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1 week later


俺が動くまでは、相手も動かないでいる。あの手紙には、そう書かれていた。


有言実行といえば、有言実行されていたそれなんだけど、それはあの時のメンバーでの話で。


「水兎さまーーーーー」


あの日から毎日、あの連中以外が俺のところへと誰かしらやってくるようになった。


アイツらの差し金か何か知らないけど、俺はあれからずっと…解除することなく結界を張ったままだ。


そうじゃなきゃ、魔法ぶちかまそうとするやつがもれなく一人は含まれているから。


そして、あのローブじーさん同様でこっちが会わないって確定した時点で、なにがしらの魔法の呪文を詠唱しはじめるのがいる。


かんたんなものじゃないから、あれだけの詠唱になるようなことが後で判明。


それと、邪魔者がやってくる前に知らせがあったのは、この俺に与えられた家のみにつけられているオプションだということも判明した。


仕組み的にいえば、来るやつの中で誰かしらが悪意を持ってここへ向かっている相手限定で、早めに知らせてくれるという仕様だ。てか、結果的に悪意をももたれるとかを感知するって…どういう状況? 俺宛てのめちゃくちゃ濃い思念でも発しながら来てるのか? と想像したくないのに出来てしまうようなシステム。


俺は結果的にそれによって守られている部分がある。そのシステムが直接的に攻撃をすることはなくても、ポン…と誰かよからぬ奴が来るって警戒できるだけでも違う。


俺にとっては、便利で優しい。


でも、さ。ただの移住じゃなく、逃げるってなると、話はまた別ものなんだろう。


「んー…」


普通の暮らしが出来りゃいいだけなのに、それすら叶わないのか?


金が使えるってだけ(・・)で、ホント…。


「きゅーくつー」


起きがけ、急に食いたくなったフライドポテトを摘まみ、指揮者のそれみたいにフルフルッと小さく振って。


「……あーぁ」


と呟きながら、タバコみたいにフライドポテトを咥えた。


そこから口に吸い込まれるみたいに、徐々に食っていく。


カリッカリに揚がったやつじゃなきゃ…こういうことやってると、アゴにポテトがふにゃんと貼りつくように下りてくるんだよな。


口に咥えたばっかとかはいいんだけど。


家に引きこもっていたら安泰か? なんて若干思っていたのに、俺と関わろうとするやつがここまでいるとか。誰が予想する?


というか、俺のことが大事だというのなら、そういうとこの統制みたいなの取ってくれないと困る。


金さえ使ってくれたら、それでいいんで! こっちに住んでくれていたらそれだけでいいんで! みたいな感じだったのに、なんなんだよ。全員同じことを求めてやってきてるのかどうかは、話をしなきゃわからない。


でも。ぶっちゃけ…話をして話が通じるのか? って疑ってる。


ローブじーさんなんか、多分だけど悪意を感知するやつに引っかかった対象っぽくない? 手段が最悪だったじゃん。俺に結界張られたったら、魔法っていうある種の物理攻撃か強制的な方法で解除でもしようとしたんだろ? 話し合いの余地どうこうじゃないじゃん。


あの時の手紙はいまだに持っている。


あれからかれこれ一週間経過したけど、個別でもいいと書かれたその言葉に揺れた。


あの固まりとは話したくない。まとまりも悪そうだったし。特にローブじーさんあたりは、話にうなずきつつもまわりとすべての方向性を合わせてくる気がしない。


あの時の無理矢理さが、俺の中でマイナス評価になっている。


結局あの時になんの魔法を放とうとしたのかは、ハッキリしていないままだ。


聞いて教えてくれるとも思えないけど、会話自体をあのじーさんとしたい欲求がない。


「あのじーさんとは、最後の最後まで話すつもりはないな」


生理的に無理、か。なんとなく相性が悪い気がする、か。


話をするだけで、イラつきそう。俺だけじゃなく、向こうも。


来たくて来たのかもわかんないんだよな、あのじーさんだけ。最初に会った時だって、フードを深くかぶって俺をフードの陰からこそっと盗み見るような目をしていた気がするんだよ。


