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第103話〜ついにここへと帰ってきました〜

「きゃあ!?」

「ふあぁ!?」

「おぉっ!?」


 俺の部屋に転移するはずだった筈が、見知らぬ森の中に転移していた。いや、この雰囲気は知ってるぞ、この陰鬱とした感じは間違いない。


「大樹海には着いたみたいだが……? なんで転移が失敗したんだ?」

「ここが……?」

「うわぁ、酷い森ねぇ」


 昼間だというのにこの薄暗さ。それに歪に捻じれ曲がった木々と、どこか陰鬱とした空気。紛れもなく大樹海であるはずだ。

 リファナとエルミナさんはあたりを見回して気味悪そうな顔をしている。エルフから見ると大樹海はかなりグロテスクに映るとメルキナが言っていたので、恐らくは二人ともそれで気味悪がっているのだろう。

「ちょっと飛んで現在地を確かめ――」

「待って、タイシくん。何か聞こえるわ」

「へ?」

「戦いの音……? 魔物の咆哮だけじゃない、沢山の人間の雄叫びが聞こえる」


 二人が長い耳をピクピクと動かして深刻な表情をする。まさか、クローバーが魔物に襲われているのか?


「急ぐぞ、俺に掴まってくれ」


 無言で頷いた二人を抱きかかえて飛行魔法を発動する。空に上がると、すぐに音の発生源は発見することができた。


「なんだありゃあ……」

「人間の軍隊……? あの都市を攻めているように見えるけれど」

「魔物も居るわね」


 目の前に広がっていたのは、戦場だった。

 人間の兵がクローバーの城壁に向かって矢を、魔法を放ち、城壁の上から獣人やケンタウロス、アルケニアや鬼人族達が応戦している。それに加えて魔物達までもがクローバーの城壁に取り付いていた。いや、よく見ると人間の軍隊にも少しだけ襲いかかってるな。戦場は三つ巴になっているようだ。


「どうするの?」

「どうするこもうするもない。俺のモノに手を出したらどうなるか思い知らせてやるさ」


 二人を抱きかかえたまま高度を上げ、滑空しながら一気に速度を上げる。


「きゃああぁぁぁ!? 落ちるぅっ!?」


 耳元でリファナがうるさいが、ここは我慢してもらおう。まずは魔物に向かって爆裂光弾の雨を降らせる。魔物達は突然の空襲に混乱し、恐慌状態に陥って散り散りになり始めた。

 次は人間の軍隊なのだが、殺してしまって大丈夫だろうか? 事情がわからない以上は自重するべきか? などと考えていたその時だった。

 クローバーに攻め入っていた人間の軍の中央部で凄まじい爆発が巻き起こった。俺の極大爆破よりも威力が高い爆発だ。


「ぐっ!」

「「きゃああ!?」」


 ステレオで聞こえる悲鳴が耳に痛いが、二人を抱えているので耳を塞ぐこともできない。爆風に少し遅れて土やら正視したくないモノやらが飛んでくる。いつの間にかリファナかエルミナさんのどちらかが張っていたらしきウィンドシールドに防がれてたけど。


「な、なになにっ!? タイシがやったの!?」

「いや、俺は何もしてない。せめてきてる奴らの素性がわからないからどうしようかと思ってたら急に爆発したんだよ」

「凄い爆発だったわね……」


 クローバーに攻め寄っていた人間の軍は大混乱である。今の爆発で指揮系統が吹き飛んだのか、壊走してクローバーの北側へと撤退していく。よく見れば、クローバーの北側の樹海がずーっと遥か彼方まで切り開かれているのが見えた。

 まさか、魔物の蔓延る大樹海をたった数ヶ月で北側から打通してきたのだろうか? 大樹海の魔物は一般的な魔物よりもずっと強い。俺にしてみればどれも雑魚だが、クローバーで狩りに出る面々も未だに苦戦するような相手が多い筈だ。

 俺の私兵部隊であり、俺が開発した諸々の先進的装備の実験部隊でもあるソーン達の平均レベルが30近いのだが、それでも生傷が絶えない上に場合によっては敗走してくることもあるような魔境だぞ。

