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おさがしの方は、誰でしょう?~心と髪色は、うつろいやすいのです~  作者: ハル*
アレだよ、アレ。…って、なんだっけ。
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閑話 喰うもの喰われるもの※9/19加筆修正


「…さーて、飲むか。ジャン」


と、カムイさんから飲みに誘われた俺…ジャン。


「いや。ジャン=ヘクターったか、たしか」


ニヤリと微笑んで、わざとらしく俺の本名を呼ぶのには意味があるのか。


近隣国※名前にあるようにヘクター国…の愚弟と称されている、第三皇弟の俺。


第一皇子は、側室の子ってことで、本妻の息子にあたる第二皇子の兄が皇兄で、俺が皇弟という扱いになっている。


ただ、その呼び方だと第一皇子がまるでいないような扱いじゃないかと問題になって、皇弟という言い方はしない方がいいという流れが出来ていた。ただし、ごくごく内輪での話。それ以外は、みんな好き勝手なことばかり言っていたな。


とはいえ、兄二人の仲はそれぞれの母親の仲の悪さと対比するかのように良くて、互いに上手いこと相手の苦手な分野を埋め合って支え合いながら執務をこなしているのを見てきた。母親の前では一応、相性が悪そうに見せたりもしつつ。


そんな二人の間に入るつもりも、王位継承権の争いに巻き込まれるのも得策じゃないなと思った俺は、かなり早い段階で兄二人に先に話をしておき、愚かで出来の悪い弟の役を演じることにした。


「ジャン。本当はお前ひとりでも、十分に国王たる役割を果たせるだけの力があるのにな。もったいない」


「俺たちがこの役割に飽きたら、お前に丸投げするからな? 気を抜くなよ? ジャン」


などと言われながらも、国を離れた場所で適度に人脈を拡げ、徐々に力を蓄えつつ…無難に過ごしてきたはずの俺。


気がつけばナンバーズのトップに何年も座して、頭が悪い上司に振り回されながら過ごしてきた。


そこで出会った、水兎アペルさん。


今後、大賢者たる彼のそばにいることは、二人の兄たちに連絡済み。


近隣国ということで、あの日の台風で彼に救われた街の中に含まれていたのは内緒だ。サリーは、先の話の際に俺が名乗ったことで、あの国の…と察したはずだ。


カムイさんはというと、どこまで俺のことを把握しているのか…予想のしようがないというのが本音。


まさかの立場の彼だったが、俺なりにかなりな要注意人物とは思っていた。いまだ、警戒をしている。それと同時に、俺がいた場所のせいもあって心を傷つけたアペルを救い…支えてきた彼を尊敬もしている。


複雑な感情を自覚しつつ、「グラスよこせよ」と差し出された手に、そっとグラスを彼の前に置いた。


「さっき、アペルが準備してってくれたこれは、結構使えそうだな」


と言いながら、レモンサワーを作りつつ指さす場所は掘りごたつのテーブル板の上。というか、宙に浮いているパネルと呼ばれしモノだ。


「俺たちが知っている仕様とは、明らかに違うな」


「そうですね。しかもこれ、アペルが若干いじくったとか」


「前の世界で、その手のことにそこそこ詳しかったらしいから、知識プラスこの場所で手に入れた能力でどうにかしちまうってあたりがな」


「なんというか…規格外とかの言葉で括れない気がしますね」


「まあなー。…あ、なにか食いたいものあったらそれで試しに出して食ってみねえか」


「そうですねー。…何がいいのやら。元の場所では、飲む時には食べる暇もなく飲まされるのが日常だったので、そこまで食べながら飲むことがなくて。アペルと一緒にいるようになってから、しっかり食べながら飲むようになってしまって」


「お互いにブタにならねえようにしねえとな?」


「そうですね。……えーっと、野菜、肉、魚、その他……。どれがいいですか」


「食材からも選べるようになってるとか、たしかアペルが。……っと、ああ! ここを押したら、ホラ」


「ああ、本当ですね。アジフライっていうのを食べた時に一緒にフライになってた野菜の名前が出てこないです」


「ん? そういう時には、こっちの方にアシスト機能とか書かれているのを押すと、食材の画像が。……どうだ? どれかわかるか?」


などと話している間に、レモンサワーを二杯分作ってくれたカムイさん。


二人でパネルをのぞきこみながら、どの野菜だったかを探してみる。


「…あ。あいうおえ順で、” あ”のところにありました。アスパラガスっていうんですね。……コレなんかどうです? ベーコン巻き。それと…肉…肉……この角煮と書かれているのはどうです?」


