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第102話〜神々は変わり者ばかりでした〜

 その日はメロネルの宮殿で宿を取り、翌日には更に別の御座へと向かうことになった。

 ちなみに、あの後は大宴会になった。まぁ、ほとんどメロネルが一人で騒いでいるだけだったけど。スパンミー缶が余程嬉しかったのか、終始はしゃいでたな。俺達はメロネルの眷属さん達が作った料理に舌鼓を打ってたけど。

 そういやカレー粉らしきものとその材料の各種スパイス、そしてレシピを分けてもらえた。こっちの大陸では貴重でもなんでもなく、日常的に食べられているものらしい。リファナとエルミナさんはカレーが苦手のようだった。なんか耳が痒くなるとか。

 あと、メロネルの祝福は酒を頭からぶっかけるという方法だった。シャンパンファイトかな? 唐突にやられたのでびっくりしたよ。


 で、翌日。風幸神ゼフィールの御座に来たわけなのだが。


「ん? 祝福? いいよ、それー」


 俺の身体を柔らかい風が包み込む。三つ目の祝福を手に入れたぞ!


「っておい、待て待て待て。メロネルも大概だったけど軽すぎるだろう、常識的に考えて」

「えー? いいじゃん、別に困らないでしょ?」

「いや、確かに困りはしないけども」


 俺の目の前でニコニコと笑っているのはただの金髪の美少年、ではなく風幸神ゼフィールだ。こいつの御座はなんとカレンディル王国の片田舎にあった。マウントバス寄りの山麓にある鄙びた農村である。驚いたことに、人間と獣人、その他にも多数の種族が仲良く共存している村だ。

 俺とリアル、ゼフィールの三人はその村の外れの方にある東屋で会談していた。


「いやぁ、実際のところキミには注目してたんだよね。目についた弱者を片っ端から救済する君の行動と心意気は素晴らしいと思うよ」

「お、おう?」

「この村を見ればわかると思うけどね、僕はこの世界はこうあるべきだと思ってるんだよ。人間も、獣人も、エルフも、ケンタウロスもリザードマンも、その他の種族もみんな一緒に仲良く暮らすことができればそれでいいよね。そりゃ勿論生きる上で争うことはあるだろうけど、仲良く楽しく幸せに暮らせるに越したことはないよ」

「まぁ、そうだな」


 ゼフィールの言うことには同意できる。種族間の違いやそこから来る諍いというものは勿論あるだろうが、共に手を取り合える場面だって同様に多いはずだ。ましてやこの世界には魔物という直接的な脅威があるんだからな。


「君はこの先も人間も人間以外も、手を取り合える者同士を集めて国を作っていくつもりなんだろう?」

「まぁ、概ねそうだな」


 別にそれが第一の目標というわけではないが、優先度は決して低くない目標ではある。俺が目指す第一の目標は俺と嫁達が幸せに暮らせる場所を作り、維持していくことだ。他の奴らは言うなればそのついでである。

 だって、幸せな気分に浸ろうって時に目の前に困窮してにっちもさっちもいかずに絶望しているような奴らがいたら興醒めじゃないか。


「なら、僕は君を祝福するよ。ヴォールトのやり方は人間優先で、その他の種族は割とどうでも良いって感じだから好きじゃないんだよね。この前の件だって僕はあんまり乗り気じゃなかったんだ。母上の拘束にはちょっと協力したけど、殆ど逃げ回ってたしね」


 そういやこいつは神々にリンチされてた時に襲い掛かってきてなかった気がするな。


「そういうわけで僕の祝福は遠慮なく受け取って欲しい。今後も思うままに善行を積んでいってね」

「お、おう」

「うんうん、情けは人のためならずってやつだね。キミの今までの行動がこうして評価されて良かったじゃない」

「まぁ、うん、そうだな」


 こんなに全面的に肯定されるとなんというか、困る。

 俺の内心を知ってか知らずか、リアルが無邪気に背中をてしてしと叩いてくるのがなんともむず痒い。身悶えしそうだ。


「ところでこの祝福ってのは何か意味があるのか? 受けても特に体調に変化はないんだが」


 このままだと褒め殺しにされそうなので、話題を変えることにした。


「んー、まぁタイシにはあまり意味が無いだろうね。ボクの超強力な加護がついているわけだから」

「そうなのか? じゃあなんでまたこんな七面倒臭いことを?」

「君があるべき場所に帰った時に役立つんだよ。他の神の祝福を、それも複数受けてるとなればヴォールト達もそう簡単に手を出せなくなるからね。まぁ、僕達が味方についてますよーって証明書みたいなものさ」

