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ナナさんのお知り合い



二人が新しい魔法の名前を一緒に考えてくれるってことになったものの、最終決定は俺。


使う魔力やイメージをしやすいか否かで、魔力の消費が違うでしょ? 威力もね? って話なんだけど、こっちの本音が言いにくい。


魔力はかなりな量を消費したところで、自動で回復していくのがきっと他の人たちよりは速いはず。


ただ比較対象がいないから、どれくらい速いかって説明がしにくい。伝わるのか微妙なんだよな。


とりあえずで、魔法の説明をしようとした時にナナさんの声がした。


『っていうか、さっきの話なんすけどね?』


と。


説明の内容を考えていた俺に、何か言いたいことがあったのかな…と言葉の続きを待つ。


『なんでさっきの、形状説明っていうか、寝たらこうなりますっていう名前になったんすか』


人がダメになるクッションぽいの…の話の続きか。


「だって…浮かばなくて。わかりやすい言葉もなくて…。それに俺がいた場所にあったそれっぽいのは、まんまウォーターベッドって名前で。いわゆる男女がこう…営むっていうか励むっていうか…そういう場所にありがちなベッドの名称しか浮かばなくって。でも、そういうのに使うためのモノを作ろうとしたわけじゃなかったからさ。そのイメージが強すぎて、その名前にしたらすっごい機能とかつけちゃいそうだったからその名前は止めて。…ったら、名前が浮かばないままベッド代わりのそれが必要になって…もういいや! って勢いでその名前になった」


話をしながら、男女が営むってシーンがぼんやりと頭の中に浮かんでしまって、顔が勝手に熱くなった。自爆ともいう。


「アペル。想像だけで真っ赤になるとか、どんだけ初心なんだ。くっくっく。もしもその名前だった時に、どんな機能が付いたベッドが出来たのか…気になんな。…近々別な魔法ってことで、ちょっと出してみねえ?」


カムイさんは面白がってか、それを出せとか言い出すし。


「…はあ。近々ね? 考えとくよ、うん」


からかわれているのがハッキリわかるだけに、返しがテキトーになりがち。俺、ワカリヤスイ。


カムイさんとの会話を聞いてて、思うところがあったのか…ナナさんがポツリと呟いた。


『俺、名づけの候補なるべくあげられるようにがんばります!』


「あはは…。ヨロシクオネガイシマス、ナナさん」


その勢いが申し訳なく思えてしまう。そこまで大した魔法じゃないんだよ、ほんと。


「で。魔法の説明なんだけどね、イチさんナナさん」


ようやっと魔法の説明に入り、あの日、二人に見せた魔法の応用なんだというところまでを話す。


「――――の、上級魔法っていうか、広範囲の魔法ってことで高さと広さの両方をフォローした魔法にしようと思ってて」


実体験ずみだから、長ったらしい説明は少なくすみそうだなと思って話をどんどん進めていく。


「で、今回の場合、何割を蒸発させて、何割を飲み水用にろ過してストックしていくのか…の設定を決めかねてて。そこんとこも二人には、是非とも相談にのってほしいんだけど…厳しい?」


俺がそこまで話をすますと、向こうでイチさんがうなる声が聞こえた気がする。


「…イチさん? なにか、引っかかってる? もしかして」


説明不足かと身構えたら、『やっぱ…考えてみたら、さすがにその規模の魔法ってなると国に何も言わないでどうにかするって厳しいかなー…って思いはじめちゃって』とぽそぽそ言い出した。


「や、やっぱ内緒でこっそりなんとかしちゃうっていうのは…難しい?」


ザックリと考えていたのは、国としては状況を回避できればなんだっていいって思ってくれるんじゃないか? という都合がいい話で。そういう…いわゆるあまり深く考えない人たちばっかりだったら、何とかなるかなって思っていたわけで。


そう思ったのも、あの魔法課の連中とかは誰が発動した? って躍起になりそうなもんだけど、他の上の人間は状況がどうにかなれば経過なんかはあまり深く考えなさそうだろ? 俺的イメージの中の組織の上の人間ほど、結果だけ見がちってのがあったもんで、そういう考えにたどり着いちゃったんだけどさ。うん。


