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New 俺?



見た目を変えるとか、周りから隠れるとか。その手の魔法があったら! と思った。


そういうもののことを、なんあていうんだっけ。


魔法の項目の多さに、見逃している気がして、何とか調べようがないもんかと唸る。


…と、よく見たら見慣れた虫メガネっぽい〇に棒が突き刺さったようなマークを発見。こんなとこまで、元のとこと酷似してるなんて。


〇― みたいなマークを、指先で触れて…っと。


お! 文字の入力可能だ、これ。やっぱそうじゃん。


『魔法 見た目 変える』


で、出るかな。


『指先に光魔法の力を込めて、次に変えたい色をイメージしてから瞼の上から~』


とか出てきた。


え? なに、目の色でも変わるの? でも、そうじゃないんだよなぁ。なんて書けば出るかな。


『姿 識別しにくくなる』


余計なことは書かずに、これでどうだ!


キーボードの音が聞こえそうな勢いで、虫メガネのマークを指先で押す。


画面が一瞬真っ白になってから、一つの魔法が表示された。壊れたかと思った。真っ白になったの初めてで。


『認識阻害系』


お! これか? これだよな?


その部分を指先で触れると、その系統の魔法の一覧が表示された。


対象が人物だけのもの、物質対象、それから…最上のものは、相当のもので。


「国一つ分の阻害が可能??」


そうなることが想定されて出来た魔法なのか、それともどんどん作って行ったらそこまでのが出来ちゃったのか。


なんにせよ、国一つっていっても、広さは全然違うだろう。日本サイズか、中国サイズか…とかさ。


「魔力、どんだけかかるんだろ。広さに比較してとか…か?」


ベッドにうつ伏せになりながら、まるで本を読むようにステータス画面をじっくり読んでいく。


「でも、阻害がかけられるなら…人の目を気にしなくてもいいのか? ん? …待てよ? それをやるにしても、確認してからだな」


そうだ。


もしも、顔写真付きの身分証明が必要なところがあったら、そっちも阻害をかけなきゃいけない。というか、身分証を偽造ってことになりかねん。それはどうなんだ? 普通の買い物や映画館での支払い程度なら、支払いを時計やカードでしても、俺の顔がその場で表示されるようなことはなさげだけど。


「…なんて聞けばいい? 支払いの時に、身分が不確かだと支払いにカードは使えませんか? って? 誰かのカード盗んだ人間みたいじゃないか」


レジの中の方で、どんな風に表示されているかなんてわからないからなー。


「んんんー…。とりあえず、生きてく中で、自分の身分を確認される場所…調べてみるか」


熱はすっかり引いたみたいだ。頭がかなりスッキリしている。


ここのパソコンを使ってみよっかな。小さい時計を端末代わりにして出てくる画面は、ちょっと小さくて見づらい。


同じようなもんかなと電源スイッチを探して、らしき突起を指先で軽く押す。


フォン…ッと懐かしい音が聞こえ、起動する時のあのモーター音が小さく鳴っている。


職場で毎日のように耳にしていた、あの音。


同じ音を聞いて、嫌悪感でも抱くかなと若干警戒しながらの立ち上げだったけど、今のところは大丈夫そう。


イスを引き、本格的に画面と向き合う。


キーボードらしきものは、パソコンを立ちあげたと同時に半透明の物が宙に現れた。


マウスがないなと思っていると、デスクの上に白く光っている場所がある。大きさは指先ほど。


トン…と触れてみると、小さなパネルで『認識完了。指を動かすと、マウスと同じ働きをします』と表示されている。


さっきのは、認識…か。指紋認証なのか、違うモノか…謎だな。


何も触れる感覚がない状態で、体が覚えている動きを繰り返す。


右クリック、左クリック、それからこのあたりを指先でスライドさせていけば、画面がスクロールして…と。


問題なく操作できることを確かめて、本格的に検索開始だ。


不思議なことに、タイピングの音がする。見た感じ、固さはないキーボードなのに。


(まあ、タイピングの音がした方が俺は好きだからいいけど)


