6-1 予期せぬ早朝の魔獣戦
ふと、嫌な気配がしてフィリクスは目が覚めた。
窓の外はまだ薄暗い。
キッチンから、かちゃかちゃと音がする。
ソファから起き上がると、リュシアが何やら慌ただしく動いていた。
時計の針は、朝の五時をさしている。
リュシアとお茶を飲んでいたのはつい2時間前。
今日はゆっくり起きよう、と言っていたのに。
リュシア、と声をかけようとして、ふと気づく。
――外に、何かいる。
うぞうぞと感じる、魔力の気配。
これは、魔獣だ。
十数頭の魔獣が、家の周辺を徘徊しているようだった。
そっとキッチンに近づき、リュシアの様子を伺う。
彼女は魔草の入った瓶を何個も出し、ポーチに入れていた。
「――何してるの?」
「ひぁっ」
リュシアの肩がびくりとはねる。
「フィリクス……。ああ、びっくりした」
ほ、と息をついた顔色は、あまりよくない。
「朝の準備にしては早すぎると思うけど。
もしかして、魔獣のせい? 対峙に行くの?」
リュシアがぐ、と押し黙る。
華奢な肩口から覗いてみると、ポーチはすでに魔草でいっぱいだった。
「唸り声が聞こえて、目が覚めたの。
そしたら魔獣が窓から見えたから……。ここまで来る前に、なんとかしないと……」
ちらり、とキッチンの窓から外を覗くと、奥の木陰から灰色の毛がちらりと見えた。
あの毛色は、恐らく氷属性の魔獣――グラキウルフだろう。
「行く気満々なところ水を差すようで悪いけど、俺、一応魔法管理局の局員だよ。
しかも上級魔法士。
頼ろうとか思わない?」
「だって、攻撃魔法使えないんでしょ。
熊でさえ倒せなかったのに」
「………それは、そうだけどさ」
きり、と眉を吊り上げた凛々しい顔の彼女からは、フィリクスに頼る気など微塵も感じられない。
けれど、その固く結ばれた手は、小さく震えている。
「ね。足手まといになるかもしれないけどさ、俺も行かせてよ」
「でも」
「だめ。一緒に行く」
言い切ると、リュシアの瞳にやっと迷いが生まれる。
「リビングに飾ってある剣って、リュシアが使うにはちょっと大きいでしょ。
借りていい?」
しばしの沈黙。
やがて、彼女は諦めたようにこくりと頷いた。




