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氷心の雪上兵

視点:ヒザーク・ミ・ゲダーイ

Hiza:k Mi-Geda:i

組織の人間は、すべからく厳格な規律の下にあるべきだ。私はそう信じている。指揮系統の整然とした緻密な流れに無駄はなく、忠誠と能力に裏打ちされた人員の滑らかな動きが息吹を産む。さながら、何千万もの小さな部品同士が巧みに噛み合って動く機巧仕掛けの時計のように。


極地に程近い、大陸最南端の国ミ・ゲダーイ。寒流と高気圧は大地を凍らせ続けている。内陸の氷雪原は、時に零下70度に達する事もあり、寒さに強い氷属性者でなければ、或いは強力な炎属性者でもなければ、横断はおろか立ち入る事すら儘ならない。


そんな世界であっても、ごく限られた人間ながらも何の支障もなく生活できる者も存在しない訳ではない。かねてよりこの地を生活拠点としていた民族がそれだ。極寒の地で暮らす知恵を永い歴史の中で身につけてきた者にはそれ程の負荷もないのかもしれない。


さもなければ、このような極寒冷地対策の訓練を積み上げた雪上兵くらいしか生き残れまい。軍事国家たるミ・ゲダーイにおいては、絶対零度に程近い温度ですら命を落とす事なく一週間は生き延びられるだけの実力を持つ兵卒も少なくない。私は後者の人間だ。


ヒザーク・ミ・ゲダーイ、それが私の名前だ。雪上兵の中でも特に過酷な単独作戦遂行担当をしている。上の人間は私の事を集団に向かない不適合者と言っているようだが、私にしてみれば他人という不確定因子を朋友とするのは些か違和感を覚えるものだ。集をよしとするならするで、一向に構いはしない。が、それとて個を否定する要素にはなりえないとしか思えないのだ。


いずれにせよ、私が単独作戦専門だったのは、自他ともに幸いであったと言えようか。


ティオ・ハーグリップは今や全世界的に活動している訳であるが、当然この国も例外とする事なくその手を伸ばしている。かといって、別段恐れる程の事でもなかろう。我々軍の人間から見れば、奴等も素人同然でしかない。まして単独行動主体の私にとってすれば、尚更である。


この日も、イスカ・シュツェフの町に一味が現れたと聞き、即座に駆け付けてみれば、二人の覆面男が破壊活動に精を出していた。まともな能力もないと見え、手斧一丁で家屋の電気配線を切り刻んでいた。確かにインフラ破壊という王道を取っているのではあろうが、幾らなんでもここまで幼稚な手段を取るような悪党がティオ・ハーグリップにいたとは、些か拍子抜けの感がある。


「…馬鹿らしい」


つい呆れ声で呟いた私だが、奴等は幸いにも何の関心も見せてこない。


「おい、そっちはどうだ?」


「こっちはあと一軒だ」


「俺は全部終わったぜ」


「なら手伝ってくれよ、兄貴」


「おう、待ってろ」


イスカ・シュツェフは小さい町だ。とうに大半の家は電気や電話のケーブルを切断されていた。この近辺には警察署もなく駐在も今の時期は不在だ。軍事施設もなく、普通ならば治安機構の人間はいない事になる。だが幸いにも――連中には不幸だろうが――今は一人近傍にいるのだ。


「…セラミクス刃か」


二人の所持武器の構造分析を切断面から済ませた私は、徐ろに手を開く。そして一念、すると氷弾が相手目がけて一直線に飛んでいった。


「…痛っ」


一粒が“弟分”に当たった。


「誰だ、こんな真似したのは?」


“兄貴分”がどすの効いた声で言う。勿論その程度で尻尾を巻く程の柔ならば兵卒などやっていない。


「ミ・ゲダーイ政府国際省治安維持局陸上保安軍第五管区氷雪原保安課上兵、ヒザーク・ミ・ゲダーイだ。お前達二人を器物損壊で警察に引き渡す」


そう言いつつ、国民服の胸ポケットより、軍章入り手帳の刻印を示す。


「…ほう、制服さんか。一体どうするつもりかな?」


“兄貴分”が嘲笑する。


「笑っていられるのもそれまでだ」


それだけ言い放つと、私は差し出した手をすっと振り上げた。


「ふん、そんなのに乗るもんか」


“弟分”も馬鹿にしたように笑う。が、それも私にはどうという事のない話だった。


「…身柄拘束完了。引き渡しを執り行う」


そう、既に――


「それまで、この氷牢にて大人しくする事だ」




ティオ・ハーグリップは一種の大規模国際犯罪者集団ではある。が、完全統一されているとは言い難く、ある一つの軸を中心に繋がりながら、個々人は好き勝手な悪事を働いているように思われる。無論、中には結束をしている派閥もなきにしも非ず、だが、大半は後ろ盾のある中小悪党団でしかない。今までの経験から、私はそうだろうと推測している。


ところで、奴等はどうやって中央と繋がっているのだろうか。公安局の知り合いに訊いた事もあるが、誰一人として口を割らないそうだ。例え洩らしても、精々『伝書鳩』だの『矢文』だの、果ては『自動自爆式カセットテープレコーダー』だのという受け取りの手段までしか吐かず、しかもその全てが送り主不明とあって、手の施し様がないと彼は零していた。



幸いにして、私は単独行動を上から認められている。司令のない時には大抵奴等の今までの動きの分析に掛かっている。流石に私達体系的組織でないが故に、奴等の個々の動きには実のある関連性が見受けられない。


とはいえ、収穫が皆無なのかといえば、実の所そうとも言い難い。奴等は破壊活動に勤しんでおり、特にインフラ関係の寸断については驚く程被害件数が高い。情報やエネルギー供給の混乱に乗じてその先の破壊活動や脅威的支配といった、テロリズムの王道とも言える手段を取っている訳である。


しかしながら、そんな事は百も承知だ。そのテロリズムの先に何があるのか、中枢部の人間が何を目的として末端の悪党共を動かしているのか、それを私は知りたいのだ。だが、そのレベルの情報を得るとなると、雲を掴むより難しい事となる。もっとも、私の場合は雲なら凍らせれば簡単に掴めるのだが…


そんな訳で、私は任務でミ・ゲダーイ中を移動する毎に各地の軍関係者に話を聞き、治安維持機関に情報を求め、民間からも手掛かりを見出だそうと粉骨砕身を繰返している。それでも尻尾を出したティオ・ハーグリップは蜥蜴の如く掴まれた尻尾を切って雲隠れ。結局は徒労ばかりで骨折り損の草臥れ儲けでしかない。少なくともこれまでの成果はその程度でしかなかったのだ。


――ティオ・ハーグリップめ、いい加減瓦解の足掛かりを見せてくれないものか…?

ヒザーク・ミ・ゲダーイ、氷の国のゲダーイ。雪上兵で氷属性のレカ・ペントです。


水色の髪を分け、オリーブブラウンの国民服風デザインの軍服を着た少年です。蒼く鋭い二重の眼にメタルフレームの眼鏡。理知的で冷酷な雰囲気です。


名前の方は氷の突き刺すような冷たさを鋭い摩擦音で表しています。弟からは時々揶揄されていますが、決して膝とは関係ありませんよ。


さて、私の小説において、大抵主要キャラクターの中に一人くらい私自身をモデルにしたキャラクターが登場しますが、このヒザーク、ご多分に漏れず彼のモデルもまた私です。もっとも、私本人は冷酷ではなく、寧ろ頑固で優柔不断ですがね…


ハージュが一番気に入っているならば、ヒザークは一番書き易く描き易いキャラクターですね。

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