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役目という縛り



「ちょ…っ、角! 忘れないで、角、危なっっ」


なんだかいいシーンっぽくなりかけても、そうなりきれない(笑)


思わず顔がゆるんだ俺に「やっとちゃんと笑ったな」って、カムイさんが言う。


「人の姿の時みたいに、角の出し入れ自由に出来たらいいのに」


すこし顔を背けた格好で俺の腕におさまるカムイさんにそう言えば、意外な言葉で返される。


「は? …ざけんな」


若干、機嫌が悪そうな低い声で。イイ声の威圧かかったのって、割増しで怖い。


「んなもん、その辺にのさばってる、ただのうさぎになるだけだろうが」


「のさば…」


なんだろう。普通のうさぎになにかあるのかな。


まあ、魔物か動物かの違いってなるよね。


「見た目が普通のうさぎでも、カムイのカッコよさと可愛らしさには、誰も追いつけないのに?」


とかなんとか、褒めてみる。…いや、本心だけどね。言ってること。


「お…。お、おう…そうか? まあ、うん。普段のお前の褒めっぷりで、それは知ってたけどな? それでも、だっての」


耳の赤さしかわからないけれど、人の姿だったら顔を赤らめているのかな。これって。毛づくろいみたいに、顔をモフモフした手で擦ってる。可愛い。


力を入れ過ぎないように、カムイさんを抱きしめながらゆっくりと呼吸する。


もうちょっと落ち着けって自分に思ってるのは、他の誰でもない俺自身だからね。


「なあ、アペル。…やっぱ、決めらんねぇ? さっきの話」


話を振ってきたのは、カムイさん。


まあ、俺からはなかなか振れないよね。うん。


カムイさんが切り出したからってわけじゃないけど、それを決めかねているのには他にも頭の端っこにあることがあるからだ。


「ね。カムイさん」


「ん? なんだ、今度は」


「また、別な…って言っていいのかわかんないけど、話を聞いてくれる?」


「お。…急だな。いいぞ、溜めこむより吐き出せ。貯めていいのは、金だ。金」


「…言い方、ひどっ」


出会った時から変わらずに、口は悪いカムイさん。


それでも、いつだって胸の中のいらんもんは溜めるなって、話しやすくその場を作ってくれる。


顔をカムイさんの首回りのもこもこしたのに擦りつけながら、猫吸いじゃないけどカムイ吸いをして癒される俺。


「だぁああっ! おっまえ! それやめろって言ってるだろ? くすぐってぇんだよ、それ」


「っていいながらも、やらせてくれるじゃない。…ふふ。カムイって、いっつも甘い匂いする」


獣っぽさがないんだよね。食べているものの影響なのかな。


「知るかよ。…で? 話は?」


癒された後は、比較的だけどすんなり話が出てきやすくなる俺。それをわかってるから、あえて振ってくれる。これで付き合いがまだ一か月満たないっておかしい。


「…ふふ。うん、聞いてくれる? あの二人にアレを送るとしても、その前にどうしても引っかかることがあるんだ。っていってもきっと、俺の中だけでの話かもしれないんだけどさ」


考えても無駄だって言われるかもしれないと思いはすれど、それでも気になるし吐き出したいのも本当だ。


「おう……言ってみな? やさしーやさしーカムイさんが聞いてやるよ。まかせな?」


と言ったかと思えば、ぴょいと腕の中から飛び出して、俺の横にぺたりと座った。


聞く体勢になったカムイさんをたしかめて、それから視線を少し上へ向け、あの二人の顔を思い出しながら話し出す。


「俺さ、今期の決算前の漂流者って扱いで召喚されたって話したじゃない? この場所に来たの」


「…ん。そうだな」


「今、俺はここにいて、あの街から逃げてる。その(かん)、俺に使ってほしいと思っていた予算は…手つかずってことになるよね」


「まあ、それはそうなるだろ。ましてや、お前が自分のことを隠して生きてる上に、元の場所で使っていた個人を特定するものや、支払いに使っていたカードだなんだってものも置いてきている。なら、その後は何も変動なしってのは当たり前だ」