 攻め込んできたのがどこのどいつかは知らんが、大軍で大樹海を打通してくるなんてそんなの普通じゃ考えられない。

 概ね普通の兵士のレベルが10くらい、騎士で15前後、隊長クラスでも20前後とかの筈だ。切り拓いてる間に大樹海の魔物に壊滅させられてもおかしくないぞ。


「どうするの?」

「とりあえず、戦闘を一度止めるチャンスではあるな」


 二人を抱えたまま爆心地のクレーターへと降り立ち、魔力を集中する。ディオール戦でかなり魔力を消耗したから結構きついが、なんとか足りそうだな。

 両手を地面につき、ぐんぐんと魔力を流す。ゴゴゴゴ、と地鳴りが響き始めた。


「アースウォール!」


 ミシミシミシッ、と少し気色悪い音を立てて広範囲に土が隆起し、壁となって固定された。土壁は戦場をまっすぐ二つに分断し、クローバーと戦場を隔てる壁となった。高さは三メートルほどで、厚さは1.5メートルほど。表面はツルッとしていて取っ掛かりがなく、強度もそれなりにあるのではしごでも使わないと突破は難しいはずだ。

 まぁ、左右の樹海を迂回すれば良いんだけどな。十分時間稼ぎにはなるだろう。


「大丈夫?」

「ああ、少し魔力を使い過ぎたな。もう休みたいわ」

「城壁の方から歓声が聞こえるわよ」


 エルミナさんの声を聞いて振り返ると、城壁の上で守りに就いていたクローバーの住人達が歓声を上げていた。


「やっと帰ってきたのか!」「遅い!」「きっと帰ってくると信じてたぞぉ!」

「嫁さん放って何処かに行ったと思ったら新しい女を連れてるぞ!」「ろくでなし!」


 と大歓迎……大歓迎? だった。半分くらい罵倒が混じっている気がするが、敢えて聞き流す。嫁さん放置して出ていった事に言及するのはやめてくれ、それは俺に効く。

 さぁ、帰ろう。と、足を踏み出したところで城壁を垂直に駆け下りてくる人影が見えた。いや、あのシルエットは完全な人型ではない。女性の上半身と蜘蛛の下半身を持つあのシルエットは間違いなくアルケニアだ。

 物凄いスピードで走ってくるアルケニアの上半身は和服のような美しい着物を着ている美女である。うん、というかクスハだ。走ってくるクスハの顔を見て言いようもない感情が込み上げてくる。


「帰ってきたぞ、クス――」

「こんの宿六がぁっ!」

「ウボァーッ!」


 走ってきた勢いそのままで腹パンされた。しかも上半身の人間の腕ではなく、下半身の蜘蛛の前肢、ごっつい攻撃腕と呼ばれるやつで。


「ぐ、ご、ご……な、なに、を……」

「妾達にロクに事情も説明せずフラリと消えおって! しかもなんじゃ!? このエルフどもは!? 随分仲睦まじい様子ではないか!? あぁん!?」

「す、すみませ」

「これは妾の分ッ! これはマールお嬢の分! これはティナお嬢の分ッ! ああもうめんどくさいとにかく全員分じゃっ!」

「あばばばばばばばばばっ!」


 渾身の腹パンで地面に倒れた俺の後頭部や背中をクスハの容赦ない暴力が襲う! 常人なら挽肉になりそうな威力だよ!


「はぁ、はぁ、まったく! 主殿、覚悟しておれよ!? 妾達の怒りはこんなものではないぞ!?」

「ふぁい、しゅみましぇ――」


 謝罪の言葉を言い切る前に今度はがしりと掴まれ、抱き上げられた。ふかふかの柔らかい感触が顔面を覆う。蠱惑的な香りで鼻孔が満たされる。おお、地獄からの天国だ。


「本当に心配したんじゃぞ……もうどこにも行かないでおくれ、主殿」

「うん、すまんかった」


 クスハは着物が土で汚れることも厭わずに俺をしっかりと胸に抱き締めてくれた。城壁から口笛が聞こえてくる。あんにゃろうどもめ。


「うむ、後ろの二人のことも聞きたいが……こんな場所で立ち話もなんじゃな。はよう館へと戻りたいが、その前に都の民に主殿の帰還を伝えよう」

「おう、そうだな」


 一刻も早く戻りたいが、確かにこのまま館に帰るというのは流石にないだろう。領主である俺が殆ど何も言わずにフラリと何ヶ月も姿を消していたのだ。クローバーの住人達もこのままでは納得すまい。しかしカバーストーリーとか何も考えてなかったぞ。

