄切り肉と野菜の炒めものを薄焼きパンで挟んだケバブサンドのようなものだ。元奴隷達は肉がどっさりと使われた食事に驚愕していたが、クローバーではこれが平常運転である。なんせ狩られる魔物の数が数なので、どちらかと言えば肉よりも野菜のほうが貴重なのだ。


「そんなに拗ねないでくださいよ、エルミナさん」

「拗ねてないもん」

「もん、とか可愛過ぎて悶死しそうなのでやめてくださいマジで」


 いつも大人の余裕を見せているエルミナさんが子供のように拗ねている姿が可愛すぎてヤバい。これは写真に撮って是非保存しておきたい……! 今、この手に記録結晶さえあれば! くそっ、なんで俺は有り余る金を使って手に入れておかなかったんだ! 今度イルさん辺りに相談して調達を頼もうかな……いや、自作するのも良いな。考えてみるか。

 今度お散歩に付き合うということでエルミナさんには機嫌を直してもらい、いよいよ面談の開始である。ちなみにお散歩というのは凶悪な魔物が跳梁跋扈する大樹海を縦横無尽に動き回って狩をするというエクストリームスポーツである。素人にはおすすめできない。

 面談は基本的には一人ずつ、幼い子供は親と一緒に面談を行なっていく。面談の内容は予めある程度決めてある。基本的には今までどんな仕事をしてきたか、帰りたい場所はあるか、これからやってみたい仕事はあるか、という内容だ。

 もし故郷があり、帰りたいというのであれば奴隷身分から解放した上で帰郷の支援を行う。あるいは元の主人のところに戻りたいということであればその支援も行う。今すぐに判断できないということであれば、最大一ヶ月間その判断を保留できるように計らうつもりである。


「今日はよろしくおねがいしまーす」


 面談用に割り振られた部屋に行くと、見覚えのある兎獣人がいた。前に金ピカ勇者のアーネストを取調べした時に俺の補佐をしてくれた奴だ。


「おう、よろしく」

「私が書記をやりますんで、適当にやってください」

「あいよ」


 そんなやり取りをしてすぐに一人目の面談者が入ってきた。ピシッとした紳士服に身を包んだ山羊獣人の紳士だ。彼は俺の顔を見て目を見開き、すぐさま胸に手を当てて一礼した。


「お初にお目にかかります、タイシ様。私はクリムト、ゲッペルス王国デリオーン領の領都において太守の補佐をしておりました」

「丁寧にどうも。タイシ=ミツバだ。こっちは俺の嫁のエルミナ。座ってくれ」

「はっ、恐縮です」


 クリムトと名乗った山羊獣人は頭を上げ、俺の指示に従ってすぐに椅子に腰掛けた。


「さて、早速始めるか。まずは今までどんな仕事をしてきたか、ということについて聞きたいんだが、太守の補佐というのは主にどんな業務なんだ?」

「そうですな……陳情や苦情の処理、予算の管理が主な業務でしたな」

「……それはほぼ全業務では?」

「ははは」


 クリムトは俺の質問を笑って流した。今頃彼の主人とその領民達は阿鼻叫喚なのではないだろうか。


「なるほど、よくわかった。それで、どこか帰りたい故郷はあるか? もしくは、元の主人の元に戻りたいとかでもいいんだが」

「いえ、特にそういうのはありませぬな。しかし、希望すれば帰していただけるので?」

「そのつもりだ。俺が欲しいのは国民であって、奴隷じゃないんだよ」

「なるほど。ですが私にはその気遣いは無用です。この勇魔連邦で働かせていただきたいと思っております」

「そうか。この宿舎の世話役を務めている奴らが居るんだが、いずれはその世話役達を中心にこのクローバーの役所を立ち上げるつもりだ。やる気があるなら彼等に加わって働いてみてくれ」

「畏まりました」

「エルミナさんからは何か?」

「いえ、特に無いわ」


 書記を務めていた兎獣人の彼にも視線を送ってみるが横に首を振ったのでクリムトとの面談はそこで終了することにした。面談記録には世話役、行政関連での労働が妥当と追記してもらっておく。


「有能そうな男だったな」

「そうね、目を見ても嫌な気配はなかったし大丈夫じゃないかしら」

「なるほど。なら安心だ」


 エルフの固有スキルか何かなのか、目を見ると相手の悪意とか邪気とかそういったものを測ることができるらしい。感覚的なものらしいのだが……魔眼の一種なのかね? ステータスを見てもそれらしいスキルは無いんだけどな。不思議だ。獣人の超嗅覚がスキル欄に載らないのと同じようなもんなのかな。


「次の方どうぞー」


 兎獣人が部屋の外に顔を出して次の面談者を呼ぶ。


「あ、あの……失礼いたします」


 次に入ってきたのはウサ耳メイドだった。どこかオドオドとした様子で、耳がぺたんと垂れてしまっている。うーん、なんというかこう。見てて嗜虐心をそそられる娘だ。これはいけませんよ。


「エルミナさん、パス」

「そう? それじゃ私が聞くわね。こんにちは、私はエルミナよ。こっちはタイシ、私の旦那様」

「は、はいっ、私はラフィルです。どうぞよろしくお願いいたします」


 男の俺ではなくエルミナさんが面談をしてくれることに少し安心したのか、ラフィルと名乗ったウサ耳メイドの耳がピンと立った。感情をストレートに表現するなぁ、あの耳。


「座って頂戴。何も怯えることはないわ。ここに貴女をいじめる人はいないから。ねぇ?」

「はい、もちろんです」


 俺の代わりに席に座ったエルミナさんの斜め後ろに立ち、背筋を伸ばして返事をする。なんだかエルミナさんの声が少し平坦だ。コワイ!


