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太陽が目に染みる



THE☆洞窟生活、何日目なんだろ。中にずっといると、時間の感覚がバグる。


ステータスを確かめると、どうやら今日で4日目らしい。これを見ないままでいたら、何日くらいこうしていたつもりか。俺。


そういえば聞いたことがないけど、もしかしたら知ってるかもしれないよね? カムイさんが。


「ね、カムイ」


「あ? なんだよ」


今日は角がムズムズするとかで、俺が抱っこした形で洞窟の中を歩いているんだけど…。


カムイさんが俺の腕の中から真上に顔を向けると、危険! 危険! 危険!


「角! カムイ、角が刺さる!」


「お? あ、あー…悪い」


アゴか頬あたりにぶっ刺さりそうになって、ちょっと焦った。


「まっすぐ向いたままでいいから、質問に答えてもらっていい?」


「おう、いいぞ。俺でわかることは答えてやる」


「うん。…あのさ、この洞窟って出られるの? 俺が入ってきた方向じゃない方に。どこかから横道に抜けられるとか、他の場所に行ける? 行けない?」


行ったことがある場所しかマップには出ないから。この洞窟の形状がハッキリわかっていない俺。


漠然とした洞窟のイメージは、出入り口1つ。出るのも入るのも同じとこって印象。トンネルってわかってりゃ、1つじゃないってわかりきった話なんだけど。


元々よその街にと思っていたから、この洞窟経由でもいいからよそに行けるのならって思ってたわけでさ。


「この洞窟、出入り口ったら三つあんだよな。三つ」


そう言いながら、指で3ってやろうとしたんじゃないかな。多分。でもいつもの手の形でしかなくて、思わず「ぶふっ」とふき出してしまった。


そんな俺を見て「角、貫通させっぞ」と脅してくる。角はダメだよ、角は。


「三つのうちの一つが、俺が入ってきたとこだね」


「ああ、そうだな。話を聞いたから、そっちには行かないようにしている。見たところ、多少の道は覚えてるっぽいな。方向音痴だと、逆戻りなんか普通にやらかすからな。さすがに逃げてきてて、元の道に戻るとか…あっちゃなんねぇからなぁ」


「あはは。大丈夫だよ、カムイ。通った道だけなら、マッピング出来てるから」


親指をグッと立てて、大丈夫だと示す俺。


「あー…ははは。オマエハソウイウヤツダッテ、オモッテタワー」


安心させたつもりなのに、なんでそんな棒読みになるの? カムイさん。


「じゃあ、今はどっちに向かってるの? 俺、素材集め終わったから、後は食べ物と魔物に対してだけ注意してる状態なんだよね」


ミスリル銀は、同じ場所でもう少し取れたのを同じ作業で分けてインベントリに入れた。ちなみに今日の買取価格は、昨日よりも下がっていた。


「そうだな。お前がいた場所の隣の隣町になるんじゃないか。ハッキリとは覚えてないけど。この洞窟、結構長さだけはあるから。それぞれの街の端っこに繋がっている形じゃなかったかな」


「街の端っこなんだ…」


ってことは、最初に入ったところもそうなのかな。一応バスは少し歩けば乗れるような場所だったよね。


「って、ああ、思い出した」


カムイさんが、急に大声をあげる。


「お前よー、俺と従魔契約しとけ。じゃなきゃ、俺が街に入れなくなる。これでも一応魔物だからな」


「そういうものなの?」


この場所での一般常識を俺は知らなさすぎる。


「カムイに困ったことは起きないってこと? むしろ、そっちの方が助かる?」


念のために確認すると、多分親指を立ててるっぽい。グッて感じのやつ。さっき俺がやったやつだな。


「そっか。従魔契約ね。…って、どうやるの?」


正直に聞いた俺の腕を、ポンポンと叩いてから地面を指すカムイさん。


下ろせってことかな?


