第104話〜久々の家族団欒を楽しみました〜
夜中に目が覚めた。
帰るべき場所に帰ってきて安心してぐっすり眠れるかと思ったが、そうでもなかったようだ。俺の部屋のベッドは大きいが、流石に十二人も一緒に寝られるほどの広さはない。というわけで、今日は他の部屋からもベッドを運び込んで連結して皆で寝ていたのだが。
「……?」
何人かの姿が見当たらないようだ。マールとメルキナとカレン、シェリー、シータンの獣人三人娘、ネーラもいるな。デボラも隣のベッドで寝てる。エルミナさんとリファナもいるな。
「フラムとティナとクスハが居ないのか……?」
どこに行ったんだろう? そっと寝床を抜け出す。ベッタリとくっついているマールがむずがったが、俺の腹の上で寝ていたカレンを代わりに抱きまくらにしてやった。
カレンはその時に少し起きたようだが、ハンドサインでマールを頼むと伝えると小さく頷いてそのまま寝てくれた。
皆を起こさないようにそっと屋敷の中を歩いていると、執務室から明かりが漏れているようだった。中を覗くと、フラムとティナとクスハが何か難しい顔をして話し合っているようだった。
「どうしたんだ、こんな時間に」
「む、主殿か。ゆっくり寝ていてくれて良かったのじゃが」
寝床にいなかった三人が書類の散乱している机を囲んでいた。そう言えば三人ともセーブ気味だったな。なにをってナニをだよ。
机の上に広がる書類を手に取って眺めてみる。どうやら何かの調査報告書のようだが。
「んん? 神敵宣言?」
報告書によると、各地の神殿に『大樹海に神敵あり』という神託が下りているらしい。
具体的に俺やクローバーを含む勇魔連邦が神敵であると名指しはしていないようなのだが、大樹海に在る『神敵』など勇魔連邦しか考えられないではないか! とカレンディル王国やミスクロニア王国、ゲッペルス王国の一部貴族が声を上げているとある。
報告書の日付は俺が神々と戦って大森林に落ち延びた数日後であったようだ。
「はい、その神託によって各国は上を下への大騒ぎです。今まで大氾濫や魔王出現についての神託は何度もありましたが、特定の勢力を『神敵』とする神託など下りたことがありません。神殿の神官達も解釈に首を捻っている有様なのです」
「ゲッペルス王国はともかくとして、カレンディル王国やミスクロニア王国と勇魔連邦は大変良い関係を築いています。ご主人様の尽力で両国への街道も整備が終わり、まさに人の行き来が始まるというところでこの神託でしたから」
ティナとフラムがそう言って溜め息を吐く。
「で、その神託を大義名分に人間どもが大挙して攻め寄せてきておるわけじゃ」
「そういうわけです。攻めてきているのはカレンディル王国とミスクロニア王国を繋ぐ大樹海交易路によって割りを食った従来のゲッペルス王国経由の交易路を領地に持つ貴族達ですね。つまり、両王国内でも親ゲッペルス王国派の貴族達です。神敵宣言自体は実際に下りた神託ですから、王国としてもなかなか完全に押さえ込みきれないようです」
「んん? 押さえられないのか?」
「残念ながら無理でしょうね。ご主人様が思うほど国王というのは絶対的な権力を持っているわけではありません。国王の直轄領や直臣が治める領地であれば王の権力は絶大ですが、地方貴族の治める領地はまた別の話です。勇魔連邦でもクローバーはともかくとして、鬼人族の里や川の民の居住地に対して直接的に命令をするようなことはできないでしょう?」
「ふむ、なるほど」
フラムの言葉に俺は納得する。
できるかできないかで言えば、まぁできないことはない。ただ、その場合は面倒事が色々多くなるだろう。場合によっては地方の領主が離反することなども考えられるわけだ。無理押しするのは難しいだろう。
