#3 小学生で生死を分ける戦いを経験してしまった…
その日の夜、僕は夢を見る。思い出したくもない…だが決して忘れてはいけない、6年前のあの日の出来事の夢だ。
あの日、街は絶望に包まれた。帳が降ろされたかの様に空は見えなくなり、突然現れた不気味な人の形をした白い怪物たちが破壊行動を行いだし、人を殺し始めたからだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
当時小学校1年生で登校中だった僕は、その怪物を遠目から見た瞬間、お母さんが居る家へと走り出していた。
「っ!あ…ああぁ…」
だが案の定というか、僕は怪物に遭遇してしまい、窮地に立たされてしまう。小学生の僕よりも遥かに背の高い怪物が、腕を大きく振り上げて僕に向かってそれを放ってくる。
「・・・っ!!」
ほぼ無意識に顔を大きく右に傾けることでそれを避けると、左側を強い風圧が通り過ぎていく。それと同時に頬に痛みが発生し、掠ったことで血が流れ出したという事を理解する。
僕は恐怖を感じながらも、瞬時に背負っていた黒いランドセルを怪物に向かって思い切り投げつけながら後ろに下がって距離を取り、全力で考えを巡らせる。
どうする?この怪物は強い。今の攻撃も、運が悪ければ避けきれずに頭を潰されていたと確信できるほどの威力のものだった。ならば逃げるのが正解なのだろうが、僕と怪物の2倍近い体格差では走って振り切れる気がしない。
「ふぅ…」
軽く息を付き、呼吸を落ち着かせる。やるしかない…この怪物を倒すしか道はないのだ。
僕は即座に身を翻して全力で走り出す。背後からはズシズシズシと怪物が追いかけてくる足音がするが、それでも僕は振り返らずに走り続ける。目の前の家の塀を出来るだけ最短の動作で乗り越え、庭に侵入する。この家は近所の田中さんの家で、何度かお邪魔したこともあり庭にキャンプ用の斧が置いてあることを知っていた。倉庫の横に置かれていた3000gほどの重さの斧を手に取った瞬間、背後から爆発のような破壊音が聞こえてくる。斧を構えて振り向くと、先程僕が飛び越えてきた2mほどの塀を破壊して怪物がこちらに向かってきていた。
「はぁ…はぁ…」
向かってくる怪物への恐怖からか少し息が荒くなるが、その恐怖心を無理やり抑え込み、両手で持つ斧を横向きに振りかぶる。
その時既に怪物は僕の目の前まで迫ってきており、再び僕に向けて大振りの拳を放ってくる。通常、幼い僕の腕では怪物の攻撃を防げるだけの力がない。しかし咄嗟の判断で斧を孤を描くようにして振ることによって遠心力が発生し、その上で奇跡的に完璧なタイミングで怪物の腕に当たった事によって、なんとか怪物の腕を逸らすことに成功する。いや、それどころか怪物の腕は斧の軌道状に切り裂けており怪物が一瞬怯みを見せる。自分の力に違和感を覚えつつも、僕はその隙を見逃さずに、しゃがんで足下にある少し小さめのナタを左手で掴んで怪物の頭目掛けて投擲する。シュッっという風の音が発生した次の瞬間、僕が投げたナタは怪物の頭…それもど真ん中に命中する。それによってよろけた怪物に対して畳み掛けるように斧を両手でもち、いつぶりかの明確な殺意を込めて怪物の首に向けて思い切り振り上げる。
「・・・・・ふぅ…」
自分でも驚く事に振った斧は綺麗に怪物の首を切断し、ズドン…という少し重厚な音とともに怪物の頭が庭の芝生の上に落下する。
「・・・っ!はぁ…はぁ…はぁ…」
それによって緊張が緩んだからか、今の戦闘での疲労が一気に襲ってき、僕はその場で地面にへたり込む。
何なんだこいつらは…不気味な見た目に、塀をいとも容易く破壊する程の怪力。こんな存在…今まで見たこともない。誰が生み出して何のために生まれてきた?どれくらいの数がこの街に居る?こいつが出現しているのはどれくらいの範囲だ?種類はこいつのようなやつ以外にもいるのか?など、次々と疑問が湧いて出てくる。それと同時に、この先もこの怪物たちと命がけで戦闘しないといけないと考えると、無理やり抑え込んでいた恐怖心が溢れ出てきて、まるでダムが決壊したかのように僕の身体を支配する。
「・・・ああ…ぁぁ…」
身体の震えが止まらない。ああ、まただ、死の恐怖を感じて身体が言うことを聞かなくなるこの感覚…克服したつもりでいても、この感覚は呪いのように僕に付いて回る…
それからどれくらいの時間が経ったのだろう…最終的にお母さんを助けないといけないということを思い出し、恐怖を再び抑え込んで無理やり立ち上がる。
「・・・覚悟は、決めた…」
僕は誰に向けるわけでもない…強いて言うなら自分自身にそう宣言するように呟き、田中さんから斧とナタを拝借してお母さんがいる自分の家へと走り出すのだった___