「お。美味そうだな。食ってみて、場合によっちゃ酒を変えるのも手だな」


「そうですね。お酒に関しても、アペルがこのあたりに項目を…ああ、ありましたね。二杯目はこっちで出してみましょう。アペルに頼むのではなく、自分たちで出すのは初めてですね?」


「だな。…本当に出てくるのか? アペルは大丈夫だとかぬかしてたが」


「彼が大丈夫と言ったのなら、大丈夫かと。……では、やってみますね。えー…っと、ベーコン巻きと角煮……で、決定。盛りつけ? 二皿別々でいいですよね」


「いーんじゃねえ?」


「えー…ようするに、二人前分ずつ、と。…配膳……わっ! 出てきた」


目の前に小さな音をたてて、出来立ての料理があらわれた。


「基本的にアイツが元の世界で食ってた物がメインなんだろ? コレ」


「らしいですね。…本当にいろんな食べ物がありますね」


「そうだな。…っと、じゃ…飲んで食って話すか。…なあ、ジャン」


準備は整ったと言わんばかりに、ニヤリとまた笑んでグラスを軽く持ち上げるカムイさん。


「では、乾杯…っと」


カチンとグラスが軽く触れて、それから互いに何を言うでもなく一気に半分ほどまで飲む。


「で! コレな? …お? 脂がすごいな…。甘くてしょっぱくて…酒に合う!」


「……んんっ。コッチも旨いですよ。フライの時も旨かったけど、これもまた」


互いに角煮とベーコン巻きを食んでは、レモンサワーを飲み。あっという間に酒がなくなる。


「俺はアペルに飲まされて飲むようになってきた日本酒だな。ジャンは、どうする」


「そうですね…。芋焼酎の水割り…いや、ロック…。アペルが出してくれるお酒のせいで、変に舌がこえた気がします。どの酒がいいのか…」


「たしか、飲み方でオススメの酒コーナーってのが…っと、ココだココ」


「なんというか、至れり尽くせりでしたっけ? それとも痒い所に手が届く…でしたっけ? アペルが何か言っていたような」


「多分、どっちも大差ないぞ。それ。とにかくアイツの”こうだったらな”ってのは、気配りの範疇を超えてるからな」


「そこは同意ですね。まあ、それのおかげでアペルがこの場にいなくとも食事その他がかなり潤いますからね」


「過保護なほどのボタン付きのな? メニューの横のボタンの多さよ」


「はは…っ。さて、と。それじゃ、二杯目を出しましょう」


互いに二杯目の酒を手にし、また乾杯をして。


「で。話は何ですか? カムイさん」


二杯目を飲み干して、瓶ごと出していた芋焼酎をグラスに注ぐ俺。


「お? 酒のせいか、口が滑らかだな。ジャン」


「そんなことはないですよ? いたって、いつも通りです」


顔が少し赤い気がするが、それはそれとして。


「アペルがまた、部屋に籠りましたね」


「…まあな。誰かと一緒にいたいって気持ちと、一人になりたいってー気持ちは同じ場所にあるもんだからな。アイツがあえてそうしている時は、そっとしとく方がいい」


カムイさんも、空になったグラスに冷えた日本酒を注いでいる。


追加でポテトサラダを出して、すこしずつ摘まむ。


カムイさんもこのサラダは好きなよう。特に中に入っている人参を先に箸で摘まんで食べてから、サラダ全体に手を出しているのが面白い。


それがウサギだからなのか、彼の食の好みなのか。


「カムイさんは…」


「カムイでいいって。めんどくせえ…」


「それでは」


「それじゃ…でいい」


「……アペルみたいなことを」


「かたっくるしいのは、徐々にでいいから無くしてくれ。疲れんだよ」


「わかりました。…あ、いや、わか、った」


「ふはっ。めんどくせえやつだな? ジャンは。疲れねえ? ずっと、んな感じでよ」


「長いことこんな感じでしたからね」


「…ヘクター国の第三皇子だったか」


「……っっ」


特に明言していないはずなのに、彼にもアペル同様で鑑定が出来る能力か何かがあるってことか?