「これでいい?」


そっと下ろしてから、カムイさんの正面に片膝をついた格好で向き合う。


「ちょうどいいのがねぇから、俺の角に指をあててちょっとだけでいいから血を出せ」


「血? 血が必要なんだ」


「正しくは、血と魔力な?」


カムイさんの角に指先をくっつけてから、かすかに押すようにすると指先から血が丸くにじんだ。


「血が出たらそこに魔力を纏わせて、俺の手に手を合わせろ」


「ん…っと、こう…?」


多分大丈夫かな? と思いながら血が出た場所に魔力を込めて、カムイさんと手を合わせる。ふにっという音が聞こえそうな感触だ。


触れた瞬間、カムイさんの魔力かな。指先にじわりと熱が集まる。


「んで、俺が今から言うやつを繰り返せ」


「…え。それって、先にカムイが言ったら、俺が獣魔になったりしないの?」


素朴な疑問。


「従えるものと従うものの魔力の質が違うからな。俺がお前を従えることはねぇから、何の心配もすんな。それともあれか? 俺に従いたいクチか」


くくっと何か楽しげに笑いながら、カムイさんが答えてくれたけど。


「なんかいつも怒られてばっかりになりそうだから、従いたくない」


可愛いは正義とかいうけれど、街にカムイさんが入れなくなるから契約するってだけで、そうじゃなきゃ契約なんて形で繋がりたくない相手だ。


「カムイとは、せめて友人枠がいい」


あの街では作ることが出来なかった友達を、異種族間だけど作れたらって思える。そんな相手がカムイさんだ。


「ま、問題が起きないための手続きってだけだ。俺は優しい優しいオトモダチでいてやるよ」


わざとらしくそう言ってから、「やるぞ」とまた脱線しかかった話を戻してくれた。


片膝をついて、互いの手をあわせて、カムイさんがまっすぐ俺を見上げているから俺も目をそらさずに見つめる。


「我は汝に命ず」


『我は汝に命ず』


「我に従い」


『我に従い』


「我の翼のひとつとなり」


『我の翼のひとつとなり』


「いつ何時(なんどき)も力を捧げることをここに誓え」


『いつ何時も力を捧げることをここに誓…ぇえええ?』


え? どういうこと? 力を捧げるって、そんなこと誓わせちゃ。


『…ここに誓う』


「なんで誓ってるの????」


なんで? って気持ちが宣誓の言葉の語尾にも出たっていうのに、おかまいなしにカムイさんは契約のための宣誓の言葉を結んでしまった。


カムイさんが誓うと返した瞬間、カムイさんと俺がくっつけていた手にかすかな光が。


「…お。上手いこといったな。ほら、契約完了すると…こうなる」


光はすぐおさまって、カムイさんが手をそっと差し出して見せてくれる。


手の甲の部分だろうそこに、羽根が二枚クロスしているようなマークが刻印されている。


「これで晴れて俺はお前の従魔だ」


至ってなんでもないことのようにカムイさんが言うもんだから、俺は逆にオロオロしてしまう。


「カムイから力を分けてほしいなんて俺…思ってないのに」


従魔ということの意味をよく理解せず、契約しておけばカムイさんが街に入りやすいってことしか頭になかったのに。


「他に街に入るための方法はなかったの?」


知識が足りていない俺は、現段階じゃカムイさんから聞くしかない。


俺がそう聞くと、カムイさんは首を振るだけ。


俺よりもこの場所での知識があるカムイさんが、他の方法がないっていえばそういうことなんだ。


「……でもさ、でも…俺はカムイさんを守りはするけど力を差し出してもらうとか…そういうつもりはないからね? 宣誓の言葉だったから口にしただけで」


言い訳のように言葉を並べていくと、カムイさんが大きな声で笑う。


「やぁ…っぱなぁ? お前なら、そういうリアクションだろうと思ったぜ。ハッハッハッハ」


「リアクションって…もう」


こんなにもわずかな期間で、カムイさんには俺の性格が把握されつつあるみたいだ。嬉しいような、恥ずかしいような。


小さく息を吐いてから、片膝ついていたのをまるで正座をするみたいにして、両手でカムイさんの手を包み込む。契約の刻印がある方の手を。


「あのね? カムイ。……契約って形にはしたけど、大事にするからね? むしろ俺の方が力を分けられるように頑張るから! 守るよ? カムイのこと…ずっと!」


街に入れるようになるってだけじゃないんじゃないかって、漠然とだけど思ったんだ。


