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「卵を壊すなよ!」
リーダーが巨人に指示した。
「卵を壊す!?」
眉間を寄せながら、娘が笑う。
「そんなの君たちには無理だ! 何千年も前に造られた、この卵を!」
「黙れ! おい、早く卵を奪え!」
黒ウサギ娘に怒鳴ったリーダーは、光人間を急かした。
声も発さず、人型の光は右手を卵に寄せた。
「ダメだ!」
娘が叫ぶ。
「まず前提として、こんなことでボクを滅するのは不可能なんだ! 他の次元のボクが来れば、意味はなくなる! そして、何より良くないのは今、ボクを弱める行為!」
「命乞いなら、もっとマシな台詞を言え!」
「ボクが命乞い? ハハハ、ジョークが上手いね! 逆だよ、逆!」
彼女の瞳が哀れみを浮かべ、男たちを見つめた。
「ボクは君たちを守ってるんだ! この卵から! それに気付かないのか!?」
光人間の指先が、とうとう卵に触れた。
その刹那。
黒ウサギの娘は、瞬時に卵の中に吸い込まれた。
そして、彼女の居た場所に立っているのは。
卵の中に居た娘だった。
黒ウサギ娘とは逆の、赤い右眼と青い左眼を爛々と輝かせている。
「アハハ!」
桃白髪の娘は、高らかに笑った。
屈託のない、爽やかな笑顔。
盆と籠を放り投げ、光人間の触れた卵を掴み取る。
「100年ぶりに出れた!」
桃白髪の娘が、卵内で両手両脚を括られた黒ウサギ娘を覗き込んだ。
「姉様、いい格好ね」
フフフと笑う。
卵の中から、黒ウサギ娘が心配そうな眼差しを桃白髪の娘に向けた。
突然の状況変化に呆気に取られていたリーダーが、ハッと我に返る。
「何をしている! 卵を奪え!」
「は?」
娘が視線を卵から、リーダーに向けた。
「この卵は、ずっとわたしと姉様のものよ」
巨人が黒ウサギの娘の時と同じく、桃白髪の娘を両手で掴み、持ち上げる。
「こんな偽物の光! これで姉様を少しの間、弱めたのね。姉様は他次元から自分たちを呼ぼうにも、その前にわたしを抑えられなくなった」
片眉を上げた娘は、神秘的な瞳で敵たちを見つめた。
彼女の全身が、強烈に光り始める。
「姉様は優しいから。わたしはこんなクズどもに容赦しない。本物の光を見せてあげる」
まるで星の如き輝きを放つ彼女に、怪物は巨体から煙を吹き、男たちは悲鳴をあげた。
それでも、光は弱まらない。
数秒の後。
光人間と男たちは跡形もなく消え、桃白髪の娘だけが立っていた。
彼女は微笑み、クルクルと華麗にダンスを踊る。
「ああ、久しぶり! 風、匂い、温かさ! 全部、懐かしいわ! 卵の中は退屈ですもの」
娘は右手の卵を掲げ、かわいらしい両眼で見つめた。
卵の中の黒ウサギ娘が、呆れ顔で見つめ返す。
「フフフ、姉様。そんなに心配しないで。前ほど大暴れはしないわ。せいぜい、さっき程度の悪党を消す…いいえ、気分の悪い時は、もう少しいろいろするかもだけど…まあ、きっと大丈夫。だから、そこで安心して見ていて!」
嬉しそうにピョンと跳ねた娘は、夜の魔導都市を軽やかに駆けだした。
そして、その細い指が持つ卵は複雑な色を、中の娘は複雑な表情を浮かべ、これ以上ないほど美しく輝くのだった。
おわり
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