第109話〜ミスクロニア王国を訪問しました〜
屋敷で昼食を終え、少し休憩をしてから俺達はミスクロニア王国の首都クロンへと移動した。勝手知ったるなんとやらではないが、流石にこの城は俺も足繁く通った……というか通わされたので城門も顔パスである。
そしてこの国の王妃であり、実質的支配者であり、また義母でもあるイルオーネ=ブラン=ミスクロニアへの面会を申し込んだ俺達は応接室へと案内され、すぐに義父母である国王夫妻と対面することになった。
「お久しぶりです。無事帰ってきました」
「はい、おかえりなさい。まずは無事で何よりだわ。神の試練から五体満足で帰ってきただけでも大したものよ」
イルオーネ――イルさんがいつもどおりのにこにことした表情で労ってくれる。対して義父であるエルヴィンのおっさんは腕を組み、憮然とした表情で俺を睨みつけていた。
「なんだよ」
「ふん、結婚直後に姿を眩ませたからな。神の試練とか言っていたようだが、単に責任に耐えきれず逃げ出したんじゃあないのか?」
「んだとテメェ……」
これには流石にカチンと来た。俺がどれだけ苦労して戻ってきたと思っていやがるんだ、このおっさんは。テーブルを叩いて声を上げようとしたが、俺よりも早くテーブルを叩いた人物が二人居た。
「タイシがどれだけの思いで帰ってきたと思ってるのよ! このがきんちょ!」
「いくら王と言えども我が主殿を愚弄するのは許さぬぞ! この小童が!」
ブチ切れたリファナの拳は風の魔力を纏って高級そうな木製のテーブルにヒビを入れ、同じくブチ切れたクスハの大鎚の如き攻撃碗はヒビの入ったテーブルを文字通り木っ端微塵にした。
一瞬で起こった出来事に俺やミスクロニア国王夫妻は思わず唖然として固まってしまったし、それは周りにいた護衛の騎士やメイド達も同様だ。ネーラも口を開けてぽかんとしている。
「タイシはね! ボロボロになって、力も殆ど失って大森林に落ち延びてきたのよ! 身につけていたのは本当にボロボロになった下着と、シャツだけ。靴も武器も何もかも失って、魔法すらほとんど使えず、強力な魔物が跋扈する大森林を棒切れ一本だけ持って彷徨っていたの! そんな状況でもお嫁さん達がいるからって、再び神々と相見えても今度はなんとかなるように必死に力を取り戻して、帰ってきたんだからっ! 全て捨てて大森林で隠遁生活だって選べたのに、神々と敵対することすら厭わずに、お嫁さん達のために戻ってきたのよ!? それを逃げたですって!? ふざけるんじゃないわよ!」
そうだ、いいぞリファナもっと言え。
「そうじゃ! 主殿はな、確かに助平でものぐさでいい加減で自分本位なところもある! じゃがな! どんな者にも分け隔てなく接し、友誼を結び、愛することができる度量を持っておる! 人間どもに魔物と呼ばれ、大樹海に隠れ住まざるを得なかった我らアルケニアだけではない! カレンディル王国で虐げられていた獣人、ゲッペルス王国で戦火に焼かれたケンタウロス、それにこのミスクロニア王国で違法奴隷にされていた様々な娘達! 別に主殿が助けなくとも誰にも咎められることもない弱者を目につく端からその手で掬い上げ、懐に入れる器を持っておる! それに比べてなんじゃ? 貴様は! いくら愛しき娘が二人も嫁いだとはいえ、それをいつまでもグダグダネチネチと根に持ちおって! 器が知れるぞこの痴れ者が!」
うん、クスハは落としてから上げるのな。まぁいいけど。
二人に指先を突きつけられて怒鳴られた義父上殿は相変わらず口を半開きにして唖然としている。ここは俺が機先を制して取りなすべきか。
「あー、二人ともありがとう。でも流石にちょっと落ち着け、座って」
「あっ……うん、ごめん」
「……ふん、主殿がそう言うなら従おう」
俺の言葉にリファナは急に我に返ったのか少し顔を青くして席に着き、クスハは不満げな表情でクッションに腰を降ろした。それを見届けながら破片になったテーブルをストレージに回収し、代わりに同じくらいの高さの輪切りの丸太を二つ並べてテーブル代わりにする。
