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「えっと……君は私のことが見えているのかい?」
意外そうな声を向ける彼は、トボトボとこちらに向かって歩いてくる。
「いやぁ、久しぶりに話をしてくれる人と出会えた。本当に久しぶりだ」
「あなたはどうしてここに?」
「どうしてと言われましても……私がもう死んでいるということは理解していらっしゃいますよね?」
「それは、まぁ……」
「いいんですよ、気を遣ってもらわなくても。自分でも随分前に死んだしまったことは理解していますから」
赤に変わった信号。車が走行するのを眺めながら、彼は僕の横に立つ。身長こそ高いけど中肉中背のどこにでもいる男性。顔がわからないことを除いてはこれといって言い表せるような特徴はない。
「でもどうして君は、僕に声をかけたんだい? 変な人だと思われてしまうだろうに」
「……まぁ、仕事上、積極的にあなたみたいな人たちに声をかけてるんですよ。癖みたいなもの、って言えばいいんですかね? それに、ピークを過ぎたらここら辺、人通りが止みますから」
「職業病をその年で発症してしまうとは……日本もついに終わりなのかもしれないなぁ」
「なんてね」と笑って見せた彼は、まるで生きているかのような温かみのある声を向ける。
「君はこのあたりの子かな? しばらくここにいるけどあまり見たことのない顔だ」
「最近引っ越してきたんです。なかなか寒さにはなれませんが、いい土地ですね」
「この時期は刺すような寒さがあるからね。内地から来た人には厳しいだろう。まぁ慣れだね。僕もそう子供に教えてきたよ」
さっきも聞いたセリフだな。ここら辺の住人は自分の体に相当自信を持ってるらしい。
「それで、いったい私に話しかけたのにはどんな理由があるのかな? 仕事の関係で僕みたいな幽霊に話しかけるといったけど、僕に話しかけたのもその仕事が関係してるのかな?」
「……なかなか鋭いですね、大抵の人は何も聞かずに喋ってることが多いんですけど」
「長年の勘だよ。こう見えてエリートサラリーマンだったんだよ、私は。人の裏の裏まで読める自信がある!」
「話が早くて助かります。ズバリ言いますが成仏したいと思いませんか?」
「……成仏か」
少し考えるように間を開けて、答える。
「ごめんね。まだそういうのは考えていないんだ。僕にはまだやらなければいけないことがあるからね」