「無論、両国とも勝手な行動は起こさないように強く通達はしたようですが、今回に関しては神託という大義名分がありますから。なかなか……」
「事情はわかった。攻めてきている奴らの要求はなんだったんだ?」
「神託がどうのこうのと言っておったが、要約すると我らアルケニアや鬼人族、アンティール族などの奴ら曰く『人間とは認められない種族』の引き渡しと、奴らの軍勢によるクローバーの占拠を認めろという内容じゃな」
クスハの言った信じられない要求内容に腸が煮えくり返るような思いがする。
「何言ってんだ? アホか? そんな要求飲めるわけねぇだろ。つか、大樹海はカレンディル王国とミスクロニア王国の両国から正式に所有を認められた俺の領土だ。領土侵犯してるてめぇらは即刻出てけって話だよな。警告に従わないなら実力行使もやむなしだ」
「うむ、主殿なら当然そう言うじゃろうと思った。妾達も大樹海を切り拓いて進軍してくるあやつらに再三そう通告しておったんじゃがな。結局奴らは止まらなんだ。それでついに一週間ほど前にクローバーの近くまでたどり着きよってな。ここ数日ああやって城壁に攻め寄せてきておったのよ」
まぁ、強固な城壁を前に何もできずに撤退を繰り返しておるがな、と言ってクスハが肩を竦めて笑う。
「ご主人様の作った城壁と新兵器の数々は圧倒的ですね。ちょっとやそっとの魔法ではビクともしませんし、こちらは全ての兵が魔法使いみたいなものですから」
「俺は材料を魔法で作っただけで、作ったのはクローバーの皆だけどな。それに武器の方も本当は対人用じゃなく対魔物用だったんだけどなぁ」
「結果的に大いに役に立っておるのだから良いじゃろう」
「そういやあの馬鹿でかい爆発はなんだったんだ? あんな威力の武器は作ってなかったと思うんだが」
「ああ、あれはお姉様の作った魔核地雷ですね。あなたの作った飛翔魔弾の爆発回路を弄って作ったそうです」
「これくらいの大きさの魔核に何か刻んでおったな」
クスハが手で示した大きさは赤ん坊の頭くらいのものだった。物によるが、それくらいの大きさの魔核に篭められた魔力を炸裂させたなら、あれくらいの爆発になるのも頷ける。
「エゲツねぇなぁ……そういやよくあいつら無事だな?」
「ん? 無事ではないじゃろ? 相当数の戦力を失って潰走しておったし」
「ああいや、そうじゃなくて。ゲッペルス王国側から大樹海を突っ切って進軍してきたんだろ? よく魔物に全滅させられなかったと思ってな」
「ああ、そういうことか。それが妙な話なんじゃがの、あやつらはどういうわけかあまり魔物に襲われんのじゃ」
「なんだって?」
「侵攻軍の中では神のご加護があるからだとまことしやかに囁かれているようです」
「それも今日の大敗で揺らいだでしょうけどね」
神のご加護、ねぇ。あながち間違いじゃないかもしれないから困るんだよなぁ。
「どうした? 急に黙り込んで」
「いやぁ、あながちその加護ってのも間違いじゃないかもしれなくてなぁ」
そう前置いて俺は神々の戦いからクローバーに帰ってくるまでの経緯をかいつまんで話した。特に神の思惑や、リアルから聞かされた神関連の話、そして祝福を得るために出会った神達の話を中心に。流石に寿命を終えた後に神として過ごす話は避けたけど。
「ふぅむ、マールのお嬢が言っていた夢の話の裏付けが取れたのぅ」
クスハはそんな調子で興味深げで様子だったが、フラムとティナは少し顔を青くしていた。
「主神ヴォールトと敵対……」
「戦神ディオールと殴り合い……」
この世界の神々に対して一般的な信仰心を持っている彼女達にとっては非常にショッキングな内容だったみたいだ。うん、これは確実にSANチェック入ってますわ。大丈夫かな?