「なるほど?」


 リアルとゼフィールの説明でなんとなくわかったような気分になる。とりあえず、祝福が多ければ多いほどあのクソ忌々しいヴォールト達が俺に手出しができなくなるということで納得しておこう。

 そんな話をしているとリファナとエルミナさんが俺達の話し合っている東屋へと戻ってきた。


「おかえり、なにか面白いものはあったか?」

「途絶えたと思っていたエルフの氏族のうちの一つがここに落ち延びていたみたい」

「ここから出ていくつもりはないだけどね。互いの氏族の無事を喜び合うことだけにして、そっとしておくことにしたわ」

「そうしてくれると助かるよ。一応ここは隠れ里だから」

「はい、ゼフィール様」


 見た目が子供でもリファナとエルミナさんの神を敬う態度は変わらないな。俺の目にはちょっと大人びた雰囲気の子供にしか映らないんだが、現地人には神のオーラ的なものが感じられるんだろうか。


「えーと、これで終わりだっけ?」


 祝福も受けてここに用は無くなったし、さっさと御暇するとしよう。このままここにいるとむず痒さで悶え続ける羽目になりそうだ。


「いや、もう一柱行く予定だよ」

「戦神ディオールだっけ? そいつあれだよな、鎧兜と剣と盾装備してた騎士っぽい格好のやつだよな?」

「そうだね」

「絶対ガチバトルになるやつだろそれ。すっげぇ行きたくないんだけど」


 バトルジャンキー感漂いまくってたからなぁ。喜々として『ならば力を示せ!』とか言ってきそう。いや、言うね。間違いない。


「でも、あの子を味方に引き入れれば楽になるよ? 態勢が盤石になって後の面倒事が減るね」

「あー……仕方ねぇか」


 ☆★☆


 嫌な予感を抱きつつも風幸神ゼフィールの隠れ里を後にした俺達は戦神ディオールの御座へと移動した。マップを見る限り、戦神ディオールの御座はメロネルの御座があったのと同じ第二大陸にあるようだ。メロネルの御座から更に北東、ビルのような高さの奇岩が立ち並ぶ荒野である。


「よかろう。ならば力を示せ!」


 無骨な石舞台の上に仁王立ちしたディオールがそう雄叫びを上げる。うん、そうなると思ったよ。助けを求めてリアルへと視線を向ける。


「まぁ、そういうことらしいから頑張って? ボク達は観戦してるから」

「どこまで殺っていいんだ?」

「全力でいいよ」


 リアルがヒラヒラと手を振って石舞台に腰掛けて足をぶらぶらとさせる。


「二人ともこっちにおいでよ。余波に巻き込まれないように守るからさ」

「えぇ……」

「恐れ多いのだけれど」


 二人とも戦神の御座である石舞台に腰掛けるのは抵抗があるようだ。


「いや、そういうのいいから言う通りにしとけ。余波で二人が傷ついたらと思うと本気でやれないから」

「うぅ……わかったわよ」

「バチとか当たらなければいいけど」


 俺の言葉でやっと二人もリアルの隣に腰掛けた。それと同時に石舞台の上から戦神ディオールが俺のいる地面へと跳躍してくる。距離は二十メートルくらいか。


「前回の戦ではなかなかに楽しませてもらった。そして、一度力を失ってもなお諦めずに這い上がってくるその根性は賞賛に値する」

「そりゃどーも」


 ストレージから極光剣を取り出し、何度か素振りをする。変形機構を有する分ゴツくなっている剣だが、俺の膂力なら十分に片手で扱える。


「珍しい武器だな」

「だろう?」


 と言いながら俺は腰のホルダーから黒鋼製の投擲杭を投げ放った。

 超音速で投擲した杭が空気を割る轟音を立ててディオールへと迫るが、ディオールはそれを軽々と避ける。


「そうだ、いいぞ」

「シッ!」


 魔力を練り上げながら地を蹴り、地面を爆砕させて間合いを詰めながらもう一度投擲杭を投げる。今度は加速の魔法文字を仕込んだ神銀製のものだ。一見同じように見えて、その実先程よりも遥かに早いスピードで飛翔する投擲杭には流石にディオールも虚を突かれたらしい。今度は避けるのではなく盾を構えて投擲杭を弾いた。

