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夜の魔導都市の路地を歩く1人の娘を、軍服姿の男たちが取り囲んだ。
美しい彼女は艶のある黒ロングヘア頭の上に、2本の黒いウサギ耳を生やしている。
白い顔から見つめる神秘的な双眸は右眼が青、左眼は赤。
両肩を露出した黒服がスタイリッシュだ。
彼女は両手で持った盆の上、リボンをつけた籠のさらに上に、鎖を巻いた卵を乗せている。
透明なそれは赤、黃、紫の複雑な光を宿し、なおかつスラリとした両手脚を括られた、こちらもまた美しい娘を閉じ込めていた。
卵の中の娘は桃白の髪。
黒ウサギの娘とは逆、赤い右瞳と青い左瞳を持っている。
「これが欲しいの? これは特別な卵。復活なんてさせないよ?」
彼女は微笑み、男たちに問いかけた。
「我々は魔導神軍だ」
リーダーらしい男が名乗った。
「様々なアーティファクトを集めている。世界を浄化するために」
彼らは娘に、にじり寄った。
「へー、それは楽しそうだね。君たちの悪評はよく聞くよ。でも、ボクには関係ないな。この卵に関しては、けして君たちの思い通りにならないよ」
娘がクスッと笑う。
「いいや。我々の魔導計測器が」
リーダーが、隣の仲間の持つ箱型機器のモニターを覗き込んだ。
「その卵の尋常ならざる魔力を示している」
「まあ、それはそうだろうね」
黒ウサギの娘が頷く。
「君たちには、とても扱いきれないから、この娘は」
「お前の意見など聞いてはいない。我々は、それを没収する」
「そう? 出来るかな?」
娘の両サイドから、2人の男が飛びかかった。
しかし彼らは娘に触れる寸前で、まるで巨大な見えない手に掴まれたかの如く、空中で止まる。
そして、仲間たちの上へと放り投げられた。
折り重なる男たちが悲鳴をあげる。
「ああ、お気の毒」
娘が笑った。
「この闇ウサギめ!」
リーダーが苦虫を噛み潰す。
「今度はどうするの? 腰の大きな拳銃? もっと大怪我すると思うけど」
「こちらも、お前の闇の力の噂は聞いている。ここに無策で来たと思うなよ!」
リーダーが、残った動ける男たちを集め、皆でブツブツと何かを唱え始めた。
「へー、魔法も使えるんだね」
感心する娘と男たちの間の空間が、ユラユラと陽炎めいてくる。
それは束なり、大きな光の球と化した。
最初は何気なく見つめていた黒ウサギ娘の瞳は、光が強まり、大きな人型に変じるに至って、大きく見開く。
「これは!」
「どうだ!」
呪文を唱え終わったリーダーが、誇らしげに笑う。
「お前の闇の力を、我らの光が打ち破る!」
「ああ」
娘が眩しさに眼を細めた。
「確かに、これは有効だね。他の次元の全てのボクを脅かさないレベルとしても、ここにおいては…」
今や3mほどの巨人となった光は、娘に両手を伸ばした。
「おっと!」
娘が卵を庇う。
しかし、光人間は大きな両手で彼女の両二の腕を掴み、楽々と持ち上げた。
細身の黒ウサギ娘は、身動きを封じられてしまう。