少々ワイルドだが頑丈さは折り紙付きだな。これでもクスハのごっつい攻撃碗で殴ったら木っ端微塵だろうけど。
「あー……なんというか、申し訳ない。愛されてるもんで」
「ふふ……そうみたいねー。だめよー、あなた。神の試練がどれだけ過酷かはあなたが一番良く知っている筈でしょう? それに、マールちゃんもティナちゃんももうお嫁に行ったんだから、そろそろ娘離れしないとー」
イルさんに諭され、おっさんはバツが悪そうな顔で押し黙ってしまった。ここでもう一度つつくと話が進まないので、押し黙ったおっさんは無視することにする。
「とりあえず、色々とかいつまんで話をしますが……聞かせて良いものかどうか」
と、俺は部屋に控えている護衛の騎士やメイド達に視線を向ける。先程まで唖然としていた彼らもすでに正気に戻ってはいるようだ。
「大丈夫よー。貴方達、ここで聞いたこと他言無用よー? もし漏れたら全員処分するからそのつもりでねー? 聞きたくなければ退出して。ほらほら」
イルさんが笑顔でそう言うとメイド達は慌てて部屋から出ていった。騎士は二人だけ残ったようだ。
「はい、人払いは済んだわ」
「それじゃあ順を追って話します。リファナも何か補足するところがあれば口を出してくれ」
「わかったわ」
リファナの了解を得た俺はカレンディル王国の王都アルフェンで地母神ガイナと出会ったところから、順を追って全てを話した。ガイナの警告、試練への対策、神々との戦い、そして敗走。
全てを失ってリアルと共に大森林に落ち延び、彷徨ったこと。エルミナさんとの出会い、エルフの里での生活、塩交易に、大森林で出会った異種族達の話。そして擬神格を求めて遺跡を巡ったこと。
擬神格を手に入れ、力を取り戻してからは神の御座を巡ったこと。神々との邂逅と、対話。軍神との戦い。そしてクローバーへの帰還と、賊軍の末路。そして戦後処理。
「とまぁ、こんなところです。カレンディル王国側との話し合いも今言ったような感じですね」
リファナの捕捉も含めて一通り語り終えた俺は、陶製のゴブレットに入った薄い蟻蜜酒を少し飲んで喉を潤した。この蟻蜜酒はクローバーで共生しているアンティール族から提供された蟻蜜を使って醸造された品だ。蜂蜜酒と遜色ない風味を誇り、生産量もそこそこらしい。クローバーの特産品にしようかと検討されている品である。
二日目の昼食で出てきたのを気に入ったので小樽一つ分分けてもらい、それを俺の好みの味に薄めてストレージに入れておいたのだ。ストレートだと俺には少々甘すぎた。
「タイシくんの言うこととはいえ、なかなか信じ難い内容ねー……いえ、本当なのでしょうけれど」
「ですよねー。俺も逆の立場ならそう思うんでしょうけど、残念ながら全部事実なんですよ」
「そうよねー、嘘を吐くならもっとマシな、信じられやすいような嘘を吐くものねー……だとすると、困ったわー」
イルさんが本当に困った、というように頬に手を当てて首を傾げる。
「というと?」
「聞いてると思うけど、ヴォールト神殿が大樹海に神敵あり、と喧伝して色々と煽ってるのよねー。やっぱりヴォールト神殿は権威があるから……基本的に貴族や治安を守る衛兵なんかに信者が多いから、発言力が強いのよー」
「うーん……頭の痛いもんなんでしょうけどね」
同情はするが、正直共感はできない。クローバーには今のところ神殿がないし、俺にとっては喫緊の問題ではないからだ。当座の食料さえなんとかなればいずれ勇魔連邦だけで食料を自給できるようになるだろうし、塩や鉱物資源などについては手に入れる宛が無いわけでもない。
というか、塩や鉱物資源についても大樹海南部の開拓でいずれ自給できるようになるはずである。大樹海の南部には山脈が広がっており、その先に海があることも判明している。そこまでの道を拓くことも、山脈で鉱山を探すことも、そして海へと進出することも俺の力を持ってすれば可能だろう。時間さえあれば。
