5章
5
テントを張った場所から二〇分ほど歩いたところに丸太の小屋が見つかった。その作りは今風では無く、ファンタジーの世界にありそうなもので、月の光に照らされなお幻想的に映る。司は隣を歩く斗真に小声で問い掛ける。
「なぁ先生、これってどう見ても魔女の住処っぽいんだけど……。しかも今の時代こんな森の中に住む奴なんているのか?」
ふぅ、と溜め息を吐き司の問い掛けに応える。
「違うな……、一〇年を経過していても別人だと言うことはわかる。、背丈は似てはいるが、まず髪の色が違う。しかもあんなに幼くない。目つきも鋭く、見た瞬間に震え上がるほどだ……」
「そっか……、それはわかったけど、なんでこんなところに住んでんだろうな?」
「そんなこと私がわかるわけないだろう? 食事中にでも聞いてみたらどうだ」
「そうだな、まぁ、俺が聞くまでもなく明里か燕が聞くだろうけど」
燕はエミリアと手を繋ぎ、小屋に入ろうとしている。明里は小屋が珍しいのか興味津々だ。
「お邪魔します……」
零組一行はエミリア宅に足を踏み入れる。
「うわぁ、素敵……」
明里が感嘆の声を洩らした。小屋内は、もちろん全フロアが板張り、エミリアの趣味なのか観葉植物が天井に吊された裸電球の光に晒され、ムード溢れる空間を演出している。
窓際にはテーブルと一脚の椅子が設置されており、ここに住む者がエミリア一人だと連想させた。
「ここに一人で住んでるの?」
明里がエミリアに問い掛ける。エミリアは顎に手を置き何やら考えたあと、
「そうですねぇ、一人といえば一人です」
少し悲しそうな目をして答えた。
「だからこんなに大勢の方が来るのは初めてのことなので嬉しいです。あ、でもすいません。椅子が一脚しかなかったです……」
「大丈夫だ、俺たちは床でいい。なにせ野宿しようとしてたぐらいだからな」
「すいません。そのかわりといっては何ですが」
エミリアはそういうと、隣の部屋から大きな絨毯を持ってきた。
「この上にお座りください」
一行が円になり座り込むと。エミリアは底の浅い皿とスプーンを配り始めた。
「お食事、すぐに作りますね」
司たちは渡された皿を見詰め小首を傾げる。エミリアはそんな司たちの疑問に満ちた行動を気にすることもなく、一度外に出たかと思ったら、野菜の入った籠を持ち、鍋に水を汲んで戻ってきた。
バラバラとジャガイモやニンジン、タマネギなどの野菜が司たちの円の中心に詰まれていく。その横には水の張った鍋を設置。
「エミー、これどうする気ぃ?」
出会って三〇分足らずで、燕は既にエミリアを愛称で呼んでいた。
「何って……、食事の準備ですけどおかしいですか?」
「う~んおかしいというかなんというか……、私たちは野菜を全部生で食べるほどヘルシーじゃないというか……」
「大丈夫です。これからきちんと調理しますので」
エミリアはそういいながら円の中心に並べられた食材の山に手をかざす。
「?」
エミリアの手から光が発せられた瞬間、鍋には野菜たっぷりスープが湯気を立てていた。
「……。ちょっと……これって」
明里が目を点にしている。いや、明里だけじゃない。エミリア以外の全員が同じ表情をしていた。
「あれ……? 私、どこかおかしかったですか? 多分上手に出来てると思うのですが……」
エミリアは見当違いな疑問をぶつけた。
「魔法だな」
斗真が呟いた。
「魔法で料理って……、錬成魔法レベルですよ! めちゃくちゃ高度な魔法じゃないですか!」
「あの、私料理ってこのやり方しか知らないんですけど……、皆さんのやり方と違うのですか?」
エミリアは恥ずかしそうに頬を染めている。きっと料理下手に見られていると思っているのだろう。
「おかわりしていい?」
みんながエミリアの高度な魔法に驚いている最中、燕は既に一杯目のスープを完食していた。
「やっべぇ! エミー! 超うめぇよ!」
燕がエミリアの作ったスープを絶賛していた。
「良かった。作り方はおかしくても大事なのは味ですよね! そうですよね? ツカサ!」