「そういうことだから安心してね。それじゃあ、今までどんなお仕事をしてきたのか教えてもらえる?」

「は、はい。私はその、ご主人様お付きのメイドをしておりました。お召し替えを手伝ったり、傍に付き従ったり、お部屋のお掃除をしたりです」

「そうなのね。料理やその他の家事は?」

「あ、あの、そういうことは専門の、別のメイドが……後はその、ご主人様の夜伽などを……わ、私は愛玩奴隷で……でも! なんでもします! お仕事も覚えますから! ですからここに置いてください!」


 ラフィルが必死にそう言って目に涙を浮かべる。なんだか妙な感じというか、必死すぎるな。愛玩奴隷というのは、所謂まぁ、そういう奴隷だ。彼女は可愛らしい上に男好きするような身体つきだし、そういう風に扱われてきたんだろう。しかし随分となんというか、妙な感じだ。

 流石に彼女の様子に戸惑いを覚えたのか、エルミナさんがこちらに視線を向けてきた。


「大丈夫だ、君が望まない限り元の場所に戻すことはない。勇魔連邦の主として約束する」

「ということよ。王様が直々に約束するから、安心して頂戴」


 そう言ってエルミナさんがラフィルの手を取り、そっと包み込む。そうするとラフィルは目から涙をポロポロと零し始めてしまった。うーん、これは面談どころじゃないな?


「エルミナさん、その娘を頼みます。面談は落ち着いてからにしましょう。後日でもいいですし」

「そうね。行きましょう?」


 涙を流して嗚咽するラフィルに優しく声をかけ、寄り添うようにしてエルミナさんが退出していった。部屋には俺と書記の兎獣人が残される。

 彼女があそこまで必死だった理由は……まぁ想像に難くないな。元いた場所がよほど嫌な場所だったとか、主人がとても嫌なヤツだったとかそんな感じだろう。ああいう娘が少しでも幸せになってくれれば、俺も暴力を奮った甲斐があるってものだが……まぁ自己満足だな。いいじゃない、而今満足で。偽善でもなんでも救われている人が一人でも居れば。


「あー……可愛い娘だったな?」

「そうですか? 私はもう少し毛深いほうが好みですね」

「なるほど、深いな」


 彼は顔も兎、全身モッフモフのケモ度高めの兎獣人である。彼にとってはもっとケモ度の高い娘のほうが好みらしい。俺は可愛いと思うけどな、ケモノ要素が耳と尻尾だけの獣人も。

 この後も面談は続いた。基本的にはやはり農奴だった人が多く、今後も農作業をしていきたいという人が多かった。ただ、やはり年若い人達は農業意外の仕事にも意欲があり、できれば色々とやってみたいという人もいた。

 途中でリファナが来てゲッペルス王国の布の件を教えに来てくれた。どうやら王都のピドナにある分は明日にでも引き取れるらしい。そのことを伝えるとリファナは何か用事があるのかすぐにどこかに行ってしまった。エルミナさんも戻ってこないので、書記兎と二人きりで面談続行である。


「次の方どーぞー」


 呼ぶのもだいぶぞんざいになってきたな、書記兎。呼ばれて次に入ってきたのは人相の悪い、ヒョロリと細い体躯の犬か狼の獣人だった。目は爛々と光っており、どこか追い詰められた野良犬か、飢えた狼じみた雰囲気を放っている。


「座ってくれ。俺はタイシだ、あんたは?」

「ベルクだ」


 書記兎に視線をやると、彼はパラパラとリストを捲って一番後ろの方にある一点を指した。なるほど、元犯罪奴隷か。


「元犯罪奴隷か」


 俺の言葉にベルクはその目の光を一層強くした。もはや燃え盛っているかのような眼光だ。


「何をした? 盗みか? 殺しか? 火付けか? それとも犯したか?」

「盗みと殺し、火付けもやった」

「なるほど、重罪だな。どうしてそんなことを? 食うに困ったか? それともただやりたかったからか?」

「……」


 ベルクは答えず、ただ俺の目を睨みつけていた。この燃えるような目はあれだな、憤怒だ。こいつは怒ってる。何に怒っているのかは……なんとなく想像はつくな。


「復讐か。仲間か? それとも家族か?」

「……家族だ」

「果たせたのか?」

「……いや」

「そうか。辛いな」


 俺がもしマール達のうちの誰かを殺されて、その復讐も果たせぬままに囚われて犯罪奴隷として生きることになったとしたら……無念で憤死するかもしれん。


「相手はわかってるのか?」

「……ああ」

「そうか、そのうち詳しく話を聞かせてくれ。お前がその気になったらな。何かできそうなら協力してやる」


 ベルクは怪訝な表情で俺を見た。まるで理解できないという顔だ。


「俺にも家族がいる。もし家族が殺されて、殺したやつがのうのうと生きていたとしたら俺も我慢できん。ただ、俺だって暇じゃないし安くない。まずはお前がここで果たすべきことを果たせ。俺がお前のために動いても良いと思うくらいとことんやれ。俺を助けろ、そうしたら俺もお前を助けてやる」

