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『月の迷宮』(第2巻)「禁断の塔の戦いへの叙事詩より 及び 外伝」  作者: nico


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外伝 その四 『リデンの辞書』②



 一方、近頃目にする立派な輿で行かれるのは、いったいどのような御方が・・と、目をやった都人達は皆、驚きのあまり息を呑んだ。

 

 半分薄物のヴェールで隠れているとは云え、その際立つ麗質は誰の目にも明らかだ。諸国からの美女が集う王都だが、そういったこの世の女人の美しさとはまったく違う。

 南国の暑い陽射しの降り注ぐ炎天下、その麗人を乗せる輿はそれだけで心地よい涼しい風を運んでいるかのようだ。まるで美しい緑の森の渓谷を・・ゆっくりたゆとう小舟のように・・。


「・・い、いったい、どなたなのかしら・・」

「陛下の・・新しいお妃様・・?」

「まあ、なんて素敵なの・・!もしあの御方が本当に新しいお妃様におなりだったら!」


 森林国家の民とは違って、シュメリアでは誰も遍く世界の森を統べる『精霊の森』の女王の存在など知らない。


 しかしそんな御幸を何度か繰り返した頃、都の一部で暴動が起こり、すぐさま戒厳令が敷かれてしまった。

 

 

 以来、既に数ヶ月も経っているが、リデンもその贅を尽くした広い屋敷と王宮の内に閉じ込められていた。


 屋敷には、深い森を住処として来たリデンのために造られた広い庭園があった。しかしそこに配された木々の木陰も、南国の強い陽射しを遮るには充分ではない。

 そこでリデンは、その間、『精霊の森』から運ばせた多種の苗木を一本一本自らの手で植えては、丹精込めて育てていた。

 

 

 そして王宮では夜毎、そんなリデンのために豪勢な宴が催されていた。


「ご滞在はいかがですか・・折角いらして頂いたのに、ご退屈なされてはおりませんか」

 

 久し振りに都に戻ったシュラ王が、その宴の席でリデンに尋ねた。


「退屈・・?」

 

 そう問い掛けるように言って、リデンは続けた。


「夜毎の宴に・・豪華な晩餐・・。ところで、この素晴らしいお料理の数々はいったい、何方から来るのでしょう・・」

「・・厨房は別棟にございますが、お気に召されましたか」

「いいえ、シュラ殿。どこで採られたものなのか伺っているのです。都の周りはどこも月の砂漠ばかりで、どこにも作物が育っているような緑地が見られないのですが・・」

「都の近くを流れるメリアの向う岸には、広大な農地がございます」


 メリスの周りに拡がる農地も全て砂に埋もれた。しかし、シュメリアの〝母なる大河〟と古来より謳われるメリア河で隔てられた地域は、まるでその母が我が子を庇って守ったかのように被害を食い止め、砂が堆積する事もなかった。

 そのため以来、そこで大規模な開墾を行なっているという。


「まあ、なら、ぜひそこに伺ってみたいですわ・・!」

  

 珍しくリデンの瞳が輝きを帯びた。


「リデン様は、密かに偵察・・などと云う、姑息な真似はなさらないのですね・・」

「偵察・・?」

「ええ・・」

 

 そう言ってシュラは微かに笑った。何か古い冗談でも口にしたような気がして・・。



 その後しばらくしてやっと戒厳令も解かれると、リデンは早速、開墾地に向かおうとした。が、何故かその度に手違いが生じ、延期になってしまう。

 それで再び都の中を観て回り、その度に噂の〝謎の麗人〟を一目見ようとする人々でごった返すようになっていた。

 

 そんな或る日、その人混みの中で、ある騒ぎが起こった。


「おまえら、どこから入り込んだんだ・・!」

「こんなところまで来るな!」

「つまみ出せ!」


 護衛の者達が騒ぎを収めようとしてその場に行くと、その人垣の中で、ボロを纏った数人を周りの者達が蹴ったり殴ったりしている。

 

 そんなうっかりとした光景をリデンの目から遮るように、急いで輿の幕が下りた。しかしその一瞬、その中の一人が埃で汚れた顔から覗く真っ直ぐな目で、リデンを見つめた。


「・・あの者達は」

「は、お見苦しいところを・・難民の連中が混じり込んだようでして」


 それまでリデンが目にしていたのは、王都自慢の壮麗な建造物や美しい街並み、富裕層の居住区や着飾った都人の群れ・・と、いったところばかりだった。


 ・・しかし、都にはまた別の姿があった。


 今や不毛の大地に実る作物はなく、飢餓に喘ぐ民は各地へ逃れていた。シュメリアの各都はどこもそんな難民の流入で軒並み人口が膨れ上がり、特にこのメリスではそれが顕著だった。

 更に治安も乱れ、犯罪も増えたため、難民達の主要市街地への立ち入りは禁止されていた。


 そういった事に不満を持つ者達が、先の暴動を起こしたと言われている。そのため王府は、増加した民の収容と雇用対策のために、新たな市街地の拡張工事を本来の都市部からは離れた都の東側で始めていた。


 リデンはそんな都の現状を把握するため開墾地や拡張区域など、もっと多様な現場を見て回りたかった。しかし、そんなリデンの度重なる要請に困った様子の侍従長が打ち明けた。


「実は、そう云ったことは全て、陛下の命で止められておりまして・・大切な賓客、リデン様のご安全のためでございまして」


 ならば、自身で視察の段取りを組むしかないのだが・・。

 『リデンの森』を発つ前、情報部とは十分に協議し、この都にも手の者を配していた・・はずなのだが、いったい何の手違いか、未だ上手く連絡が取れていない。


 更には、見る〝夢〟も断たれていた・・。


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