エミリアはツカサに減点されるかもしれないエミリアポイントを、必死に上げにかかる。
「さぁ、きっとお口に合いますからツカサも食べてください!」
「わ、わかったわかった! 食べるからくっつくな! 胸を押しつけるな!」
腕にしがみついていたエミリアをどかし、司がスプーンに口を付けた。
「……うまい」
エミリアの表情は司の一声でパァっと輝いた。
「良かった! ほら、お二人もどうぞ! おかわりもたくさんありますから」
「……先生」
「まぁ、大丈夫だろう。悪い人間には見えない。私たちも頂くとしよう」
「燕、すぐ寝転ばないの! 牛になるよ!」
「もういいよ、胸は誰かさんと違ってとっくに牛レベルだからぁ~」
「え? 燕さんウシさんになれるのですか? 凄い!」
会話からもわかるように、料理の仕方といいエミリアの常識はかなりズレていた。
「エミリアちゃん、そうじゃないよ。物の例えで、すぐに寝転んだら牛のように太るってことだよ」
「へぇ、そうなのですね! 知らなかった……、私は料理の仕方といい知らないことだらけみたいですね……、これが田舎者というやつなんでしょうね……」
しゅんとしたエミリアは、急に顔を上げた。
「あ、ところで皆さん、この森に何しにいらしたんですか?」
「ちょうど、私もそのことについて話そうとしていたところだ」
斗真が、若干ふくれたお腹をさすりながら、若干姿勢を正す。
「エミリア、一つ聞きたいのだが、魔女を知っているか?」
「マジョ? マジョってなんですか? すいません。知らないことばかりで……」
「魔女は魔法使いの女のことだ。この森にいるはずなんだがエミリアはそんな人間を知っているか?」
「魔法って、私が料理をする時に使った力のことですよね?」
「そうだ」
「ということは……、私が魔女なのではないでしょうか?」
「ああ……うん、お前も魔法使いの部類に該当するのだが、魔女の力はもっと凄くて、邪悪な感じだ。この森でお前以外で人はいないのか?」
「あ~、いるといえばいるんですが~。その子はちょっと恥ずかしがり屋さんなので、あまり合わない方がいいかと思いますよ?」
「ッ!?」
司、明里、斗真が驚く。
「エミリアちゃん! その子はどこにいるの! あと、この森に住んでるはその子だけ?」
「はい、この森で暮らしているのは私とその子だけだと思います」
「キタ! 絶対魔女だ!」
「そうですね、そうかもしれないです。その子は私より凄い力を持ってますし」
「決まりだな」
斗真は深呼吸し、目を瞑る。何かを決意し、エミリアを見た。
「エミリア、そいつに合わせてくれないか?」
一瞬の静寂。小屋内に緊張が走る。エミリアが案内してくれるなら探す手間が省ける。しかし、
「あの、一つお聞きしますが、皆さんはその子に会ってどうするのですか?」
またしても静寂が戻るが、エミリア以外の四名が互いに目配せし、頷き合うと斗真が話し出した。
「ジェノサイドを倒したい。その為にそいつに力を借りたい」
斗真の発言にエミリアは目を細める。
「……ジェノサイドというのは、一〇年ほど前に現れた、【彼方より飛来する存在】のことですね?」
「そうだ」
「あなた方、平地で過ごす人々も気付いていたのですね。飛来してくるのがそんなに遠い日じゃないことを……」
エミリアはそう言いながら、斗真を見つめる。ああ、となにかに気付いたようで更に口を開く。
「どこかで見たことがあると思ったのですが、斗真さんはあの時の戦士ですね……」
「!? ――ちょっと待て、私はお前を知らないぞ?」
「ええ、私はその時離れていましたから」
「お前、一体……」
いつの間にか斗真の表情は固まっている、唾で喉を潤す行程すらも忘れていたようで、ようやくごくりと喉を鳴らした。
「わかりました。あの子に会ってもらいましょう。きっと目的は同じはずなので」
エミリアはそういうと、すっと立ち上がった。立ち上がるエミリアに燕は暢気な声を掛ける。
「あぁ、エミー、会いに行くのは明日でいいよぉ、私もうお腹パンパンで動けないし」
