認めてもらうためには
もう一度、竜の場所へと戻って行く。時間的には夕方近い。
相変わらず同じような感じで眠っている。どうやら、この湖の前が彼が捨てられていた所だったらしい。だから、ここにずっといるみたいだ。
ようは、この場所に自分の親がいつか来るかもしれないって考えて、来るのをいつまでも待ち続けているってわけだ。
だから、自分を買いに来る客には暴れて追い返しているんだな。少し納得がいったよ。
それは俺とは関係ない話だ。俺は何としてもお前を買って外へと連れだすだけだ。その為に久しぶりに正々堂々とやってやるよ。
俺は勢いよく竜の背中に乗った。竜は一瞬だけ驚いた様子だったが、またお前かという顔で俺を振り落とそうとする。
やだね。俺は絶対に落ちねえぞ。
「お前さ、俺の言葉がわかんだろ。ならさ、俺と一発勝負をしようぜ!! 俺が今からお前が俺を認めるまで落ちねえ。だから、お前が諦めるまで俺はお前の背中に死んでも離れないぞ!!」
この譲歩なしの一歩的な提案に竜は止まる。受けるか受けないのか考えているのか、まあお前には無理やりにでも受けてもらうけどな。
「なんだ、俺程度の奴を背中から振り落とせないのか? 拍子抜けだな」
煽るように言うと竜は俺の提案に見事に乗ってきてくれた。俺を振り落とそうと必死に暴れる。俺は腕が引きちぎれそうになるが、それでも必死にしがみつく。
ただ、それを繰り返す。竜が疲れるまで暴れては、俺は必死でしがみついて離れないようにする。お互いに疲れたら休憩する。
何回かの攻防の後に外が夜になっているのを感じる。ここまで来るとお互いに意固地になっていて、負けを認めるのが嫌になっていたんだと思う。
俺もお前も似た者同士って事だな。
途中でジークが竜牧場から出てこない俺を心配して、店主と一緒に様子を見に来ていた。俺に何か言っているようだったが、そっちに耳を傾けている余裕なんてねえ。
俺は無視して竜との攻防を続けた。その内、呆れてしまったのか二人は帰って行った。
湖で月に照らされながら、馬鹿みたいに暴れる竜と馬鹿みたいにしがみついて俺。馬鹿二人がひたすら暴れている光景が湖に映し出されていた。
次第に夜は終わり。朝へと近づいて来た。俺達のよーわからん戦いはまだ続いていた。お互いにここまで来ると引くに引けない状態になっていた。
「うぉぉぉぉ!!」
寝ていないので深夜テンションとなっていた俺は、今もなお竜の背中に乗っている。自分にしてはよく頑張った方だと褒めてやりたいぐらいだ。
その内、ある一定のリズムで暴れていた竜がピタリと動きを止めた。何事かと様子を見るとこちらを見ている。その顔にはもういい認めてやるよと言った顔をしている気がした。
気がしただけで違うのかもしれないが、俺にはそう語りかけているように感じたんだ。竜は何かを待っている様子だが俺には何を待っているのかが理解できない。
その内、しびれを切らしたのか手綱を咥えて俺の手元に持ってくる。
えっ、これを持てって事か?
俺が持つのを確認すると、竜は高く飛び上がった。俺を無視した素早い上昇に体が持っていかれそうになるが、俺は何とか耐えられた。
たくっ、夜中ぶっ続けでお前に乗ってるんだから加減をしろ。加減をさ。そろそろいいか、無理矢理だが俺を認めてくれたようだしさ。
「なあ、お前さ。自分の捨てた親を探しているんだってな。よかったら、一緒に探してやろうか。どうせ、ここから出るついでだよ。お前さえよければだけどな」
俺の言葉を聞いた竜は空中で一回転した。危ねえ!! 喜びを体で表すのは別にいいんだが、俺は竜に乗るのに慣れてねえんだよ。
普通に落ちるからな!!
「もう少しゆっくり飛んでくれよ。なんだその顔は、俺に乗るんだからこの程度で弱音を吐いていたら困るって言いてえのか? はいはい、明日からジークに竜に乗る練習をつけてもらいますよ」
そう言えば、いつまでもこいつの事を竜って呼ぶのもわかりにくいよな。だって、アステリオンには竜はたくさんいるしな。
そういう事で、名前をつけてやることにした。と言っても今は徹夜で頭が上手く回る気がしねえ。とにかくありきたりな奴でいいだろう。
こいつはドレイグ種の竜だから、いやもっとシンプルに考えようぜ。ドラゴンだからドラでいいんじゃねえだろうか。
これ以上凝った名前をつけると俺が忘れちまいそうだしな。
「よーーーーし、お前は今日からドラだ。よろしくなドラ!! なんだその顔は、俺のつけた名前が嫌だって言いてえのかよ。いいだろ、ドラゴンだからドラやぞ。文句あんのか!!」
文句ありまくりなんだがと言った様子で俺を見てくるドラ。でも、もう決めちゃったからな。はいっ、お前の意見なんて関係ありませーーーーん。
「名前に不服があるのなら、お前の本当の親にでもつけてもらえよな。そしたら、俺もその名前で呼んでやるからよ」
俺とドラはゆっくりと空の旅を楽しんだ後に陸に降りて、牧場の店主の元へと戻った。そこには、俺の事をずっと待っていたんだろう。ジークがいた。
「おっ!! やっと来たか、お前さんも馬鹿だねぇ。それで、認めてもらえたのかい」
「悪いなジーク待たせちまったな。バッチリだよ。なんなら、空中で一回転でもお見せしようか?」
ジークと俺は拳を合わせた。ジークは自分の事のように喜んでくれた。
「凄い。あの暴れん坊が……これが、救世主の力ですか」
竜牧場の店主は心底驚いた表情していた。ドラが俺を認めるとは思っていなかったんだろうな、何でもいいがこれで俺にドラを売ってくるって約束だったな。
「店主、んじゃ約束通りドラは貰っていくぜ」
「ええ、もちろんですとも。お代はジーク様から貰っておりますので、微力ながらレース応援しております」
俺はここから竜の取り扱いに対する説明と竜笛と呼ばれる物を貰った。これは竜にだけ聞こえやすい笛であり、これを吹くと自分の竜が寄ってくるらしい。
ジークが見せてくれた奴だな。なんで、自分の竜だけが寄ってくるのか仕組みがわかんねえけど、そういうもんだ何だろうなと思っておこ。
俺は外に出て二人に実際にドラに乗っている所を見てもらう。俺の乗っている所を見たジークは渋そうな顔をしていた。
「こういっちゃなんだが、マジで素人なんだな。こりゃ明日からバシバシしごかなきゃいけなさそうだ」
「えっ、自分で言うのもなんだけど結構様になってねえか?」
「いや、全くなっちゃいねえよ。ドラがお前の為に大分手加減をして飛んでいるんだぞ。本当の竜騎士は自分の竜を手足のように扱うのさ。竜に加減されてるようじゃまだまだだぜ」
「はえー、まじかよ」
てか、こいつこれでも手加減してくれていたのか。俺の事なんて無視して最高速で飛んでいると思っていたんだがな。ドラなりに気にしていたようだ。
俺の気持ちを知らずに地面の草を呑気に食べている。
「とりあえず、修業は二日後から始めよう。疲れているだろうし、一旦休め」
ジークにそう言われると俺の体は疲れを思い出したようだ。体がだるすぎる、ベッドに早く入りてえぜ。
俺はジークと別れて、ドラに乗ってジークがとってくれていた宿へと戻った。




