第十章 『巣窟』 その2
森に入った二人の後を追ったダシュンは、シャラは地下道を行くものとばかり思っていた。しかし、その洞を横目にそのまま更に森の奥へと進んで行く。
夕刻に出発した二人は途中で松明を点して何時間も歩き、その灯りの跡を見失わないようにダシュンもつけた。
やがて森の中の小さな小屋に辿り着くと、二人はそこに入っていった。上部の小さな窓から松明の火がチラチラと漏れた。
そっと小屋を一周して見たが、正面以外はどこにも出入口はない。
ダシュンは正面近くの木立に身を寄せると座り込み、機を窺った。
小窓の灯りが消え、二人とも寝入った頃を見計らって立ち上がると、出入り口の扉をそっと押した。が、ただの樵小屋なのに閂でも下りているのかびくともしない。
これでは、ぺルを密かに連れ出すことも出来ない。朝を待つしかないか・・。
諦めて木立に凭れているうちに・・いつの間にか、ウトウトしていた。
やがて辺りが薄っすらと明るくなって来た頃、再びそっと戸口に寄って扉を押してみる・・と、開いた。が、誰もいない。
(いつの間に・・)
大きなカマドがあるせいか、小屋の内部はより一層狭かった。
(・・ン・・?)
木の床面の一部に、四角く切り口がある。
その窪みに手を当てて持ち上げてみると開き、その下に階段が続いていた。
(ちくしょう、ここから消えたのか・・待てよ・・閂が外してあるということは、外から仲間が自由に出入りするためか・・よし!カラクリは見破ったぜ!)
してやられたにしては敵の策の発見に得意になったダシュンは、入り口の閂を下ろすと、小屋の中にあった松明に灯を点して階段を降りて行った。
やはりその先に、狭い地下通路が続いている。
周りの岩壁には所々地下水が浸み出し、中はヒンヤリとした空気が漂っている。
(・・そこいらじゅうに地下道を掘ってんのか。なら、こっちは端から暴いてやるぜ!)
シャラ一味の目論見がだんだんと分かって来たような気がして・・さて、何処に出るのかと進んで行ったが・・何処にも出なかった。
松明が殆ど燃え尽きたところで、その狭い通路は、突然、終わっていた。
頑丈な木の壁のようなものが行く手を阻み、いくら押してもビクともしない。
ガックリとしたが、戻るしかない。
(どうせペルさまを連れて行ったのは神殿だろ・・この地下道を発見出来ただけでも・・)
そう思って、灯もなく真っ暗な中を引き返し・・もうそろそろと云ったところで、突然、何かにぶち当たって躓いた。
手探りで、それが小屋への階段だと分かった。
(・・開けっ放しにしておいた・・はずだけど・・)
妙な気分のまま手探りで階段を上り、頭上に手を伸ばして床板を思いっきり押し上げてみたが、ビクともしない。
(・・誰かが入って来て閉めたのか・・いや、そんなはずはない・・誰も入れないよう閂は下ろした・・)