思わず身構えた俺に、カムイは告げた。


「鑑定は出来ねえよ、俺には」


半分ほど残っていた日本酒を、一気にあおりながら。


「そ…うですか」


それじゃあ、なんですか? と聞きかけたはずなのに、違う言葉が口をついた。


「お前らには見えないものが違う形で見えているだけの話だ。…それ以上は言えねえ。ただ、わかっただろうが…悪用する気ならとっくにしてたさ。してねえ時点で信用に値すると思ってくれたらとは思ってる。…ま、手の内のすべてを明かしてない時点で、信用に値してねえ割合はそこそこあるんだろうけどよ」


などとひとり言のように呟き、彼は冷ややっこという物を頼んだ。前に、風呂に入りながら二人が食べていた記憶がある。


「コイツを食うのに、箸で上手くつかめなくてな。アペルは使い慣れてるからってよ、見せつけてくる」


「一口いいですか?」


あの時は、まだ体を洗っていた段階で遠巻きに見ていただけだった。


「おう」


硬さのない、白い塊。たしかにこれはつかみにくい。


「難しいですね、納得です」


「食うのに難儀してると、これで食えって出されるのが屈辱だ」


半分ほどグシャグシャになってしまった、冷ややっこ。渋々といった感じで、スプーンを取り出して冷ややっこを掬い取って食べ始めた。


「また今度、挑戦を!」


「だな。…あー…豆腐うめえ」


冷ややっこが乗った小鉢を、俺の方にもすこし押し出してくれたカムイに甘え、俺もスプーンで掬って食べる。


噛むこともなく、口の中ですぐさま崩れる豆腐。


「シンプルなものもいいですね」


「…ああ」


俺がそう言うと、カムイがこう呟く。


「人間関係もシンプルな方がいい。俺はそう思っている」


いきなりな話題の転換。


けれど、彼が言っていることは単純でわかりやすい。それに俺もその方が好きだ。


「同意です」


うなずき、空になった彼のグラスに日本酒を注ぐ。


「俺はアペルに命を救われたって話をしたよな」


「ええ」


「キッカケは何であれ、アイツが俺との出会いを運命とか言ってくれた。俺は別にそれを暑苦しいとかうざったいとか思ってねえ。俺の見た目は、思ってそうに見えるだろうけどな」


「ははっ。いろいろめんどくさそうに見えますけど、カムイは面倒見がいいでしょう? 少なくとも俺とサリーは、カムイのことをそんな風には思いませんよ? 残念ながら。…そういえば俺たちとの出会いも、そうやっていいことだったと言ってくれていましたね。アペルは」


「…ああ。ただな? そうやって言ってくれるのはいい。別にいいんだ。正直なところ、かーなーり! ガキみたいに素直にああやって言われっと、くすぐったくてしょうがないが! それでも、アイツが自分の感情をちゃんと表に出してやれるようになったのはいいことなんだって認めてやりてえから、俺はそれを口にすんなとは言わん」


「それはなんとなくわかってました。アペルが元の世界で持っていた性格というか性分のせいで、隠していたものを出せるようにした方がいいと…」


「さすが、元・管理職」


「冷やかさないでくださいよ」


「それとな? サリーから話があったんだが、まわりは大事にするのに自分を大事にしないのが嫌だってよ。…その辺も危なっかしいから、そこもどうにかってよ」


「サリーから、そんな話が? アペルと何かあったんでしょうかね」


「んー…まあ、すこーしな」


「そうですか…」


「その話のついでで、ジャンには頼みたいことがある」


彼の顔はただ笑ってるだけにしか見えないのに、どうしても目だけはごまかせていないよう。


「アペルに関する話なんだろうなってことは予想がつきますけど?」


だから俺の方でも、顔は笑ってるのに目はまっすぐに彼を見つめた。


コッチの意図が伝わったのか、左の口角を上げて笑んでから告げた。


「俺に何かあったら…頼む。アイツのいろんなとこ、フォローしてやってくれ」


まさかの話に、奥歯を噛む。


現時点でその権限はもう精霊王を辞したのだからないに等しいとしても、あの話では能力は今後…時間をかけて徐々に同期していくような話だった。が、現時点でもサリーが召喚した精霊に対してと、彼自身が召喚した精霊の態度を見ても、彼が持つナニカが強力な存在だということは一目瞭然という感じだった。


