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第十一章 『御前会議』 その1



 『春の森』の住人達は、衛兵達を引き連れて、輝くような白馬に乗ってやって来る美しい女性の姿に驚きの声を上げた。


「リデンさま・・!」


 その声に『精霊の森』の女王が、まるでピクニックにでもやって来たかのような様子で笑顔を見せた。


「まあ・・皆さま、久しゅうなりますね。ごきげんいかが」

 

 思わぬ『森の精霊』の出現に大喜びの住民達に、そう声を掛けた。

 金糸をあしらった純白の衣を纏い、その顔をこれまた美しく透ける薄物で覆っているその姿は、萌える若葉の中で輝くような光を放っている。


 そして、『春の森』でも取り分け美しいリデンの御用地、『春の園』へと到着した一行を村の代表達が出迎えた。


「リデン様。お待ち申しておりました」

 

 それから一行の荷物を下ろして全ての準備が整う間、リデンはテンドの案内で数人の従者と共に、森の外れに向かった。



「・・リ、リデンさま・・」

 

 サアラはこれまで目にしたことのなかった『森の精霊』の突然の訪門に驚き、戸惑っていた。その精霊の女王が一体、何のご用向きなのか・・彼女の住むこの雛びた家にやって来られるとは・・。

 それから、すぐに我に戻ったような面持ちで、サアラは質素だがよく整った家の中に招じ入れた。


 そこでリデンは従者を下がらせ・・すぐにサアラと二人だけになった。


「・・サアラ、何故そのようにして顔を隠すのです?」


 ・・しばらく黙ってこの家の主を見つめていたリデンは、そう言って切り出した。


 サアラは慌てた。顔を煤で覆うのは習い性になっている。今ではあまり意識することのない化粧のようなもので、美しい森の女王の前でもそのままだと云うことを忘れていた。

 言い淀むサアラに代わって答えるように・・リデンの従者が、泉から汲んで来た水を満たした桶を運んで来た。


「リデン様、お言いつけ通りにいたしました・・」

 

 そう言って従者が下がると・・リデンは、一緒に添えてあった柔らかい薄布をその少し温めて花の香りのする水に浸して絞り、それをサアラの顔にソッと当てて煤の化粧を落とし始めた。

 一瞬驚いたサアラだったが、後はそのまま従順に女王のなすがままでいた。

 

 ・・やがて、全ての煤が落とされると、そこから現れた顔をリデンはジッと見つめた。

 それから、自らも被っていた白い薄物をゆっくりと外し・・サアラの前にその面差しを表した。


「・・リ・・リデン・・さま・・」

 

 サアラの口から、囁くような驚きの声が漏れた・・。



 再びリデンが『春の園』に戻ると、そこには素晴らしい幕屋が設えられ、美味しいお茶の用意が出来ていた。

 精霊の女王に挨拶するために村人達が花や自慢の料理などを持って集まり、しばし和やかな雰囲気に包まれていた。どんな時でも、リデンはその場に軽やかな空気を運んで来る。

 

 そんな中、ひとり浮かない様子のカンにリデンが尋ねた。


「・・視力の方はいかがですの・・」

「はい・・せっかくリデン様の森で回復した視力ですが・・」


 そこでリデンは、カンのために『癒しの泉』から運んで来た水を薄布に浸して、その両目に静かに当てた。その治癒の水を・・カンの盲いた目は瞬く間に吸収していく。


「目を開けてごらんなさい・・」

 暫くしてリデンが言った。


 ゆっくりと目を開けたカンは驚いた。直ぐ近くのものなら容易に識別できる。

 カンは改めてリデンの霊力を実感した。

 

 そこに、サアラを村に連れて行ったテンドが戻って来た。


「おや、目が少しもどったのかい」

 

 それまで耳にしていたややドスの利いた声音にしては、極めて善良そうな顔がそこにはあった。


「カン様、ご無事で・・」


 その声に振り向くとハルだった。

 伝令の報告を受け、急いで駐屯地からやって来たという。彼はペル姫誘拐の件についてミタン国王から全権を任されていた。因みにコウはミタン側へ逃れた後、無事彼の部隊に保護されていた。


「ああ・・だが、一足違いで、ぺルさまを助けそこなってな・・一応、ダシュンが後を付けて行ったが、どうなったか・・」



 やがて村人達も引き・・午後の美しい木漏れ日の中、精霊の女王リデンの臨席の許、『精霊の森』とミタン側、そして、たまたまミタンに滞在していたトルクの大臣も参列しての御前会議が始まった。


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