 頭の中でどうしたものかと考えながら門を潜る。


「皆の者! 我らの主殿が戻ったぞ!」


 うおおおおお、とまるで怒号のような歓声が空気を震わせる。ほんの数ヶ月の間だったが、少し見ない間に町並みも随分と変わったようだ。木製の掘っ立て小屋が多かった筈の街区には煉瓦で作られた家屋のほうが圧倒的に多くなっており、踏み固められた土の街路は綺麗な石畳に変わっている。

 人々の服装も心なしか上等なものになっているように思える。


「ほら、主殿。何か言葉をかけてやれ」

「ん、おう。そうだなぁ」


 俺の言葉を待っているのか、住民達が静まり返る。やめろよ、こういう雰囲気は苦手なんだ。


「あー、長いこと空けて悪かったな。事情についてはまだ詳しく話せないが、とにかく俺は勇者として神に与えられた試練を乗り越えてきた。これからはのんびりとこの街のために尽力していくつもりだ」


 住民達の間にどよめきが起こる。


「それはともかくとして、俺は帰ってきたばかりでまだ状況を把握できていない。とりあえず魔物は容赦なくぶっ飛ばしたが、攻めてきてた軍がどこのどいつかもわかってない状態だ。俺が戻るまでよくクローバーを守ってくれた。だが、俺が戻ってきた以上はもう大丈夫だ。相手が何者であろうと絶対に好きにはさせない。安心してくれ」


 住民達から歓声が巻き起こる。うん、なんとかなったか。いきなり演説しろとか言われても困るってホント。


「うむ、まぁ良いじゃろ。早く嫁さんに顔を見せてやれという声も多いようじゃし、その言葉に甘えようかの」

「おう……っていてぇいてぇ! こら、てめぇら! 頭やら背中やらバシバシ叩くんじゃねぇ!」


 道すがら住民達に「よく帰ってきたな!」とか「心配させやがって!」とかそんな感じでバシバシと背中やら足やら尻やら叩かれる。がきんちょミサイルも飛んでくるし油断ならねぇなこいつら!