エミリアは燕に振り返ることもなく、目を瞑り応える。
「大丈夫です。燕さん。あの子に来てもらうだけなので」
「はい?」
燕は意味がわからないとでも言いたげな表情だ。
「レム、ちょっといい?」
エミリアがそう呟いた瞬間、身体を緑色の力の奔流が渦を巻く。
「なっ、ちょっと待てエミリア! ――ッ!?」
斗真はエミリアに手を伸ばすが、すぐに手を引く。バックステップでエミリアから距離を取った。
「お前達! まずい! コイツが魔女だ!」
エミリアのショートボブだった髪が伸びる、更に髪色も美しく澄んだ青色へと変色していく。同時に溢れ出す強烈な魔力。その魔力はエミリアの周りにいる者たちの肌を震えさせる。その奇跡とも取れる現象に斗真以外の面々は目を見開くことしかできない。
「ちぃ! 司! その二人を守れ!」
司は斗真の叫びで我に返る、頭はまだ困惑してるがすぐに明里と燕の前に出る。
しかし、エミリアと斗真はさらに司の困惑の色を濃くした。斗真が素早く両手で複数の員を結び出す。次は斗真の周囲から力の奔流が見てとれる。司がこれまでに見た、明里や燕の力を大きく超えたものが、斗真から吹き出していた。
「来い! 破滅の剣!」
頭上にかざされた斗真の右手に巨大な剣が出現する。
「――物質の召喚……、先生……嘘だろ?」
斗真の手には時空を越えて出現した剣が握られる。
「その剣って、教科書に載ってる聖剣!?」
風前高校に一年間通ったものなら、誰もが知る、歴史に名高い聖剣が斗真の手に握られている。困惑を通り越してパニックになりそうな司の背中越しから、明里が語りかける。
「だから言ったじゃない、先生は英雄だって!」
これが英雄と呼ばれるものの能力。凄まじい、が、それでもとんでもない魔力を吹きだしている魔女の力が上のように見える。斗真は歯を食いしばり、変貌していくエミリアを睨み付ける。魔女は残忍な性格。そのことが今の斗真を悩ませる。やはり、この力を借りるなんて無理なのではないだろうか? 今なら切り込めば魔女を止められるかもしれない。しかし、魔女を止めてしまう、殺めるということは同時に、人類がジェノサイドに滅ぼされるということ。斗真は延々と考えを巡らせるが判断を待たずして、エミリアであったものがついに目を見開く。
「…………」
溢れ出していた魔力は多少小さくなったものの、その身体に持つ魔力量は計り知れない。 開かれた目は髪の色と酷似した澄んだ青色。吸い込まれるような深みの持つ目に映る斗真は、必死で声を振り絞る。
「魔女……だな?」
「……うむ。久しいな人間の限界を超えた戦士よ」
「こうして話すのは初めてだな」
「そうじゃのう、あの時はそれどころではなかったしの……、にしても随分衰えたのではないか? 戦士よ」
「ふん、そりゃ小皺も増えもする、あれから一〇年経ってんだ」
「そうじゃない。力のことじゃ、それで飛来する存在に挑むつもりか?」
「あいにく、私的には反対なんだけどね……。まだまだ若手には任せられないんだ」
「そうか……」
その場にいた全員が動けないように見えた。しかし、明里だけが身体を小刻みに揺らす。
「駄目……、やめて……」
司はガチガチと歯を鳴らす明里に気付き声を掛ける。
「明里? もしかしてビジョンか!」
「……お兄ちゃん、駄目だった。魔女の力は借りられないみたい。未来が見えなかったから、ひょっとすると借りられるかもしれないと思った私が甘かった……」
「そうか、じゃあ諦めてこの魔女から離れた方が良さそうだな……」
「お兄ちゃん、それがもう駄目みたいなの……」
「え?」
「――ごめんなさい、私たちは今からここで殺される」
ボロボロと明里の目から涙が溢れ出す。司からは汗が噴き出した。ここで死ぬ? ジェノサイドを倒すために自分の時間を全て鍛錬に当ててきたのに、このままここで終わってしまうのか? そんことってあるのか? 司は腕に力を込めだす。
「そんなことってねぇぞ……」