「なんじゃ二人とも。これくらい主殿ならおかしくないじゃろ?」
「それはそうかもしれませんけど……今はちょっと待って下さい。私達は今、恐らくいまだかつて無いショックに見舞われているというか、信仰の危機に瀕しているので」
顔を青くしたティナが俯き、右手を突き出して左手でこめかみを揉む。うん、人々を脅かす大氾濫が事前通知の神託も含めて信じていた神の自作自演だったとか、そりゃもう信仰の危機だよな。
「まぁ、神々の主張も間違いではないじゃろ。現に、こうやってこの都に攻めてくる人間どもがおるわけじゃしな。大氾濫で主殿が活躍しておらねば、兵を出す余裕など無かったのではないか?」
「その場合はクローバーも無かっただろうからなんとも言えないけどな。ただまぁ、魔物という脅威が無くなれば人間同士の争いが起きる、っていう神の考えには俺も同意せざるを得ない。俺の居た世界は正にそんな世界だったしな」
「そ、そうなのですか……?」
「うん、そうなのです。でも、だからってヴォールトのやり方はどうかと思うけどな。さっきも話したように、実際の所神々の間でも意見が別れてるんだ。そんなに心配するな、ちゃんと手は打ってきた」
不安な表情を隠せないティナにそう言って笑いかける。ヴォールトはかなり力を失っている筈だし、今回は神々のアバターを破壊できる極光剣もある。力を取り戻したリアル以外の神とも協力的な関係を築けたようだし、そう滅多なことにはならないだろう。
「そもそも、その神が煽って人間同士を争わせるようでは本末転倒な気もするがの」
「そりゃ言えてる。しかしあれだな、あいつらもよく攻めてくる気になったよな? 俺がいるのをわかってて大軍で攻め寄せてくるとか正気の沙汰じゃないぞ」
「ご主人様がいない、ということが知れたから攻めてきたんです。ミスクロニア王国に先んじて始まったカレンディル王国との取引の際に情報が漏れたようで……」
「あー、まぁ急に姿を消した俺が悪いよなぁ。情報統制も難しいだろうし」
毎日姿を見せていた俺がある日からパッタリと姿を見せなくなったんだから、俺がどこかに行ってしまったというのはクローバーの住人全ての知るところだっただろう。
そうとなれば交易に訪れた商人達にその情報が漏れるのは防ぎようが無かっただろうし、その商人達によってカレンディル王国内に噂が拡散するのも防げなかっただろうな。
「まぁ、俺が帰ってきたこともすぐに広まるさ」
俺のクローバーに手を出してきたんだ。死ぬほど後悔させてやるぞ……ククク。
「ご主人様が邪悪な笑みを……」
「ほほほ、良い顔じゃのう」
「あの、あなた? やり過ぎると後々面倒ですから、ね?」
「ハハハ、そうだなぁ。しかしやり過ぎといえば、マールのあの地雷はまずかったんじゃないか?」
この話題を出した途端、フラムとティナの目が死んだ魚のようになってしまった。
「すごく、まずいです……」
「ねえさま、おこるとようしゃがないので……」
「元はと言えば、こんな時間に集まったのもその対応をどうしようかというものじゃからの」
クスハも苦笑いを浮かべる。
「俺の飛んできたタイミングも悪かったよなぁ」
爆裂光弾で魔物達を蹴散らした後に起爆したからな、あの魔導地雷。多分攻めてきた貴族軍は俺の仕業だと思っているに違いない。
「何にせよ、明日かの……主殿はミスクロニア王国とカレンディル王国に顔を挨拶に行くつもりで居れよ? 帰還の報告は必要じゃろうしな」
「めんどくせぇなぁ……ところで、食料や物資の状況はどうなんだ?」
「肉はともかくとして、野菜と穀物が少し心許ないですね。まだ一ヶ月くらいは保つと思いますが」
「んじゃ訪問のついでに買い集めてこよう」