 しかし神銀製の投擲杭を防いだためにディオールの足が完全に止まる。勝機!


「チェアアァァァァッ!」


 盾ごと叩き斬るつもりで全力で袈裟懸けに斬りつける。受け流すか、それとも真っ向から受けるか。どちらにせよあと三手で詰みだ。


「ヌゥッ!?」


 ディオールは盾で受けることを選んだ。金属同士がぶつかる激しい音が鳴り響き、ディオールの身体が盾ごと後ろに吹き飛んでいく。


「斬る……!」


 剣を引き、切っ先をディオールへと向けて構える。

 斬れる、斬れる! 俺は斬れる! 空間も、時間も、神でさえも俺は斬れる!


「だっしゃあぁぁぁ!」


 渾身の力で放った百閃が空中で受け身も取れないディーオールに襲いかかる。


「うおおぉぉぉぉっ!?」


 だが、ディオールもさすがは戦神。見える筈もなく、また同時に襲いかかるが故に防御もできない筈の百閃を何らかの方法で防いだらしい。

 なるほど、やるな。だが俺のターンはまだ終わってないぜ!


「イィヤアァーッ!」


 クスハの送ってくれたシャツごと俺を切り裂いてくれた怨みを載せて渾身の突きを放つ。

 ディオールと俺との彼我距離は奴が吹き飛んだことによって再び二十メートル以上になっていたが、構わない。

 一瞬視界がぶれて暗転し、目の前にディオールの背中が見えた。


「甘いわぁ!」


 短距離転移を併用した間合い無視のバックスタブが背中に回したディオールの盾によって防がれた。まさかこれを防ぐとは。


「シャァ!」

「フンヌ!」


 剣に極光を纏わせながら斬りつけるが、これは振り向きざまに放たれたディオールの斬撃で撃ち落とされる。


「うおらあぁぁぁぁっ!」

「はああぁぁぁぁぁっ!」


 至近距離で切り結ぶ。剣だけでなく拳も蹴りも頭突きも交えて殴り合う。もはや野獣同士の取っ組み合いのような様相になってきた。


「死にさらせえぇぇぇ!」

「なんのおぉぉぉ!」

「野蛮だねぇ」

「私は戦神様と殴り合って平気なタイシくんが信じられないわ」

「戦神様と取っ組み合いするとか、凄いわね」


 外野がなんか言いたい放題言っているが、俺は結構必死である。この野郎、全身に鎧を着ているのを良いことに鎧の硬い部分でガチガチと殴ってきやがる。

 いい加減ムカついてきたので、鎧の隙間に手をかけて思い切り捻ってやった。いつの間にか俺の手にもディオールの手にも得物はなくなっていた。


「ぐぉぉ!?」

「ふはははは! 首を捩じ切ってオモチャにしてやるぜぇ!」


 兜の縁に手をかけ、ギリギリと力を篭めてやる。しかしディオールも黙ってやられてはくれない。強烈な肘打ちが俺の鳩尾に突き刺さった。激痛と息苦しさに襲われるが、この手は放さんぞぉ!


「ぐふっ……光になれぇぇぇぇぇーーー!!!」

「があぁぁぁぁっ!?」


 兜の縁にかけている手から魔弾を連続発射して兜を何度も爆破してやる。俺の手もズタズタになるが、相手のダメージのほうがでかいはずだ。

 流石にたまらなくなったのか、ディオールが全身から衝撃波を発して俺を引き離した。魔力爆轟でも使われたか?