たとえそれがこっちの先走った思い違いで終わるかもしれなくても、それでも俺はカムイさんを守るって伝えたかった。ちゃんと、言葉にしてさ。


ずっと! って口にした時に、手に力を込めてカムイさんの手を強く握った。ギュッ…とね。


「……おま」


カムイさんは俺を呼びかけて、そのまま耳を先の方まで真っ赤にして口をパクパクして、なんでか涙目で。


「カムイ?」


その反応がよくわからなくて、首をかしげる俺。


「なんか困らせるようなこと、言った?」


涙目なのはマズイなって思って、そう聞けば。


「…うるせぇわ、バカが!」


って涙目のままで、俺の手を振り払った。それから俺をポコポコと何度も叩くんだけど、威力がない。


洞窟の中でカムイさんも戦いながら過ごしていたんじゃないの? こんなによわよわパンチで大丈夫? って心配になるような強さだ。


とりあえず叩きたいだけ叩かせようと、苦笑いを浮かべながら落ち着くのを待つ。


結構叩かれたのに、ちっとも痛くないままで終わり、最終的に癒されてしまったわけで。


(えいえいっ! って感じが可愛いかったー)


それからプイッと背中を向けてしまい、腕を組んでいるカムイさん。


背中を人差し指でつつき「ねー、よくわかんないけど、怒んないでよ。仲良くしてってば」と、ねだる。


すこし甘えた声でそう言った俺に、素っ気ない言葉が返ってくる。


「とっくに仲良しなんじゃねぇのかよ」


素っ気ないのに、俺が絶対に嬉しくなる言葉だ。


「うっふふふふ」


顔を両手で覆って、喜びに悶える俺。いつの間に振り向いたんだか、カムイさんは悶える俺を見て「またメスうさぎみたいなことしてんなよ」と呆れたように呟いた。


――――とかいうやりとりをしてから、一日経過したらしい。


「この先が隣の隣町につながってんだ」


そう言いながら、ぴょんぴょん四足歩行で跳ねていくカムイさんを追って進んでいく。


遠くに丸い光が見えるから、本当に外に出られるんだな。長かったような短かったような、何ともいえない気持ちだ。


この洞窟を経由しなきゃ、この先の街にはどれくらいの日数で来れたんだろ。あの街にい続けていたら、ここに来るキッカケはあったのかな。


可愛い毛玉が跳ねていく様を眺めながら、そんなことを考えていた。


カムイさんが、どんどん遠く小さくなっていく。


従魔契約の…夜になるのかな、多分。


あの契約について、カムイに気になったことを聞いてみた。言葉のやりとりが不可能な魔物だっているわけで、カムイさんみたいに誓ってくれるかわからないと思った。その場合はどうやって契約するの? ってことを。


答えは、アレに関してはカムイさんがああやってちゃんと言葉にして誓いたかっただけなんだって。


思念だけでのやりとりになることの方が多いという話だった。


わざわざそれを聞いたもんだから、察しろバカ! ってめちゃくちゃ真っ赤になって叩かれた。やっぱり可愛かった。


その時に同時に、カムイさんからこんな話を聞いた。


あの宣誓の言葉の逆も然り、という話を。


俺が持っている魔法を使うことは出来ないけど、スキルの一部を共有出来るんだって。


マッピングとかは、場所によってはあえて二手に分かれてマッピングのために移動して、どちらかの場所で何かがあった時に相手がいる場所に合流することも可能。結構使えるかもね。


それ以外でも、インベントリも一部共有可能になったもんだから、カムイさんが飲みたいタイミングで水が飲めるって喜んでいた。


それと、俺の方でカムイさんのステータスを見ることが可能になった。これに関しても逆もまた然りで、俺のステータスを全部見ちゃったカムイさんが、しばらくしゃべってくれなくなった。


イチさんたちは、魔力の関係か…一部しか見えないって言われたよね。従魔契約を交わしたら、無関係で閲覧可能ってことね。


なら、契約する相手はちゃんと選ばなきゃ危ないや。気をつけようっと。


出入り口をハッキリ視認できるあたりで、カムイさんが俺を待っていて。


「そろそろ、アレ…やれよ」


って言った。


「あ、うん。…今度はどんな感じにしようかな」


認識阻害のあれだ。


髪色は金髪よりも茶色っぽさが欲しいな…。あれだ、あれ。ミルクティーみたいな! 何色って言うんだろ、あれは。髪は…短めにしてみようか。くせっ毛っぽく毛先が跳ねる感じにして、目は…濃い目の紫? 俺の地の瞳の色が淡い紫だけど。見ようによっちゃ紺にも見えるくらいの色合いの紫。


