お土産に鱗を一つ貰おうと思います
ジークに案内されたのは大きな神殿だった。神殿の外の門では兵士たちが警備しており、中に入る為には検問を受けなくてはならないようだが、ジークの顔パスで入場することが出来た。
「それじゃ、俺の仕事はここまでのようだな。もう少しこの国に滞在するからなんかあったら呼んでくれや。どうせ、酒場で酒盛りしてるからな」
「中までついてこないのか?」
「ここは聖竜様がいらっしゃる神殿だからな。不必要な人間はたとえ王族であろうとも入れないのさ。現在、認められているのはお前さんとお嬢ちゃんの二人だけなのさ」
「そいつは厳重な事だな」
聖竜というのはこの国にとって大分大事にされているみたいだな。アステリオンでは信仰対象に対しての信心深さが異常というのは先程の国民達の様子でわかる。
魔王がいる前から竜と呼ばれる種族は存在したみたいだが、現在では魔物の中にも竜がいるので魔物とそうでない竜との区別がまったくと言っていいほどつかない。
聖竜様とやらも見た目で区別がついてくれればいいんだがな。
「普段は割と誰でも会えるんだが。今はなぁ、子供が生まれるかどうかの瀬戸際だかんな。聖竜様もピリピリしてんのさ。聖竜と言えども親って事だな」
「どんな生物でも我が子の事は大切なのでしょうね」
「そうだな。んじゃ、そういう事で後は頑張ってくれよな。おじさんも陰で応援してるぜ」
そうやって手を振りながらジークは去って行った。さて、残されたのは勝手も知らない俺とエクレアだけとなったわけだ。
「聖竜様って俺がやばい態度とったら焼き殺してくると思うか?」
この国でもっとも信仰されているであろう竜に会うのが緊張してきた。俺の態度が悪くて炎を吐いてくるとかありえそうで嫌だぞ。
「まずは聖竜の前でやばい態度をとる前提なのをやめにしましょうよ。大丈夫ですよ、先程のような感じで猫被ればバレませんって」
先程のアステリオン国民の前で、良い救世主を演じていた俺の姿が余程ツボに入ったのだろう。エクレアは思い出し笑いをしている。
すげーむかつくぜ。
「そもそもさ、聖竜って人間の言葉が理解できるのか。だって、所詮は竜だろ。会話が成立するかどうかも怪しんじゃねえか?」
「そこは行ってみないとわからないんじゃないですか。さあ、扉の奥にいる聖竜様のお話を聞きましょう。アリマはくれぐれも失礼のないようにしてくださいね」
「へいへーい」
てか、なんで聖竜は俺とエクレアの二人に入室許可を出したんだろうか。俺が聖竜なら聖女であるエクレアのみを指定するもんだがな。
ここで立ち話をしていても仕方がないので、俺とエクレアは大きな扉を開けて中へと入って行く。入ってすぐに聖竜だと思われる生き物が神殿の中央に座っていた。
その生物は他の竜とは完全に別の生き物だった。体がガラス細工のような鱗で覆われており、上のステンドグラスから差し込む光でキラキラと輝いている。
だが、儚さなどは全然ない。むしろ、威風堂々とした立ち振る舞いだ。座っているのに立ち振る舞いだ。
なるほどね、こいつは他の竜とは別次元の生き物だな。分類的に竜だろうなって事で、竜って事にしていると言われた方がしっくりくる。
俺は竜と聖竜の区別がつくといいねなんてほざいていたが、前言撤回した方がいいな。こんなのはどんな馬鹿でも一目でわかるだろう。ああ、こいつが聖竜様なんだってことをな。
『人の子達よ、待ってました。さあ、近づいてきてください』
男とも女ともわからない中世的な声が頭の中に響き渡った。どうやら、聖竜が俺達の脳内に直接語り掛けているようだ。
言われた通りに近づいて行く。
『私の為にわざわざ長い旅をご苦労様です。私はこのアステリオンを代々守護する竜、みなからは聖竜と呼ばれております』
「こいつはご丁寧にどうも。俺達は……」
『私が呼びつけたのです。もちろん知っております、聖女エクレアと救世主アリマのお二人でしょう。噂では世界を救済する旅をしておられるとか』
えっ、噂ってどこまで知っておられるんですか。
俺が聖女様の弱みを握って体を好き放題しているとか、聖女様の首に犬の首輪をつけて散歩しているとか、旅の金をケチる為に密航したとかの話を聖竜に知られていたのだとしたら流石の俺も恥ずかしいぞ。
『悪い噂も聞いておりましたが、会ってみるとそんな事はないというのがわかりますね』
聖竜さん、誠に残念だが人を見る目だけはなさそうだな。俺を捕まえていい人ですねって褒めるのは、目が節穴であると言わざるおえないだろう。
「俺も思ったよりも怖そうじゃなくてよかったぜ。くっそツヤツヤで売れそうな鱗してますね。一つお土産に包んでもらってもいいか?」
「アリマ!? ごめんなさい失礼な事を」
なんか調子が出て来たのでいつもの軽口を言ったら、エクレアに凄い勢いで睨みつけられてしまった。いや、聖竜は優しそうだし言ってもいいかなって思ったの。
鱗が売れそうだなと思ったのは本当だよ。アステリオンの国民に高く買い取ってもらえそうだなと思ってさ。金がないのも本当だしな。
『聖女よ、別にかまいません。それに鱗など脱皮のたびに余っております。聖竜様の鱗を捨てるなんてなどと言ってこの国の人々は残しているようなので、よろしければ一つと言わず何個でも包んで持って帰ってください』
「おおっ、人間のユーモアがわかる竜だな。流石、聖竜様と呼ばれているだけの事はあるな」
「もう、調子がいいんですから」
そんな俺達の態度に何故かご満悦の聖竜様。少なくとも火を吐かれて殺されるような事はなさそうだな。




