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何者か。




「お前なぁ…」


めんどくさそうな声をあげつつ姿を現わしたのは、人型のカムイさん。


「へへぇー。待ってたよぉ、カムイぃ」


人んちの壁にもたれかかったまま、小さく手をあげてわずかに振る。


「あーあー…、ったく。慣れねえことやらせっと、こうなんのか? お前は」


「はは。そう、みたい」


カムイさんが俺の顔を手のひらでペタペタと触りまくってきて、なんだかくすぐったいや。


「俺の顔、どうかした?」


そう聞いた俺に、どこか機嫌が悪そうに、それでなくても目つきが悪いのに目を細めて呟いた。


「ここは紅潮してんのに、顔全体でいえば青白く見えるっつー…謎の顔色だ」


親指で俺の頬に触れた後に、ひたいにかかっていた前髪を指先で避けながら。


「なーに…それ」


体を起こそうとするものの、どうにも上手く力が入らない。


そんな状態の俺を見て、カムイさんが小さく舌打ちをした。


「ごめんね、カムイ」


迷惑かけちゃったなと謝った俺に「そうじゃねえよ」と、もっと機嫌が悪くなるカムイさん。


「舌打ちして悪ぃ…。お前に対してじゃねえよ。…いや、違う。……こんな状況になってんのが腹立たしいってだけだ」


とか言いながら俺を見つめるカムイさんの目は、ついさっきまでの怒りだけを混ぜ込んだ瞳じゃなくなっていた。


「もしかしてだけど、俺のために…怒ってくれてる?」


優しい、誰かを心配しているような目。俺自身、そんな目で見られるのは、ずいぶんと昔だった気がする。


「あぁ? してねえって言いたいけどな? 大当たりだ、クソ…ッ」


隠さないんだ、そういう感情を。ふふ。


「出会った時から口の悪さは変わらないけど、優しいとこも変わらないよね。…ふへへ」


顔がゆるむ。


「まーた、おかしな笑い方になってんぞ。アペル」


彼の顔つきが少しだけ穏やかになったのを確かめてから、俺はカムイさんへ向かって腕を伸ばす。


「…はいはい、おんぶすりゃいーんだろ? それともお姫さま抱っこの方がいいか?」


「おんぶでオネガイシマス」


「…ん。よ…っこいせ…っと。で、この後はどこかに移動か? それともここに残って監視か?」


その問いかけに、背負われた格好でカムイさんの胸元に回した腕に力を込める。まるで、しっかり抱きつくように。


「アペル?」


抱きつきながら、すこしだけ悩んでイチさんに確認をする。


『イチさん。あの家は、あのまま?』


って。


『あのままというか、壊れた箇所は直してあります。外に念のためで見張りは付いていますが、指示があればすぐにでも撤収させます。…あの家で体を休めますか?』


ためらったのは、あの日のことを思い出してしまうかもと思ったからだ。


自分があの時とは違って、連中を見下ろせるような立場に立ったとわかっていても、それでも嫌なことは簡単に忘れられないもんで。


(楽しかったことの方が早く忘れちゃうって、なんか不思議なもんだよな)