「……わかった」

「男と男の約束だ」


 手を差し出すと、ベルクは俺の手を取った。固く握り、握手をする。


「よし。お前の経歴は?」

「元冒険者だ。ミスクロニア王国で生まれた。得意武器は斧と鈍器だ」


 ザッと鑑定眼でステータスを見る。レベルは25、申告通りに斧術と鎚術がそれぞれレベル3、その他に盾術が2、珍しいことに身体強化スキルが1ある。他にはメインで使ってはいなかったんだろうと思われる短剣術や投擲、格闘が1とか2とかだな。不屈って見たことのないスキルも持っているようだ。


「暫くはよく食って、身体を動かして身体の調子を戻せ。そうしたら俺の私兵部隊に入れてやる。俺直属の遊撃部隊で、大樹海の魔物を狩り回る部隊だ。キツいぞ、死ぬなよ」

「ああ、わかった」

「じゃあ、面談は以上だ」


 俺の言葉にベルクは席を立ち、頭を下げてから退出していった。


「良いんですか?」

「生粋のクズじゃなければ立ち直ればいい。もしここでもやらかすなら魔物の餌にするだけだ」


 多分あいつは大丈夫だと思うけどな。他にもいるんだっけ、犯罪奴隷。全員がああいうやつなら……良くはないが、まだなんとかなりそうなんだがな。どうしようもない奴はまぁ、大樹海に消えてもらうとするか。縁もゆかりもない犯罪奴隷の命よりも勇魔連邦の国民のほうが大事だからな。


 ☆★☆


「お疲れ様」


 一通り面談を終えて領主館に帰ると、カレンが出迎えてくれた。彼女は羊獣人の女の子で、獣人三人娘の最後の一人である。いつもどこか眠たげな目をしていて、奇矯な言動の多い不思議ちゃんだが頭の回転は非常に早い。そして、フラムと同じくマールとメルキナに続いて俺の子供を身籠ってくれた大事なお嫁さんである。背は小さいが、これでもれっきとした大人だ……俺と結婚したからな。彼女の年齢? 大人だよ? この世界ではね。うん。


「安静にしてたか? 体の調子はどうだ?」

「うん、見て」


 ふとカレンのお腹を見ると、服の上からでもわかるくらいぽっこりと膨らんでいた。


「!?」

「また蹴った。元気」


 カレンが愛おしそうに自分のお腹を撫で、頬を染める。そ、そんな馬鹿な!? 朝見たときはまだぺったんこだったのに……つわりだってまだ始まったばかりで……!? 獣人は出産が早いって言ってたけど、こんなにか!?


「うそぴょーん」


 俺が動揺して固まっていると、カレンは服の下から毛糸玉を取り出してブイッとピースをキメてくれやがった。クソッ! 騙されたッ!


「グォァーッ!」

「わー、タイシがオオカミになった」


 逃げようともしないカレンを抱き上げ、抱きしめてぐるぐると回る。いや、お腹の子供に良くないかもしれない。二回転くらいでやめておこう。抱っこしたまま首元に顔を埋めてスンスンしてやる。あー、なんかいい匂いするわー。


「タイシ、変態っぽい」

「いいじゃないか、可愛い嫁さんを堪能させてくれ」

「ゆるす」


 カレンを抱っこしたまま居間に向かう。居間に入ると、カレン以外の妊婦組がいた。


「タイシさんおかえりなさい」

「おかえり、タイシ」

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「ただいま」


 カレンを下ろし、それぞれ抱きしめて頬にキスをしていく。マールとメルキナはもうつわりも収まって元気だが、フラムはつわりが酷くてグロッキー気味のようだ。すっかり憔悴している様子のフラムの頭を撫でてやる。


「カレンは滅茶苦茶軽いよな」

「うん、軽い。でもやたらと唾液が出るしちょっと気持ち悪くなることもある」

「だよな……とにかく、あまり無理はするなよ」

「「「はい」」」

「カレンもだぞ」

「うん」


 素直に頷くカレンの頭を撫でる。そうしていると結局全員集まってきて頭を撫でることになった。犬か何かか、君達は。

 その後は各所から戻ってきた嫁達と夕食を取り、いちゃついてから直ぐに寝た。そうそう、こういう生活を俺は求めていたんだよ。ほどほどに働いて、嫁達とイチャコラして過ごす。これほど幸せなことはないね。

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