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辞令

視点:ヒザーク・ミ・ゲダーイ

Hiza:k Mi-Geda:i

今や、ティオ・ハーグリップとまともに渡り合えるだけの軍事力を持った国も数える程しかなくなってきている。奴等は軍事力を着実に付けており、下手をすればどこかの小国くらいは簡単に占領できるのではないか。私はそれを危惧している。


幸い、我がミ・ゲダーイはそんな心配からはまだ程遠い。今のところ、世界最高峰の軍事力を誇る我が国の陸海空軍は一度もティオ・ハーグリップに敗れていない。特に国境付近に広がる雪原地域は天然の要塞であり、まず突破は出来ない。よしんば出来たとしても、疲労で侵略もままならないはずだ。それも、精鋭揃いの雪上兵部隊には適う訳がないと言っても過言ではない。仮に相手が氷属性者であったとしても、である。


もっとも、だからといって慢心していい、という訳ではない。仮に向こうに技術者がいたならば、対軍兵器を開発され、窮地に立たされる可能性も否定は出来ない。もしそうならば、抜かされる前に対応策を整えておかねばなるまい。さもなければ、例えミ・ゲダーイといえども、ティオ・ハーグリップを前にして陥落したとしても不思議はあるまい。


私も一兵士として、同僚達にそう喚起してきた。いや、同僚という呼び名は些か語弊があるかもしれない。私からすれば、“只の馴れ合いの寄せ集まりの塊でしかないのではないか”、そうとしか思えない時も少なくない。


もっとも、そんな事はこの際どうでもいい。私は上層部から単独行動をある程度認められているとはいえ、それでも全てが自由になる訳などない。それが規律だ。故にこの程度の個人的願望を叶えられるとは全く思うはずもない。ただただ国内の悪党どもを討伐するのみ。そのような日々が続いていた。


正直なところ、“情より条”という私の信念を以てしても、その大深度には唯一つの我儘があるのを自分自身で認めない事は出来なかった。


――……奴等、絶対に根源から打ち破ってみせる。この国の、いや、この自由世界の秩序の為にも……


そんな私に訪れた転機、それは、陸軍本部からの呼び出しであった。


この知らせをまず耳にして、私が何かの伝達違いかと思ったのは道理であろう。通常、本部からの呼び出しは幹部レベル、それも、支部総長レベルでもなければまず掛かるはずもないのだ。私のような一兵卒がそのような指示を受けるのは、世紀毎に一人いるか否かだ。


ところが、この件を私の直属の上司である保安課長が、管区長からの直々の命令として私に伝えてきたのだ。私は疑うには疑ったが、かといってその知らせに否を突き付ける事はしなかった。万が一の事もある。だとしても、そのような事態の想定は容易いものではないのだが。


「……しかし課長、何故そのような出頭命令が私に?」


「さあな。それについては私とて把握していない。ただ、ヒザークがヘマをやらかすはずがないからには、大方何かの報奨か、或いは大役の辞令か何かが出るのかもしれない」


第五管区氷雪原保安課長のツァイフェン・ミ・ゲダーイ上士が仰る。


「報奨……はないかと。私は処罰こそなけれ、それ程の功を立てる程のことをした覚えはありません故」


「ふむ、ならば何か特別任務があったと考えるべきなんだろうな。君の捜査と掃討に関する能力は、この第五管区外でも知られているそうだからな」


――それは初耳だ。すると、特別任務の内容もまさか……


「まあ、これはあくまで私の勝手な憶測でしかないが、この任務はきっと君の望みを叶えるチャンスとなるのかもしれない。頑張ってくれたまえ」


草臥れた詰襟を立て直しつつ、ツァイフェン課長はその常は穏やかな眼に信の光を入れ、私にお向けになった。


「……了解致しました、ツァイフェン課長殿」


その視線に対し、私は通常の返答と同じく、唯直立敬礼の姿勢をのみ以て返した。




そんな訳で現在我が国首都のラーク・ヒャルツェンの、その中心官公庁街に私は来ている。目の前には、赤煉瓦造りの重厚な国際省本官。記憶が違わなければ、治安維持局はこの地下にあったはずだ。


――しかし、未だに何故呼ばれたのやら理解に苦しむな。


そう心中に疑問の雲を抱きつつも、この堂々巡りに埒の開く訳もない。とにもかくにも、思案ばかりよりはましかと、一先ず正面玄関を潜る事とした。


「おはようございます。本日は、どういったご用件で?」


玄関を過ぎた先、正面の窓口に座る受付嬢に、俺は手帳を開いて告げる。


「陸上保安軍より辞令があるとの事で呼び出しがあった。本部は地下階か?」


「はい、地下20階でございます」


「分かった。有り難い」


そう礼を言って、指し示された昇降機へと向かう。


旧式の昇降機の前に立ったところで、私は再びこの事態に自らが包括された由を思案した。が、結局のところ無駄だった。今私の持ち合わせている情報では、どう考慮してももっともらしい理由が組み上がらないのだ。最もそれらしい理由の形としては――無論、それすら事実かどうかは疑わしい訳なのだが――やはりティオ・ハーグリップ殲滅作戦だろうか。問題は、より適任な担当者などごまんといる事だ。そんな中で私が呼び出される理由ともなれば、それこそ万年雪の広がる大規模氷雪原に落とした硝子片を探すよりも困難かもしれない。