というか、そもそも国内の権力事情で困ったとか言われても知らんがなって話だ。
「それについてはそちらでなんとかしてもらうしか無いでしょうね」
「ふふ、そうね」
俺が肩を竦めてみせるとイルさんはそう言って微笑んだ。なに、いざとなればしがらみのないもう一つの大陸で食料を大量に手に入れれば良いのだ。もしミスクロニア王国やカレンディル王国を頼れなくなったとしてもまだ手はある。
「ただ、一つだけ手を貸して欲しい件がありまして」
「あら、何かしら?」
「聞いてると思いますが、マールとメルキナが妊娠したので妊婦の世話に慣れた人材を貸して欲しいんですよ。うちにも経験者はいるんですが、一流の……となると難しいもんで」
きっとマールもイルさんには報告していることだろうし……と思ったらなんか反応がおかしい。イルさんは目をまんまるに見開いてびっくりしてるし、おっさんに至っては血走った目で俺を睨んでいる。おいやめろ、怖いわ。
「……マールに聞いてませんでした? もうつわりは治まってきているようなんで……恐らく妊娠三ヶ月は過ぎてる筈なんですが」
「初耳よ。あの子ったら……こちらに連れてくることはできないの?」
「ダメですね。転移がお腹の子に悪影響を与えるかもしれませんし、いくら街道を整備してあるといっても、大樹海を突っ切ってミスクロニア王国まで妊婦を移動させるなんて危険すぎます。それなら安心できる環境をあちらに作るほうが百倍安全で安心ですよ」
「お前が守って連れてくれば良いだろうが。なんならこちらから迎えを出しても良い」
「長距離移動させること自体が愚策だって言ってるんだよ。馬車の振動や移動のストレスでお腹の子に何かあったらどうするんだ」
マールを呼び寄せようとする二人の意見は拒否する。魔法を使っても使わなくてもどちらにせよ長距離移動はリスクが高いだろう。
「わかったわ、要望通り一流の治癒魔法使いを手配するわね。でも、治癒魔法使いは神殿関係者が多いのよね……」
「鍛冶神バルガンド、酒神メロネル、風幸神ゼフィール、戦神ディオールの神殿関係者なら問題ありません。この四つの神は俺の味方なので」
「そうだったわね。ならゼフィール神殿に要請するわ」
「よろしくお願いします。準備ができたら通信で伝えてください、俺が迎えに来るんで」
クローバーの領主館にはイルさんと直通の通信の魔導具がある。俺はてっきりそれを使ってマールが妊娠を報告していると思ったんだが……どうしてマールは黙ってたんだろうな。
「差し当たってタイシくんからの要望はそれくらいかしら?」
「そうですね。捕虜を養う分の食料調達に関してはカレンディル王国で手配してきましたし……もしミスクロニア王国でもこちらに売れる余剰食料があるなら、買わせてもらえると嬉しくはあります」
「わかりました、手配しましょう」
「現金か、うちで取れる魔物素材でお支払いはしますんで。あとは賊軍関係ですが、ミスクロニア王国からも出てるんで?」
「うちから出てる貴族はいないわねー、不満はあるようだけど。うちはほら、タイシくんを怖がってる子達が多いから」
ああ、ミスクロニア王国に来た当初馬車馬のように働いた成果が出てるってわけね。
あの時はイルさんの行う綱紀粛正を影に日向に全力で支援したからなぁ。割と後ろ暗いこともやったし、暗殺紛いのこともやった。まぁ、俺だって言われるままにやったわけじゃないけどな。
基本的には入念に調査しておいた地方貴族や大商人を失脚させまくった。あまりにも目に余る奴には行方不明になってもらったがな。今思い出しても反吐が出るような奴らだった。
「カレンディル王国では魔物に対しては全力でやりましたけど、貴族達とあんまり関わってなかったんですよね。それが裏目に出たか」
要は魔物をぶっ殺すことしか能のない奴だと侮られて舐められていたんだろうな。ミスクロニア王国で俺が大暴れしていたのは当然知っていた筈だが、身近なことじゃなかったから実感が無かったのかね。そういう奴らには後で大いに後悔してもらうとしよう。
