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『月の迷宮』(第2巻)「禁断の塔の戦いへの叙事詩より 及び 外伝」  作者: nico


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外伝 その七 『繭玉の森』②



 そしてデュラはある日、その美しい少女に出会う。


 精霊の女王リデンがシュメリアに行ってしまって以来、『精霊の森』ではその留守を預かるため、数人の精霊達が交代でリデンの役目を担っていた。そして『リデンの館』の閣僚達と共に、女王の帰還の日まで森を守るため務めていた。

 

 少女はそんな『リデンの精霊』となるべき候補の一人だった。


 

 美しい精霊の娘にそれまでの虚無的な傾向を払拭させるほど夢中になったデュラは、森の中で少女と逢瀬を重ねた。


 ・・やがて月満ちて娘は女児を出産し、その後しばらくの間、繭玉の深い森の中で親子三人幸せに暮らした。


 母親となった娘がその腕に抱いた赤子を見つめて微笑むと、若い父親はそんな二人ごとその腕に包んだ。

 その時、ふっと何かを思い出したように、娘の顔が曇った。まるで木漏れ日がふと翳るように・・。

 怪訝そうな表情でデュラはそんな様子を窺う。いつも明るい精霊の娘が、そんな表情を見せたことはこれまでになかった。


「わたし・・リデンの・・精霊なの・・」

「・・うん」


 妻が『精霊の娘』だと云うことはもちろん知っている。

 ただ、デュラが精霊の娘について知っていることと云えば、とびきり魅力的で美しく、ただ自分に幸せしか与えてくれないということ・・そして新たな発見は、これまた素晴らしい母親だということ・・それだけだった。


 その時、まるでそんな一瞬の沈んだ気持ちを浮き立たせるかのように、辺りに小鳥の囀りが聞こえた。

 娘はその囀りに耳を澄ませると顔を上げ、微笑んで言った。


「・・大丈夫よ・・見守り続けるわ・・」

「うん、僕も絶対、二人を守るから・・」

 

 そう言ってデュラは、妻と我が子をしっかりとその腕に包んだ。赤子がまるで応えるように笑った。

 晴れた雲間から木漏れ日が注ぐ『繭玉の森』に、そんな三人をそっと愛撫するように優しく風が起った。



 そんな或る日・・。


「・・どうしたの、大丈夫かい・・」

 

 若い父親が心配そうな様子で訊いた。


「・・ちょっと、寒いわ・・」

「寒い・・」


 清浄な空気に漲る『精霊の森』は、風邪の治癒ならともかく、風邪を引き起こすことなど極めて不得手のはず。が、確かに新妻の様子がおかしい。

 『精霊の娘』が、風邪を引くのか・・?


「あ・・火、火を起こすよ」

 

 そんな季節ではないが・・。


「・・レ、レナの森の・・」

「え・・」

「『レナの森』の・・木でないと・・ダメなの・・」


 娘はこの寒さは〝精霊の病〟から来るもので、『レナの森』の木から作った薪を燃やして温めることで治るのだと言った。

 デュラは〝精霊の病〟と云うのが何なのか分からなかったが、とにかく急いで『レナの森』まで行って、薪を持って帰らなくてはと思った。


「待ってて・・すぐ戻って来るから・・」


 が、実際のところ『レナの森』まではどんなに急いでも往復で数日は掛かる。


 

 その翌日、やっと辿り着いた頃には、すっかり陽が傾いていた。それでも早速、木を伐採しようと斧を振り上げた途端・・。


「誰だァ・・許可なく、この森の木を伐ろうとする奴はァ!」

 

 と、物凄い怒鳴り声が聞こえた。


 その声がした方を見上げると、森の木と同じ位の背丈の物凄い大男が睨み付けるような顔をして立っていた。


「誰だ、おまえは・・勝手にこの森に入って来て、この俺に挨拶もねえとは」

「す、すみません・・気がつかなくて・・」

「木が衝かねえだと・・ずっと真っ直ぐここに立ってんだ、木が衝かねえはずはねえだろ、遠くからでも見えらあ」

「すみません・・急いでいたもので。妻が病気で、この森の木の薪を持って帰らないと大変なんです」

「・・そりゃ、気の毒だな。俺だってそんな話が分かんねえ奴じゃねえんだ」

「は、はい、そう云うわけですみませんが、木を伐らせて下さい」

「おお、いいともよ・・ところで、この森の木の薪が必要だってえことは・・おまえの嫁さんは精霊の娘か?」

「はい、そうです」

「ヒョー、ラッキーだな、おまえ。きれいな嫁さん貰って」

「はい。とてもラッキーです」

「そっかァ・・好きなだけ持ってけ」

「ありがとうございます」

 

 デュラは木を伐採し始めた。番人は高い処からそんなデュラを興味深そうに眺めていた。


「ところで、立ち入ったことを訊くが・・おまえの嫁さん、どうしたい・・何があったんだ?」

「な、何だか急に寒がって、精霊の病とかって言ってました」

「何・・!」

「・・・?」

「精霊の病だと・・」

「・・はい」

「止めろ!」

「え・・」

「今すぐ、木を伐るの止めろ・・とっとと帰れ!」

「ええ・・!?」



「あら・・こんなところにいたのね」

「ほんとだ・・しばらく姿が見えないと思ったら」

「わっ・・赤ちゃん!」

「わ・・可愛い・・」


 森の精霊の仲間達が、小屋で眠っている娘を見つけた。


「あら、大変・・熱があるわ」

 

 一人が娘の額を触って言った。


「ほんとだ・・ここには何もないわね・・薪も薬草も・・」

 

 小屋の中を見廻して言った。


「リデン様のお館に連れて行きましょうか・・」

「そうしましょう・・」


 そう言うと、一人が小屋の外に出て歌うような声を出した。小鳥がそれに応えるように唄い、どこかへ飛んでいった。

 

 暫くして、優しげな面差しの大男が姿を現した。男は朦朧とした状態の娘をそっと抱き上げて抱えた。

 娘が何かブツブツと囁いた。


「え・・何・・?」

  

 仲間の一人が訊いた。


「・・デ・・ェ・・」


 が、そのまま再び目を閉じた・・。

 仲間の一人が柔らかい布に包まれた赤ん坊を抱きあげ、その腕に抱えた。


「ふふ・・」


 その赤ん坊の顔を覗き込んで、仲間達は顔を見合わせて微笑むと小屋を出た。


「こっちの路を行きましょう・・近道よ・・」

 

 そう言って足を踏み出すと、更に一歩踏み出すごとに繭玉のような緑の木々の枝葉が、そっと閉じるようにして割れてゆく・・。と、そこに現れた柔らかい草の小道が、精霊の娘たちに抱かれた赤子を『リデンの館』へと連れて行った・・。


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