昇降機の階層表示針が、地下一回に差し掛かる。あれこれ思案してみたが、疑問解決の時は、最早そう遠い事でもない。




「……失礼します」


私が通されたのは、本局の会議室だった。煉瓦壁の蒲鉾型の部屋に、長机が整然と並べられ、そこに寸分の狂いもなく均等な間隔で椅子が配置されている。


そんな部屋の奥に、私の探す姿があった。


「ヒザーク・ミ・ゲダーイ上兵だな?」


強い眼光で私を迎え入れた丸刈りで口髭を蓄えた貫禄のある男、彼こそが、このミ・ゲダーイ陸上保安軍幕僚長のヅィルゴーン・ミ・ゲダーイ上将だ。


「はい、第五管区氷雪原保安課所属の上兵、ヒザーク・ミ・ゲダーイに相違ありません」


「よく来た。では、そこに腰掛け給え」


上将は目の前の椅子をお薦めになるが、私はそのまま起立を続けた。


「腰掛け給えと言っているのだ。これは命令だ」


声に別段苛つきもなく、逆鱗を擦る事はなかったようだ。


「では仰せの通りに」


命令とあれば座らない訳にもいかない。規律を金科玉条と盲信する訳ではないが、人間の元来の性悪さには規律しかないと思うのだ。


「さて、君を呼んだのは他でもない。ある重要任務を任せる為だ」


「……重要任務、と仰いますと?」


丸い鼈甲フレームの眼鏡を光らせ、上将の眼が更に鋭いものとなる。


「君も薄々感付いていると思うが、最近のティオ・ハーグリップの動きは不穏極まりない。中には陥落寸前の国もあるというではないか」


「……ミ・ロクーネ、ですか?」


私の問いに、頷かれる上将。


「左様。かの国は元々属性保有者が殆どおらず、能力修得者も我々レカ・ペントと比べるべくもない」


――非能力者を相手にするとは、つくづく卑劣な奴等だ。


脳内で毒づく私。どうにもこのティオ・ハーグリップのやる事は虫が好かない。どうせなら私がその根絶に手を出したい、それが無理でもせめて立ち会いくらいは、と私は常々臍を噛む心持ちだった。


「そこで、今我々上層部では、彼等に対等に渡り合える人材を探している。そしてヒザーク上兵」


「はっ、何でありましょうか」


次の瞬間、私は我が耳を疑う事となる。


「君には、反ティオ・ハーグリップ抵抗軍を超国境で組織して貰いたい」


「……申し訳ありません、今何と?」



聞き間違いをしたのでは、と思って聞き返したところ、上将は私を睨み付けた。


「私に二度言わせる気か。反ティオ・ハーグリップ抵抗軍を超国境で組織しろ、と言ったのだ。三度は言わぬ」


半ば苛ついたような声が返ってくる。聞き間違いではなかったようだ。


「いえ、承りました。しかし……」


「何だ。何か異論でもあるのか?」


「いえ、そういう訳では……」


焦った。同志に“氷心の雪上兵”との二つ名を付けられる程に冷酷で冷徹な――勿論、自覚をしていても直す気は更々ないが――私ですら、上官、それも最高指揮権を持つ幕僚長に楯突くようでは兵として失格ではないか。


「……君は自分を過小評価し過ぎているようだな」


しかし、杞憂でしかなかった。


「自分でどう思っているのかは知らぬが、客観的には君が最も対ティオ・ハーグリップ戦闘で成果を出しているのだ」


「……お戯れを」


「軍人に戯れは不要」


上将の怒鳴り声。


「今のところ、我が国の軍隊ですら、当該集団と対等に渡り合える者は希少だ。その点君は、今まで千人を超す人員を捕縛してきたそうだが、その中には幹部も大勢含まれていたそうではないか」――……え?


初耳だった。確かに手強い相手も中にはいた。しかし、精々手慣れた戦闘員程度かと認識していたのだ。


「かつ、君は単独行動特認兵であり、ティオ・ハーグリップ研究にも熱心と聞いた」


「……いえ、それは誇張かと」


「噂などではない。精鋭の諜報員達の調査報告の中身を言ったまでだ」


――……諜報員を、か。


「ともあれ、君には以降当面の間、国際作戦部特務課緊急対策特命係への異動を命じ、又中士への昇格を認める」


「はっ、了解致しました」


「以上。下がってよい」


それを聞き、椅子から立ち上がって一礼した私は、踵を返し、会議室の扉を開いた。


「……健闘を祈る」


その背に、上将の声を受けながら――

皆さんも気付いたかと思いますが、ティオ・ハーグリップにいち早く陥落しそうになっている国、ミ・ロクーネとは、ツゲフマの祖国の名です。無属性者は総じて有属性者より身体的に能力が劣りがちなのです。ツゲフマのような優秀な能力者は、その点でまたとない逸材かもしれません。


さて、そろそろ個々の物語の間にリンクが生まれてきました。言うなれば、ここから十三国世界騒乱記の本当の物語が始まるのです。


ところで、2011年5月15日からtwitterの方でハージュのbotを公開し始めました。暇な方はどうぞ冷やかしでも。ユーザ名は「@bot76」です。

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