最後の直線
目の前のノービスは蛇腹剣と呼ばれる伸びる剣使用して、器用にそして的確に相手の竜騎士のみを叩き落としていく。
あれって、前世じゃ架空の武器だったがこの世界じゃ実用化されてんだな。確かに空中でも範囲に攻撃が出来るから相性がいいな。
最強の名は伊達ではないようで、一切敵を寄せ付けずに竜騎士を叩き落としていく。これは無双状態って奴ですねわかります。
「竜騎士団員ってのは普段は味方じゃねえのか。そんなにバンバン叩き落としても大丈夫なのか?」
「ご安心を、そんなやわな育て方をしてはいませんよ。これぐらいで死ぬようならそこまでという事です」
手厳しい竜騎士団団長の言葉に、周りに残っている竜騎士達を震え上がらせる。逃げる者まで現れた。まあ、この気迫のノービスを相手にしろってのが無理があるな。
俺でも逃げるもん。
「おやっ、敵前逃亡は死刑だと教えたはずですが。国を守る竜騎士団の団員が、情けない姿を国民の前で晒すなど言語道断です」
「いや、待て待て。全部追いかけていたらライアン王子に追いつかなくなっちまうぞ」
「なるほど一理ありますね。では、軽く相手をしながら進みましょう」
少しするとほとんどレースの参加者はいなくなっていた。こんだけ暴れたら、命の危機を感じてレースを中断するものも現れるだろう。
残るのは命知らずの奴らだけって事だ。
残りの距離を見ると、ゴールまでは半分と言った所だな。少し余裕が出てきたところで、ノービスには聞きたい事があるんだよな。
「なあ、今少しだけいいか?」
「ええ、思ったよりも余裕がありますのでどうぞ」
「俺の乗っているドラは人間の親に捨てられたらしい。それで、アンタのとこの竜騎士団の団員であると突き止めたんだが、何か知らないか?」
その言葉を聞いて、ノービスはドラの顔をよく見るように見つめる。
「……なるほど。確かに見覚えがあると思ったらそういうことでしたか」
「その様子じゃ、何か知ってるみたいだな」
「ええ、もちろんです。私の母が無くした竜の卵の子ではないでしょうか」
母親かぁー。そうだな、二十年も前の話の可能性があるんだもんな。
家族を持っていても不思議じゃない。
「それにしても、見ただけでよくわかったな」
「それはですね。私が乗っている竜も母から譲ってもらったものなので、彼女は貴方の竜と親が同じなのです。どうですか、顔が似ているでしょう」
俺はノービスに乗る竜の顔を見る。うーん、似ているような。
いや、わりぃ。全然わかんねえわ。竜の顔なんて全部一緒に見えるわ。
「それじゃ、今は名簿から抜けているのは……」
「結婚したからですね」
そうか、統一戦争の時だから死んだとばかり思っていたが、普通に結婚を機に引退しただけなんだな。
「このレースが終わったら会いにいっても構わないか?」
「ええどうぞ。母も気にしていたので喜ぶと思いますよ」
随分とあっさり話が終わってしまった。どうやらこの様子だと、ドラは捨てられたってわけじゃないのかもしれないな。
「なんにせよ、よかったなドラ。レースが終わったら会いに行こうぜ」
心なしかドラも嬉しそうであった。ここでようやく先頭を飛んでいるライアンを発見。
俺達は急いで近寄る。
『レースも最終局面です!! 残ったのは、ライアン王子。ノービス団長。アダン副団長。そして、飛び入り参加の救世主のみとなりました。一体誰がレースを制するのでしょうか!!』
「ノービス!! まさか、君まで救世主側だとはな」
「ライアン、私は聖女様との結婚には反対と何度も言ったはずよ」
「理由はなんだ。幼馴染の君の事を無下にする事はしない。私を素直に祝えない理由を教えてくれ」
「それは……」
ここでノービスが初めて俺の前で顔を赤らめて下を向いた。
えっ、そんなに表情筋が動くんか。てか、なんだよその反応。
お前まさか。
「自分がライアンの事を好きな事を言って……危ねえ!?」
俺の体を蛇腹剣が貫きそうになりそうなのを何とか回避した。
照れ隠しにしては殺意が高すぎるって。
「何でだよ、てっきり性格がやばいから断られていると思ったんだが」
「私はバレないようにやっている。そんなヘマはしない」
自信満々で言っていい事じゃねえだろ。
てか、自分の事は棚に上げまくりで俺に助言してたんかよ!?