「…だよね。当たり前だけど、そうなるよね?」


「それが、引っかかってること…なのか?」


カムイさんがいつもよりも慎重に聞き返してきている気がする。…やっぱ優しいな。


「半分正解。なんていうんだろ。…多分ね? 俺が考える必要なんかないって思うのに、思っちゃうんだ。…俺が使わなかった金をどうしても使ってほしくて、また誰かを召喚するんじゃないかって。その役目を誰かに背負わせるんじゃないかって」


「……あー…、なるほどな」


「誰かを新たに召喚するのに、何がどう必要で、そんなにホイホイ召喚できるかも知らないんだけどね? それでも今すぐじゃなくてもいつか…俺の代わりに誰かの人生とか途中のまま召喚しちゃったら? ってさ。ま…ぁ、俺自身が死んでこっちに来ているのか、生きたままいるのか。転生か転移かそれとも憑依なのか…わかんないんだけど、次に誰かが呼ばれる時に転移って形で、望んでもいない場所に喚ばれたら? って考えちゃうし。職務放棄ってんじゃないけど、誰かに役目を()すりつけたみたいで…。俺、結果的に自分の仕事をほったらかしにして、誰かにあとはよろしくってしてきちゃってるだけにね。…またかー…って思っちゃうんだよ」


結果的にクタクタでボロボロだった自分を、この世界で癒すために動けている。…としても、誰かが犠牲になっている感は否めない。


あの後任の彼が、俺が残したマニュアルで多少なりとも仕事がしやすくなっていたらとは思うけれど。


「そこの部分に関してまでも、お前が責任を感じる必要は皆無だ」


カムイさんが言い切る。


「…ん。わかってる。そうだよねって、知ってる。…でも、アッチでもコッチでも立つ鳥跡を濁さずってならなくて嫌だなって」


立つ鳥、か。普通に飛び立てられればよかったのに、どうにもならなかった。


「なんだ、その…立つ鳥なんとかって」


「あー…んと、ね? 引き際っていうか、どこかを去る時はいさぎよく、そしてキレイにって話。迷惑とか不安とかいろいろ残さないようにっていうかな、今回のことでいえば。鳥が飛び立つ時って、そこの水が濁りそうじゃない? でも、それを水を濁すような飛び立ち方じゃなく鳥がいなくなっても、その池にそれまで鳥がいたってことがわからないくらいに水が濁ってもいない様を言い表していたような。何の濁りも澱みも汚さもなく、まっさらキレイに? っていう情景を言葉にしたら、そうなった…みたいな? って、語彙力も表現力もないから、上手く言えてるかわかんないや」


「お前の世界って、そういう言葉、結構あるよな? 面白いな、鳥が飛び立ったら…ああ飛んでったなってだけで、それまでいた池とかに目なんかくれもしないからよ」


「あはは。…そういう表現、いろいろあるよ。俺の国の言語っていうか文字で四文字を使って、四字熟語ってのとかね」


さっき考えていたことの中でも使った、孤軍奮闘とか孤立無援を思い出した。


「そのうちゆっくり教えろ。なかなか興味深い」


「カムイって、言語に関しては興味早めに持つもんね。他の国の言語らしいの耳にしたら、耳がすぐに動くもん。聞こうとしてるって感じがする」


と俺が言えば、耳を両手でぺたんと折るようにして「人の耳、観察すんな」と文句を言う。…いや、照れてるだけかな。


「お前みたいに自動で翻訳されてんのもいいがな、ちゃんと言葉として聞いて知って話せるようになるのは面白いからな。自力で自分のものにした感じで」


自力で、と言ったそれにうなずく。


「すごくわかるよ、それ」


よくわからない仕事を自分で四苦八苦しながらどうにか向き合って、すこしずつマニュアルを書き込んでいき、それが仕事として成り立ったと感じた時の充足感というか…達成感は心地よかった。