「気をつけて。貴族として、あるいは大商人としての力を使って大きく動いている勢力は確認できないけれど、個人単位ではどうかわからないわ。ミスクロニア王国は勇者の国だから……在野の野良勇者なんてのもいるのよ」
「つまり、何がしかの理由でたそういうのが単独で突っ込んでくるかもしれないと」
「そういうことねー。特に神殿系の子達はたまに突拍子もない事をするから心配なのよー……」
「国内のそう言うヤバいのにはちゃんと首輪つけといてくださいよ……」
仮にも勇者と呼ばれるような人材が好き勝手に暴れまわったりしたら大変だろう。イルさんほどの為政者が何も対策していないとは思えないんだが。
「神殿にはどうしても王権が及ばないところがあるのよー……冒険者系の野良勇者は冒険者ギルドを通せばある程度コントロールできるのだけれどね」
「一応確認しておきますけど、どこの国も俺を魔王認定したり、討伐指定したりしてるわけじゃないんですよね?」
「ええ、それは間違いないわ」
それでも襲ってくるような奴が出るかもしれないのかよ……勘弁して欲しい。
「……とりあえず、十分注意しておきます。言っておきますが、命を狙ってくる相手に手心を加えるほどの甘さは持てない状況なので、悪しからず」
万が一身重のマールやメルキナに何かあったら……これ以上は考えたくないな。急に皆の顔が見たくなってきた。帰りたい。
「できれば穏便にして欲しいけれど、命がかかっているから仕方ないわねー」
「そういうことです。それじゃ、今日はこの辺りで……」
「堅苦しい話はやめましょうか!」
「おいとま……あの」
御暇させていただきます、と言おうとしたのにイルさんにインターセプトされてしまった。
「ネーラちゃんとは何度か会ったことはあるけれど久しぶりだし、そちらのお二人とは初めて合うんですもの。ご紹介していただきたいし、もっといっぱいお話したいわー?」
そんな残念そうな顔をされるともう帰ります、とは言い難いなぁ……仕方ない。
「ええと、彼女はクスハ。大樹海にあるアルケニアの里の長で、俺の嫁です。長としての経験もあるし、基本的に冷静で俺を立ててくれるので頼りにしてます」
「クスハじゃ。よろしゅう」
「で、こっちがリファナ。大森林の狩人で、とても腕が立ちます。大森林を彷徨った時に俺を支えてくれました」
「よろしく」
「ネーラのことはご存知かと思いますが……本当に色々助けてもらってますね。上に立つ者としての心構えとか、色々教わることも多いです」
「いくらでも頼ってくださいませ」
三人を改めて紹介すると、イルさんと三人は和気藹々と話を始めた。うん、男は介入できそうにないね! ふとおっさんに目を向けるとあちらもどうしたものかと思っている顔だな。
目が合い、同時に頷いて席を立つ。
「んじゃ、俺達はちょっと席外しますわ」
「そうだな。久々に稽古をつけてやる」
「はっ、どっちが稽古をつけられる方かな?」
「二人とも、無理しちゃだめよー?」
イルさんの注意に手を上げて応え、おっさんと連れ立って応接室から城内の修練場へと向かって歩いた。
「それで、マールは元気なのか?」
「ああ、つわりもそんなに酷くなかったらしい。もう一人、エルフのメルキナも妊娠してな。自分ひとりじゃなかった分、気が楽だったと。うちの住人にも出産経験者はいたから、なんとかなったって言ってたよ」
「そうか」
城の修練場に着くと、そこでは城を守る衛兵や騎士達が汗を流して訓練をしていた。俺と義父である王の登場に訓練をしていた兵や騎士達が訓練の手を止め、敬礼する。
「続けてくれ」
おっさんがそう言って手を挙げると全員が訓練を再開する。
「城勤めなのにしっかり訓練してるんだな」
「マリアの提案でな、城勤めの兵も騎士も定期的に王都周辺の魔物の掃討任務を負わせているのだ。今ここで訓練をしているのが内勤の兵で、外勤の兵は今も周囲の村や町の近くで任務を遂行中だな」
