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【6000PV感謝】最強魔法士の魅了が彼女には効かない件 ~最強魔法士は彼女の隣を手放せない  作者: 雨屋飴時


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14/21

6-5 魔獣戦の後で

魔獣戦の後の帰り道。



◆◆◆



「ダメ」

「大丈夫。本当に立てるから」

「血も結構流れてたよ。倒れたら危ないでしょ」

「だからってお姫様抱っこで運ぼうとしなくていいから!」


 両腕を開き、準備万端のフィリクスにリュシアは叫ぶ。

 大きな声を出すと、やはり頭がくらくらした。

 もう、とフィリクスがため息をつく。


「リュシアは俺の《香り》に魅了されないでしょ?

 それなら、いくら近くても大丈夫じゃない。

 顔色も悪いし、ほら」

「っ」


 一体何が大丈夫だというんだろう。

 魅了のことなんてハナから心配していない。

 そういう問題じゃないのに。

 けれど、心配の色しかないフィリクスを見ていると言い辛い。

 それに、フィリクスを家に運ぶ時、リュシアもお姫様抱っこを採用している。

 あの時は恥ずかしさなんてなかったのだが、立場が変わるとこうも違うものなのか。


「とにかくいいから!」


 と、拒んで立ち上がり――う、と目がくらむ。

 足がよろけたところを、構えていたフィリクスが簡単に膝裏を掬った。


「無理しちゃダメだって言ったでしょ。

 これくらいさせてよ」


 フィリクスの心配そうな声色が頭から降ってくる。

 膝裏と、体の左側にあたたかさと逞しさを感じ、勝手に顔が火照った。

 俯けば顔を見られないことがせめてもの救いだ。


「大丈夫だから、もう降ろし――」

「あ。もしかして照れちゃう?」

「照れない!」

「うん。じゃあ大丈夫だよね」


 しまった。反射で否定してしまった。

 今更反論もできず、諦めて大人しく受け入れる。

 フィリクスが歩けばその度に、頬がその胸に触れた。

 自分とは違う力強さに、胸が震える。


「……さっき、攻撃魔法使ったでしょ?」

「うん」

「もう、魔法管理局がここまで来る?」

「そうだねえ。すごい音してたし」

「……ごめんね」

「リュシアが謝ることないでしょ。

 俺、魔力量が人より多いんだ。だから攻撃魔法がつい派手になっちゃうの。

 全然リュシアのせいじゃないよ。

 俺が天才なせい」

「は?」


 思わずそう返してしまったが、リュシアが気にしないようにお茶らけてくれたのだろう。多分。

 リュシアの反応に「だって本当だもん」とフィリクスが返す。


 土の上を歩く音。

 家までは、まだもう少しある。

 ざわざわ、と木々が揺れていた。

 また、雨が降りそうだ。


「――まあそういうわけでさ、俺、フレンチトースト作ったら、もうこの森を出るね」


 ふいにフィリクスがそう言って、リュシアは顔を上げた。


「これ以上、リュシアに迷惑かけられないからね」


 冷たい風が、通り抜ける。

 別に迷惑なんてかかってない、と言いたかったが、喉でつっかかって上手く言えなかった。

 もう少しいたらいいのに、と浮かびそうになる気持ちには蓋をする。

 魔法管理局に捕まったら、フィリクスには拷問が待っている。

 そうはなってほしくない。 


 けれど、フレンチトーストなんていいから早く逃げて、とも言い出せない。

 フレンチトーストを食べてみたいからじゃない。

 食べてみたいのは確かにあるけど、そうじゃない。


「……そっか。わかった」


 ぐるぐる考えながら出た言葉は、暗い響きをしていた。

 これじゃだめだ。

 迷惑なんてかかってないと、伝えなければ誤解されたままになってしまう。

 何か言わなきゃ。何を言えば。


「あの、フレンチトーストは一緒に食べられる?」


 口から出たのはそんな言葉だった。

 フィリクスの鼓動が一瞬震えた気がして、そっと見上げる。

 歩みが止まり、フィリクスがリュシアを驚いたように見つめていた。

 やがて、その頬が柔くはにかむ。


「うん。それは、良かったら一緒に食べたいな」


 それは春風を思わせるような、暖かい微笑だった。

 



「――ところでさ。

 今思ったんだけど、俺が倒れた時、リュシアはどうやって俺を運んだの?」

「今と逆だよ。お姫様だっこで」

「え」

「……」


 そっと顔を覗ったが、顔が少し上向いてるからよく見えない。


「お、重かったでしょ」

「カイリキ草飲んでたから平気」

「あ、そう」


 少しの間の後、また歩が始まる。


「フィリクス?」

「……今、ちょっとこっち見ないでくれる?」


 いたたまれなそうなフィリクスの声。

 よく見たら、首と耳たぶがほんのり赤く染まっていた。

 思わずにやりと口角が上がる。


「ね。もしかして照れてる?」

「っ」


 顔を赤くしたフィリクスが恨めしそうに睨んできて、思わずリュシアは吹き出した。






読んでくれてありがとうございます。

今回はちょっと一息的な章でした。


11/3追記:次回は11/5投稿予定です。

そろそろ折り返し地点。

次回も読んでもらえたら嬉しいです(^^)

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