 ストレージから神銀棍を取り出し、ズタズタになった右手に回復魔法をかける。ディオールも体勢を立て直したようで、どこからか新しい剣と盾を取り出していた。


「おうこら、まだやんのかよ」

「無論だ、まだ決着はついていない!」

「何をもって決着とするんですかねぇ!」


 神銀棍に魔力を注ぎ込みながら魔力を集中する。神には普通の魔法はあまり効かなかった覚えがあるので、今回使うのはこれだ。


空間切断ディメンジョンカッター

「ぬぅっ!?」


 空間ごと全てを断ち切る空間切断の魔法は流石に脅威なのか、ディオールが回避に徹し始めた。ははは、いつまで避けられるかなぁ!?


「くっ、しつこい!」

「ヒャッハー! 挽肉にしてやるぜぇ!」


 目標を外した空間切断が荒野に立ち並ぶ奇岩を切断し、ディオールの逃げ場を塞いでいく。俺だってただ闇雲に撃っているわけじゃないからな、それなりに考えて撃ってるぞ。


「極大爆破!」


 逃げ場を塞いだところで切断した奇岩ごとディオールを爆破する。普通の相手ならこれで決まりなんだが、実の所これはわざと見せた隙だ。

 極大爆破で発生する光と土煙で俺はディオールの姿を見失う。そして極大爆破のような『普通の破壊を引き起こす』魔法は神々には殆ど効かない。この隙を突いてディオールは必ず俺に接近戦を仕掛けてくるはずだ。そこを仕留める。


「「もらった――!」」

 全く同時に、俺とディオールは同じセリフを口にした。ディオールが決め手に選んだのは俺の予想通り、極大爆破の爆風に紛れての接近戦攻撃。対して俺が決め手に選んだのは全方位に発射する空間切断の嵐、完全にディオールの動きを読んだカウンターである。

 起死回生の一手を読んだ者と読まれた者の明暗ははっきりと別れた。


「ぐぅっ……無念!」


 全身を空間ごとズタズタに引き裂かれたディオールが地面へと落下していく。


「クッソ痛ぇ……」


 対する俺も無傷ではなかった。ディオールの剣は『空間切断を切断して』俺の肩口に食い込んでいた。だが、刃以外の部分やディオールの肉体そのものがバラバラに引き裂かれたことによって致命傷には到らなかった。大怪我で済んだ。これもVIT補正のおかげだろう。

 肩に食い込んだ刃を放り捨て、回復魔法で傷を癒やす。ここまでの大怪我は久しぶりだな。凄く痛い。泣きそうだ。

 治療を終えて石舞台へと降りると、そこには既に傷もなくピンピンしているディオールがいた。クソ、これだから神ってやつは。


「はい、回収しといたよ」

「おう、ありがとな」


 殴り合いの時にどこかに放り投げてしまっていた極光剣をリアルから受け取り、神銀棍と一緒にストレージに収納しておく。


「で、これで満足してもらえたってことでいいのか?」

「うむ、見事だった。お前は我の祝福に値する戦士だ」


 そう言ってディオールが剣を手にしたので思わず身構える。バルガンドのクソジジイは小槌で俺を殴ってきたし、メロネルは酒をぶっかけてきた。ゼフィールは風が俺を包んだだけだったが、こいつはどうだ? 剣で斬りつけてくるんじゃあるまいな?


「何故身構える」

「急に段平振りかざす奴に対する正常な反応だろ、常識的に考えて」

「別に斬るわけではない、そう身構えるな」

「あっ」


 そう言ってディオールは自分の手の平を剣で傷つけ、その血を俺に振りかけてきた。おいなんだ、今の「あっ」ってのはなんですかリアルさんや!? 


「おいィ!?」

「ははは、これが我の祝福の与え方なのだ。許せ」


 服に付いた血を浄化しようとしたのだが、その前に俺の全身の汚れごとディオールの血は綺麗さっぱり消え去ってしまった。なんだかよくわからんが、綺麗になったなら良いや。


「ふむ、やはり母上の加護を上書きすることは敵わんか」

「そりゃそうでしょ。かけた愛情も時間も手間暇もボクのほうがずっと上なんだから。血肉を分け与えるくらいじゃ無理だねぇ」

「待て待て、俺の意思が介在しないところでなんか俺のやり取りみたいなことをするな、企むな」


 なんか知らんがいつの間にか祝福どころじゃなくもっと上っぽい加護というのをかけられるところだったらしい。しかも上書きとかなんとか言ってるけど、何なの俺もうリアルになんか予約されてんの? 俺何も聞いてないんですけど?