もしカレンディル王国とミスクロニア王国で十分な量が調達できなかった場合はゲッペルス王国とか第二大陸の方で買い集めてくるのもアリだよな。この状況じゃカレンディル王国からの隊商もクロスロードで足止めされてるかもしれんし、クロスロードに足を運ぶのもアリか。
「明日、交易に使うつもりだった商品をピックアップしてくれ。取引の担当は誰がやってたんだ? ヤマトか?」
「はい、そうですね」
「んじゃヤマトと護衛を数人、商品と一緒にクロスロードに置きに行くよ」
「ああ、それは良いですね。取引に穴も空きませんし」
「それじゃそういう方向で。ほら、仕事はここまでだ。寝よう」
まだ何か仕事をするつもりらしいフラムとティナを拉致して寝室へと戻る。異世界でまでブラック残業をする人なんて見たくないよね。
☆★☆
翌日である。
「えへへ、タイシさん。えへへへへ」
「朝からガンギマリしてんなぁ」
朝食の間もマールが俺から離れない。恐らく妊娠したことで少しばかり情緒不安定になっているんだと思うが、大丈夫かこれ。
「まぁ、一番頑張ってたからね。少し甘えさせてあげなさい」
メルキナがそう言って慈母のような笑みを浮かべる。そういう君もちゃっかりマールの反対側に陣取ってるよね。
「始まりからして遅れを取っていたから仕方ないのですわ……うう」
「タイシは誰が先に孕んだからって上下をつけたりしないよ。こういうのは授かりものなんだから気にしすぎるんじゃないよ」
「むぅ、それでも悔しいものは悔しい」
「(コクコク)」
俺の両隣に陣取るママ組をネーラが悔しそうに見つめ、それをデボラが窘める。カレンとシェリー、シータンはネーラと同じ気持ちであるようだ。
「悔しがらなくてもこのペースでやってればすぐに皆お腹が大きくなるわよ」
「もう少しこう、言い方をだな」
エルミナさん、飯時に生々しい話をするのはやめよう。なんか皆の目が怖いし。
「今日はどうするんですか?」
「どこから手を付けたものか、ってとこだな。昨日の晩にティナとフラムとクスハと俺の四人で少し話したんだが、とりあえずミスクロニア王国とカレンディル王国に俺が帰還したことを伝えようかって話になったぞ」
「それも大事ですが、今すぐやることではないですね。まずはこのクローバーの住人達と勇魔連邦の全域にタイシさんが帰還したことを知らしめるのが先決だと思います」
「む、それもそうか?」
「ふむ、そうじゃの……考えてみれば確かに、それが先決かもしれん。両国の圧力が必要になるのは戦後処理に関してじゃろうし、物資の類も今すぐどうにかせねばならんほど逼迫しているわけではないしの」
マールの意見にクスハも同意する。ティナとフラムも異存は無いようだ。
「それじゃあ俺の存在感をアピールするために、とりあえず手早く外の迷惑集団にはお引取り願うか。エルミナさんからは何か意見はありますか?」
「私? 私は新参者だし、国がどうこうって話はよくわからないから意見は差し控えるわ」
「そうですか……ん? どうした?」
何故かマールが拗ねたような表情で俺を見つめていた。メルキナもなんか微妙な表情をしている。
「タイシさん、随分とエルミナさんを頼りにしているんですね?」
「えっ? いや、うん、そうだな?」
「それに、なんだか丁寧に接してます」
「いやぁ、そりゃお義母さんだし? イルさんにもこんな態度だろ?」
「むー……今度はママに手を出したりしないですか?」
「しないしない。不倫は誰も幸せにならないだろ」
何よりそんなことしたら悪堕ちして修羅と化したおっさんに斬り殺されるわ。
「この話はやめよう。ハイ! やめやめ」
「……逃げたわね」