ふう…と小さく息を吐き、カムイさんに話しかける。


「ねえ、カムイ」


「…ん? どーした」


話しかけておいて、また散々ためらってから呟く。


「あの二人なら、俺に…答えをくれると…思う? その後のことだけじゃなく、俺の責任についてとか…いろいろ」


あの二人といた時間は、一日にも満たない。


それをわかっていても、あの…俺を心配するような声一つで信じるに値してしまった。想う対象になってしまった。


「俺が、あの二人の力になりたいって言っても、受け入れてくれる…かな」


あの二人のついでで、他の誰かも救ったとして。俺を追い込んで怖がらせた奴らも一緒くたになるとしても、それでも…結果的にあの二人を救えるなら。


「ってことは、あの雨がどうとかってことに対処する手段を、お前は持ってるってことでいいのか」


その方法のキッカケは、あの二人にも見せたもの。だから、細かい説明も省略できるだろう。まるでこんなことが起きるかのような前フリみたいな、あの時間。


本当にたまったまだったけどね、あの魔法を見せたのは。


「やるんだとしても、向こうがそれを受け入れてくれて、かつ…送る予定のものをちょっと改造してからになるけどね」


「改造? どうやって」


「なんていうか、こっちから送るものを受け入れるには…あのブレスレットじゃ負荷がかかり過ぎちゃうから。だから、あっち側が出口になる形で送りつけるだけってことで、強度を増そうかなー…って。あと、二人に負荷が影響しないようにもしなきゃだし」


錬成の本はあるけれど、仕組みはもう頭の中に出来ている。


「トラブル回避とか含めて、邪気を払うような素材が欲しいな……なにか……んー…っと、黒水晶……か、ふぅ…ん。でも黒水晶の系統って色々あるんだよな」


この時だけは錬成の本を取り出す。まるで辞典のようなそれを指でなぞりながら、目的の素材を探す。


「モリ…オン? 聞いたことないや」


「モリオン、だと? 黒水晶って言われているやつの中で、一番の素材じゃねえかよ」


「知ってるの? カムイ」


「まあ、知らないわけじゃねえが…ガンガン岩削ってっても、採れる量はめちゃくちゃ少ないってやつだ。っていっても、少なかろうがクズ魔石みたいな状態で採取できたって、お前ならまとめることもできるしな」


「じゃあ、どこで採れるかも知ってるの?」


食い気味に聞けば、首をひねるようにみえた。うさぎの姿だと、その辺の判断シニクイデス。


「知ってるけどな、もしかしたら…時間がギリギリになるかもしれんなぁ…っと」


そっちの方で渋い感じだったんだ。


「遠いの?」


「いや、そうじゃなく…さっきも言ったようになかなか採れない上に少ないからな。この辺だ! って削りながら、その中にモリオンがあるか鑑定かけつつになるかもな? お前なら。他の奴らなら、もっと時間がかかるだろうけどよ」


