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2章

 世界は歴史上最大の危機に直面していた。しかしこの危機に気付いているものは少ない。 この風前高校に通う生徒たちもこの数少ない者たちに該当する。実のところ世間には公表されていないが、一〇年前にも一度この災厄は世界に舞い降りている。一〇年前は被害が最小で食い止められた。厄災が小規模のものであったからだ。小規模と言ってもここ風前高校がある風前市はかなりの被害を被った。風前市にダメージを与えた災厄の正体は宇宙から飛来した隕石である。しかし、ただの隕石では無く、災厄である隕石を見た風前市の人間は呼んでいる。


――ジェノサイド。


 言葉の意味の如くジェノサイドが行うことはまさに人類の虐殺。そのジェノサイドの再来を予言した者こそ誰であろう一色明里であった。もちろん予言を信じる者、信じない者はいるが、ジェノサイドの脅威を知ってしまった風前市の人々は対策を練らずにはいられない。

 その対策の一つとして設立された高校が、ここ風前高校だ。世間一般の高校を偽ってはいるが、その実態は、ジェノサイド迎撃の為の戦士の育成学校である。気怠げに授業を受けている少年、一色司もまた戦士の一人であった。


「お兄ちゃん、さっきからなにふて腐れてるの?」

 授業の合間にある休憩時間、妹の明里は司の前の席に座り司に尋ねた。

「あのなぁ、明里……。これが怒らずにいられるか?」

「う~ん。確かに私もびっくりしたけどさ! しょうが無いじゃん?」

「なにが?」

「だってお兄ちゃん、私の言うこと無視して、一年生最後の実力テストで一位獲っちゃうんだもん!」

 一年生最後の実力テスト。これは風前高校に通う生徒にとってこの先の人生を決めると言っても過言では無い。実力テストの結果で、二年生からのクラス振り分けが決定するからだ。壱組から拾組までのクラスを壱組から成績が良い順番に振り分けられていく。

「実力テストだから実力出すのは当たり前だろ? それなのに……なんだよ零組って……」

 司は、「はぁ……」と溜め息を付き項垂れる。

「だから言ったじゃん。実力出しすぎたら駄目だよぉーって」

「とかいってお前も三位じゃん、零組になる事ぐらい先読みの能力でわかったんじゃねぇの?」

「私の先読みはそこまで細かくわからないよ。せいぜい、お兄ちゃんにとって良くないことが起こるかも? 程度。私は別に今のところ零組に不満ないしね」

「ねぇねぇ! なんの話し? あーしも混ぜてよ」

 一色兄妹が話している内容が気になったのか燕が間に入る。本当に間である。机の上に。「っておい。 邪魔だよ、でけぇケツ俺の机に置くんじゃねぇ……」

「とかなんとか言っちゃてぇ~。『本当は舐め回してぇ!』とか思ってんでしょ?」

 燕は言いながら、片足を畳み込む。白くきめ細やかな太ももが露わになっていく。 

 燕の言葉と行動にに顔をみるみる赤くさせる司。明里もまた、別の意味で顔を赤くさせていく。

「ばっか! 思ってねぇよ! ……本当に思ってないんだからな……。――ごくり」

「ちょっと、お兄ちゃん? ごくりってなによ! ごくりって! 燕も机じゃなくて椅子に座りなさい!」

 燕は、はいはいと椅子に座り込み足を組む。

「もう、明里ちゃんはすぐ怒るなぁ~。確かにその貧相な身体では、私の身体は目に毒なんだろうけどー」

「うるさい! 黙れ! このバカッチが!」

「なによ? バカッチって」

「バカでビッチってことだよ! そんなこともわからないなんて本当燕はバカ! 脳

筋!」

「ビビっ!? ビッチ? ひどいよ! 明里ちゃん! この身体は司にプレゼントするんだから!」

「……バカは別に怒らないんだ」

 司がぼそりとツッコミを入れるが、ムキになった明里も止まらない。

「そーいうところがビッチなんだよ! だいたいお兄ちゃんは私のっ!」

 司の前で二人の口論はどんどんエスカレートしていく。司は二人を止めることにした。

「はいはい、もう止めてくれ! お前たちが争ったら教室が粉々になる!」


「で、明里このクラスは何なんだよ?」

「何って? 先生が言ったことがほとんどだけど」

「いや、実力テストで一位の俺が零組っておかしくないか? ていうか実力テスト上位三名じゃん。俺たち……」

 実力テストの結果は司が一位。明里が三位。そして燕が二位であった。

「普通は俺たちみたいな実力のある奴は壱組で対ジェノサイド線において前線に立つはずだろ? 仮に零組がそうなったとしても、目的がおかしすぎる。しかも零組の生徒がこの三名だけってめちゃくちゃだろ?」