「現時点ではまだいろんなものが戻っていないから、気づかれていない…ということで? それとも違う意味ですかね」


「…さぁな。俺だって気づかれていたなら、弱っちい時点で消した方が楽なんだってはずなのに、なにもなかった。その時点で、俺がここにこうしていると気づかれていないんだと思っている。…だがよ、これからは隠す方向で動いたとしても、アイツと一緒にいろんなことやってりゃ嫌でもバレそうでな。かといって、お前がやらかすから俺のことがバレたとか言うつもりはねぇ。下手すりゃ、みんなを巻き込むことも起きかねん。……そうならないように、手は打つつもりだが、それでも俺の手はたった二本だ。すべてを護りきれるとは断言できない。…なら、力の使い方をわかってる奴に託す準備をしておく方がいいって話だ」


「アペルに話せば、一時期彼の力を隠していたものと同等かそれ以上の物を創ってくれると思いますがねぇ」


アペルが一時期どこに行ったのか探れなかった時の、いわゆるネタバレを聞いた時のことを思い出してそう話す俺。


「…言いにくいもんだな? 自分を護るため。ひいては全員を護るため…って話をするのは」


スプーンで最後に残っていたカスのような豆腐を掬い、短く息を吐くカムイ。


そんな彼の姿は、今の自分にも重なって見える。


「それじゃ、コッチからも同じ話を」


お返しと言わんばかりに、全く同じ内容のつもりでそう言い返す。すると、彼の目がひときわ大きくなった。


「それはアレか? お前が愚弟と呼ばれている理由が関係しているのか?」


わずかな間の後に返ってきたのは、そんな言葉だ。


「近からず、遠からずですね」


「そ、っか」


お互いにどこか危うい場所にいるんだと認識せざるを得ない、この飲み会。


「この話を話すべきなのは、サリーに対してかも…ですね」


「ああ。そうかもしれないな…。っと、つまみがなくなったな。いっそのこと、何かガッツリ食うか?」


話がコロッと変わる。


(この話はオシマイということですね)


なんとなく察して、パネルを操作する。


「麺、ご飯もの、揚げ物…他には」


「俺、このラーメンってのが食ってみたい。ってー、なんだ? これ。いろんな味がありすぎだろ」


二人でパネルを操作していくと、単純にラーメンといっても何系ラーメンだの、あっさりだ、こってりだ、スープのベースがなんだだの、情報がありすぎてどうしたもんかと二人で眉間にシワを寄せていた。


――その時だ。


「なに、なに、どうしたの?」


アペルが戻ってきた。


カムイと顔を見合わせて、互いにさっきまでの話を飲み込んで、その空気すら消して…。


「このラーメンっていうのを食べてみたいんですけどね。味がいろいろありすぎて」


「麺自体は、鍋のシメで食べていた麵と同じようなものだから、馴染みはあるやつだよね。味かー…味ねぇ。あー…うん、まあ…そうだよね。ありすぎると悩むよね。どの程度のを食べたいの? 食べるのは二人とも?」


「俺は野菜たっぷりなら食いたい。肉は、そこまで入ってなくていい」


「あっさり? こってり? どんなのがいいの? カムイ」


「くどくなきゃいい」


「あっさりじゃん。…じゃあ、煮干しだしベースのしょうゆ味のコレなんかいいかもな。肉はひき肉控えめのとこだし、チャーシューは一枚。野菜もりもりで…っと。ジャンは?」


