捕まってるときに気になるアレ
「聖女の証明ですか。私の力はこの首輪で封じられていて、ほとんど力が出ないんですよね。もう、信じていただくしか」
「お疲れさまでした。俺はこれで帰りますね」
「待って!?」
俺が容赦なく帰ろうとするので、何とか止めようとしてくるエクレア。だって、信用もできないのに牢屋の鍵を探して開けるのはちょっとな。
信用のない彼女を助けるのはあまりにも危険すぎるだろう。
それに、俺のメリットが皆無だし。仮に王様が魔王の手先だったとしても、リュカを誘導して倒してもらうからな。
あっ、そうだ。前々から気になってた事があんだよ。せっかくだし、聞いてみよっかな。
「じゃあ、俺の質問に答えてくれたら助けるのを考えてやるよ」
「本当ですか!!」
「おう、考えてやるよ」
考えてやると言っただけだ。やるとは一言も言ってないんだがな。
こんな展開は普通に生きていたら早々お目にかかれるもんじゃねえ。中々ないこの環境を利用する事にしよう。上に帰っても暇しな。
「鎖でガチガチに縛られているけどさ、お前トイレどうしてんの?」
俺の質問の意味がわからなかったのだろうか、エクレアの時が止まったかのように動かなくなってしまった。
パソコンがフリーズした時みたい。
エクレアは少しずつだが、顔が赤くなっていき恥ずかしそうに顔を下に向けてしまった。
「その、それって、必要な事ですか?」
「うん、気になるし」
これは昔から思っていた事だ。捕まって動けない人間はどうやってトイレとか飯とかこなしてんだろうかってな。
せっかく、実際に捕まっている人がいるわけなので聞いてみたいと思った次第である。
えっ、聖女かどうかと関係あるかってか。ねえよ、単純に俺が興味あるだけだよ。
「あの、そのですね。えっと、ほらっ、私聖女なのでトイレには行かないんですよ」
「じゃあ、俺帰りますね」
「待って!! 言います、言いますから!!」
そんな昔のアイドルみたいな言い分が通るわけねえだろ。まあ、俺としては答えても答えてくれなくてもどっちでもよかったので、言わないなら帰ろうかなと思っていた。
だが、どうやら教えてくれるようだ。最初からそうしてくれ。これで、俺の長年の疑問が解消されるようだな。
「夜は目隠しされながらですが、きちんと連れて行ってもらえます」
「いや、人間の構造的に夜一回しかトイレ行かないわけないよな。今とか見張りもいないようだが、今行きたくなったらどうしてんだよ」
さっきよりも顔がさらに茹でたカニのように真っ赤になっていく。
「そ……ま……し……す」
「すまん、途中何を言っているのか聞こえん」
声が小さすぎてとぎれとぎれでしか言葉がわからない。
「だから、そのまましてます!!」
ああ、納得がいった。エクレアが現在着ている服は上と下が一体となっているタイプで、下の方はスカスカなのだ。そのままするのであれば確かに最適だな。
「となると、下の藁は吸収用の為に敷き詰められているわけだな。理にかなってるな」
「冷静に分析しないでください!!」
顔を両手で隠したそうな素振りを見せるが、両手はばんざいの状態で固定されているのでそれも叶わない。
もう、殺してといった顔をしている。
「ほらっ、言いましたよ。早く、助けてください」
「いや、ためになったわ。サンキューなエクレア。じゃあな」
「えっ、ちょっ、約束と違う。嘘つき!! 恥ずかしい思いまでして言ったのに!!」
「俺は考えると言っただけだ。助けるとは一言も言ってないぞ」
考えるとは言ったな。考えた結果、助けないを選んだだけだぞ。
そもそも、助ける気なんてなかっただろと言われたら、そうですねとしか言えない。
「悪、悪、悪!! 信じられないです!!」
「誉め言葉として受け取っておくな」
俺は立ち去ろうとすると牢屋から悲痛な泣き声が聞こえる。エクレアの牢屋まで戻ると大粒の涙を流したエクレアがいた。
もう、ガチ泣きだった。やめろぉ!! 俺が下ネタで泣かせたみたいな感じになるだろうが。
「いや、そのー、ごめんな。俺も女性を相手にやりすぎた感はありました」
「ひぐっ、えぐっ、私は誰かを助けるために聖女になりました。今もこうして王都に危機が迫っていると思うと胸が張り裂けそうなぐらい辛いんです。お願いします。私にできる事なら何でもしますから助けてください。今までだって、この場所にたまたま人が来た事なんて一度もありませんでした。最後のチャンスなんです。どうか、私を信じてください!!」