自宅で使うパソコンは、スペックどうこうよりもキーボードの打鍵の感覚だけで選ぶような俺。


だから、キーボードが見た目こんな感じだったんで、静かなんだろうなって予想してただけに、ある意味嬉しい誤算。


「あー…アイスティー飲みたい。ガムシロ二つ分の」


んんーっとイメージして、アイスティーを出す。


「…ふは。んまー」


体調も良くなり、魔法についての問題もほぼ解決。せいぜい、昨日一昨日の行き先で嫌な思いをしたことくらいだ、なんかあるったら。


カチャカチャと打鍵しては、画面をスクロールして、欲しい情報を探る。


「まー…アレだよな。特に何も問題なきゃ、買い物も食い物も家の中で事が済むんだから、引きこもっても問題ないよな? 出たことで問題が起きてるんだから」


そうぼやきながら、それが一番楽だよなと思い知る。


でも、俺が今調べていることは、それとは真逆の話になるわけで。


平穏に出かけるために打てる策を練ろうとしてるんだからさ。


「なんつーか…複雑」


この台詞も、ここに来てから何回か口にしている気がする。


「えー…っと? どれどれ?」


住居や端末の契約時、カードの契約時、役所の手続き時、通院の保険証みたいな役割も含んでいるようで、そこも書いてある。


ま、だいたい契約ものだな。


普通の買い物じゃ…出ない? でも支払い方法によりけり? うーん…カチャカチャと打鍵しながら、別の検索ワードにしてみたり。


『一般のカードの使用時には、サインの代わりに指先認証が可能。上位のカード使用時には、使用者との照合が必要なこともあり、ご本人かの確認を求める場合があります』


確認、する場所があるのか。うーん。


というか、あれだよね? 俺が持ってる時計だのカードだのを、俺以外が使えるシステムなの? 俺みたいな人間、あんまりいないんだよね? 間違って置き引きとかスリに遭うとかあった場合の、その後のフォローが甘いってことなんだろうか。


「俺以外を認証しない、もしくは、俺から一定の距離離れたら、機能しなくなるとか…構築できないの?」


俺のふりして使えるなら、俺の時計はいくらでも行きたいとこに行けるし買いたいものも好きなだけ買える。


それこそ、俺が求められているだろう行動がとれる。


…と、ここまで来て、時計のシステムとそれの内部的なものについて再確認をすることにした。


俺がいうような機能をつけているか否か。


答えは『NO』で。


紛失した場合に連絡が来たら利用不可って出来るかな? ってくらい、か。


そんなん、元のとこと一緒じゃん。クレジットカードの紛失時によくある話だろ。


失くした時点で利用不可、それと本人のとこに戻った時点で即時利用可能、顔がもしも変えられるなら指紋とか人の汗や血やそういったもので、唯一無二の確認方法にした方がいいんじゃないか。


実際のところ、俺だって今考えてるのが顔を変えようって話で、それがあるなら俺からアイテムを取ってしまえば顔さえ同じなら、誰にだって使えるだろ。


あれだ、あれ。


元いたとこの怪盗なんちゃらとかが、顔を精巧につくられたマスクとかで顔を隠して盗みに入ったりがあったよな? アニメやドラマのそれは、魔法が在るここでなら尚のこと…可能なんじゃないの?


それを思うと、顔だけで認識=安全じゃない気がして、この世界大丈夫? ってなる。


「でもさ、その関係ってどこに話を? ってなったら、警察? それともそういう仕組みを統括している場所があるってこと?」


その部分をどうにか出来るとするならば、どこに聞けばいい? 俺がそれをどうにか出来る算段が出来て、安全に過ごせるってなった時に、どこかで相談できるのか?


