エクレアの新しい成長
俺が疲れ果ててベッドで眠っているとなんだか重さを感じた。仰向けで眠っているので、お腹の辺りに重さを感じる。
「そろそろお昼ですよ。起きた方がいいですって」
俺の上に乗ってるのはエクレアであった。時間を見ると、確かに昼頃になっている。
だが、俺の体はドラとの格闘で疲れ切ってしまっている。
昨日の夜から朝まで格闘していたのだ、これだけの睡眠で体のだるさが回復するはずもない。
「眠いから無理」
そう言って布団を被った。勘弁してくれ、せめて夕方近くまで眠らせてくれや。
中途半端に寝たせいでまだまだ体が怠いんだよ。
「えぇ!! 私と今日はアステリオンを散策するって約束したでしょ!!」
「いつするかとは言ってねえだろ。また来年とかでいいんじゃねえか。じゃあ、おやすみー」
しかし、俺の上に乗って永遠と抗議してくるエクレア。
「重いんだよ!!」
「女性に重いとか言わないでください!!」
「言われたくねえなら、まずは俺の上から降りろや」
「なるほど、確かに一理あるかもしれませんんね」
やっと、俺の上からエクレアがいなくなってくれた。
「ふぅ、んじゃおやすみー」
「行きなさい、子聖竜ちゃん」
「キュピーーーー!!」
んっ、なんだ。顔になんか張り付いてる、ゴツゴツしてんだけど。てか、息吸えねえんだよ。
俺は顔に張り付いている物体を鷲掴みして投げつける。俺に投げられた子聖竜は悲しそうな声を出してエクレアの方に行った。
「あぁ、なんて事するんですか!!」
「なんて事するんですかじゃねえよ!! 見てわからんか、俺は疲れてるんだよ!!」
「ふむ、つまり疲れが取れればアステリオンの散策に付き合ってくれるって事ですよね?」
「もし、疲れがなくなればな」
だが、それは無理だろう。
エクレアが持つ回復の奇跡は傷などを一瞬で治せてしまえるが、疲れなどはとれない。
実際に今日の朝にボロボロになって帰ってきた俺を見て、エクレアが傷自体は全て一瞬で治してくれた。
これだけでチートなんだけどな。
「どうやらアリマは、私が王都を出てから成長していないと思っているようですね」
ドヤ顔で俺にそう言ってきた。実際にこいつは王都を出てから成長している様子は全くと言っていいほどない。
それは悪い意味じゃねえ。元々、回復と戦いに関しては完成しているからだ。
これ以上、どこを成長させるんだって感じ。
「お前が王都を出て成長した所なんて、体重ぐらいなもんだろ。デブまっしぐらな生活してんじゃん」
「はい、違います!! 体重はキープしてますーーーー、そもそも私は食べた栄養は全て胸に行くので体重にはいかないんです」
とネストとは違って豊満な胸を張るエクレア。じゃあ、これ以上どこが成長するんだよ。
「新しい力をお見せするので少し起き上がってくれませんか?」
「起き上がったら最後、無理矢理起こす気だろ。絶対に起き上がらねえぞ」
段々こいつと会話していたら眠気も無くなってきたのだが、起き上がりたくはねえ。
だが、あんまりにも体を揺らしてくるので仕方なく起き上がる。
「はい、起き上がったぞ。どーするんだよ」
「こうします」
俺はまだ眠いのでまぶたを擦りながら、ぼっーとエクレアの方を見る。
すると、何だか柔らかい感触が俺を襲ってきたのだ。
一瞬、自分に何が起こったのか理解できなかった。俺はゆっくりと今の自分の状態を確認する。
なんと、エクレアが俺に抱きついているではないか。 えっ、なに、どういう状況なんだよ!!
「どうやら私の新たな力に驚きを隠せないようですね。そう、ついに私は体内にある疲労も回復できるようになったのです。ただし、こうやって密着しなくてはいけませんが。アリマ、聞いているにですか?」
俺の耳にはエクレアの言葉なんか聞こえていない。いや、それどころじゃねえんだって。俺も健全な男子やぞ。
綺麗な女性に抱きつかれて、何も思わねえはずがねえだろ。相手がエクレアだったとしてもな。
エクレア自身は俺と密着している事に対してはなにも思っていない様子だ。
これは、そうじゃねえな。ただ、胸が俺に当たっている事に気づいてだけだな。
目の前のしたい事にしか集中出来てねえのが、いかにもエクレアらしい。
俺のお目目はもう目が覚めちまったよ。
「あのさ……胸当たってんだけど」
ここでようやく自分がどんな行動をしているのかを客観的に知った聖女様は、顔を真っ赤にした。
しかし、抱きつくのをやめない。
「恥ずかしいならやめればいいだろ」
「しかし、途中でやめると効力が無くなってしまいます!! ここは、恥ずかしいですが、我慢です!!」
「まあ、今まで散々恥ずかしい格好してきたし胸を当てるぐらい大丈夫か」
「思い出させないで!!」
まず、普段着も動きやすいミニスカシスター服。バニーも海賊の服もドレスも着たわけだしな。
「これっていつまで続けなきゃいけねえんだ」
「ちょっと黙ってください!! まあまあ、集中と時間がかかるんです!!」
俺に発言で集中力を乱したせいで余計に時間がかかっているのだろう。この状態は俺の体にも悪いので、早く終わってくれねえかな。
お互いに真正面から向かい合っているので目を逸らす。
時間が経つのが遅く感じてしまう。すると、部屋の外からノックと声が聞こえる。
「お食事をお持ちしました」
宿の従業員の女性の声が聞こえた。俺が寝ている間にエクレアが頼んだのだろう。
そう考えるのが自然だ。だが、今の状態を見せるのはよろしくない。
それは、エクレアもわかっているだろう。まあ、断るやろ。
「あっ、どうぞ」
「いや、待てエクレア!! 今はまずいって!!」
「へっ?」
俺の必死に止める声は宿の従業員の女性には聞こえなかったようだ。入ってきた従業員と目が合った。背筋が凍ったように冷たい。
俺の状態をもう一度だけ確認しよう。エクレアに抱きつかれている状態を従業員に見せつけている。
これはね、もう終わりやね。
「失礼しました。お楽しみ中でしたね、食事は机の上に置いておきますから」
「あっ、待って、絶対に誤解してますよね!!」
誤解を解くにも従業員は勢いよく出て行ってしまった。外では興奮したような宿の従業員の声が、俺の耳に聞こえてきた。
「聖女様と救世主様が抱き合っていたわ!!」
「えっそれって、つまりそういう事でしょ」
「これは完全に出来てるわ。もう間違いない。ライアン王子よりも一歩リードよ」
「大変、みんなに教えてあげなくちゃ」
待て!! こんな話をマダムネットワークで伝えられたら、お外歩けなくなっちゃうって!!
だが、俺が立ちあがろうとするがエクレアがそれを許さない。
「もう少しで終わりますから、動かないでください!!」
見られた事は恥ずかしくないというよりは回復に集中しているから気づいていないのだろう。
エクレアの力で抱き締められた俺は完全に動けない。ちなみに、体に溜まっていた疲労はエクレアのおかげで無くなった。
そして、眠気は俺のこれからの事を考えると吹き飛んだのであった。