「過度じゃなくていいから、辛めなのが。ピリピリするほどじゃなくていいっていうのは…何味に?」


「うーん。味噌…でいいのかなぁ。ピリ辛だとノーマルっぽいから中辛の味噌かな。具材に希望は?」


「肉は食べたいですが、そこまでガッツリじゃなくていいかなー…と」


「んー……、薄めのチャーシュー三枚くらい…とか? 辛かったらアレだから、半熟の味玉つきにしよっかな」


「味玉がよくわかりませんが、おまかせします」


「じゃあー、俺は背脂めいっぱいのやつ。しょうゆ味。にんにくは…やめとこ。他の具材は、超シンプルなやつ」


「って、アペルも食うのかよ。サラッと、当たり前みたいに出そうとしてるけどよ。…ったく。どんなのが来るんだか」


「いいじゃん。きっと二人のだけココに出したら、自分も食べたくなるっての目に見えてさ。……っと、はい! おまたせ!」


一瞬でテーブルに乗った、ラーメンが三杯。それぞれでずいぶんと毛色が違うもんだ。


「これが半熟の味玉ね? 辛味がきついなって時に食べると、いくらか緩和されるよ? でも先に食べちゃったら、それだけ追加も出来るから言ってね?」


玉子の中心が、とろっとしている。


「旨そうだな、どれも」


「旨いの! アレコレ言う前に、さっさと食べないと伸びちゃうよ? はい! いっただきます」


いつものように彼は手をあわせ、早速箸を手にして麺をすする。


真似て同じように音をたててすする。第三皇子だったなら、こんな風に音をたてて食べるなどありえないが。


「んっ! ちょうどいい辛さ! 玉子…は、お代わりが欲しいかも。玉子だけでも旨い」


「でしょ? じゃあ、…はい! カムイの方は? 美味しい?」


アペルの声に、カムイの方を見れば。


「………アペル。気に入ったみたいですね? ラーメン」


無言ですごい勢いで麺をすすっている、彼の姿が目に入る。


二人でその姿を見て、ぷはっとふき出す。


「んだよ。ほっといて、さっさと自分の食え」


「はいはい。喜んでもらえて何よりだよ」


彼のラーメンに浮かんでいる脂の塊らしきものを、スープと一緒に一口もらう。


「次回はこれもいいですね」


「でしょ? ラーメンはどんな味でも旨いんだよー。順番に制覇してってほしいくらい」


鍋の話の時にも、似た話があったかもしれない。


「アペルが知ってる食べ物は、何でも美味しいですからね。時間かかってもいいから、全部食べ尽くしてみたいですね」


「ジャンって思ったよりも食べるもんね」


「はははっ。よくおわかりで」


「サリーにも今度、ラーメン食べさせてあげたいな」


「サリーか…。アイツはどんなのが好みだろうな? な? ジャン」


「そうですねー。それじゃ、いつかの時を想定して、頼みそうな味を考えてみましょうか」


「楽しそう」


「くっだらなさそうだけど、いいな。くっくっくっ」


「じゃあ、俺の方で記録しておくよ」


「じゃ、それはアペルにまかせて…。最初は俺から行くぞ? サリーの普段食ってるものが…」


――他愛ない。


本当に他愛ない話をして、無駄に流れていく時間を過ごす。


ナンバーズにいるだけだったら。第三皇子のままだったら。どっちでも叶わなかったかもしれない現在(いま)


「チャーシューは、何枚欲しいって言いそうだと思う?」


「五枚?」


「いや、もっとじゃないかと」


「意外と少ないとか?」


カムイも俺も自分がどんな存在なのかを自覚もしつつ、アペルを大事にしたいと強く思っているのも同じで。


「サリーだぞ? チャーシューが少ないってことないだろ」


「わかんないじゃん」


ひっそりと胸の奥の奥にいろんな感情を隠したまま、まだしばらくはこうしていよう。


(近々、俺の立場についてや能力についてもいくつか明かさなければ)


それぞれに隠している能力で、もしかしたら互いを喰らうことすらできるかもしれない危うい関係に転じる可能性を秘めつつも。


今はまだ、喰うも喰わぬも飲みこんで。


ただ、たった一人を護るためだけに力を発揮できる心の準備だけをして。


「……なんなんすか、賑やかすぎて目が覚めたんすけど。…ってー、何食ってんの? 俺に隠れて」


三人で始めた、サリーに内緒のいつかの話が。


「俺も食っていい? みんなの見てたら腹減ってきた」


思いのほか早く答え合わせをすることになったのに気づき、三人でそれぞれを見合って。


「え? こってり? あっさり? え? どれにしよう」


誰が正解かをこの後知るのを楽しみにしつつ、今はサリーが嬉々としてアペルから説明を受けながら注文を決めるのを待っていた。



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