リファナがボソリと呟く。あーあー聞こえなーい。
「むぅ、まぁ良いです。とりあえず、鬼人族の里と川の民の居住地ですね。エンキさんとブイティさんはそれぞれの里で守りに就いていますから、手土産を持って挨拶に行くのが良いでしょう。アルケニアの里はどうしますか?」
「長の妾がここに居るし大丈夫じゃろ。ここから遠いしの。まぁ、時間が余ったら少し顔を出すくらいでいいじゃろうな」
「アンティール族はどうしてる?」
「彼女達はマイペースですね。今は地中を掘って煉瓦作りに使える粘土を調達してもらってますよ」
「あー、なるほど。まぁあいつらは肉さえあれば良い感じだもんな」
見た目完全にデカいだけのアリなのに、やたら可愛いキンキン声を響かせてくるんだよね、あいつら。たまにはご機嫌取りにでも行くか。
「妖精族は……まぁいいや」
「適当ねぇ」
「構うだけ無駄というか、いつの間にか居る奴らだし……」
あれで結構戦闘能力は高いらしいし、割と油断ならない奴らではあるんだけどな。
「獣人族とかケンタウロス達の様子はどうだ?」
「士気は高いですね。今度は自分達がご主人様の帰る場所を守る番だと奮戦しています」
「そっか」
なんだかむず痒くなる。こういうのには弱いんだよ、俺。
「じゃあ、まずはもう一度クローバーの中を巡って皆に俺の無事な姿を見せてから外の迷惑な奴らを撃退、それから鬼人族の里と川の民の居住地を訪問って流れで行こう」
「そうですね。本当は私も同行したいんですけど……」
「ダメだよ。万一があったら大変だからね。マールとメルキナは大人しくしておきな」
「ま、仕方ないわね。お腹の子に何かあってはいけないし」
デボラに窘められ、マールとメルキナが肩を落とす。
「タイシさん、絶対に帰ってきてくださいね」
「勿論だ。俺の邪魔をする奴が居たらぶっ飛ばして帰ってくるよ」
☆★☆
朝食を終え、エルミナさんとリファナ、それに獣人三人娘を従えてクローバーを散歩する。
『あっ! 発見したであります!』
歩き始めてすぐに道端に立っていたアンティール族の一人と遭遇した。頭に響く声を上げながらカシャカシャと近づいてくる。
「よう、久しぶりだな。帰ってきたぞって皆に伝えとけ。これ、土産だ。大森林で獲ってきた珍しい肉だぞ。塩漬けだけど大丈夫か?」
『塩漬けは我々も大量に得物を得た時に保存に使うでありますから、大丈夫であります!』
「そうか。んじゃ俺は他の奴らにも挨拶してくるからまたな」
『了解であります!』
最後の塩漬けベヘモス肉をアンティール族に押し付け、その場を歩き去る。
「あんな種族も居るのね」
「始めて見たわ」
「ずっと大樹海に住んでたアルケニアでさえ把握してなかったレア種族らしいぞ」
そんな話をしながら城壁へと歩いていく。途中で防衛に就いている人々を対象とした炊き出しを見つけた。
「お、ちょっと覗いていくか」
「ん、手伝う」
「手伝いましょう!」
カレンを先頭にしてシータンとシェリーが炊き出しをしているところに駆けていく。配給を受けている住民達もそれで俺の存在に気づいたのか、集まってくる。
「本当に帰ってきたんだな。どこ行ってたんだ?」
「色々あってなぁ、北の大森林で彷徨ってたよ」
「なんだよ、そんなのあれだろ、魔法でひとっ飛びだったんじゃね?」
「それが魔法も殆ど使えない状態になっててな。なんやかんやあって力を取り戻してやっとこさ戻ってきたんだ。いやぁ、大変だったぞ? 素手でこんなでっかい怪獣みたいなのと殴り合う羽目になったしな」
「普通に聞くとホラ話だとしか思えないんだが、大将だからなぁ……」
「いや、マジマジ。力を取り戻すために古代の遺跡を探検したりもして大冒険だった。あと、大森林の獣人の村にも行ったぞ」