ふう…と短く息を吐き、『あの家に向かいます。カムイと、二人で』とだけ返事をする。


『……了解です』


やや間があった後にイチさんがそう返してきた時点で、きっと2人はあの家には来ないなと思えた。


だからそれに対しての俺の返事は『じゃあ、よろしくお願いしますね』だけ。


これで彼らは来ないし、見張りも外してくれるはず。見張りなんかがいたら、ゆっくりしてらんない。


「今からカムイを俺が住んでいた家に招待しようか、と。いろんなご飯、食べさせてあげるよ」


「お? 飯か! いいな。朝っぱらからバタバタしてたしな? 前に話していた元の世界の飯だろ? お前んちってことは」


「うん。大正解! 俺もそろそろあっちの食事に飢えていたから、一緒に食べよう。事が片付いたら、あの2人も呼んで改めて…ね」


とかカムイさんと話していた言葉も、2人に筒抜けだったようで。


『楽しみにして待ってますね、アペルさん』


『また甘いもん、いろいろ食いたいっす。よろしくです』


って声がして、苦笑い。


だから今度はコッチから、こう返すんだ。


『了解です』


たった一行ほどの返事だけど、十分。伝わる。


頭が回っていなかったなぁと思いつつ、そこを責めることもなくほっといてくれる察しの良さに感謝。


「じゃ、転移するね。場所はわかってるから、直接行こうか。悪いんだけど、このカッコのままで」


カムイさんにおんぶを続行でと伝えるようなそれに、ふはっ…とふき出してから「りょーかぁい」とカムイさんが応えた。今いる場所からもうちょっと奥まった場所までおんぶしてもらって移動。それから人の気配がないのを確かめてから、ふう…と息を吐いた。


さっきまでのあの殺伐とした空気とは違って、俺のまわりにあるホッとする空気に顔をゆるめながら転移をする。


まばたきをする間に、目の前の景色が変わる。


ああ…帰ってきたって感じだな。


「おろしてもらってもいい? カムイ」


「お、いいぞ。…ほら、よ」


カムイさんの背中からおりて、自分で玄関のドアを開けて入りたいのと、こうしたいからってのと。


鍵は手元にないけど、これも魔法でどうにか出来るようになっちゃった俺。


カチャリと金属音がして、ドアノブを回すとあの玄関が俺を出迎えてくれた。


そうして踵を返して、体を反転させた俺は「いらっしゃい! カムイ」と笑顔でカムイを招き入れる。


…つもりだったんだけど、俺が叫んだのは別のセリフ。


「カムイ! 後ろ!」


転移直後。@久々の自宅前。カムイさんを家に招待できるってことで、すこし浮かれていた自分。バカ課のせいで頭も疲れていた。


「貴様の仲間か、コイツは」


気がゆるんでいた。油断した。失敗した。


バカ課の連中らだけじゃなく、コイツもいたっけな。俺をどうにかしたがっていた奴の中に。


「あ゛ぁ゛? なんだ、お前」


カムイさんが不機嫌さを露わにして、唾を吐くように低い声で吐き捨てる。


相手は人型のカムイさんの腕を強めにつかんだかと思うと、ブレスレットがついた方の腕を強引に捻りあげようとしている。


イチさんたちの上司だ。…いや、元・上司か。


「いってぇな!」


どんだけの力を込めているのか、カムイさんが怒りの感情を露わにしていて。


その瞬間、ヤバイと思った。


「カムイ! 二段階で我慢して!」


とっさに叫ぶ俺。カムイさんの体から、パチッと静電気のような音がしたからだ。


「…ちっ」


めんどくさそうな舌打ちの直後、バリバリバリッ!!!!! と派手な音と光がカムイさんの真横で起きて。


「…とっさに二段階に調整するとか、無理だって。アペル。…腕掴まれてたしよ? 調節の方(ブレスレット)、を弄れなかったし…な? わかるだろ? 状況的に。だから、その…………俺は、悪くない」


