第十一章 『御前会議』 その4
「サアラ・・」
夜の泉の淵で眠るサアラに、シャラはそっと呼び掛けた。
ぺルのいない今、以前のようにサアラは泉の淵でシャラを待っていた。
月の光が映し出す姿態とその面差しに魅了されたシャラは一瞬、押し黙った。美しさがいっそう際立ち、纏う生成りの衣さえ、その滑らかさが違う感じがする・・。
「・・サアラ・・今宵、夢は何を語っている・・」
シャラは、眠るサアラの耳元に囁いた。
・・暫くすると、目を閉じたままのサアラの口許が微かに動き、何か小声で語りはじめた・・。
シャラは顔を近づけて静かに聞いていた。が、そのうちその顔に怪訝な表情が浮かんだかと思うと、次第に険しくなり・・茫然とした顔でサアラの語る夢を聞いていた。
ひとしきり語り終わると、サアラは再び一時の眠りに入った。夢が彼女を疲労させたのだ。
その傍らでジッと座り込んでいるシャラの表情は、果たして何かを考えているのか、或いはその夢に捉えられて、ただ立ち上がることが出来ないだけなのか分からない・・。
カンの視力は飽くまで一時的とはいえ、リデンの治療で急激に回復した。
数ヶ月に及ぶ『リデンの森』滞在時には、自ら回復に努めることで森の霊力を心身に浸透させ、以後の〝魔月〟の影響から逃れることが出来た。が、今の状況は急を要する。
そして骨折の方は、文字通りのお手当てで・・なんと二日で普通に歩けるようになった。
カンは程なくして、兵士達を連れて出発した。
脱出時には見ることの出来なかった地下道の様子を松明で照らしながら進んでいると、何と途中で行き止まりになっていた。
前回にはなかった厚い壁が行く手を阻み、いくら押してもびくともしない。
仕方なく、所々にある途中まで堀り進めたような脇道を調べながら戻っていると、その一つに散々格闘した格子鍵の扉が付いていた。
「待て、待て・・」
力任せにその扉を壊そうとしている兵に、カンが言った。
皆、不思議そうな表情で見守る中、カンは慣れた手つきで幾つかの格子の動かし方を試してみた。するとなんと三度目で暗証丁番号に当たり、簡単に開いた。
「ほお・・」
一斉に感嘆の声が上がる。
カンは、やや得意顔でその扉を開けると・・。
〝お先にどうぞ・・〟
と、云った仕草で兵達をその先の通路に誘った。
その先にこれまた厚い木の扉があった。が、その閂はこちら側から簡単に開き、その向こうにヒンヤリとした空気の流れる狭い通路が続いていた。
・・その中をかなり進んだ辺りに階段が見え・・その下に男がひとり倒れていた。
「ダシュン!!」
カンが吃驚して叫んだ。
微かに息はしている。何日も閉じ込められ衰弱が激しかったが、地下道の岩盤から僅かに浸み出す地下水を飲んで生き抜いたようだ。
カンは兵士達にダシュンを担がせ、直ぐに『春の森』へと引き返した。
その後、その樵小屋を探し当てて調べると、大きなカマドには火を燃やした形跡がなく、人が隠れるための偽装のようだった。他にも、こう云った機関小屋がある可能性がある。
いつの間にか・・平和な森の一角に、魔窟の神殿へと続く不可解な迷路が張り巡らされていたのだ。
『精霊の森』では警備兵を増員して、森中の小屋や祠の捜索を開始した。
更には、あらゆる周辺の森も調べることにした。