表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイバーシティ・ジャパネスク  作者: 月美 結満
ストロベリーガス
9/24

五月三日 十五時五分

「デッカ!」


耳にタコが出来るくらい聞いたフレーズだ。


声の持ち主と目が合った秋は、あぁさっきの、と、優しく微笑んでみせる。


「あら おしどり夫婦、いらっしゃい。カウンター席しか空いてないけどいい?」


冬葉は「かまいません」と店のおばちゃんに言った。

二人は扉から最も近いカウンター席に通される。秋は腰をかけ、冬葉はポシェットを椅子に置き、秋にお願いをする。


「秋ちゃん、私もパフェお願い。ちょっとお手洗い」


「うん、わかった」


店の奥にあるトイレへ直行した。

一分後、席に戻る途中、一組の親子か、はたまた歳の離れた兄妹に視線がいく。


肌の色は薄めの褐色で、大きな目と直線的な鼻の形は、少し日本人離れしている。

二人はそっくりで、少なくとも血縁関係であることが伺えた。


女の子が夢中でパフェを食べていると、柔らかいフェーブの黒髪が流れ落ちる。

父なのか兄なのか、その子の髪を掬い耳にかけてやった。

「ゆっくり食べなさい」と言った、その眼差しは酷く優しい。


目線を床に逸らし、口をキュッと結ぶ。


そして程なく、カウンター席に腰をかけた。


カウンター席の椅子は高めで、浅く座らないと冬葉は爪先すらつかない。


道中でしていた会話の続きを、秋から再開する。


「で、さっきの続き、日陽先生の好みの女性って?」


「えっとね、あの女優さん、この前の朝ドラに出てた」


「主役?」


「違くって、主役の母親役」


「あぁあの、実力派の色っぽい」


「そうそう、ん? 色っぽい?」


また墓穴を掘ったか。

冬葉は怪訝な顔をみせる。


そんな時だ、助け舟が現れた。


「口挟んでごめんよ。その女優さん、山居やまい聡美さとみだろ?」


カウンター越しから会話に割って入って来たのは、喫茶店のマスターである。


秋は「えぇ、そうです」と、会話の参加を快く受け入れた。


「やっぱ日陽先生も世代だなぁ」


冬葉は「世代?」と返す。


「そう、俺と先生同い年。三十年前にブレイクしてね、国内の映画賞総なめ。海外でも主演女優賞とってね。すごい女優さんだよ」


「凄いのは解るんですよ。色っぽさ?っていうより、正統派みたいな-」


「冬ちゃん、解ってねぇな。なぁ秋くん?」


唐突に同意を求められ、肯定とも否定とも取れる空笑いをした。


そこまで言う店主に、冬葉は問う。


「ではマスター、山居聡美とは」


「山居聡美とは。背中でも演技が出来る女優だな。中でも、哀愁を背負った後ろ姿はゾクゾクする」


「それ、マスターの趣味じゃん」


「違うって、現に先生がタイプって言ってる時点で多数派だろ? なぁ、秋くんもさっき頷いたよな?」


冬葉は秋の方をキッと向くと、秋は首をブンブンふった。


「はいはいはいはーい」と会話を遮り、黒猫パフェを運んでくる高校生くらいの女の子は、冬葉と秋の目の前にスプーンとパフェを置く。


「黒猫パフェ二つでーす」


「ちな、私は冬ちゃんに一票」とマスターに言い、お盆を脇に挟むと、食器を下げにホールへ出て行く。


「俺の血ひいてるくせに、解っちゃいねぇな」


と、マスターは首を傾げた。


他愛の無い会話をして、美味しい物を食べる。

こんな贅沢なことは無いと、冬葉はこのひと時を味わおうとしていた。


そんな矢先だった。


扉の向こうで、不穏な甲高い声が聞こえる。

山居やまい 聡美さとみ

年齢: 44歳

日本を代表する女優

国際的な映画祭で主演女優賞、助演女優賞を過去に受賞


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