あれもこれもマイナスの方へ振り切って考えれば、相手の行動もわずかな動きも気に食わなくって、相手をマイナスに評価する原因にしたがるもんだ。


でもそういう感情は、正直気分がいいもんじゃない。抱えている側も、滅入る。


マイナスの感情を味わうってわかってるなら、その道へ行きたくないや。


そんなもん、あの会社にいた時だけでいい。


――――とはいえ、このままってわけにいかない。


ひとまず、あの日の誰かと話をしてみて、この状態について相談を出来ないか…聞くだけ聞いてみようかな。


ここでの知識も知恵も足りていない俺だから、利用できるところは利用して、知ったかぶりするのもしないで。


っても、いきなりオッサンや所長、あのオオアリクイの先生ってのは、ハードルが高いや。


「無関係そうなあの二人と…ひとまず話してみるか」


無難なあたりに行くことにする。可もなく不可もない相手。


とはいえ、念のためで打てる対策は打っておかなきゃ。外に出るたびに何かしら起きるし、人目につくみたいだから…ここでいいか。会うの。


「え、っと」


時計の方から、メッセージを送る。あの二人をこっちへよこしてほしい、と。


時間と日付の候補をあげて、それに返信をもらう形で。


「うちのセキュリティーの悪いやつ判定がイマイチよくわからないから、一応盗聴とかその辺の対策は練っておくか。それと、来た時から帰るまでの音声つき映像も残しておきたいし」


この先何があるかわからないから、元の場所でもよく聞いた話を思い出していた。


何かにつけて、証拠ってものは効果がデカいって。


魔法の一覧から、特定のアイテムを記録機に改造できるのがあった。


二つくらい、それをかけておくか。


話…俺が一番リラックスできる場所でしたいな。


掘りごたつの部屋の中心。シーリングライトっぽい…天井についている灯りへ、魔法をかける。


『レコーダー』


…ぷ。なんか単純な名前でホッとする。


相手が家に着いたタイミングで、オンにしちゃえばいいか。それと、魔法をかけてあるのに気づかれないように阻害するようにして…っと。


属性でそれぞれの色をした魔方陣が展開されて、そこに追加していくとあの時みたいに変色していく。小学校の時の図工の時間みたい。


「…ぷ。おっもしろい」


魔法の組み合わせとか重ね掛けとか、いろいろ試せるのはいい。退屈な日々に、ちょっとの遊びのようなもの。とはいえ、モノがモノなんでいろいろ気をつけないとな? とは思っている。遊びみたいだけど遊びにしちゃダメなモノでもあるからな。


「…っと、この魔方陣って同じやつの場合、複製できないのかな? コピーっぽいの」


とかボソッと呟いただけなのに、目の前の魔方陣が青く発光した。


脳内に声が響く。


『対象の魔方陣を指定してください』


って。


「え? もしかして、合ってる? 複製可能?」


そっと魔方陣に指先をあてて、早い動きで二回トントンッとして指定する。


するとさっきの青よりも色濃くなって、ブ…ゥンと音をたててから魔方陣の上にもうひとつの魔方陣が浮き上がった。


魔方陣をジーッと見つめると、勝手に鑑定してくれた。


「……おおっ」


さっきの内容で複製できている。


ポロッと言葉にしただけで発動することになるとはな。


「下手な魔法っぽいの、口に出来ないな。危なっかしい」


ゲームで見聞きしたことがあるものは、その辺で口にしないようにしようと決めたのはその時。


まだ、すべての魔法を把握していない。使う用途とかで検索かけて、それで絞り込んでから使用して…みたいな。


灯りと、部屋に本棚…はない、えっと……めんどくさいから壁一面にするか。


相手を座らせる配置をなんとなく想定して、壁に魔方陣を設置して。


上からのアングルと横からのアングルで、無事に設置完了。あとは来たと同時にオン!