悶々としながら、パソコンの前でうなる。


うなった理由は、たった一つだ。


それをどうにかするってなったら、一番避けたいことをしなきゃいけないから。


「結局は、誰かに会わなきゃ話が進められないってことだよな」


どっからどこまでの上層部か知らないけれど、俺って人間がその手の話をしに行くとなれば、あの豚カラーの場所じゃないけど上の人間が出張ってくる。


「つまりは、そういうこと…か」


俺を上手いこと使えないかとか、懐柔できないかとか、何らかの縁を繋げられないかとか。そういう感情を持っている人間を相手にしなきゃいけない。


ってか、言わないで勝手にやれそうだったらやってもいいんだろうけど、後からバレた時に面倒なことになりそうとは思ってて。


後からの面倒ごとと、先の根回しと。どっちが自分への負荷が少ないだろうと考えたら、俺的には後者っぽい。後になってから、後でもよかったじゃんって言いそうな気配もあるけど、現段階でどっちもどっちな気がしてる。正直な話。


「認識阻害系、かけてる自分の姿って…確認できるのかな」


ふと思った。


俺の髪色がおかしいってのはわかったんだけど、どういう時に変化するのがわからないままなのと、俺自身にはそれは一切認識不可だという事実。


認識阻害の方でも、鏡を見てこれは俺だってわかればいいけど、自分が見た時にいつもの自分が鏡の中にあったら混乱しそうだ。


「ひとまず、認識阻害をかけてみて、ステータス画面を開いてみるか」


やってみて、仕組みを知ろう。


アイスティーを一口飲んで、パソコンから離れてクローゼットの方へと近づく。


扉を開けて、大きな鏡を自分へと向ける。


えー…っと? 個人に向けての場合は、イリュージョンか。広範囲で阻害をかける時は、ミラージュ。その時は広範囲で阻害がかかるけど、中にいる人物に個別にかかるわけじゃないから、そこの変化はない。…なるほどね。


えっと、イメージが大事だよな? こういうのって。


どんな人間になろう。


大きな鏡の中には、それなりの身長にアッシュグレーのウルフヘア? の俺がいて、淡い紫色の瞳でどこか不安そうな顔つきをしている。


「イメージ…イメージ……。なにかアニメのキャラクターとかなにか…」


とか思ったけど、かなり長いことその手のものに触れてこなかったツケがここにきた。


「…………あ」


ふと思い出したのが、高校の時に仲良くしていたやつがやっていたアプリ。それの推しを思い出した。


たしか、真っ赤な髪に、エメラルドみたいな色合いの瞳で、肩よりもすこし上めの髪の長さで…っと、後なんだっけ、前髪は長め。身長は、俺の好みで172くらい! 性格は俺様…だっけ。高圧的な顔立ち! どう考えても、俺の顔とは真逆。年齢は…22くらい。どうせなら、この機会に獣人っぽく、耳と尻尾が欲しい。あー…うーん…猫耳に長めの尻尾…で。


ここまでイメージで来ていたらいいだろう。


長めの尻尾は、猫の齋藤のイメージが入ってしまった。でも、猫の齋藤に変化するわけじゃないしいいよな? ただの耳と尻尾のイメージなんだし。


(…よし! イリュージョン!)


心の中で呪文を唱える。


…と、耳に入ったのがシャボン玉が耳元で弾けたような音。


そっと目を開けてみると、目の前には見覚えのない男の姿。


控えめな三角の猫耳に、左右に揺れる長めの尻尾。


目つきが悪そうで、口元は口角が上がっている。まるで、ふふんとか言っていそうな感じで。


長めの前髪の隙間から、宝石のようなきれいな碧の瞳がのぞく。まつげなんか、めちゃくちゃ長い。肌がキレイ。ツヤツヤしてる! 


