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素敵な婚約者と兄達の戦死

婚約者はマイケル・レビット。

王政府の上級法衣貴族の嫡男です。

手紙ではイケメンで優秀・温厚な方だと書いています。


翌週には早速顔合わせがありました。

手紙の通り、絵に描いたような王都のお洒落な貴公子です。

お話も面白く、エスコートしてくれる所作も洗練されて、武骨な私の幼馴染とは大違い。

私はすっかり夢中になりました。


でも乳母からは

「結婚するまで身持ちを固くしてください。万が一婚姻前に孕むようなことがあれば、私は責任をとって生きてはいられません」

ときつく言われているので、手を添えること以上のことはできませんが、一緒にいるだけで大満足でした。


気になるのは、彼から時々言われる、支援の話。

「出世して君にいい暮らしをさせるためにも君の実家から支援がたくさんいるんだ。

よく御両親に言っておいて欲しい」


いくら雰囲気のいいレストランで美味しいものを食べていても、そんなことを言われると興醒めです。


それでもマイケルの整ったら顔立ちを見るだけでも心踊るものがありました。


さて、チェーサー伯爵家では嫡男のアーサーさんの結婚式があり、私も親類として出席のために里帰りしました。


新婦の実家は王都付近の譜代の諸侯だそうです。

チェーサー家も実家のアキナス家も王家からは距離のある外様なので、王家肝入りの結婚らしいです。


アーサーさんも花嫁もとても嬉しそう。

伯爵家の中でもチェーサー家は名門で格式も高いので、ここに嫁げれば勝ち組でしょう。

そう評価する私も貴族学校の価値観に染まってしまいました。


式後にオリバーとトマスに会いました。

兄の結婚式で呼ばれてきたようです。


「ステイシー、婚約が決まったようだな。

相手は将来有望の法衣貴族の嫡男だとか。

好きな王都在住となって良かったな」


オリバーが祝福してくれました。

さすがは幼馴染です。

しかし、トマスは膨れ面で、吐き捨てるように言います。


「兄貴は美人の諸侯のお嬢様。

ステイシーはかっこいい貴公子の婚約者。

羨ましいことだ。

それに比べたらオリバーは我がチェーサー家家臣の後家さんの入婿。

俺はなんとか騎士団の平騎士に潜り込んだが、いつ最前線で死ぬかわからない」


「オリバー、そうなの?」


「俺は跡継ぎができるまでのスペアとして、家臣に残すことになったが、適当なところがなく、病死した婿の後釜だ。

これからは兄貴の家臣としてこき使われるだけだ」


愚痴る二人にかける言葉もなく、「気を落とさず頑張っていればいいことがあるわ」と適当なことを言って私は去りました。


それから数ヶ月後、学校を卒業しました。

マイケルとのデートも楽しい王都の生活も終わり、私は家に帰ります。


久しぶりの故郷はひどく田舎に感じられます。


「ああ早くマイケルの妻になって王都に帰りたいわ」


手紙のやりとりでは、彼が任官して暫くしたら結婚しようと話しています。


その頃、国境紛争から隣国との関係が悪化してきて、ついに開戦となりました。


最初はすぐに終わるだろうと思われていたのですが、王陛下はこれを領土拡大のチャンスと思われたようで、大軍が動員されました。


諸侯も動員がかかり、実家のアキナス家では兄が、チェイサー家では世子アーサーさんと家臣としてオリバーが出陣しました。


幸い私の婚約者のマイケルは戦場に行くことなく、王宮で勤務しています。


(良かったわ)

実家の兄や幼馴染には悪いですが、婚約者が戦場に行かずにホッとしました。


さて、兄たちの武運を祈り見送ってから1ヶ月。

我が軍が大敗したという衝撃的な知らせが来ました。


王陛下は逃れたものの、王太子は戦死。

出征した諸侯や貴族も戦死した者は数えきれないほどだとか。


「兄様は大丈夫だったの!」


帰ってきた負傷兵は「残念ながら無念の戦死を遂げられました」と声を震わせて報告しました。


嫡子の戦死に父は黙り込み、母は卒倒しました。


チェーサー家もアーサーさんは戦死したそうです。

弔問に訪れると、屋敷は大荒れでした。


「なぜあなたが戻って来て、夫が死んだの!

あなたが死ねばよかったのに!」


絶叫しているのは先頃嫁いで来た新婦の方。

責められているのはオリバーです。


下を向いて黙っているオリバーの代わりに別の騎士が弁解します。


「オリバー殿はアーサー様を逃がすために殿になって追撃を防いでいました。

しかし途中で伏兵が襲撃し、アーサー様は逃げ切れずに討ち取られたのです。

決してオリバー殿の責任ではありません」


他の騎士も頷き、言う。


「アーサー様が自分だけが逃げようと護衛も置いて行ったためです。

オリバー殿はそのあと残る兵を取りまとめて大変な苦労をして帰還されました。

それもチェーサー家だけでなく、指揮官が死んで観覧するアキナス家の兵も親類だと拾われていました。

兵は皆感謝しています」


「うるさい!

アンタ達みんなが死んでもアーサー様が戻れば良かったのよ。

一番大事なのは世継ぎを死なせて、恥を知れ!」


家臣は皆呆れ果てて、嫡子夫人の言葉に取り合いません。

でも私はその気持ちがわかります。

せっかく得た伯爵夫人の地位が急に消えてしまったのですから。

おそらく実家に帰って再婚の口を探すのでしょうが、あるかどうか。あっても大きく条件は下がるでしょう。


そう思えば狂ったように怒る気持ちもわかります。


そこへ当主の叔父様が口を開きました。


「アーサーが死んだのは残念だが、そこまでにしてくれ。

クレア殿、あなたの実家からはこの戦の前に、もしアーサーに不慮のことがあれば、後を継ぐ弟君に娶せて欲しいと希望があったが、さっきの言葉でそれも無くなった。


死ねば良かったという相手をオリバーも妻にはしたくないだろう。


気持ちが落ち着けば実家に戻って欲しい。

もしも子供がお腹にいればこちらで責任を持って育てよう」


その言葉を聞いて、クレアさんはハッとしたようだが、事既に遅し。

何か弁解しようとした彼女を従者が連れて行きます。


そうか、アーサーさんが死んで、オリバーが世子になるのか、あれ、それならばわがアキナス家はどうするのかしら。


従兄弟だからトマスでも養子にすれば、彼も喜んでいいかもしれないわ。


私は他人事のようにそう考えました。






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