イチさんが言ってきたことは、一応予想していたことではある。その問題があがった時に、どうするかってだけの話であって。


『んーーーーー…。やれても、どっかのタイミングで犯人探しみたいなことは起きそう』


イチさんのこの返事も、まあ…予想の範囲内。


「はは…は。犯人探しって言い方、なんとなくわかる。……俺がさ、やろうとしてる魔法なんだけどさ。……さっきの魔法みたいに、二人のブレスレットを介して魔法をそっちの空を中心にして広げるつもりでいたんだよね。威力っていうか効果が大きいからさ、ブレスレット自体と二人の体にも影響が出ないようにって、影響を最小限にするための細工はしてあるから、ちゃんと発動さえできれば魔法自体は問題ないんだ。…で、どこから発動されたかとかも認識されないようにって、阻害の方も施してあるの。そのブレスレット。…だから……その、ね? 俺的には、なんとかなるって、ごまかせるよねとか…思ってた…んだ…。ははは」


言いながら、なんだか誰かへの言い訳っぽくなってきてて、変な気持ちになる。


『アペルさーん』


不意にナナさんが話しかけてきた。


「え、な…なに? ナナさん」


『俺の意見って言ってもいいもん? ダメなもん?』


明るめの声で、意見を聞いてと言ってきたナナさんに、俺は否とは言わない。


『あ、いい? よかったー。…あのさ、まず最初に言いたいんだけど。アペルさん、悪いことをしようとしてるんじゃないんだよね? むしろ、コッチの問題に無関係にも近いのに、手を貸してくれようとしてる。…のに、まるで悪いことをしている子どもみたいだよ? 何も悪くないのにさ、ごめんねって言われてる感じになる』


自分でそんな感じはしてたから、苦笑いしか浮かべられない。


「あー…うん」


曖昧にしか返せないや。


『今回の魔法の発動を隠すのは、アペルさんがコッチのバカじじいたちに見つからないように、いいように使われないように…ってのが多いんだってことを忘れないでいて?』


「う、うん」


『で。こっからは、俺個人からの提案なんだけど』


と、ナナさんが言いだすと、イチさんがなにかツッコミを入れたっぽいけどよく聞こえない。小声で話してるのかもしれない。


様子を伺いながら、ナナさんの話の続きを待つことする。


『イチさんがいう規模がデカい魔法だから内緒は厳しいっていうのと、アペルさんが発動しましたってのを隠したいってー状況っていうのかな。それのどっちもを、たった一人だけに話をすれば問題なくなるよって言ったら…乗る? その話に』


ナナさんがそう言うと、横からカムイさんが口を出す。


向こうは念話状態だけど、こっちはいわゆるスピーカーの状態で会話をしているから、全部まる聞こえだしね。


「そいつは、信用するに足るやつなのか」


人化したままで、真剣な顔つきで呟いたそれは、今の俺の心を違う意味で刺激する。


あんな始まりだったのに、こんなにも俺のことを思ってくれるカムイさん。胸の中があたたかくなる。


「って…おい! アペル! 泣くな! ……っっ! 俺は泣かれるのに慣れてねえんだっつーの」


俺がポロポロ泣き出したもんだから、カムイさんが慌てながら袖で俺の涙を拭おうとする。


「…あー…もう! 泣き止めよ、アペル。袖じゃ追いつけねえくらい泣くなって」


って言いながら、頭を撫でてくる。


「そういうのがもっと泣かせるって…ぐす…わかってない…よね、カムイ。…ズズッ」


感謝しつつも責める俺に、カムイさんが困った顔つきになる。


「うるせぇ。…自分で顔拭くもん、なんか出せ。俺が渡せるのは、飯か角くらいなんだからよ」


「…ん。わかった。……この綿花を使って…っと『ふかふかうっとりタオル』…っと、これでいい?」


コッチの世界のタオルは悪くないけど、ふかふかってほどじゃない。だから、一緒にうろついていた時にみつけた綿花みたいなものを収穫しておいたのを変化させた。


「…そのネーミング、分かりやすいだけでどうしようもないな。壊滅的だな、マジで」


「でしょ? だから、他からアドバイスをもらわなきゃなんだってば」


と、カムイさんと話をしてて、二人を置き去りにしてたなと思って「ごめん! 二人とも」と話しかけた。


すこしの間の後に『問題ないっすよ』とナナさんの声だけがした。


「話し戻すけど、ナナさん。…その人、どういう人?」


たった一人に話をすればいいっていうなら、それ相応の上の立場の人って可能性がある。もしくは、そこまでの立場じゃないけど、人脈とかコネとか何かしらの力を持っている人?