「……うぅ、お兄ちゃん、私が言うんだから間違いないよ……。お兄ちゃんが一番よくわかってるでしょ!」
司の意思は懸命に運命をねじ曲げようとしている。その間にも魔女と斗真の問答は進められる。
「そうか、ならばお前達はここで死んだ方が良さそうじゃな?」
「……なぜそうなる?」
「なに、飛来する存在と儂が戦うとき、周りに小バエがいては邪魔になる。貴様も一〇年前の力なら役に立ちそうじゃが、今となっては小バエ同然よ」
小バエ。魔女にとって人間の力はハエ以下。
「おい、待てよ!」
「司!?」
司は激昂している。自分がこれまで詰んできた努力を小バエ以下と呼ばれたことに。
「司、落ち着け!」
斗真の言葉ももう、司の耳には届かない。
「上等だよ……、小バエかどうか試してみろ」
「おう、貴様がツカサか。エミリアに聞いておるぞ? しかし、あいつの好みも変わっているのぉ。こんな小バエのどこがいいのやら?」
「みんな、魔女の力を借りるのはやめだ、こんな奴と仲間になることなんてできない!」
「仲間? 仲間とな? 面白いことを抜かす小バエだのぉ、エミリアすまんが儂はこいつを殺すぞ? また、良い男が現れるのを待つがいい」
魔女が殺すと宣言した瞬間、司の姿は消えていた。
「む!」
燕が司の能力は時を止めると言った。しかし実際は司に時を止めることはできない。ただ、司の目には周囲のもの全てが止まっているように映っているかもしれない。
「ほう、速いな……」
早い。魔女が司の能力を見破る。そう、司はただただ純粋に速いのだ。燕の能力であるリミッター解除を行えば似た速度をはじき出せるかもしれない。しかし、リミッター解除と言うだけあって限界を越え過ぎた力は身体の持たないのだ。仮に燕が超高速で動いた場合、身体がバラバラに粉砕するだろう。
斗真は仲間の力だというのに驚く。全開の試合同様、どうして司の身体は崩れずに維持出来るのかがわからないからだ。
スピードを最高速に持って行くまで、司は魔女の周囲を攪乱する。魔女の視界から司の姿が消えた瞬間、司は魔女に初めての攻撃を繰り出した。
「ぎっっ!」
司には一瞬何が起こったのか分からなかった。魔女を殺す気で必殺の突きをのど笛に突き入れようとした瞬間、自分の首が魔女に捕らえられていた。
「お兄ちゃん!」
「グっ! ぎっ! ぎぃ!」
魔女は片手で司の首を握り、持ち上げている。
「貴様、今本気で儂を殺しにかかったな……。エミリアは貴様を本気で好いておる……。それを殺すとは何事じゃ?」
司は足をばたつかせ、捕まれた魔女の手を両手で引き離そうとするが万力で締め付けられているようにピクリとも動かない。
「それにしても惜しいな。貴様さては無能力者か?」
魔女と司以外の面々が、驚愕の表情に変わる。もちろん、司の超高速を捕らえた魔女も恐ろしいのだが、
――司が? 無能力者?
そのことに何よりも驚いていた。
「儂も最初は、変わった能力だと思ったが、貴様のそれは能力などではない。ただ己を鍛え続けた結果じゃ。魔法や能力無しでそこまでの境地に辿り着いた奴は初めて見たぞ……。まぁこれから死んでいくので全て無駄じゃがな……」
そう告げた魔女は、目を瞑り、空いている手でこめかみを押さえる。
「……。エミリアよ、そう騒ぐでない。お前の気持ちもわかるが、儂はこいつを許せないぞ」
「~~っ!」
「小バエが生意気に牙を剥きおって……、死んで詫びよ!」
シャンっ! 魔女が司の首を握りつぶそうとした瞬間、刃物が何かを切り裂くような音がした。
「な、なに……?」
魔女が驚きの声を上げる。驚くのも無理はない。首を絞めていた自分の腕が切断されている。切断した者は唯一剣を持つ斗真ではなかった。
「ごほっ! がはっ!」
司が魔女の手より離れ、地でむせている。懸命に肺に酸素を送り込み、立ち上がった。
「っはぁ! あ~あ、ったく。ジェノサイド戦のとっておきだったのにな……」
「司……お前、それは……」
「ああ、先生が物質召喚したときは驚いたよ……、自分だけの能力だと思ってたのになー」
