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「アンタたち、ケイちゃんのお友達? ほら、泉ケイちゃんの」と女が話しかけてきたのは、村田区村田警察署の前の喫茶店内で、これからどうしようかと私と古田さんが相談しているときだった。

 私たちの捜査は行き詰まっていた。

 事件現場のアパートを調べた。そこでは泉ケイの死を知っただけで、これといった情報は得られなかった。隣人は泉ケイの名前すら知らなかった、という状態だった。

 泉家を調べた。泉ケイが数奇な生まれで、泉家からは煙たがられていたと知った。中学時代にイジメられて、不登校になって、これ幸いとピジョンスクールに追いやられていたと

知った。泉家は現在、雲隠れしており、連絡の取りようがない。

 ピジョンスクールも調べた。ホンモノが運営していたインチキスクールで、日常的に虐待が行われていた。泉ケイは脱出したものの、泉家とは絶縁状態になったと知った。

 三波学園高等部も調べた。泉ケイはそこで、高卒ビジネスに引っかかってしまい、学費を二校分請求されるといった、莫大な学費の支払いに追われていたことを知った。

 もちろん、自分の生活費も稼がねばならないから、かなりの出費がかさんでいたと推測できる。

 これらをまとめ上げると、泉ケイは自身でなんらかの金策を取っていた可能性が高い、という結論に至った。それも自身の死に繋がってしまうような、法律スレスレの金策を取っていた可能性が高い、という結論にも至った。

 だが、ここで私たちの捜査は、完全に行き詰まってしまったのだ。

 泉ケイは独り身である。ほかの人間との繋がりが、非常に薄い。不遇な生まれ、イジメ、だれも助けてくれない非情、搾取する魔手、彼女の周辺環境は、ああ無情だ。これらが彼女を独り身にさせたのか、他人とトラブルを起こすのが嫌で、彼女自身がみずから望んで独り身になったか、それとも、救いの手が差し伸べられず、本人が望まないのに独り身になったかは、私にはわからないが。

 いずれにしても、連綿と続いていた糸は途切れてしまったのだ。私たちは、その途切れた糸をつなぎ合わせられずにいた。途切れた糸を見つけることすらできずにいた。

 私は、「警察に捜査の進捗状況を聞いてみようや」という古田さんの提案に乗った。乗らざるを得なかった。

 結果は以前と同じだった。つまり、お決まりのお役所仕事だ。

 例のとろくさい刑事曰く、

「もしかしたら、今日中に容疑者を確保できるかもしれない。危ないから、君たちは首を突っ込んではいけないよ」だった。

 私たちを追い返すと、刑事はどこかへ電話をかけ始めた。彼は彼なりに捜査をしているのだろう。そうだ、彼の言うことを信じよう。容疑者は今日中に確保されるのだろう。

 というわけで、警察署前の喫茶店で、私たちは今後について相談することにした。

 この喫茶店には、自分の携帯を見つめたまま、互いに一言も言葉を交わしていない、実に奇妙なカップルが相変わらずいた。珍奇な連中だ。ある種のオブジェクトに見える。

 この店のメニューは微妙に高い。決して買えない金額ではないが、普段だったら絶対に買わない値段だ。映画館などで販売されている缶ジュースと同じだ。不利な立場の人間には、つけ込みやすいのだ。

 私たちは足下を見られているのだ。私たちは店に搾取されているのだ。

 そう、泉ケイは高校の卒業につけ込まれたのだ。

 あの珍カップルがようやく会話をし始めた。彼らの声はすぐに大きくなり、しまいには口論になった。

 聞耳を立てると、口論の理由がわかった。金のトラブルだった。彼らは支払いを巡って喧嘩をしているのだ。あの携帯ばかりをいじって、一言も会話のなかった珍カップルは、一円の支払いを押し付けあって、恥も外聞もなく、店の外まで聞こえる奇声で口喧嘩しているのだ。

 金のトラブルは恐ろしい。貨幣という概念が生まれて以来、金銭を巡るトラブルは古今東西起きていたのだろう。

 金があろうと、金がなかろうと、金のトラブルは起きていたし、いまでも起きているし、これからも起き続ける。金の概念が存在する限り、未来永劫変わることがないし、いかなる思想や手段を用いても変えることができない、この世の摂理である。

 そして、金があるほうのトラブルに比べて、金のないほうのトラブルのほうが、惨めで、惨めで、情けない。これも、未来永劫変わることがないし、いかなる思想や手段を用いても変ええることができない、この世の摂理である。

 とにかく、金のトラブルは恐ろしい。泉ケイは、その恐ろしいトラブルを起こし、巻き込まれてしまったのだ。

 女子高生ができる金策は限られている。まっとうな手段となると、せいぜいバイトだ。どんなによくても、時給千円が限界だろう。

 これが現実なのだ。これが高校生の限界なのだ。まっとうな手段で高給を得るなど、どだい無理な話だ。

 だが、ほかに手段がないこともない。女には奥の手がある(男でも使える、たぶん)。

 暴行殺人という要素や、風俗街である笠原という舞台を加味して考えると、泉ケイが奥の手を使ったという可能性を否定できない。

 古田さんも私と同じ考えのようで、

「笠原まで行って、風俗店を片っ端からあたってみたらどうや? 私立ビンビン女学園まで行って、泉さんがが入学しとらんかったかと聞いてみたらどうや?」と勘弁してほしいことを言ったとき、その女は話しかけてきた。

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