とかやっている間に、返事が来ていた。


「あー……明日、か」


承諾したという返事を送り、後頭部をガシガシ掻く。


相談が出来るかどうかもまだわからないけど、この後また来るかもしれない奴らの相手はしなきゃいけないよう。


来て、相談に乗ってもらえて、手を打ってくれるというありがたい展開になったとして。


即時即対応…っていう展開になってくれるかどうか、何ともいえないよな。


なんせ、一番発言権がなさそうなオッサンの部下っぽいの二人だけを呼んだんだから。


自白剤…仕込む?


いやいや…ダメだよな。あの時は仕込まれたから意趣返しをしただけ。


「……ぐぅううう…」


声になってない声が、自分からもれてくる。唸ってるでもなく、なんか変な音みたいな…。


アッチの意向に副う形にはしたものの、本当に現状をどうにか出来る確定要素ではないだけに、不安がないってわけじゃない。


まだ何一つ、話はしてないし聞いてない。判断材料は何もない。


「んぐぅ…」


わかってる…から、その事実が自分の首を絞めてるように俺を息苦しくさせる。


なんでこんなに苦労しなきゃいけないんだろうな。


何にも触れていないから、余計に不安になる?


「あー…もう」


嫌になる。


なんか女々しいなって感じ。


ふ…と、明日の天気を確かめる。


「…ふうん、雨」


どの程度の雨か調べたら、思ったよりも降るみたいだな。


「なら、アレ…見せてもいいのかも」


ついでにどこに申請すればいいのかと、これは本当に新しい魔法なのか。新しいものなら、どこが名づけるのかとか。


エアーカーテン改良版。


とか言えば、どこかダサい。


「んー…ん」


かといって、何か名前の候補があるんでもなし。


ポテトはすっかりしんなりしてしまい、さっきみたいなことは出来なさげ。


「あー…ん」


それでも冷えたって十分食えるんで、最後まで食う。


ここに来てから何度も思った、俺がモノを食えているうちはまだ”大丈夫”ってあたり。


毎日飯を食うたびに頭によぎる。今日も大丈夫…って。


アイツらが家までやってきたあの日、泣いた俺。


味方が欲しいと本気で思った。けど、自分の現状を思えば現実的じゃない。


味方なしの状態で、明日アイツらに…会う。


明日のことを考えれば考えるだけ、不安は増していく一方だ。


狡猾な人間だったらもっといろいろやりようがあったんだろうけど、俺はそっち側の人間じゃなかったみたいだ。


こういう状況に押し込まれて、そこで嫌ってくらい実感する。


頭もよくなきゃ、顔も性格もよくなくて。人当たりもいい方じゃないし、中途半端に愛想だけよくて。かといって、人に合わせて生きてるかというわけでもなく、最終的に行動の先で自分が困らない方になんとか行けれればって感じ。


会社にいた時だって、中途半端な引継ぎのせいで俺じゃなくても、この状況に放り込まれたらおかしくなりそうな中で、前任者と同じ人間になりたくなかったし、前任者に頼りっきりの上司たちと同じ人間になりたくなかった。


俺自身があの時一番困っていたのに、未来の自分か俺じゃない誰かが困らないようにしたかった。


意地でもあった。こっちの状況を明確に把握しないで、文句ばっかの営業マンと上司たちへの。


なりたくない自分を回避するために、出てくる選択肢の中でなるべく心が痛まない方を選んでる。…ように見せて、結果的に一番メンタルに来るのを選んでたなって気づいたわ。…今。