 そう、零組は司、明里、燕の三人だけだった。担任の斗真も含めてもたったの四人。

「目的ってぇ、魔女のことぉ?」

「そうそう、そこに俺は納得がいかない。結局魔女の力を借りるんなら俺たちが今までしてきた事ってなんなんだ? って話しだよ」

 司がそう言うと、明里は俯きもじもじし出した。

「明里?」

「お兄ちゃん……、その事なんだけどさ」

 明里は俯いていた顔を上げ、司を見つめる。その瞳はどこか決心めいたものを感じた。明里が口を開き掛けた瞬間、ガラガラと教室の扉が開かれた。

「おおーい、座れー。次の授業だぞー」

 斗真が教室に入ってきた。司は明里の話の続きが気になったが、先生が来てしまったのならしょうが無いと授業を受ける姿勢を取る。明里、燕もそそくさと自分の席へと着いた。


 対ジェノサイドにおける作戦の説明がされている教室で、司は先程と同じくして気怠げに授業を受けていた。担任の斗真は司の授業態度に我慢の限界を迎えたのか、授業を中断し司に問い掛ける。

「司? 朝からその授業態度はなんだ? 何が気に入らない?」

 斗真はやや、目に凄みを効かせ司を見据える。

「何がって……、それぐらい先生ならわかるでしょう?」

 司は斗真の凄みに動じない。動じないどころか司から、斗真を越える凄みが感じられる。

「おいおい……、司やめときなって」

 司の気迫を感じた燕がとめに入るが司は止まらない。

「先生、俺はこの一〇年ジェノサイドの事ばかり考えて生きてきた。ジェノサイドをぶっ壊す為だけにやってきた結果実力テストも一位になった。それなのに魔女の力を借りるって何ですか?」

「……ふん、そんなことか。ならばその問いに答えてやろう」

「待って!」

 答えようとした斗真を止めたのは明里であった。

「明里……?」

 席を立つ明里を見つめ、司はただぼそりと妹の名前を呟く。

「先生。兄には私から話します」

「……ふむ、それがよさそうだな」

 斗真は背の黒板に身体を預け、明里の言葉を聞く態勢を取った。

「お兄ちゃん、落ち着いてよく聞いてね?」

「……ああ」

「零組は、私が先生に作ってもらったの」

「……まじ?」

「……え?」

 燕も司も呆然としている。

「魔女の力を借りるためのクラス、零組。このクラスは私が発案した」

「なんで……?」

 明里は、これから言うことに躊躇してしまう。なぜならその言葉は、これまで頑張ってきた兄を深く傷つけてしまうからだ。しかし、意を決し兄を見据えはっきりとした口調で発言した。


「お兄ちゃんじゃジェノサイドは止められない」


 司は妹の言葉に驚愕はしたが同時にすぐにその事実を受け入れた。『明里が言うのなら間違いない』司の驚愕の色に染まった瞳はそう物語っていた。

「もちろんお兄ちゃんだけじゃない。私にも燕にも先生にも、このままじゃジェノサイドに勝てないの」

 震えていた。司を見る瞳も、司の方に向けた身体も。明里の何もかもが震えていた。司はすぐに立ち上がり、明里を抱き締める。

「わかった。魔女の力を借りる」

「……お兄ちゃん。ごめんね、黙ってて」

 静寂の後、斗真が口を開く。

「なんだ一色司? ずいぶん物わかりがいいな。……いや、良すぎるぐらいだ」

「先生、明里は何度もビジョンで見てるはずなんだ」

「ビジョン?」

「未来視のことだよぉ、センセー」

「ああ……、明里の能力だったな」

「そう、明里の能力。ビジョン、未来視。この能力は厄介なことに命に関わることとなれば鮮明に脳に映してしまう。だから、明里は何度も俺たちが死に行く様を視てるはずなんだ」

「うっうぅ……」

 明里は司の腕の中で嗚咽を洩らす。司は優しく明里の頭を撫で上げる。

「辛い思いさせたよな……。ごめんな明里。泣かせまいと頑張ってきたんだけど、届かなかったみたいだな」

「そんな……ことない。私たちとジェノサイドの力は均衡する。でも確実な方法を選びたいの」

「わかった。続き話せそうか?」

「うん」


 明里が泣き止むのを待って、教室の四人は授業そっちのけで輪になって座っている。

「で、魔女の力を借りるって話しだけど本当にいるの? それ」

 話しを切り出しのは燕だ。

「燕やお兄ちゃんの能力はどちらかというとアタッカー気質だから感じにくいんだ。でも、私や斗真先生みたいなブラスター、魔法タイプは明らかに強力な魔力を秘めた人物を感じてる。ですよね? 斗真先生?」