カムイさんの足元に、白目をむいた状態のイチさんたちの元・上司が気絶して寝転がっている。


『イチさん、ナナさん。すみませんが、人をよこしてくれます?』


と俺がコンタクトを取ったのと、『何かありましたか!?』と向こうが聞いてきたのがほぼ同時。


『お宅の元・上司が来てました。カムイの腕を取ったんで、とっさにカムイが俺から渡されていたアイテムで気絶させちゃって』


とか俺が言えば『だから、俺は悪くねえ!』とカムイさんが2人へと叫ぶ。


『あー…聞かずともわかりますよ、カムイさん。うちのバカが邪魔したんですね? いっそのこと()っちゃってもよかったんですけどねぇ』


イチさんが若干物騒なことを言っているけど、聞かなかったふりをして。


『とにかく、誰か対応可能な方を寄こして連行してもらえませんか? 捕縛だけはしておきますんで』


さっき同様で、バインドの魔法で縛りつけておく。バカ課の連中ほどじゃなくても、多少の魔力はあるようだから保険もかけておいて…っと。


『もうすこしでそちらに着きます。うちのサンってのが行きますけど、会話に付き合わなくてもいいんで』


なんていう、不穏な呟きが聞こえた気がするけど…大丈夫かな。


「なんか、イチさんとこのサンさんって人が来るって。…会話に付き合わなくていいとか言われたけど、どういう人なんだろうね」


「さあなー。…ってか、俺は早く飯が食いたい。飯」


「わかってるってば。間違いがあって逃げられたらマズいから、もうちょっとだけ待って。ご飯に、お風呂も付けちゃうから」


と俺が言うと、風呂の方に食いついた。


「風呂? 風呂って言ったか? 今! よっしゃあ! 待ってました! 風呂ぉおおおっ」


予想以上の食いつきすぎて、俺の方がビックリしている状態だ。


ウキウキしながら、笑顔でバインドの紐の端っこを握っているカムイさん。超・ごきげん。風呂が好きだとは、初耳。


ちょっといい入浴剤でも入れてあげよう。


なんて感じで待っていれば、遠くからすっごい勢いで走ってきた誰かが叫んでいる。


「おぉおおおまぁーーーたぁせぇえええーーーしぃまーーーしたぁあああっ」


かなりな声量で、結構遠くの段階からこの声がしていた。


「あー……はい、お疲れさまです。サンさん…で、合ってますか?」


とか言いながら、こそっと鑑定をかける。うん、間違いないな。本名はやっぱり違うけど。


「はい! サンです。よろしくお願いします。…っと、コレですね? ”お荷物”は」


その言葉に、思わず俺とカムイさんはプッとふき出す。


「お荷物ってー」


「え? お荷物でしょう? 余計なことやっといて、後片付けはボクらがやらされたんですよ? そうして移動させられた後にも、ちょこちょこ警備の隙を縫ってあなたの情報を探りに来てからに、再登場した途端に一撃でやられたんでしょ? 結局何も果たせず、何者にもなれず。愚かすぎる。クソですね、クソ。イチ先輩がよく口にしてましたけど、クソ上司ですよ。……今日はこの地域のゴミ、何のゴミだったっけ。…粗大ごみ? 埋め立てていいんじゃないですか? ご希望とあらば、このサンがとどめを刺して廃棄しておきますが」


ツラツラとつっかかることもなく、この長セリフを言い切ったサンさん。


「埋め立てる場所が汚れっだろ? っつーか、まずは一旦叱られるなりなんなり儀礼を通過させとけ」


カムイさんが、シッシッと元・上司を汚いものみたいに手をヒラヒラさせて遠ざけようとする。


「そうですか。…わかりました。それがご希望なら、従うまでです」


とか返してきたサンさんは、心底残念そうだ。


「じゃあ、お手数をお掛けしますが、後はよろしくお願いしますね。俺たちは家に入りますので」


小さく会釈をし、カムイさんを今度こそ家へと招く。


「見張りは不要ですか?」


ものすごく重たそうなのに、元・上司を肩にヒョイッと乗せながらサンさんが呟く。


「いろいろ仕掛けておきますよ、前よりももっと。だから、とりあえずは大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


口角を上げ、サンさんに向かって微笑んでから玄関のドアを閉めた。


サンさんが口にしていた、何者にもなれず…が引っかかる。俺は大賢者って仰々しいのがついたけど、俺だって何者でもない気がしてる。俺じゃない誰かがつけた肩書きなだけでさ。