「慕われてるのねぇ」

「というか、本当に領主だったのね」

「なんじゃ、主殿と一緒に行動をしていたのに信じられんかったのか?」


 エルミナさんとリファナの反応にクスハが訝しげな表情を浮かべる。


「実物を見ないとなかなか信じられない話だと思うわよ? 私と会ったばかりの頃のタイシくんは私よりも多分弱っちかったしね」

「あー、そうですね。多分出会った当初だと勝てなかったんじゃないかな?」


 得物がひのきのぼうのようなものしか無かったというのも大きいが、まともな剣を持っていたとしても力を失った直後だと勝てたかどうか怪しい。


「ふむ、何やら面倒なことになっておったようじゃな。ところで、そちらの娘は……なんだかメルキナに似ておるの?」


 横を歩いていたクスハがエルミナさんへと視線を向ける。


「エルミナよ。メルキナは私の娘ね」

「主殿、お主まさか……?」

「ふふっ♪」


 頬をひくつかせるクスハに対し、エルミナさんは俺の腕に抱きついて見せた。ついでに頬に一つキスをしてくる。


「私はリファナ。ちなみにメルキナの幼馴染よ」


 そう言ってリファナも俺の腕に自分の腕を絡めてくる。


「主殿……それは、マズいじゃろ……?」

「色々と覚悟の上だ」

「向こう三週間は覚悟したほうが良いぞ」

「ゆるして」


 とりあえず助けを乞いましたけど、向こう三週間一体何をされるんです? 怖くてチビりそうなんですけど。


 ☆★☆


「ああ、帰ってきたな」


 クローバーの住民達にもみくちゃにされながらもなんとか領主館へと辿り着いた。あの扉の向こうにみんなが待っていると思うと、胸の奥が熱くなってくる。


「私達はしばらく街の中を見て回ってくるわ」


 エルミナさんが扉の前で立ち止まり、そう言って送り出してくれる。俺は頷き、領主館の扉を開いた。


「おかえりなさい! タイシさん!」


 そこには横にいるクスハ以外の嫁達が勢揃いしていた。皆涙を流しているが、笑顔だ。


「ただいま、みんな」


 一番に駆け寄り、抱きついてきたマールを抱き締め返して胸の中の鳶色の髪の毛に顔を埋める。ああ、マールの匂いだ。安心できる甘い匂いと、腕の中から伝わってくる温もりに涙が出てくる。

 やっとだ、やっと帰ってこられた。


「だい゛じざあ゛ぁぁぁん゛! 会いだがっだでずぅぅぅ!」


 顔を上げたマールの顔は酷い有様だった。涙だけでなく、鼻水もなにもかもだだ漏れだ。でも、そんなマールがたまらなく愛しい。ストレージから取り出した綺麗な布で顔を拭ってやる。


「俺も、会いたかった」


 我慢しようとしていた涙と一緒に感情が溢れる。気がつけば、マールだけでなく他の皆も俺に抱きついて大泣きしていた。俺も泣きながら一人一人を抱き締め返し、キスをしていく。デボラとクスハは身体が大きいのを気にしてか、輪から少し離れたところで静かにポロポロと涙を零していた。後であの二人も抱き締めてやろう。

 全員が落ち着くのにはやや暫くの時間がかかった。


「えへへ、えへへへへ」


 マールはあれからずっと俺に抱きついたまま離れず、カレンとシェリーとシータンの獣人三人娘も同様に俺にくっついたままだった。

 ティナとフラムとネーラは泣いた後の顔を見られるのが恥ずかしかったのか、そそくさと部屋に戻っていった。恐らく化粧を直しているんだろう。

 メルキナはすぐ近くの椅子に座って自分のお腹を撫でながらニコニコしていて、デボラとクスハもそのすぐ近くに座ってこちらを見ている。


「タイシさん、見てください」


 抱きついていたマールはやっと満足したのか、そう言って俺から少し離れた。そしてぺろんと服を捲くってお腹を見せてくる。


「んん……?」


 心なしか、マールのお腹がほんの少しだけぽっこりしている気がする。


「もしかして……?」

「はい、タイシさんと私の子供ですよ」


 お、おおぉ……マジか。マールのお腹をそっと触る。この中に、俺とマールの子供が……うわぁ、マジか。すげぇ。語彙が急激に低下するレベルで感動的だ。マールのお腹に耳をつけてそっと音を聴く。うん、まだ何も聞こえないかな? 微かに何か聞こえるような気もするけど。


「凄いぞ、マール。よくやった、凄く嬉しい」

「あんっ、ちょ、タイシさんくすぐったいですよう」


 膨らみかけのマールのお腹に何度もキスをする。帰ってくるなりなんて嬉しいニュースなんだ。


「タイシ、私もよ」


 今まで椅子に座ってにこにこしていたメルキナも俺の直ぐそばまで来て服を捲くって見せてくる。マールよりも目立たないが、やはりメルキナのお腹も僅かに膨れているようだった。


「お、おぉぉ……」


 メルキナのお腹もさわさわスリスリする。凄い、なんて神秘的なんだ。この中に新しい命が宿ってるのか。女の子すげぇ。


「メルキナもありがとう。凄く嬉しい。二人とも、いや、皆大事にするよ。誓う」

「えへへ」


 マールとメルキナが二人で俺の頭をなでなでしてくれる。凄い。尊い。これが幸せの絶頂というやつか。

 しかし、絶頂に行き着けばあとは落ちるだけである。


「あら、メルキナに先を越されてるわ」

「メルキナ……」


 ガチャリ、とドアを開けて入ってきた人物が声を上げる。その声にメルキナの笑顔がビシリと凍りついた。ギギギギ、と音がしそうなほどゆっくりとした動きでその視線が領主館の扉へと向かう。