「じゃ、とにかくその場所に行ったら岩とかぶっ壊して分離させちゃったらいいね!」


効率化を図ろう。その方が早そうだ。


俺がそう言い切れば、カムイさんが小さな目を細めて俺を見上げていた。


「…なに? カムイ」


なんだろうと問いかければ、優しい声でカムイさんが呟いた。


「なーんだ。アペル…お前、自分で答え出せたじゃねえか」


って。


「?????」


何のこと? と頭上に疑問符を5つばかり浮かべながら、カムイさんを見つめる。


…と、いきなりカムイさんが『人化』と呟き、その姿を変えた。


「え? なに? なに?」


急な展開に頭の中が追いつかない。


動揺する俺を、大きくなったカムイさんがふわりと抱きしめてくれる。


そして、大きな手で頭を何度も撫でてくれる。


「イイコだ。よく出来ました…って、言ってやりたくてな。それにたまにはお前だって抱きしめられたい時もあるだろ」


うさぎの時の同じ、甘い匂いがカムイさんからする。


そっとカムイさんの背中に腕を回すと、それに応えるようにカムイさんも腕の力を強めた。


「っていうかな? 俺は知ってたぞ? お前の中には、とっくに今と同じ答えが出てたって」


それは自覚がある。たった一歩、踏み出せなかっただけで。


「だから言ってたじゃん。…その時が来たら、背中押してって」


「…ふ。言ってたな? ま、それでもギリギリまでうだうだ悩むんだろうなってのも、思ったまんまだったな。クックック」


どこか楽しげな声がする。腕の中から顔を上げると、キツめな目なのにすごく優しさを感じる。


腕の中でカムイさんの胸元に顔をグリグリこすりつけると、「くすぐってぇ」って声がした。


「いいじゃん、たまに」


子どもっぽいなと思いつつも、暗に許してよと伝える俺。


「はいはい、好きにしろ」


文句は言うけど、好きにさせてくれるあたり、なんだかんだで俺に甘いなと思えるところだ。


一応いってみた! って程度の文句ばかりだもん。


「さーて…と。じゃあ、早速モリオンの採取に行くか」


「…うん」


「ちなみに、ちょっと先にある山の方にあるってのだけは知ってる。採掘が普通の奴らには大変ってだけで」


カムイさんが言いたいことはわかってるよ、ちゃんとわかってるってば。


「やり過ぎないようにするって、多分」


まるでフラグと言われているそれのような、前フリっぽいセリフを吐き、俺は立ち上がる。


途中までバスで移動。1時間ちょっとかかった。下りてからは、徒歩で2時間かかった。


「この山なの?」


「おう」


省エネモードじゃない、人型のカムイさんのままだ。


「たまにはいいだろ? 一緒に採掘も」


「いいけど…すぐにお腹空くんじゃないの?」


「まあ、それは後で埋める」


「…そう?」


なんて話をしながら、山の中に入っていく。


他の人もちらほら見える。


カムイさんがスタスタと山の中に入っていく。


「それって、また…アレ? 角と反応するのを使ってるの?」


このモリオンも、サーチに引っかからない。あの時同様で、他のものと混ざっていたり、何かに阻害されていたらダメなのかもしれない。


「そーゆーことだ。この手のに関しては、俺の角は優秀だろ?」


「…ふふ。うん、すっごく助かるね」


どんどん奥へと入って行くと、人気も少なくなっていく。


山の中に入ってかなりの時間が経過した頃、すこし小さめな洞窟の入り口が現れた。


身を屈めて、なんとかそこに入ろうとすると、カムイさんが声を殺すようにして笑っている。


「山にすら気を使うのか、お前は。…エアーカッターで入り口、適当に広げていいぞ。後でいくらでも直しようがあるからな」


「…いいの? そんなことしても」


「いーんだよ。元々採掘ってもんは、そういうとこも削ったりして当然だろ?」


「まあ、そうといえばそうなんだろうけど」


なんて話をしながら、エアーカッターで入り口をくり抜いていく。


「これくらいなら、カムイも入りやすい? もうちょっと大きくする?」


人三人分くらいの横幅に、高さはカムイさんの人型プラスで、ホーンラビットの時のカムイさんくらいの高さ。


「いーんじゃねぇの?」


素っ気ない言葉だけど、顔は満足気だ。うさぎの時とは違って、表情がわかりやすくていい。こうしてみていると、カムイさんは表情が豊かなんじゃないかな。見ていて面白い。


身長が高い=股下が長い=脚が長い…となるわけで、歩く速さがちょっと違う。


「速いって、カムイ」


小走りで背中を追って、洞窟の中へと入っていく。


先に進んでいたカムイが、ある場所の壁に手を置いて俺を待っていた。


「ここだ、ここ。こないだ創った魔法があったろ、風の。…なんだっけ、ドカーンとやるやつ」


そう言われて浮かんだのは、エアーボムってやつ。


「あれ? やっていいなら、それ使うけど。…範囲は? それで大きさ調整して、結界も張らなきゃだね」


「そうだな…こっから……ここまでで、高さはあの辺まで」


説明をしながら、移動しつつ範囲を指定してくるカムイさん。


「りょーかぁい。…じゃ、先に結界張って…それから崩れる地面の方に錬成陣も同時展開しちゃう? 地面に全部落ちたやつ対象で。そしたら片付けも楽だし、結界内の土埃が収まるの待たなくていいかなーって思うんだけど」