「ここで靴脱いじゃってね?」


と、カムイさんに長いブーツを脱がせている間にいろんなものを仕込んだ結界を張り直す。今度は玄関は特に分厚くするけど、家全体をもっと強固にするんだ。


それと監視カメラ代わりの魔法も、設置箇所を多めで仕掛けておく。


すぅっ…と息を吸うと、やっと家に帰ってきた実感がわいてきた。


「おいでよ、カムイ。俺のお気に入りの部屋なんだ、こっちにあるの」


そういいながら案内したのは、例の掘りごたつの部屋だ。


掘りごたつの説明をしてから、まずは腹ごしらえという話になって食べたいものを聞く。


肉と海産物という話になって、俺はちょっと考えた。


刺身とかを食べる文化があるのかがわからない以上、魔物とはいえうさぎのカムイさんに生の魚は一旦避けておきたい。


野菜も一緒でいいというので、最初の一品目はイカ大根。二品目は、手羽先の唐揚げ。ニンニクが平気だったらいいけど。


それから、鯛めし。ほうれん草の胡麻和えもつけよう。添え物だけど、俺はいっぱい食べたい。


「カムイ。状況的にってのと後でお風呂にも入るからさ、あまり酔いすぎない程度に一緒に飲まない?」


メニュー的に、日本酒が合いそうだ。


「お? いいな、酒。この姿じゃなきゃ飲めねえからな。俺は」


姿によってある制約は、まだ完全に把握できていない。これでまた、新しい制約を知ることが出来た。


「じゃあ…まだちょっと大変なことが続くけど、ひとまずお疲れさまってことで!」


「おう! かんぱいっ」


冷酒のお猪口を手に、小さく乾杯。


「……っくぅーっ」


思わず声が出る。疲れた体にめちゃくちゃしみる。


「うめえ! 酒も飯も!」


箸に慣れないかと思っていたから、フォークを出しておいた。…ったら、思ったよりも早い段階で箸が上手く使えるようになるカムイさん。さすが!


「話には聞いていたけどよ、本当にどっかからポンと出てくるもんなんだな? 飯だのなんだのって」


「片付けも勝手に消えてくれるから楽だよ」


「お! それはたしかにいいな」


ちびちびと飲みながら、ほうれん草の胡麻和えを食む。こういうシンプルなのが、癒してくれる気がする。


やっぱり疲れてるのか、いつもより酔いが回るのが早いかも。


「んふふふ」


顔が勝手に笑っちゃう。


「あーあ…、すっかり酔ってんのな? 酒、弱ぇのか。もしかして」


「んー? どーだろ、そこまでじゃないはずだけどなぁ。イチさんにでも後で聞いてみてよ。今日は疲れてるからじゃない? 多分だけど」


気分はいいけど明日のこともあるし、これから急にまた何かが起きたら? ってことも想定しておくか。


「じゃ、こっから先はお茶にするか。しょうがないや」


あの時のように冷たい緑茶がグラスにめいっぱい注がれたものを用意する。


「ん…っ、ごく…、んっ」


口がスッキリしていいな、やっぱ。


一気に半分ほどまで飲んでから、カムイさんの肩をトントンと軽く叩いて呼ぶ。


「そろそろ風呂に入る? ここの結構広いんだよ? 使い方も教えるからね」


スタスタと廊下を歩きながら、家の中をそれとなく案内していく。


寝る場所は、寝室にあのクッションを出してくれってことになった。俺はベッドで寝る。


風呂の準備をしつつ、使い方をレクチャーして。入浴剤も一緒に選んで、溶けていく様を見てなんでか笑って。


風呂に入ってからは、人型でもホーンラビットでも好きな方でいいよって話をして、カムイさんを入浴させる。


浴室の方からとても楽しげな声が聞こえ、やがて静かになって、静寂の隙間に気持ちよさげに長く息を吐くのが聞こえて、それにホッとして。


脱衣所のドアを閉め、寝室の方へと向かう。


窓の外はとっくに暮れはじめ、夜が近づいてきている。今頃、あの2人は何をしているのかな。早くまた一緒にこの家で過ごせる日が来るといいな。


(――――でも、俺が本当に願うことに巻き込んだら…時々しかここには来られなくなっちゃうんだけどね)


その場しのぎの嘘になるか、これからの真実として話を進められるか。


これからの話の展開上、どうしても俺の立場を使った命令という形になる。


俺がこれからやろうとしていることを、約束通りに笑わずにいてくれたらいいな。みんな。


「おーい! アペルー! あがったぞー」


元気なカムイさんの声に、浴室へと足を向けた。


風魔法でドライヤーの要領で、カムイさんの髪を乾かして、着替えの前には着ていた衣類をクリーナー魔法で清潔にして。


ホーンラビットに戻って寝るって言い出さなきゃ、パジャマっぽいものも準備する気満々だったけど次の機会だ。


カムイさんが人型からホーンラビットへと戻ってから、お願いをして猫吸いならぬカムイ吸いをさせてもらう。


くすぐったいからって、めちゃくちゃ嫌がるんだけど、今日は特別に許してくれた。ふふ、優しいな。


でもカムイ吸いをしていると、ブツブツといつもの通りで文句は言われまくる。


「俺がこの格好だから成り立っているんだぞ? わかってんのか? アペル」


「うんうん」


「俺が人型ん時に、同じことやってみろ。…イチあたりが、固まるぞ」


「う…うん。さすがに人型の時にはやらないじゃない? 今までやったことないよね?」


「ねえけどな、やられてる側は大差ねえんだっつーの。想像してみろ、想像」


「?????」


首をかしげる俺に、「魔法についてのイメージだけはすんげぇ出来るってのに、こっちの方はダメだな」と、これまたいつものように呆れたような諦めたような呟きが聞こえてくる。