信用問題もそうだけど、どの程度の影響力がある人なのかを知らなきゃと思った。渡りに船! って感じで、安易に考えて話にかんたんに乗りたくない。


『そっすね。どういうっていうなら、分かりやすく言えば叔父さんっす。俺の』


叔父さん…。どういう人なんだ?


「この状況を話しても、力を貸してくれるような人なの?」


質問を重ねてみると、ナナさんがいつもの調子で返事をしてきた。


『まあ、問題ないかと。っていうか、ここを去らなきゃいけない状況になったのを、ものすごく怒ってて。ずっと心配してました。アペルさんのこと。だから、っていうか…その…俺たちに何らかの連絡があったら、他の誰でもなく俺を頼れって言われてたんすよね。叔父さんに』


いや。それはわかった。わかったけど、気持ちだけじゃどうしようもないことってあってさ。巻き込んじゃダメな人っていうのもいてさ。いろいろ思えば、誰かの手をつかむ時はいろんな覚悟がいるだろ?


「俺をそんな風に思ってくれる誰かがいたとしても、誰でも彼でも巻き込むわけにはいかない…よ? ナナさん」


だからこそ、最小限の人数だけで話を共有&協力って思ってさ。


不安が増してきた俺に、ナナさんが明かす。


『立場を明かすと、国の宰相っすね。国王陛下の幼なじみで、叔父さんに頭が上がらないくらいだって聞いてんで…。そっちに話を持っていけば、ほぼ丸く収まるかなって。下手すりゃ、コッチにアペルさん戻せると俺は思ってます。戻るのに不安があれば…不穏な輩は、潰すんで』


予想外の立場の人間が出てきた。それと、最後の一言が…不穏すぎる。ナナさんのイメージは、見た目は狼って雄々しい感じだけど話をすると優しくて気づかいが出来る青年って感じなんだよな。まさかの一言に、俺は顔をヒクつかせながら返した。


「そ…の時は、よろしく」


とだけ。


『任せてください』


明るく言ってくるけど、結構怖い話だからね? この会話自体。


ナナさんの強さとかいろいろ知らないことばっかだから、なんて反応すればいいのかわかんないや。


『ナナ…お前、そういうのって…』


イチさんの声がして、ナナさんに何かを言いかけている。――けど、ナナさんがその続きを消してしまう。


『権力は、いざって時に使うから権力なんすよ? 大事な時に使わないでいたら、腐りますよ』


その言い方だと、過去になにかあったのかと疑いたくなる。けれど、今回のこれは俺のためにそれを使おうとしてくれている。


話の間に、気づけば涙は止まっていた。


「いーんじゃねえの? 俺の勘だけど…多分大丈夫だ。…が、ひとまず相手と話が出来ないか交渉してみるか」


カムイさんから、背中を押すような声が聞こえた。


「一回、ナナさんの叔父さんと直接話せる? そんな立場の人だけど。時間もあまりないけど…」


と、俺が言えば『魔法の発動自体は、すぐに出来るって言ってましたもんねぇ。…なら、問題ないかなって。……お二人がいいよってんなら、すぐ呼びますよ? 俺、連絡つけられますけどぉ?』と即答してきた。


話の展開が一気に速くなっていく。


『お前なぁ…。まさか、ここに宰相さまを呼ぶつもりじゃ』


『え? ここ以外にどこに呼ぶんすか。っと…メッセージ送ったんで、多分すぐ返事が来ますよ。…って、来たし。……ふーん…あー……イチさん、酒飲むか? って叔父さんが。なんか買ってきてもらいます?』


ナナさんがイチさんを置いてけぼりな気がするけど、気のせいか?