司の両手にはそれぞれに剣が握られていた。いや、剣というには長すぎるダガーやナイフほどの長さだ。それらを構え、司は魔女に対峙する。燕、斗真は、この司の強さなら魔女を止められるかもしれないと淡い希望を抱いた。しかし
「お兄ちゃん……、それでも駄目……なんだよ」
「は?」
明里が涙ながらに呟いたところで、小屋が崩壊した。
凄まじい波動となった魔力の塊が光となり、司を飲み込む。
「お……い、まじ……かよ」
その言葉を最後に口から大量の血液を拭きだした司の左半身は削り取られていた。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」
明里は倒れた司に駆け寄ろうとするが、魔女の気配を感じ踏みとどまる。
「まさか、儂に魔法を使わせるとは……」
そう言い、司に切り落とされた手を広い、切断面を合わせる。魔女が何か唱える切断されたはずの腕は元通り繋がった。
「うぅ、よくもお兄ちゃんをッ!」
明里が涙を流しながら、魔女を睨み付ける。
「何だ? 小バエ? 焦らなくても今すぐ殺してやる……ぞ? 痛っ! エミリア痛いぞ!」
「!?」
魔女は急に頭を押さえ苦痛の表情を見せる。明里は一瞬何かが聞こえたような気がした。
『レム! あなたなんてことするんですか!』
「っ! 何?」
聞こえた気がしたが、今度は気がしただけではない。間違いなく聞こえた。エミリアの声が。
「ぐぅ、エミリア! どっちにしろこやつらは飛来する存在に殺されるのだぞ? 惨たらしく虐殺されるより、儂の手で一瞬で殺してあげた方がいいじゃろ?」
『そんなわけない! 虐殺とか一瞬で殺すとか関係ないよ! 死なせちゃ駄目!』
「痛い! エミリア、落ち着くのじゃ!」
『いいから早く私に身体を譲りなさい! ツカサが間に合わなくなる!』
「あ~、わかった! わかったから騒ぐのをやめるのじゃ! 頭が割れてしまう」
どこからか聞こえてくるエミリアの声により、魔女は観念したようだ。
魔女の青い髪が黒く短く変貌していく。
「ツカサ!」
次はエミリアが身体の実験を握ったようで、司の元へと駆け寄った。
「くっ! はぁ! エミ……リア……?」
「ツカサ! しゃべらないで! うぅ、身体の損傷が激しすぎる……!」
エミリアは両手を司の半壊している胸板に押しつける。瞬く間にエミリアの両手からほとばしる緑色の光にツカサの身体は包まれる。すぐ側まで明里、斗真、燕も駆け寄っていた。
「これは! 出血が……止まっている? 救えるのか?」
エミリアは斗真の希望を含んだ言葉に容赦のない声を返す。
「ダメです! 身体の損壊が激しすぎてこのままでは数秒で死んでしまう!」
ぎりりっと奥歯を噛みしめ、エミリアは何かを思いついたように顔を上げた。
「レム! 力を貸しなさい!」
その光景が見えているのか先程と同様に魔女の声が木霊する。
『エミリア? どうするつもりじゃ……? ――まさかッ!』
「はい! ツカサをそっちに送ります! これしか方法はない!」
『何を言うておる! そやつは人間じゃぞ? エミリア! どうしたのじゃ! 何故そこまでそやつに肩入れする!』
「しょうがないじゃないですか!」
『っ!?』
「――好きになっちゃったんですから!」
その発言に魔女どころか、零組の面々を若干ぽかんとする。明里は首をぶんぶんと横に振りエミリアに言葉を吐き捨てる。
「なんでもいい! エミリアちゃん! お兄ちゃんを助けて!」
エミリアはこくりと頷き、魔女に話しかける。
「レム! 準備はいい? いくよ! もし手を貸さなかったら絶交ですからね!」
瞬間、エミリアは司に口づけた。
「……え~ッ! ちょっとエミリア何してんのよぉ!」
暴れる明里を斗真が止める。
「待て! 明里見ろ! 司の身体が!」
司の身体が激しく光り輝き、あまりのまぶしさに目を閉じる。
「お兄ちゃーーーーん!!!!」
眩んだ目がだんだんと慣れてきて、明里は恐る恐る目を開く。
「え? お兄ちゃん?」
司の姿は跡形もなく消えていた。