「…は」


ため息にも似た息がもれる。


「俺って、自分にS? それとも自分をイジメて、その痛みに打ち震えるM?」


呆れてしまう。


自分で自分をイジメておいて、泣くほどめり込む。いろんな感情を自己発電してるみたいじゃないか。


「…ばっかばっかしー」


掘りごたつのテーブル板に突っ伏して、腕の上にアゴをのせて顔だけ正面向けて。


「てかさ」


そもそも論。


「俺じゃなくても、予算を使いきってくれるなら、俺じゃなくてもよかったじゃないの?」


『今期の決算前の漂流者』


俺の扱いは、それ。


なんで、漂流者って言い方になってるのかがよくわかんないんだけどさ。


引っかかってたものの一つ。


なんで俺よ、と。


予算使ってくれそうな人なら、そこだけをポイントにするなら俺じゃない方がいい。


そこまで散財するような生き方してきてないもんよ、俺。


今まで使って来てないから、反動で使いまくるとか…自分でも内心思ってたけど。無駄遣いしたなって思っても、あの謎衣装の時くらい。


ひどく使っているわけじゃないから、誰か他の散財マスターとか召喚したらいいんじゃないの?


「散財マスター…って。くっくっく…俺のネーミングセンス皆無じゃん」


失笑。


センスなさ過ぎ。


「でもほんと、なんで俺だったんだ?」


日記の方では、社畜っぽかった俺が自分を癒せばいいって感じではあったけど、召喚された理由は日記とイコールになっているようでなってない気もして、その違和感が気持ち悪い。


本当の理由は、違うとこにある…とか?


「…はぁ」


イリュージョンで見た目を変えたりもしたけど、何らかの方法で俺がこの家にいるって判断したやつが来るっていうなら…その辺の阻害は出来ないのかな。


俺が…もしも…。


「本気でここから消えて、どこかで本当の意味で自由に生きることを選ぶなら」


持っている魔法をフル活用していけば、どうにか…ならないのかな。


逃げは…よくない。


向き合うべき。


「わかってる…」


いろんなことに、わかってるっていう、まるで自分を言い聞かせるような言葉を吐くけれど、本当に俺…わかってる?


「一人でい続けると、こういう弊害があるな」


これも、わかってる。


一人であの場所にこもって、黙々と仕事をこなしていた日々。


自問自答を繰り返して、答えなんか自力で出ないものだってあるのに、相談することを諦めて無理矢理不正解をあてはめさせようとした時もあって。


納得できていないのに、理解だけしたフリをして。


アイツらが敵だと認定できれば、そこから逃げても…よくないか?


会社にいた時みたいに、何かをやらなきゃ給料がもらえないとか、仕事がすすまないとか、また文句言われるとか…そういうのがあるわけじゃない。


なら、逃げるっていう選択肢があってもいいんじゃないの?


あの時の俺を癒してやってもいいってんなら、痛い思いをすると知った場所からは逃げても許されないか?


「………体を傷つけられてなかったら、心の負荷とかってもんは…受け取る側の気持ち次第って言われそうだよな」


俺がいくらこの環境が嫌だから出たいって言ったって、きっと理解はされないんだろ? 決めつけはよくないって知ってるけど。


謎の扱いを、よしと思えなくなりつつある俺がいる。それは確かだ。


「はあ……。ひとまず、明日の準備はそれなりに出来たな。何か飲み物でも出した方がいいのか?」


所長とオッサンの目の前で飲み物を出したばっかりに、あの大興奮。というか、だから自白剤しかけられたってのもあったけど。


それにしても、目の前で出すのはよくないのかな。


「もしかして、こういう風に出せるのも…俺みたいな扱いの人間だけ?」


じゃなきゃ、あんな風にいい歳をしたオッサン二人が、キャッキャしないだろ。


「明日は、飲み物はキッチンの方から持ってきたっぽく見せるか。…めんどくさいけど」


一般人と俺との違いを、誰か一覧にしてくれ。


「また明日、なーんかやらかしそうで…ヤダ」


新たなトラブルの元を自分で作りたくないのに、作りそうで。


「まいったなぁ」


それを人は”フラグ”というらしいが、俺はそこまでその手のことには詳しくなかった。



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