「ああ、私の能力は明里ほど強力ではないから感じたり感じなかったりだが、いることはいる」

「斗真先生、大丈夫です。その感じたり感じなかったっていうのが正しいんです」

「というと?」

「はい。恐らく魔女は魔力の放出を自由自在にできるみたいです。私たちみたいに垂れ流すだけじゃなくて」

 斗真は明里の発言により顎に手をやり暫く黙り込む。

「ふむ、そうなると探すのは難しくなりそうだな……」

「どういうことぉ?」

 燕の疑問の声に明里は頷き返す。

「まず魔力を探知できないと見つけることはできないの。魔女がいるだいたいの方角はわかるけど、もしも魔女が人の多いところにいた場合、特定が困難になる」

「聞いてまわればいいんじゃない?」

「それはそうなんだけど魔力の放出を押さえているところを見ると、恐らく自分の魔力を隠してるんだと思う」

「なるほどねぇ」

「まぁ、魔女がいることはわかった。それでなんでこのメンバーなんだ?」

 司の質問に斗真と明里は黙り込む。ふぅと息を吐き、斗真が口を開く。

「それについては私から話そう」

 司と燕は斗真に目を配った。

「私は過去、魔女に出会っている」

「「は?」」

 斗真の言葉に司と燕が目を点にする。

「待て待て、ちゃんと続きがある。私は過去に魔女を見ている、ちょうど一〇年前のジェノサイド襲来の時だ。今回の魔女がその魔女かどうかはわからんが、性格にかなりの問題がある」

「性格?」

 性格の善し悪しが、対ジェノサイド戦において何が必要なんだ……? 司の表情はそう物語っている。

「性格というより性質かな? 会ってみればわかることだが、その為のメンバーなんだよ。このクラスは」

「センセー、まどろっこしいよぉ! はっきり言ってくれなきゃわからないぃ!」

 司も燕に同意見のようで、うんうんと頷いている。

「じゃあ、単刀直入に言うぞ? ――私たちは魔女にあった瞬間に殺されるかもしれん」


――殺される。

 その言葉の意味はなんだったかと一瞬考えを巡らせた後、司と燕は答えに行き着く。

「殺されるって……、何で」

「言ったとおり性質が非常に残忍だということだ。いや、そういうわけでもないか。恐らく魔女は人間よりも食物連鎖において上位にいると思っている。魔女から見れば私たちも動物や昆虫と同じということだ」

「おいおい、ジェノサイドと戦う前に殺されるなら元もこうもないじゃねぇか……」

「だからこのメンバーなんだ。殺されない可能性があるとすればこの学校でトップの力をもつお前たちしかいない。だったな、明里?」

「そう。魔女がもしも噂通り残忍な性格だった場合に備えてのメンバー。斗真先生が担任になったのも私がお願いしたから」

「私も驚いたよ……、まさか生徒からオファーが来るなんてな。でももう私も現役じゃない。期待するんじゃないぞ?」

「何を言ってるんですか先生! 一〇年前の英雄の一人なんですから期待してますよ」

「っ! 英雄? 先生が?」

「そうだよお兄ちゃん」

「今頃なに言ってんの? 先生の名前で気付くだろぉ? ふつー」

「名前……如月斗真、トーマ……、英雄トーマ!?」

 司が驚愕の表情を斗真に向ける。

「いかにも、世間ではそう呼ばれている」

「嘘だろ? 英雄トーマって女だったのかよ!」

「おい、司……、そのリアクションはないんじゃないか? 私だってその……ショックだ」

「いや……、そりゃ驚きますよ?」

「しかし、ジェノサイドと対峙はしたものの私は英雄と呼ばれるようなものではないよ……。まぁついでになったが私のことは大体理解しただろう? 次はお前たちがどういう経緯でこの学校に来たのか聞こうじゃないか。お前たちの実力テストを見ていたが、その歳で持つには異常な力だ。私はそこが気になっている」

 実力テスト。一年生最後のテストは学年全員でトーナメント方式により行われた。実力テストといえど筆記試験ではない。実技試験だ。零組の三名の実力は、その中でも群を抜いており、二年生、三年生をも上回った。

 上位三名はトーナメント方式から外れ総当たり戦となった。

「しかし、私の予想では先読みの能力の一色明里が一位を獲ると思ってたんだがな……。お前の能力は相手の行動が先にわかっているんだろう?」

「あはは、そうなんですけどね。この二人には私の能力は通用しませんでした。通用しないというか、行動が読めても対応することができないといった感じでしょうか? お兄ちゃんは見たとおりあんな能力ですし、燕はなんというか……、バカすぎるというかなんというか……」

「へへん!」

 燕は豊満なバストをぐいっと張る。

「いや燕? 褒められてないぞ? 絶対」

「なるほど、何も考えてなかったのか……」

「そうです。考える前に身体が動いてるという奴ですね……、それに加えてあのバカ力でしょう?」

「燕の能力はたしか……」

「リミッターブレイク、限界突破の能力です」


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