胸が張り裂けそうなのはそのでかい乳のせいなのではとか、えっ今なんでもって言ったよなとか言いたかったのだが、言える雰囲気ではない。
どうやら、俺の発言で泣いていたわけではなさそうだ。
そこは、安心した。俺はエクレアの様子を見て、目線を合わせるためにしゃがんだ。
俺とエクレアは目が合う。泣いていたので、目が腫れているが何かをなすための真っ直ぐな瞳。
俺はこの目をした人間を一人知っている。小さな頃、勇者を志したリュカがしていた目である。
「いいよ、どうすればお前を牢屋から出してやれる」
「あの、そこの机の上に鍵が」
俺は近くの机の上に置いてある鍵を見つけた。あまりにも不用心すぎる。
鍵を牢屋の近くに置いておくなんてな。牢屋の鍵穴に鍵を差すと牢屋が開いた。
俺はここでようやくエクレアと近くでご対面となった。
エクレアの腕を縛っている鎖を見る。取り外そうと思い、とりあえず上に引っかかっている部分に手を伸ばしたのだが、鎖を外す事ばかりに集中していて下を見ていなかった。
地面にぶつかる衝撃が来ると思い、俺は目を閉じた。だが、不思議と俺の待っている衝撃が来ることはなかった。
どうやら、エクレアにぶつかったおかげのようだ。
まさか、藁がこんなにも滑るものだと思いもしなかった。今度から藁の上で何かをするは辞めようと心に誓う。
「あわ、あわわ」
急いで起き上がろうと手に力を入れると柔らかい感触が手を包みこむ。なんか、マシュマロみたい感じだ。
嫌な予感がしたので、顔だけ起き上がりちらっと見ると俺の手はエクレアの胸の部分をしっかりと掴んでいた。
そして、未だに状況を理解できていない様子のエクレア。すみません、誰かここから入れる保険知りませんか。
どうやったら、事を荒立てる事無くこの危機的状況をくぐり抜ける事が出来る。
「…………」
ここで、素直にすまんと言って離れるのが最適だろう。だが、すまんって言ってもエクレアの性格から考えるに怒られんだよな。
てことは、怒られ損が発生するわけだ。俺は損は嫌いだ。つまり、ここで最適解はこれだな。俺は静かに手を動かし続けた。
「あの、何してるんですか」
「このまま謝っても怒られるからな。なら、これを機に何回か胸を揉ませていただこうと思ってな」
逆転の発想である。どうせ、怒られることが確定しているのならこの状況を上手く利用しようと思ったのだ。
我ながら恐ろしい発想である。
「それが遺言でいいですか?」
いつの間にか手が解放されているエクレア。俺の脳天にエクレアの拳が突き刺さった。
痛みはゆっくりと俺の頭に響いてくる。
「あっ、頭が割れそう痛い!!」
「当然の報いです!! ま、まだ誰にも触らせたことなかったのに」
「俺も初めて触ったし、お互い初めてって事で水に流してくれ」
「うるさいです!!」
怒りのまま立ち上がろうとするエクレアだったが、うまく立ち上がれない様子だ。
変な文様の付いた首輪が悪さをしているのだろうか。
「立てんのか?」
「いえ、大丈夫です。あっ」
流石に想像できたので、倒れる前にエクレアを何とか支える事に成功した。流石に地面にそのまま直撃はかわいそうだしな。
「す、すいません」
「しゃあねえな。これで、胸の話はチャラって事にしてくれ」
「そういう事言わなければいいのに」
俺はエクレアをお姫様抱っこで抱える。エクレアは軽すぎるくらいなので、俺でも何とか持ち上げることが出来た。
ここから、誰にも見つからないように俺の部屋に行かなくてはならない。
そうなると、途中でエクレアが倒れるのは絶対になしだ。こうやってお姫様抱っこするのが効率が良いだろう。
エクレアの様子を見るために顔を見るとうつむいている。どこか、具合でも悪いのだろうか。
「どうした、どっか調子悪いのか」
「いえ、その、何でもないです」
急に借りて来た猫のように静かになったエクレアを無視して、俺は全神経を集中させて自分の部屋へと戻る任務を開始する。
どんな事があってもエクレアの姿を見られてはならない。仮に本当に王様が偽物なのであれば、誰が内通者かわかったもんではないからな。