「へぇ、古代の遺跡に大森林の同胞か。今度ゆっくり聞かせてくれよ」
「おう、とりあえず外の馬鹿野郎どもを追い返してからだな。俺が来たからには安心だぞ。奴らなんぞ指先一つで消し飛ばしてやるぜ」
獣人達に背中や肩を叩かれたりしながら雑談をする。うん、やっぱこいつらはなんというか話してて気持ちいい奴らだよな。
「おお、我らが王よ。お帰りをお待ちしておりましたぞ」
「チィーッス、帰ってきたんだな」
「ペネロペとチャラタウロスか」
「ちょっと待って、チャラタウロスって何それ。俺、ゲルトね」
今明かされるチャラタウロスの真名。しかし割とどうでもいいのですぐに忘却の彼方に消し去る。お前はチャラタウロスでいい。
「うん、心配を駆けたな。何か問題は起こってないか?」
「得にはありませんが、飛翔魔弾の在庫が少なくなってきたとヤマト殿がぼやいておりましたぞ」
「そうか、まぁ問題ないな。俺が居るし」
「そうですな」
俺が居れば飛翔魔弾を使って敵を迎撃するようなことも少なくなるだろう。ただ、備蓄量は少し増やしたほうが良いかもしれんな。マールやティナと相談しておこう。
集まった獣人やケンタウロス達と雑談を交わし、怪我にだけは気をつけて対処するように指示をしてから炊き出し場を去る。カレン達はそのまま炊き出しを手伝うそうなので、そのままにしていくことにした。
次に向かうのは中央給水塔だ。クローバーの正に中央に聳え立つ黒大理石製の石塔で、魂魄結晶という規格外な魔力出力を誇る魔力結晶を利用して都の全域に綺麗な水を行き渡らせている。
実は隠し機能として、領主館からの操作で都を覆う魔法障壁を張ることもできる。クローバーに転移しようとして弾かれたのもこの魔法障壁のせいだった。
「大きな建造物ねぇ」
「俺が土魔法で三日もかけて作ったんだ。滅茶苦茶頑丈だぞ」
「綺麗な水……暑い時には涼むのにも良さそうね」
リファナが楽しそうに給水塔を見上げる。実際、領都に住んでいる川の民用にプール施設もある。
「ここらへんが商業区画なんだが……いやぁ、また随分と様変わりしたな」
クローバー唯一の雑貨店であるパルミアーノ雑貨店を覗きに来たのだが、パルミアーノ雑貨店は質素でこぢんまりとした木造店舗から立派な石造りの大型店舗へとクラスチェンジしていた。いやぁ、ほんと少し見ないうちに大きくなったな。
「ここは?」
「この都最初の雑貨店なんだが、俺の知ってるのよりもだいぶ大きくなってるな」
大きな倉庫がいくつも新しく建設されているし、これじゃどっちかというと店というよりは商館だな。そのうち商業ギルドの支部にでもランクアップするんじゃないか?
「寄っていくの?」
「別に今は欲しいものもないし、開店前みたいだからやめとこう。買い物がしたいならまた今度連れてくるし、なんならミスクロニア王国とかカレンディル王国の王都にでも連れて行ってやるよ」
「それは楽しみね」
「ええ。森での塩交換とはまた違った楽しみがありそうだわ」
リファナとエルミナさんもショッピングには興味津々であるようだ。うん、情勢が落ち着いたら是非連れて行こう。ミスクロニア王国の王都クロンなんかは運河と水上盤での移動が珍しいだろうし、喜ぶんじゃないかな。
そういうことを楽しむためにも、まずは不届き者どもを駆逐しないといかんな。それ以外にも問題は山積しているようだし、これからまた忙しくなりそうだ。
だが、恐らく心配はいらないだろう。こうしてクローバーにも帰ってこられたし、神々に対する手も可能な限り打った。
ここから先は、反撃の時間だ。
今回の更新はここまで!
次回更新まで書き溜めるのでお待ちくだされ_(:3」∠)_