「ちょっとお前ら、事情を話せ。俺の知らないところでなんか進路を決められているような感じで気持ち悪い」

「いや、もう話したでしょ? 最終的にタイシが自分のやったことの始末をつけるからって方向で交渉を進めるって」

「ああ……そういやそんなことも話してたな」

「で、それを誰が後押しするかってって話ね。要は起業のスポンサーをボクがするのかディオールがするのかっていう」

「もう一回確認しとくけど、すぐ決めろって話じゃないんだよな? 寿命を全うした後の話ってことでいいんだよな?」

「うんうん、それはボクが保証するよ。お嫁さん達とゆっくり相談して決めてね」


 嫁さん達とゆっくり相談か……ああ、今から胃が痛くなりそうだ。この件もそうだし、何よりもエルミナさんとリファナの件がヤバい。今回は伝説の焼き土下座不可避かもしれん。


「さぁ、これで準備は全て――ではないけれど、大体終わった。少なくとも、もうキミが大手を振ってあるべき場所に帰ることができる程度にはね」

「そうなのか?」

「うん、十分だよ。バルガンド、メロネル、ゼフィールの祝福にディオールの加護、そしてボクの使徒でもあるキミはヴォールト達が直接害するにはあまりにリスキーな存在になった。今なら大手を振ってクローバーに帰っても大丈夫だよ」


 にっこりと笑うリアルの言葉に言葉では表現できないような感情が溢れ出しそうになる。そうか、帰れるのか。なんだか思ったよりもあっさりだな。擬神格を実際に手に入れ始めてからはトントン拍子だったと言っても良いんじゃないだろうか。

 それなりに苦労もしたが、ついに家族の元に帰れる。そう思うと思わず涙がこみ上げてきそうになった。いいや、まだ泣くな。泣くのは家族と再開してからだ。


「よし……じゃあ帰ろう」


 万感の思いを篭めて呟くと、石舞台から降りたエルミナさんとリファナが俺の傍まで歩いてきた。二人ともなんだか少し不安そうな顔をしている。


「大丈夫?」

「大丈夫って何が?」

「私達、迷惑じゃないかしら?」


 一歩距離を置き、そう言って不安がる二人を抱き寄せる。


「迷惑なもんか。二人が居なかったら俺はどこかでいじけてたか、心が折れていたか……」


 リアルに視線を向けると、あいつはこれ以上無いような妖艶な笑みをにんまりと浮かべた。色々な意味で背中がゾクゾクとする。


「とにかく。今、ここに俺が立っていられるのは二人のおかげなんだ。迷惑なはずがないじゃないか」

「そう言ってくれると救われるわ。頑張ってお嫁さん達に認めてもらいましょうね」

「新婚なのにフラッと居なくなって、帰ってきたと思ったら女が増えてるとか最低のダメ亭主だよね」

「切腹ものだな」

「いい話だなー、で終わりそうになってんだからそこで茶々入れるのやめてくださいますか?」


 離れたところから現実を突きつけて俺の心を抉ってくる神どもに苦情を入れておく。


「お前はどうすんだ?」

「ボクは一旦ここでお別れだね。いつでもタイシとは心で繋がってるけど☆」


 やだこわい。


『怖くないよ☆』


 くっ、こいつ頭の中に直接。


『――ファ○チキください――』

「それ以上いけない」

「あはは、まぁ近々ご挨拶には向かうよ。後のことはその時に考えようか。今は一刻も早く帰ってあげなよ」

「ああ、わかった……それじゃあ、行くぞ」


 魔力を集中し、転移する先をしっかりとイメージする。転移先は領都クローバー、俺の部屋だ。


『頑張ってね。まぁ放っておいても撃退できそうだけど』


 視界がぶれて暗転する瞬間、リアルのそんな呟きが脳裏に響いた。

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