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俺は一言もしゃべっていないのに

「もちろんです!! 少しの間だけ、聖竜様の子は私が見ておきます!!」


 といつものように頼まれたら断れないの精神で安請け合いをしてしまった。聖竜の神殿の外に出て、エクレアは子聖竜を抱きかかえながらエクレアは地面に膝をついた。


「ど、どーしましょう!? 子育てなんてした事ないですよーー!!」


「なんで安請け合いをしちまったんだよ!!」


 絶対にこうなるとは思っていた。俺らの年で子育てなんてしたことねえに決まってるだろうが。まあ、でもペットのドラゴンの育成と考えりゃいいんじゃねえかと思う。


 ようはそこまで固くならなくてもいいって事だよ。


「こいつ餌とかなに喰うんだろうな?」


「それはわかりますよ。どうやら、聖なる力を与えていればいいみたいですね。今も与え続けてますから安心です」


「へえ、燃費がすげーよさそうじゃん」


 エクレアを親と認識している子聖竜は生まれたばかりなので、甘えたい様子でエクレアにくっついている。聖竜と言えども子供は子供って事だな。


「おいおい、そんなんじゃ立派な聖竜にはなれねえぞ」


「立派じゃない人間がなにか言ってますね。そもそも、これっていきなり大人になるのでしょうか?」


「そんなの俺が知った事かよ。それよりもとりあえず今日は宿で休憩しようぜ。ここの国民の相手をしていたら精神が疲弊しちまったよ」


「それは私もですよ」


 お互い気持ちは同じようだ。何日かは子聖竜の為に嫌でもアステリオンに滞在する事になるだろう、ジークが気を聞かせて宿を用意してくれているとの事だった。


 クタクタだからさっさと風呂入ってさっぱりしたいぜ。んっ、なんだか聖竜の神殿の前が騒がしいな。何だか知らねえが人だかりが出来ている。


 人だかりの場所に行きたくはないのだが、出口は一つしかないので行かざるおえないだろう。俺とエクレアは息を合わせたかのように営業用の態度を作る。


 この状態をキープするのに給料が欲しい。


「さて、覚悟決めて行くか……」


「宿までの辛抱ですね」


 俺とエクレアは意を決したかのようにニコニコ顔で近づいて行くと一人の男が人の波を作っている事がわかった。


 その男はいかにも貴族らしい服装をしていた。他の人達よりも何倍も値段のしそうな服を着ていたからだ。具体的に言うと、趣味の悪いキラキラした装飾を服につけている。


 あれが宝石なのであれば、相当(くらい)の高い人物であることが伺えるな。その男は優雅な足取りで俺達に近づいてくる。


「おおっ、貴方が噂の聖女様ですね。私はこの国の王子であるライアン・アステリオンと申します」


 と挨拶しれくれた。どうやら、この国の王子様だったご様子だ。服装からして納得と言った感じ。一つ問題があるとするのなら、俺をガン無視しているという事だ。


 野郎に挨拶されなくてもどっちでも構わねえけどな。どうやら、最初からエクレア以外には眼中にはないようだ。俺としては喋らなくてすむから楽でいいな。


「ご丁寧にありがとうございます。私は旅をしているだけのしがない女ですので、王族に丁寧に対応されるような事はありませんよ」


「なんと寛大な心の持ち主。お姿が美しいだけでなく、心まで奇麗なんですね」


「い、いえ……そんな事はありませんよ」


 ライアンはエクレアの事をべた褒めだ。今まであんまりこういったタイプに出会った事がなかったのだろうか、少し照れた様子で答えている。


 何でもいいけど早く会話を終わらせてくれや。


「そして、なによりもこの国の宝である聖竜の子にも好かれるという器量の大きさ。やはり、私が足を運んで正解でした」


 ライアンは静かにエクレアの足元に(ひざま)ずいた。俺はこの男が一体何をするのかわからなくて混乱した。それはエクレアも同じ気持ちのようだ。


 目をグルグルしている。どうすればいいのかわからないと言った様子だ。それは、周りで見ていたアステリオンの国民達も同じようで、どよめいている。


 すると、ライアンはエクレアの手を取った。エクレアはその行為に対して完全にフリーズしてしまっている。


「是非、聖女様には私との婚約を考えていただきたいと考えております」


 時が止まったかのようだ。静まり返った空間。日差しの照り付けで流れる汗の感触さえもわかってしまう。


 とりあえず、こいつは今なんて言ったんだ? えっ、婚約ってのはどういう意味だ。風呂に一緒に入りたいのは混浴だしな、やばいぞ頭がこんがらがってきた。


 婚約ってあれだよな。その意味しか考えれねえ。それって、エクレアと結婚したいって意味であってるって事でいいよな。


 静かだった周りも急展開に歓喜の声が上がり始めている。一応だが、エクレアは庶民に近いので聖女と言えども王族と結婚となれば玉の輿だろう。


 婚約してくれと頼まれたエクレア本人は言われた言葉をようやく理解したのか、固まっていた表情が一気に動き始める。


「えっ、あの……婚約って、その、あの、結婚って事ですか!?」


「ええ、もちろんそういう意味です」


 対するライアンは余裕のありそうな表情である。


「いえ、その……私達初対面ですよね。そういう、ご冗談はおやめになさった方がいいと思いますよ」


 エクレアは王族ジョークだと思っているようだ。


「私は本気です。どうか答えをお聞かせ願いますか?」


「い、いきなりそんな事を言われましても」


 と本気で困った様子のエクレアだ。今度はちらちらとこっちの様子を伺うように見てくる。何でこっちを見てくるんだよ。いやなら断ってくれ、俺がどうにかできる問題じゃねえだろ。


 俺は慣れた様に目でアイコンタクトを送った。さっさと断れと。エクレアからはわかりましたとアイコンタクトが帰ってきた。


 エクレアも鬼じゃないだろうし、やんわりと男のプライドを傷つけずに断ってくれることだろう。いきなり告白とか王族じゃなかったらセクハラやぞ。


「失礼ですが、そちらお方はどういう関係で?」


 ライアン王子に何故か俺が睨みつけられる。えっ、俺達ってまだ一言も会話していませんよね。どうして、お前の憎しみに対象になってんだよ!?


 いや、待て。告白した女がチラチラと他の男の反応を気にしている。これは勘違いされても仕方がない条件がそろっているのではないだろうか。


 だとしたら、エクレアの答え方によってはまずい事になるぞ。よく考えて言えよエクレア!!


「こちらはアリマと言います。私の旅にずっと同行している頼れる男性です。魔王と戦っている救世主ですよ、聞いた事がありませんか?」


 とやけに楽しそうに俺の事を説明してくれた。いや、この流れは誤解を生む気がしてならないんだが。ならないんだが!!


「なるほど、そういう事ですか……」


 どういう事だ。何を理解したんだライアン!! 俺達は人間だからコミュニケーションがとれるはずだろう、一度落ち着てくれないか。


 そんな今度は俺の方に近づいてきてどうしたんだい!!


「そういう関係だったという事ですね」


「いや、あの、すいません。どういう関係かお聞きしてもいいですか?」


「お二人は恋仲である。そういう事でしょう」


 とんでもねえ勘違いをされてしまった。

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