やる気がねえよりはやる気があった方がいい
ジークと共に竜牧場に来た俺だったが、迎えてくれたのはやる気のない店員だった。まあ、かき入れ時は過ぎてしまっているので後は消化試合みたいなもんだからだろうな。
だが、一応は客だぞ。俺は一銭も金を出さんがな。
「すまねえ店主。竜は残っているかい?」
「ああ、ジークさんか。ジークさんならわかってると思うけど、この時期は碌なの残ってないよ。それでもってならいいが」
「ああ、人を乗せて飛べる竜を探してる。今ある中からでいいから選びてえんだ」
「そこまで言うのなら」
そう言うと牧場の奥の方に入る許可をくれた。どうやら、竜がいる場所まで自分で見に行って気に入ったら買うと言った方法らしい。
ジークの後を追って、俺も牧場の中へと入る。中には見た事がない生き物がたくさんいた。
「こいつも竜?」
俺が見たのは羽がない二足歩行の生き物だ。竜牧場と呼ばれているのだから、飼育しているのは全ての竜なのはわかるのだが、俺が見て来た竜とは明らかにフォルムが違う。
こいつは足が筋肉質だ。
「ロードランナーって種族の竜だ。力持ちで荷物の運搬の手伝いをしてくれるぜ」
「いろんな種類の竜がいるんだな。竜なんて翼が生えて火を吐くぐらいしか思ってなかったよ」
「それは大分偏見が入ってるな。火を吐くのはレッドドラゴンと呼ばれる種族しか吐かねえぞ。翼はねえ方が珍しいがな」
竜ってのは全部が全部火を吐くもんだと思ってたわ。こうなんだろう、前世の記憶でブレスを仕掛けてくるのが普通だと思ってしまっている俺がいる。
竜と言ったら、大きな翼を持っていて火を吐くのが基本だよな。
「それで、お目当ての竜はどこいるんだ?」
「もうちっと奥だ」
ジークについて行くとドンドン竜の数が減って行く。もう周りにいるのは手で数えられる程度になってしまった。
これでは選ぶという行為は出来そうにねえ。
「なあ、レースで使うなら飛べれば何でもいいんじゃねえのか。入り口近くにいた竜の方が数は多かったし、そっから選んだ方が選択肢があると思うんだが」
「いや、入り口付近のは気性のゆるい優しめの竜なんだよ。レースで使うなら気性が荒い負けず嫌いなくらいが丁度いいんだ。それにな、入り口の奴らは戦闘用じゃねえから鱗も弱い。もし、接触しちまったら一発で飛べなくなっちまうぞ。だから、戦闘用で固い鱗に覆われた種族じゃなきゃ駄目なんだよ。あくまで竜騎士のレースだからな」
「その言い方を聞くと空じゃ何をしても構わないととれちまうが」
「そうとって貰っても構わねえぜ。妨害から何でもありのレースだからな、最後に一番になっていた奴が勝者よ」
はえー、蛮族の競技って感じがするな。流石は竜騎士の国ってわけだ。
「結構、野蛮だな」
「怖気づいたか?」
「まさか、俺好みだなって思ってただけだよ」
ただのレースの方が俺にとっては勝ち目がないと言ってもいいだろう。妨害でも何でもありなら、いくらでもやりようはあるからな。
「ここらのドレイグ種が適任だろうな。割と小型だが気性が荒く戦闘向きの種族だ」
「つっても三匹しかいねえけどな」
まあ、文句を言っても仕方がねえのだが。ジークが周りを見て三匹の竜を見比べている。どいつも人懐っこそうに近づいてくる。
ジークは首を横に振った。駄目って事だろう、それは俺でもわかる。
この残っている三匹はどう考えても気性が荒くはない。むしろ、人懐っこさを出してしまっている。俺は可愛いとは思うのだが、それでは過酷なレースには耐えられないって事だろう。
「てんで駄目だな。こいつらじゃ、レース途中でライバルの竜に怯えて逃げ出しちまうのがオチだろう」
「そうは言ってもレースに耐えられるのはこいつらしかいねえんだろ?」
「性格は後で矯正してもいいんだが、その時間もねえしな。困ったことになっちまったな」
だが、この中から選ぶしかないわけだ。んっ、遠くの方にもう一匹いる。そいつは湖の近くを陣取っており、仰向けで眠っている。
体もここにいる竜の大きさを優に超えており、素人の俺でも見ればわかるぐらいには強そうだ。
「なあ、ジークあれはどうだ?」
俺がその竜の方を指さすとジークは首を横に振った。
「そいつには気づいていたが、あえて言わなかったんだ」
「なんでだ、見た目も強そうだぞ。それにあのふてぶてしさだ、性格もきっと我が強いと思うんだよな」
「確かにお前さんの言う通りだと思うぜ。あいつはドレイグ種の中でも体も大きくて強そうだ。だが、一応覚えているとは思うが言うぞ。ここに残っているのは売れ残りなんだよ。この意味が分かるか」
弱くはなくレースに適性のある性格にも関わらず売れ残ってしまう理由か。おおよそ、思いつく事はあるな。
「性格が悪くて誰も乗せたがらないって所か?」
「さらに言うなら、レース出ようとする歴戦の竜騎士達すら選ばなかったぐらいだ。根本的に人間を馬鹿にしていると思ってもいいだろうな。あれを選ぶぐらいなら、卵から育てた方がマシだって誰もが思うだろうよ」
ふーん、でもさそれって逆に言えばあれに乗れさえすれば勝てるかもしれねえって事だよな。歴戦の竜騎士が逃げ出すほどの竜だ。
「いいじゃん、面白そうじゃねえか」
「いや、面白そうって。お前さん、まさかとは思うがあいつを選ぶつもりじゃねえだろうな」
「おうよ、あいつを買おうぜ」
俺は湖の近くで寝ている竜の近くへと近寄った。一瞬だけ目を覚ましたが、俺を見てまた寝てしまった。なるほどな、人間なんて自分の脅威にはならねえって感じか。
確かに見下しているな。
俺はその竜に触れようとしたが、次の瞬間素早く尻尾で弾かれてしまった。手が赤く腫れてしまった。そして、のっそりと起き上がる。竜の目が語っている。
それ以上近づいたらぶち殺すぞって感じだ。
「いいじゃんか、ますます気に入った。お前を絶対に俺の竜にする」
「おう、まじかい。うーん、まあやってみるだけやってみればいいんじゃねえか。だけど時間がねえのは確かだから二日無理だったら諦めるんだぞ」
「わかったよ」
そっから、ジークは竜を買う事を竜牧場の店主に話すと言って戻っていた。さて、どうにかしてこいつに俺を認めさせないとな。