自分の恋愛については全然置くてじゃねえか。もっとグイグイ行けって、お前の性格ならいけるって。
「チャンスじゃねえか。ここで言っちまえよ」
「こんな大勢の前で断られたら、全員殺したくなるからダメです」
「すげえ物騒な事言いやがる!!」
「よくわからんが、レースが終わったら話し合おうじゃないか。最近よそよそしかったのも気になっていたのだ」
ノービスはこくりと首を縦に振った。いや、今言えって。
これ下手したらレースする意味がなくなる可能性があるんじゃねえか?
俺が代わりに言ってやろうかとは言えない。多分、蛇腹剣が俺の命を奪おうとしてくるもんな。
『さあ、残りは最終直線です!!』
実況の言葉に俺たち全員がスピードを上げる。クッ、話を聞いている間に抜けばよかった。
「王子、ここはこのアダンが止めます。さあ、王子はゴールへ」
「すまん」
「救世主殿もぼさっとするな。さっさとライアンを追うがいい」
「サンキュー」
俺ライアンを追うようにドラに命令する。アダンと呼ばれた人物が俺を止めようとするが、それをノービスが止める。
「なんだアダン、お前来ていたのか。まさか私と戦うつもりじゃないだろうな? いくら、竜騎士団副団長でも私を止める事はできんよ」
「わかっておりますとも、しかし少々お時間を貰う事はできましょう」
「ほぉ、私の時間は高くつくぞ」
と言う後ろで恐ろしいやり取りが聞こえた。いや、今は雑念は無視。
レースに集中だ。状況はライアンには若干負けてはいる。
だが、巻き返せない距離じゃない。問題は直線しか残ってねえから巻き返しにくいって事だけだ。
「ふんっ、諦めろ。残りは直線のみ、直線は竜騎士の実力がよくわかる。ここまでよく健闘したと褒めてもいい」
「なんで勝った気でいやがる!? 見下してんじゃねえぞ!!」
だが、俺の気迫とは裏腹に、少しずつだがライアンのとの距離が離れていく。
ここで、実力の差が痛い程に響いてきた。だが、諦めねえ。
もう少しだけ近づけば行けるはずなんだ。
「頼む、ドラ!! 俺をゴールまで届けてくれ!!」
ドラもわかっていると言った表情で気合いで近づいていく。
乗ってる竜の根性は俺の方が上のようだな。ドラはようやってくれている、ギリギリまで追いついた。
だが、まだ負けている。ゴールはもう目の前だ。
「私の勝ちだ!!」
もう俺にはライアンの声も、観客の声も聞こえない。
たった、一つだけ聞こえる声がある。
「アリマ!!」
エクレアの声が聞こえた。
「ドラーーーー!!!!」
俺の呼びかけに速度はそのままでドラは俺を投げ飛ばした。
俺は背中から放り出される。そのまま、ゴールを俺だけで通過した。
ルールにはこう書かれている。一番早くゴールしたやつの勝ちだってな。
『勝ったのは救世主!!!! まさかの相棒の竜に投げ飛ばしてもらうという前代未聞の方法だ!?』
俺の勝ちだ!! だが、無情にも俺に体は落下していく。
まあ、空中に投げ飛ばされたんだから当たり前だ。
俺は無駄に動かない。信じているからだ。
『しかし、空中に投げ出された救世主はこのままでは地面に激突するぞ!!」
俺の体は地面とキスする事はなかった。何故なら、ドラが拾い上げてくれたからだ。
そう、ドラは何度も落下する俺を空中で拾うのが一番上手くなったのだ。
この一週間で一番上手くなったんだぞ。
「はぁぁぁぁぁ、流石に今回は肝が冷えた」
ドラの背中で、ゆっくりと降下していく俺を迎えにくるエクレア。
俺はくたびれた体を無理やり動かして、エクレアに向けて拳を突き出すのだった。