「母、さん? リファ、ナ?」

「やっ、久しぶりね。やっぱり出会いの速さの差だけは如何ともし難いわねぇ」


 ニコニコと笑顔を浮かべたままエルミナさんがこちらへと歩いてくる。エルミナさんは突き刺さる嫁達の視線をものともせずに俺達へと近づき、ぺろりと捲れていたメルキナの服をそっと戻した。


「お腹を冷やしちゃだめよ。もうあなただけの身体じゃないんだから」

「な、なんで母さんが……? タイシ……?」

「ふふっ♪」


 エルミナさんが楽しそうに笑い、俺の頭を自分の胸に抱き寄せる。ああ、おっぱい柔らかいなぁ。あはははは。


「私もタイシくんが好きになっちゃったの☆ リファナちゃんもよ?」


 リファナはエルミナさんほどには図太くなれないのか少し怯え気味だったが、俺にそっと身を寄せて肩に手を置いてきた。嫁達の視線が俺に集まる。


「ええと……やさしくしてください」

「優しくしてくださいじゃないわよ!? ナンデ!? 母さんナンデ!?」


 メルキナがエルミナさんを見て半ば恐慌状態に陥っている。ああ、そんなに慌てるな、お腹の子に障るから。


「ターイーシーサァーン?」

「Oh……」


 ズモモモモモ、と不穏なオーラを纏ったマールが笑顔を向けてくる。


「神様だけじゃ飽き足らず、メルキナさんのお母さんにまで手を出したんですか!」

「Hai! ごめんなさい!」

「まぁまぁ、落ち着いて。ね? お腹の子供にも障るわ」

「うぐっ……そ、そうですね」


 迫るマールをエルミナさんがやんわりと押し留める。おお、あのマールを上手く宥めるとは。さすがはエルミナさんだ。


「タイシくんが私達に手を出したんじゃなくて、私達がタイシくんを誘ったの。手を出せる場面はいくつもあったのに、タイシくんは決して自分からは手を出さなったわ。だから、責めるならタイシくんではなくてタイシくんを誘惑した私達にしてちょうだい」

「では、お主は娘の男だと知った上で主殿を誘ったと?」

「そうよ。だって、タイシくんったら貴方達に逢えない寂しさで今にも潰れてしまいそうだったんだもの。そんな状態なのに自分を顧みず私達に気を遣って、寂しさを隠して健気に頑張ってたの。キュンときちゃうでしょ?」

「む……うーむ」


 自信満々なエルミナさんの語りにクスハが唸る。


「リファナちゃんはタイシくんのどんなところが好きになっちゃったのかなぁ? ほら、みんなに教えてあげて?」

「うぇ!? わ、私は、その……最初は人間だからと思って好きになれなかったんだけど……その、冷たく当たられているのに命懸けで他人を助けられるところとか、屈託なく笑うところとか、瞳が綺麗なところとか、ちょっといじわるだけど優しいところとか……もぅ、ゆるして」


 リファナはそう言って耳まで真っ赤にして両手で顔を隠してしまった。なんだこの可愛い生き物。


「……わかりました。お二人がタイシさんをちゃんと愛していることは信じます」

「マール……」


 流石は理知的なマールだ。


「でもそれはそれ、これはこれです! 私達を心配させていたのにも関わらず、お二人とよろしくしていたタイシさんには制裁が必要だと思います!」

「ワーオ! 感情的ィ! 救いは無いんですか!?」

「ありません! かかれー!」

「グワーッ!?」


 マールの掛け声を合図に嫁達に群がられた。その中に嬉々として交じるエルミナさんがいたが、皆あまり気にしなかった。もう仲間ということなんだろう。

 なお、当然ながら掛け声をかけた張本人であるマールとメルキナは制裁には不参加だった。本人達は不満たらたらだったけどな。

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