「なに? これ! カッコイイ!」


おかしな方向へ興奮しはじめてしまった俺。


「こんな顔だったら、アイドルとかやってそう! こう…なんかすごい衣装着て!」


「そうだ!」


急に思いつき、ネットショッピングで即配達を選んで服を一着購入。


細いチェーンの飾りがつく、黒がベースの服。


下は白いスラックスで、裾の方に向かって細くなっていく仕様だ。


襟にはいろんな飾り刺繍やいろんな色の宝石に似た石が貼りついている。


ジャケットの腰あたりから波打ったみたいな布が斜めにぶら下がってて、くるっと回るとそれがいい感じに揺れるんだ。


「こんなんだったな! アイツがやってたの」


なんかアイドルっぽいのがいっぱい出てくる音ゲーじゃなかったかな。


俺にはそんなのやってる余裕はなかったから、校内で休憩中にやっていたのを時々見てた。


フルコンボったら、大騒ぎしてたっけな。アイツ。


「こんな感じで…こう!」


鏡の前でガキみたいにはしゃいで、そんなことやってこともないのにポーズなんか取ってみて。


「カッコイイ…俺」


なんて、今まで言ったこともないことを口にして。


ややしばらく経ってから、俺は鏡の前で羞恥に打ちのめされていた。


「ちょっと前の俺、帰ってこい! 落ち着け!」


四つん這いになって、鏡の中の自分を見るのがたまらなく恥ずかしくなるほどに。


(バカだ! バカすぎる! 実はまだ熱があるんじゃないのか?)


ここまでバカだとは思っていなかった。


「他にやること、あんだろうがよぉおおおお」


思いきり忘れていること。


自分の目で認識出来ているかと、ステータス的にどうなのか…などなど。


とりあえず、鏡の中の俺は別人だった。そこまではオッケー。


そっとクローゼットを閉じて、それから呟く。ステータスオープンと。


あの三頭身っぽいキャラが、二つ並んでいる。


元々の俺と、阻害後の俺と。しかも今つけている衣装ごと表示されている。


「俺の黒歴史が出来てしまったじゃないかよ…」


それを表示したままで衣装を脱いでいく。もう、こうなったら衣装って言い方だよな。これ。


脱ぐと今度は脱いだ状態で表示されている。…うん。現実に忠実。


文字でのステータスの部分はというと、※がついてこう書かれている。


『※認識阻害中・効果は解除まで継続。ただし三日以上かけたままだと、定着して戻せなくなり、他の阻害がかけられなくなります』


って、マジか。


どこかに長期的に出かけても、どこかでかけ直しをすればいいってことか。


「…ん?」


よく見ると、また見づらい色合いで←が書かれている。


なんかの注意書きか? それともまた次のページへ…みたいなあれか? とそこをよく見てみる。


【服装もイメージすると同時阻害に適用されます】


「…えぇえええー」


思わず愚痴るように声をあげ、そのタイミングで在ることを思い出した。


「そういえば購入履歴ってもん、存在したよな?」


それだ、それ。


俺の意図なんかしったこっちゃなく、こんなアイドルっぽい衣装を購入したのが、役所かどっかの機関には知られてしまう…ということだ。


『こんな衣装着て、どこへ行ったんでしょうね?』


なんて話題にあがっていたら、どうしよう。俺の意図はそうじゃないかったはずなんだ。


「…マージでやらかした…。まさかのこんな場所で」


見知ったやつらがいっぱいいるとこじゃないから、まだマシなのかもしれなくっても。


「今期の決算前の漂流者は変わった人間ってレッテル貼られるだろうが!」


さっきの衣装を手にし、そっとクローゼットにしまう。


封印だ、封印。


「今日はもう、絶対に…出かけない」


いろんな調べがついていないってこともあるけど、何がどう自分を辱めるのかわからない。


「…くっそ。風呂だ、風呂」


変な汗をかいて、気持ちが悪い。


着替えを手にして、部屋を出る。


そのままの姿でバスルームへと向かった俺は、シャワーを浴びて髪を洗い、その時になって鏡を初めてのぞき。


「うっわぁあああ!」


自分じゃない姿だったのをすっかり忘れてて、風呂のイスから転げ落ちた。



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