『はぁ? な…っ、ちょ…いや、飲むけどよ、飲むけど…宰相さま…買い出ししてくるんか……いや、なんなんだ、今日はいろいろいっぱいすぎないか』


いや。間違いなかったみたいだ。イチさんが展開に追いつけないでいる。


『お! もう着いたらしいんで、俺…玄関まで迎えに行きますね。管理人に口止めしとかなきゃだし』


ナナさんが部屋から出ていった。


「イチさん? イチさん?」


大丈夫かと声をかけてみる俺。


『え? あ…あぁ、すみません。今までの経験が活かされることもなく、目まぐるしく変わる状況についていけてなくって。…足引っ張ったら、ごめんなさい。水兎さん』


イチさんが俺の呼び方を変えようとしている中で、元の名前を呼んだ時は冷静じゃなくなりつつある時っぽい。


「こっちが迷惑かけるようなもんなんだから、そんなこと言わないでよ。頼りにしてるから、こうして連絡取ったってとこもあるんだよ? イチさん」


本音を明かしたつもりなんだけど、まだいろいろ整理がついていないのか苦笑いのような笑い声がしただけだった。


大したしないうちに、ナナさんが戻ってきた。


『今、戻りました。……って、アペルさん。どうしよう。叔父さんと直接話すのって、どうしたらいいっすか?』


ナナさんが叔父さん=宰相さんを連れて来たようだけど、ブレスレットの対象者じゃないからな。


「…………ん! じゃあ、また魔法送りつけちゃってもいい? 順番に」


ちょっと考えてから、二人にそう話しかける。


『え…っと、どうにか出来るんすか? この場で? ってか、よく考えたらその方法考えてもいなかったのに、叔父さんと話せるとか安易に言っちゃった。すんません! アペルさん』


申し訳なさそうなナナさんに、「大丈夫だよ」とだけ返す。


俺だって同罪だ。何も考えていなかったんだからさ、どうするかって。


それでも、俺だったらどうにか出来る。多分…この方法で。


イメージは公衆電話。あの電話ボックスだ。


まずは結界を張る。防音結界に認識阻害のも構築しよう。その中に三人にだけ聞こえるように、今の俺とカムイさんのような環境を作る。


俺のは、この認識阻害のブレスレットを介して聞こえるようにしてるから、仕組み的に新規での魔法ってわけじゃない。目の前で魔法を発動をするか、送りつけて発動させるか。それだけの違いだ。


「イチさん。その部屋、外からの音は聞こえるけど、三人の声とか姿とか…ないようにしちゃってもいい?」


念のためで、発動前の確認だ。


二人の声がかすかにしてから『問題ないです』とすこし事務的な感じで返ってきた。宰相さんがいるからかな? もしかして。


「じゃ、今から送りますね。順に送ろうと思ったけど、一つにまとめちゃいますね! で、魔方陣が目の前に来たら、エアーカーテンの時のように指先あてて、認識させてください。魔法は部屋まるごと設定にしましたんで。受け取ってくださいね? 名前は、あーとーで! …っと」


『え? 早っ』


ナナさんの声がしたか、魔法を送りつけたか…てタイミングで『うあっ!!』っと、イチさんの叫び声がした。


「あー…届きました? もしかして」


タイムラグないな。すぐそばにいるかのような速さで届けられたっぽい。


カムイさんと、三人とつながるのを待つ。そこまで時間がかかるとか思ってなかったけど、何かあったのかな。


「アペル。俺、戻るから。…腹減ってきそうで、早めに食いに行かなきゃダメになるだろ? それじゃ」


「あー…うん。わかった。さっきは…その、ありがとね」


「いいって、いいって。…っと、人化解除…っと」


カムイさんが元の姿に戻る。


そうしてアペルを取り出して、シャクシャク言わせながら食べ始めていた。


俺も食べようかなと思いはじめたあたりで、一気に向こうがにぎやかになりだした。


そうして、まともに聞こえてきた最初の声は挨拶でもなんでもなくって。


『ふっ…ふぉおおおおっっ!!!!』


二人とは違う声の、叫び声のようなものだった。




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