効率もいいなと思ってそう言っただけなのに、カムイさんが眉間にシワを寄せて「うわぁ」とか言いたげな顔つきをしている。


「…なに。言いたいことあったら言ってよ。黙ってそんな顔つきで見られても嫌なんだけど」


錬成陣を描きながら呟くと、「適度にやれよ?」とどこか呆れた顔で言ってきた。


「わ、わかってるって」


どうせ、あれだよ、あれ。バカみたいにいろいろ同時にやろうとするから、規格外ってことで呆れてんでしょ。


「…で、分離の後に…固める……っと、こんなもんかな」


俺が描きこんでいる間に、カムイさんはアペルを一つ食べていた。


「俺も食べとこうかな、魔力使うし」


「大した量、使わねえのに?」


他の人ならいざ知らずらしいけど、俺だって多少は使ったって体に感覚が流れるわけで。


「使うよ! 結構」


「お前がいう結構は、どの程度かねぇ」


「…うるさいなぁ。同時展開もするんだから、いつもとは違うはずだってば」


「あー…はいはい」


って言ったと同時に、アペルを放ってくる。受け取ってかぶりつきながら、錬成陣を確かめて。壁が崩れて地面に触れたら起動するように設定してから、魔力を通す。


「……ん、おっけ。問題なさそう。……じゃ、離れてから……これっくらいの出力で…『エアーボム』っと」


ドガーン! と思ったよりも大きな音が鳴る。


「あ…あれ? 地盤ゆるかったとかじゃないよね? 思ったよりも音が」


「やっちまったもんは、どうしようもねえ。…諦めろ」


結界の中でガラガラと派手に崩れていく壁。土埃というか土煙だな、これは。濁った白い霞の中で、錬成陣が起動して淡く光る。大きな錬成陣で分離させてから、中心部に固める錬成陣で形にして。金属音や乾いたような音が立て続けになってから、すこしすれば結界の中がクリアになっていく。


結界を解除して、二人そろって壁があった場所へと近づく。


「……なんか、別なもんも採れたな」


「まあ、そうなるよね」


モリオンはすこしだけど、使いたい量は無事手に入れられた。


「よかったな。モリオンがあって」


「…ん。掘ってみてハズレとか普通ならあるんだろうけど、カムイのおかげでハズレなしだね」


「だろ? 感謝しな? この後の飯、たっぷり食わせろよ?」


「ふふ。わかったよ、カムイ。一緒にいっぱい食べようね」


「洞窟を出たら、入り口は元の大きさくらいまで戻せ」


「…みんな入りやすい方がいいんじゃないの?」


入る前は入り口を広げるのをためらったけど、広げたら広げたでみんなのためにいいかもって思った俺。


そう思っていた俺の気持ちとは逆に、カムイさんは首をゆるく振る。


「魔物でも素材でも乱獲ってのが起きちゃマズい。素材は手に入った方がいいに越したことはないが、そういう場所を占有しようとするやつはいるからな。バカの手助けになる状況は作らない方がいい」


言ってることはわかる。


「…わかった。じゃ、塞ぐまではしないけど、さっきくらいに戻すよ」


土魔法を使って、近くの土を適当に寄せ集める。新しい土で防げば、なんか目立ちそうだもん。


「お。…うん、いいな。それでいい。…よく出来た」


またカムイさんが頭を撫でる。


「その姿の時って、なんか…甘やかしてくるよね? 気のせい?」


なんて俺が聞けば「仕返しだ」と返ってきた。


「なんの?」


と、また聞き返すと「なんだろうな」って笑いながら先に行ってしまう。


「なにかした? 俺」


いつもとは違って大きな背を追う俺を、足を止めてカムイさんが叫ぶ。


「遅ぇな、アペル!」


って。どこか楽しげな顔で。





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