「…ふふ、ごめんねぇ。なるべくお願いしないようにするからさ」


心のこもっていない謝罪をしつつ、カムイさんに素直に甘えるようになった自分を自覚する。


カムイさんって存在がなきゃ、今頃俺は何で癒されようとしていたんだろうな。


最後に思いきり吸い込んでから、カムイさんをベッドに置く。


「今日もありがとう、カムイ」


ぺこりと頭を下げると、毛づくろいのような仕草をしてそっぽを向かれる。


「…おう」


とだけ返してきながら。


ベッドにごろんと寝転がり、明日からのことを考える。ちゃんと頭の中を整理させておかなきゃな。


「……ねえ、カムイ」


「あ? 次はなんだ? 今日はもう吸わせねえぞ?」


「吸わないってば」


それだけ苦手なことに付き合ってくれるカムイさんに感謝しつつ、決めかねていることを聞いてみる。


「俺さ、三日間の猶予与えたじゃない? 相手には内緒だけど」


「あー…まあ、そうだったな。…で?」


「謝罪がなかった場合、どっちの選択肢がいいのか…まだ決めかねてるんだ。だから、アイツらへの猶予期間でもあるけど、俺のための熟慮期間でもあるんだよね。実は」


俺は、どうするのが一番の罰になるのかを考える。


魔法だけに傾倒し、魔法だけに自分を支えてもらい、それがなきゃ自分がないと言わんばかりな連中なんだろ?


「単純に魔法を使えなくするか、相手が魔法の存在自体忘れてしまうか。後者だと、まわりにいる家族や魔法課にわずかだけどいたっていう無関係の職員への配慮とか、場合によっちゃ記憶操作の範囲を広げなきゃいけない。まわりに、本人に魔法のことを意識させないようにって頼んだところで、言えないことで苦しむ人も現れるかもしれないし、急に生活が変わることに心と体が追いつけない人も出て来るだろ?」


アレもコレもを気にすれば、(キリ)がない。わかってる。


「…それは、お前が気にかけるとこじゃねえぞ? 結果的に奴らを放置していた格好になった国王陛下だとかサイショーのあの…ほら、鈴木か? アイツとかがフォローする部分だ。お前がなんでもかんでも背負わなくっていいだろ」


その辺を考えれば、単純に魔法が使えなくなるようにした方がいいのかな。


「ま、あれだ。まだ時間はあるんだ。……今日は寝るぞ、もう」


カムイさんのその声に、あのクッションを出そうと構えた俺の手にカムイさんの手が重なった。


「今日だけだぞ? 今日だけ、一緒に寝てやる。そんかし、俺をこれ以上…吸うな」


カムイさんがぴょこんと枕元に移動して、枕をポフポフと手で叩いてみせる。


「おらっ! なんなら子守歌を唄ってやってもいいんだぞ?」


なんだろ。気を使ってくれてるのかな? 一緒に寝たら寝ぼけて抱きついちゃったり、腕を振り下ろしちゃったりするから、二度と一緒に寝ないって言われていたのに。


「…ふふ。どんな歌を知ってるの? っていうか、唄ううさぎなんて初めてだよ。世界初」


「世界初、か。…いい響きだな」


って言いながら、俺に毛布を掛けようとしてくれる。体の大きさに見合った腕力で、ちっとも毛布を引っ張ってこられていないんだけどね?


(その気持ちが嬉しいや)


いろんな形でカムイさんに癒されてるなと思いつつ、初めて聴くどこかの子守唄を耳にしながら眠りにつく。


朝一番で、カムイさんに顔面キックをされながら起きるのは、数時間後の話。


 


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