生まれ変わりと楽しい学生生活
私は前世では平凡な家庭の普通の女の子だった。
公立高校から私立の大学に入り、就職してOLをしていた。恋愛もして彼氏もいたし、そろそろ結婚かと思っていたところで交通事故にあって死んでしまった。
まだ生きたいという思いが転生につながったのだろうか。
気がつくと中世風の館に住んでいました。
幸い貴族の娘のようで、乳母や侍女に傅かれて、蝶や花よと育てられたところです。
我が家はアキナス子爵と言って領地は小さいですが、重要な港を有して賑わい、財政は豊かです。
我が家と祖先を共にする兄弟のような家が隣接するチェーサー伯爵家。
こちらが元々は長兄でしたが、領地の相続で山がちの広大な地域が所領となり、軍事力はありますが質実剛健と言えば体はいいものの貧しいところです。
両家は親類として親しく付き合い、助け合ってきました。
今のチェーサー家の当主夫人は私の父の妹であり、当主の子息は従兄弟に当たります。
我がアキナス家は兄と私の2人兄妹、チェーサー家は男3人兄弟です。
そのうちの真ん中のオリバーは私と同じ年、末弟のトマスは一つ下で、幼い頃はよく一緒に遊びました。
しかし、大きくなると、オリバーやトマスは家を出なければならない次三男の扱いを知り、しばしば憂鬱気な顔をしていました。
幸い私は長女なので、立派に嫁入り先を探してもらえます。
兄は当主教育で、宮廷作法から剣や乗馬の訓練、兵の指揮、内政の勉強と大忙し。
私は一通りの礼儀作法と貴族令嬢としての教養ぐらいを習うだけ。女に生まれて良かったと思いました。
空いた時間には流行りの恋愛騎士物語を侍女たちと感想を述べながら読んでいます。
「私もこの主人公のようにイケメンで凛々しい貴公子と恋したいわ」
「お嬢様ならばきっとそうなりますわ」
みんなでまだ見ぬ未来の恋人や夫を夢見ていました。
15歳となり、王都の貴族学院に入りました。
この国の貴族は3年間ここで学ぶことが決められています。
私は王都の華やかな都会ぶりに目を奪われました。
若い女性のセンスが故郷と全然違います。
遊ぶところも多種多様で、退屈するということがありません。
つくづく王都に来て良かったと思いました。
さて、学友の令嬢達の関心はどこに嫁ぐかです。
私たちみたいな長女は両親も力を入れてくれ、通常は相応のところに嫁げますが、次女以下は大変そうです。
ランクを落としても、逆に高位から来た嫁は家風や生活水準の違いから好まれないということもあります。
しかし、この学院でうまく相手を捕まえて、相手の両親が許せば次女でも良縁を得て嫁ぐことができるかもしれません。
これは椅子取りゲーム。皆が望むような椅子は限られているのです。
家の後援が期待できない彼女達は目の色を変えて、このゲームに挑んでいますが、男の子達のガードも厳しいのです。
先ずはすでに売約済みが多い。
彼らは婚約者にしっかりとガードされています。
残る有望株は大抵は乳母や乳兄弟が着いてきてしっかりと相手を選別し、付き合い方をチェックしています。
よほどの美貌とか、実家からの多額の支援など特段のメリットが示さなければ婚活戦線に勝ち残るのは難しいです。
私自身は十人並の容貌ですが、裕福な我が家からは十分な支援が期待できます。
だからか、借金があるなど内情が苦しいと聞く下位貴族の子弟からのアプローチもありますが、両親からは軽挙妄動するなときつく言われていますの
それに私の乳母の目も光っているため、イケメンからのデートのお誘いも断らざるを得ません。
女友達とお洒落と都会を楽しみながら、夫となる相手を予想してお喋りして過ごす日々です。
そんなある日、学園でオリバーとトーマスに会いました。
以前見た時よりも遥かに精悍で厳つい顔つきとなっていました。そして怖いくらいの暗い雰囲気を出しています。
(これは私の王子様には失格ね。
護衛ならばピッタリかも)
そんなことを思いながら、幼馴染の気安さで話しかけます。
「久しぶりね。
暗い顔してるけれどどうかしたの?」
するとオリバーから投げやりのような言葉が返ってきました。
「なんとか学生生活の間に婿養子の口をがんばってみたが、連戦連敗。
さっきは自分の顔を鏡で見てから来いなんて言われてな。二人で嘆いていたのさ。
国元からは大した支援は期待するなと。
フツメンかそれ以下の俺たちの顔ではとても令嬢の心は動かせない。
他に特技もなし、こうならば騎士団へ入るしかない」
トーマスも言う。
「騎士団では貴族の次三男は士官になれるが、戦場では最前線に行かされ、死ぬ奴も多い。
かと言って文官は競争率が高くて、よほど成績がいいかカネが無いと苦しいからな」
「苦労もなく、最初に生まれたと言うだけで当主になれる兄貴が憎い」
オリバーの冗談と思えない真剣な言葉にトーマスも頷く。
「お兄様は当主教育でとても大変そうだったわよ」
兄との仲が良い私は思わず口を出しましたが、それは火に油を注いだようです。
「女のお前は知らないだろうが、スペアの俺は万一に備えて兄貴と同じだけの教育を受けさせられたんだ。
学校でも遊び呆けているおまえと違って、もしも養子の口があった時に備えてしっかり文武とも鍛えているぞ」
「オリバーはまだいいさ。
次男ならば何かあれば養子の口などくるかもしれない。
三男なんて本当にゴミみたいなものだ。
学校を出れば好きに生きていけだとさ。
身体だけは頑丈だから、いっそ農民の婿養子にでもなるか」
冗談混じりのトーマスにオリバーが言う。
「そんなことをすれば貴族の子供がみっともないと実家に連れ戻されて、修道院行きだろう。
逃亡して山賊か傭兵にでもなるしかないな」
聞くほどに私が恵まれていることがわかり、話しづらくなります。
「見ろ、ご世子様たちの散策だ。
煌びやかに着飾って、俺たちと違いって小遣いもふんだんにあるのだらうな」
その視線の先には高位や中位貴族の嫡男達が楽しげに歓談しながら歩いている姿が見えます。
私も時々ご一緒している上位カーストの方々です。
「あそこに弓矢を射掛けて殺してやれば楽しいだろうな」
トーマスがぼそっと言います。
私もそんな目で次女達に見られていたのかと思うとゾッとして、その場を離れました。
幼い時は仲良く遊んでいたのにこんなに格差が出るなんて。
両親からの手紙で、私の婚約者が内定したことが知らされたのは数日後でした。