星と魔女
1.
ある真っ暗な夜のことです。人も羊も寝静まった街を見下ろす夜空に、ポツンと金色に光るひとつの星がありました。お母さん月も兄弟星も、みんな今夜は天幕の後ろ側で眠っているというのに、どうしてだかその金色の星だけは闇の幕から出てきてしまったのです。目覚めた魔女が怒っていいました。
「おおい、今夜はお前の出番じゃないぞ。早く闇に隠れておくれ、魔法の力が狂ってしまう」
金色の星はこたえていいました。
「だけど魔女さん、ぼくはあなたに会いにきたんです。お願いです、ぼくのところにきてくれませんか」
不思議に思った魔女は、箒にのって丘の上から飛び立ちました。
「ああよかった、やさしい魔女さん、ぼくの願いを叶えてください」
「魔女と契約するからには、お前の一番大切なものをもらわなくっちゃいけないよ」
「だけど魔女さん、ぼくには大切なものなんてないんです。だけど願いを叶えてくれたら、星の砂金をあげましょう」
魔女は満足してうなずきました。
2.
「願い事をいってごらん」
金色の星はいいました。
「魔女さん、僕は昼が見たいんです。にぎわう市場の通りや、野に遊ぶ子どもらや、海をわたる船を見てみたいんです。人が寝静まる前の、このきれいな街を見たいんです。ああ魔女さん、僕は人を愛してるんです!」
「だけどお前、それはたったの一度きりだよ」
金色の星がうなずくと、魔女は呪文をとなえました。
やがて夜が仕事をおえ、朝の女神とあいさつのキスを交わす頃、おどろいた太陽が東の空からいいました。
「こらこらお前、はやく闇に帰りなさい。もう朝日がのぼってしまう。神様に逆らってはいけないよ」
西の空から、金色の星は大声でこたえました。
「父さん、ぼくには魔法がかかってるんだ。明るくなっても消えないよ」
太陽はそれを聞いて、少し悲しそうな顔をしました。
そして太陽が空のてっぺんにのぼり、昼になりました。昼の街は何て美しいのでしょう!みんなが寝静まった夜の街しか知らない金色の星は、たちまちその光景に心を奪われてしまいました。金色の星は、まさに人々を愛していたのですから!
ところが金色の星が街をながめていると、とつぜん野で遊んでいたひとりの子どもが金色の星を指さして叫んだのです。
「ごらんよ、真昼の空に星がのこってる。魔女の呪いがかかっているぞ!」
それを聞いてこわくなった街の人々は、みんな家の中ににげてしまいました。市場も野はらも海の船も、羊たちでさえも眠ってしまったかのように静まりかえってしまったのです。やがて西の空に沈んでいく太陽が、ポツンと空に残された金色の星に、別れの挨拶を告げました。
3.
真っ暗な夜がくると、目覚めた魔女が箒にのってやってきました。
「昼の街はどうだったかね?マイディア」
「魔女さん、それはとてもすばらしかったよ。ぼくはたくさんの人を見たんだ。ああやっぱり、ぼくは人を愛しているよ!」
魔女はほほえんでいいました。
「それはよかった。何しろわたしも、もう何年も昼の街なんて見ていないからね。あそこは少しうるさすぎるんだ」
「やさしい魔女さん、ありがとう。さあ、魔法をといておくれ」
魔女が金色の星にキスをすると、たちまち魔法はとけました。
「ねえ魔女さん、ぼくはきっと生まれかわるよ。そうしたら人の子どもになって、あの美しい街で暮らすんだ」
そういって、星はさらさらと砂になってしまいました。
星の砂金をビンにいれると、魔女は悲しくなりました。するとそれを見ていた神様が、ぽろりとこぼれた魔女の涙をすくいあげて、小さな星にしたのでした。