「なるほど、それで城勤めの兵が弛まないようにしてるわけだ」
「ああ。治安の維持にも一役買うし、ちゃんと武勲に応じて手当をつければ士気も上がる」
話しながら互いに訓練用の剣を物色する。様々な長さ、重さの剣があるので、自分が使いやすいものを吟味するのも一つの訓練になるわけだ。
「ふん、まぁそうなるな」
「まぁな」
俺とおっさんが選んだのは、互いに同じような剣だった。最早剣というよりは鈍器に近い、幅広でひたすら頑丈そうな剣だ。並の兵では振るうのも困難だろう。どちらかと言うと打ち合い稽古に使うものではなく、筋力を培うための素振りで使うような剣である。
空いている立ち合い用の訓練スペースに移動し、剣を何度か素振りする。おっさんは豪奢なマントを脱ぎ捨て、更に上着を脱いで身軽になった。
「んじゃ、軽くやりますか」
「そうだな。軽くやるとしよう」
お互いに笑みを浮かべて対峙する。互いに一歩踏み込めば間合いに入る距離だ。
腰を徐々に落とし、踏み込むためのバネを溜める。互いに半身で剣を持っていない左肩を前に出して相手に剣先を見せないようにしている。つまり、自然と同じような構えになる。
俺達の立ち合いを見守る兵のうちの誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
「シッ!」
「カァッ!」
俺が仕掛けるのが一瞬早かった。掬い上げるような逆袈裟の一撃がおっさんの剣によって撃ち落とされ、その反動を利用するように跳ね上がってきたおっさんの剣が俺の首筋に向かってくる。
首筋への一撃を半歩下がって躱し、追撃の突きを打ち払って今度はこちらが反撃の突きを見舞った。おっさんも半身をずらしながら下がって突きを避けたが、わずかに手応えがあった。見ればおっさんの服の胸元が少し裂けている。
「やるようになったな」
「苦境に立たされれば成長もするさ」
「成る程、ならば見せてもらおうか。お前の成長とやらを」
会話はそれきりで、あとはひたすら無言で剣を交わす。最低限の魔力が通された練習用の剣は触れ合うたびに火花を散らし、空を切った剣の剣圧が修練場の地面を引き裂く。
一分ほど打ち合っただろうか? おっさんの動きが鈍くなってきた。VIT値の違いによるスタミナ差が出てきたようだ。俺はまだ打ち合えるが、これ以上はあっちが持ちそうにない。
おっさんが打ち込んできた衝撃を利用して大きく間合いを取り、場を仕切り直す。
「うーん、成長したとは思うんだが攻めきれん」
「はっ、はっ、ふっ……! やるようになったじゃないか」
おっさんの評価を聞き流しながら自分の剣の状態を見る。うーむ、なかなか損傷が激しいな。対するおっさんの剣はまだまだ綺麗に見える。
「いや、まだ足りないみたいだな。同じ条件だと剣を先にぶっ壊されそうだ」
「そうかもな。その前に押し切られるかもしれんが」
そう言っておっさんが微かに笑みを浮かべる。実際にはもう不意打ちでもない限り俺がおっさんに負ける目は無いだろう。今回使ったような鉄剣での立ち合いならともかく、神銀やオリハルコン製の武器を使った実戦ともなれば武器が破壊されるような事態にはまず陥らないだろうし。
「まだ続けるか?」
「いいだろう、胸を貸してやる」
「ははっ、地べたに這い蹲らせてやる」
「やってみろ! キィェアァアァァァァッ!」
☆★☆
俺が練習用の剣を四本、おっさんが二本ぶっ壊したところで装備を管理する部署の兵士に泣いて止められたので打ち合い稽古はお開きとなった。
おっさんに風呂を勧められたので軽く汗を流し、先程会談をしていた応接間に戻ると女性四人はまだ和気藹々とお話中だった。ははは、こやつらめ。
そろそろ日も傾くので、ということでイルさんに嫁三人を開放してもらい、俺達はクローバーへと戻ることにした。
「イルオーネ殿は大した人物じゃな」
「そうね、またお話したいわ」
「いつかあんな女性になりたいですわ」
そして嫁三人がイルさんに籠絡されていた。イルさん恐るべし……いやマジで。