そのうちオッドアイなんかも試してみようか。


声は…高すぎず低すぎず。


服装は……うーん…。


アゴに手を置き悩んでいると、カムイさんがどの辺で悩んでいるかを聞いてきた。


「服がね。元の俺、そこまで服を気にして過ごしてなかったから、よくわかんないんだよ」


正直に話をし、うんうん悩む俺。


見た目はどうなるのか聞かれたから、それも答えた。


「…だったら、こういうのはどうよ」


地面に何やら絵を描くカムイさん。パッと見、いじけて地面をつついているようにしか見えないんだけど、俺のために真剣に考えてくれているよう。


「…ん? カムイって、絵…描けるんだ」


最初に驚いたのは、そこ。しかも、描きにくそうな手の造りなのに十分に描けている。


「これって、あれ? フーディーだったかパーカーだったか」


ものすごくラフな格好だ。


「ここの奴らは服装は普段着で、どっかで戦うとか何かあった時には、自分に防御魔法や能力をあげる魔法をかけて対処していることが多い。だから、服装って部分でいえば楽な格好の方が怪しまれない」


「…へえ」


なるほどねとうなずきながら、イメージを固めていく。


濃いめのグレーのフーディーに、中に一枚シャツを着て、下は黒の綿パンでよさげだ。


「……じゃ、行くよ? 『イリュージョン』……っと、『ボイスチェンジャー』んんっ…あー……あー…。どう?」


靴はハイカットのスニーカー。昔、好きで履いていたっけな。こういうの。


カムイさんは、俺のまわりを何周も回って見てから「いいんじゃね?」とだけ言ってから出入り口の方へと先に行ってしまう。


「待ってよ。もうちょっとなんかないの? カムイってば」


カムイさんが(言い方はさておき)…いいって言ったら問題ないってことっぽい。一緒にいる間に、少しわかってきたことの一つだ。


「ちゃんとこの顔、憶えてね。契約したから、大丈夫みたいだけどさ」


契約の恩恵は、この魔法のデメリットをメリットに変えてくれた。たとえ顔や声を忘れてしまっても、契約を交わしていれば近くにいたら共鳴するように感じるって。


俺の方で、サーチの時にカムイさんって登録したら探せるのは、また何かやらかしたって言われたくないから内緒にしておこう。


「わーってるよ」


「ほんとかな」


「しっつけぇ」


ブツブツ言いつつ、また跳ねながら先に行ってしまう。揺れる丸い毛玉っぽさ、満載だ。


それが二足歩行に姿を変えて、出入り口のギリギリのとこで待ってくれている。


「お待たせ」


初めてみる光景を目に入れながら、こぶしをギュッと握る。


「創ったアイテム、効果あるといいな。アペル」


「…うん」


不安は完全には消えない。結果が数値化されるわけじゃないから、大丈夫なのかを平和な毎日が続いていかないとわからないっていう…。


「なんにしろ、行ってみようぜ」


ブレスレットを指先でひと撫でして、間違いなくついているのを確かめてからまた撫でて見えないようにする。


「……せーーーっっの」


「よいせっ」


久しぶりの外の空気。雲の隙間から、陽の光がさしている。


「曇りだけど、なんかまぶしいや」


眉間にシワを寄せて、顔を歪めた。


カムイさんも、手で顔を何度も撫でるようにして目もゴシゴシと擦っている。


ややしばらくそのままで目が慣れるまで大人しくして、雲がずいぶんなくなったなと空を仰げるほどまで待った。


「外って眩しい場所だったんだなー」


「当たり前のこと言ってんなよ」


「…ふふ」


カムイさんの案内に従って、街に入るための手続きをしに向かう。


道路はきれいに整えられてる。交通の便はイマイチ分からないから、歩けるだけ歩いていこう。


道なりに歩いていくと、ある看板が目に入った。


”アノ市へ、ようこそ”


「ここ、アノって街なの?」


「たしかな」


アノって名前に意味があるのかな。それとも別の言語か何かかな。


(これじゃ、あの街に行こうぜ! みたいなことを言ったら、街の名前を言ってるだけの話になるじゃん。…って、イチさんたちがいるあの街の名前って、結局なんだったんだ?)


まさかだけど、俺からしたら変な名前じゃないよね? とか思いつつ、看板を横切りアノ市へ一歩踏み出した。



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