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受けて立つ

 ライアン王子の言葉にどよめき始めるアステリオン国民達。


「王子様と救世主様が一人の女を奪い合っているわ!!」

「とんでもない事になったわね!!」

「あの野郎、やはり王都で殺しておくべきだったか……」


 とんでもねえ爆弾発言をかましてくれちゃったよ!! 周りの国民が盛り上がっているせいでもう違いますと発言しても無意味だろう。


 人の噂は驚くべき事にねじ曲がって伝わっていくのだ。だって、そっちの方がおもしれえからな。


 案の定、周りの女性達は聖女のシンデレラストーリーで盛り上がっており、イリステラ教の過激派信者の方々の殺意はさらに高まった。


 収拾? つくわけねえだろこんなの。明日には全国民に広まってるわ、噂好きのマダムのネットワークを舐めんなよ。


 エクレアの方を見ると恋仲と言われて満更でもない様子である。くそぅ、まだそういう関係じゃないですよって言いにくいだろうが、言ってもこの状況じゃまともに聞いてもらえなさそうだけどな。


 さて、俺はここからどう返すのが正解なんだろうか。エクレアの事を考えておくのならば、エクレアは旅の目的として人々の救済を目指している。


 誰かの助けになる事が私の使命であると言わんばかりなのは、エクレアの人を助ける姿をまじかで見てきたのだから間違いないだろう。


 じゃあ、一番困るのはこの王族と結婚する事だろう。そうなりゃ、エクレアはアステリオンに留まる事なってしまう。


 エクレアとしても不本意であるだろう。だが、王族相手には立場上で理由もなしに断りにくいというのもわかる。


 仕方ねえな、エクレア貸しだからな!!


 俺はエクレアの肩を抱き寄せる。エクレアはどうやら、俺の行動にまた目をグルグルしているようだ。お前の為にやってんだからな。


 息を吸って呼吸を整える。


「ふぅ……そうだよ。俺とエクレアはそういう関係ってわけだ。だから、ライアン王子には申し訳ないがエクレアの事は諦めてもらってもいいか」


 俺の宣言に火に油を注いだかのように国民達のテンションは最高潮に達している。隣のエクレアは俺がこんな事を言うとは思っていなかったのだろう、一人だけ時間が止まったかのようにこっちを見つめている。


 だが、エクレアの腕の中で気持ちよさそうに眠っていた子聖竜が苦しそうにしている。ここからでもエクレアが凄い力で締め付けているのがわかった。


 エクレア本人はもう停止していて気づいていないようだ。


「聖女様、聖竜様のお子が!!」


 いち早く気付いたライアンが子聖竜に触ろうとしたのだが、子聖竜は尻尾で完全にブロックした。その表情から、お前に助けられるぐらいなら死を選ぶという高潔な魂が見て取れる。


 いや、助けてもらえよ何で拒否するんだよ。


「エクレア、そろそろ離してやんねえとやばいぞ。子聖竜を殺しちまったら大問題だからいい加減に力を抜けって」


 ここで、ようやく瞳に色が戻って来たようだ。旧式のパソコンみたいなロードの遅さだな。


「す、すいません私ったら……」


 と子聖竜に謝った。子聖竜の方はよほど苦しかったようなので、エクレアから自慢の翼で飛び上がり俺の方まで近寄って来たかと思ったら、頭の上で眠り始めやがった。


 これが結構重いのだ。頭の上にいくら子供いえど竜を乗せている。いつもだったら、頭の上から問答無用で叩き落としてやっている所だが、今日は竜を信仰するアステリオン国民と王族の前だ。


 子聖竜をぞんざいには扱えない。すやすやと俺の首の耐久値を犠牲にして眠っている。全く、いいご身分だな。いや、聖竜の子供なんだからいい身分だったわ。


「ば、馬鹿な……聖女様以外にも聖竜様のお子が懐いていらっしゃるだと、私には懐かなかったのに……」


 ライアンは悔しそうな表情をしていた。ほーん、この俺の頭の上に乗っている子聖竜にそんなに気にいられなかったのがショックだったのか。


「お子さんは救世主様を選んだみたいよ」

「この後どうなっちゃうのかしら」

「あの男の宿に襲撃を仕掛ける準備を開始しろ」


 国民の方々が楽しそうで何よりだ。とりあえず、宿は警備がきちんとしてるところにしてもらえるようにジーク言おうかな。


 あっ、いい事思いついちゃったかも。


「いや、このタイミングで何故悪人顔に……?」


 失礼な奴だな。俺はそんなに悪人顔をしていたのだろうか。自分じゃわかんねけど、どうしても俺の性格上我慢できんのだ。


「いやー、俺は子聖竜に好かれるつもりなんて全然なかったんだけどな。まあ、俺が出しているオーラに惹かれてしまったのかな? 救世主だからですからね。罪な男で申し訳ないなぁ」


 本当はこの後にあれあれアステリオンで竜を信仰していらっしゃるのに聖竜様に嫌われているのですか、みたいな煽りを続けたかったのだが流石に辞めた。


 感謝してほしいぜ。


 エクレアは言いすぎだ馬鹿みたいな顔で睨んでくるが、先に仕掛けてきたのはあっちだから珍しく俺にしてはやり返しただけなんだよな。


 それにな、こんな言葉を知っているだろうか。取れる物は取った方がいいという言葉だ。


 金も稼げるなら稼げるだけ取るし、地面のごみ掃除をしたら出来るだけ多くのごみを取るだろ。だからな、マウントも取るんだよ!!


 誰の言葉かって? 俺だ!!


 俺の言葉を聞いたライアン王子は手袋を地面に捨てた。それが何を意味するのかが全く分からない。


「聖女様をかけて、貴様に決闘を申し込む!!」


 この言葉でさらに最高潮達していた国民のテンションは、さらに高い所まで伸びたのは言うまでもない事だろう。ゲージが振り切っている。


「逃げるのか?」


 その言葉を聞いてカチンときた俺は売り言葉に買い言葉で返してしまった。


「もちろん、受けて立つ!!」


 言って後悔したがもう遅かったようだ。

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