いざ、竜の国アステリオンへ
イリステラとはメイカーズの件で話がしたいのだが一向に連絡が繋がらない。たくっ、都合いい時しか繋がらねえからな。
一旦イリステラの事は保留にして、俺とエクレアは近くにある港町に来ていた。
目的は土の大地行きの船か風の大地行きの船なのだが、どうにも様子がおかしい。
港町では多くの人が何かを待つように船着場にいる。中にはイライラしている人もいるようだ。
聞いてみるしかないだろう。
「すいません、風の大地か土の大地行きの船ってどうなってますか?」
「ああ、申し訳ないが全便運行停止中なんだ。何でも海に魔物が出たらしくてね、危険だからとの事だ」
「教えてくれてありがとう」
俺はお礼を言って座っていたエクレアの元へと戻った。
「どうでした?」
「弱ったな、海の魔物のせいで当分船はでないそうだ」
「そうですか。ですが、どちらにしても私達はお金がないから船に乗れませんけど」
「それはそうだな」
金がないから船に乗れないのも事実だ。そろそろお金を稼ぐ方法を考えるか、お金を使わない移動手段が欲しいもんだ。
「仕事を探して地道にお金を稼ぎますか。私はもう密航はいやですよ」
「流石の俺でももう懲りたっつーの」
結局、どちらにも行けないのならそうするしかねえだろう。
俺達が途方に暮れていると目の前に見知った顔が現れた。
それは、こことは違う港町で現れたシルドラだ。
「よぉー、相変わらず辛気臭い顔をしているな」
「なんだ、シルドラじゃねえか。俺はてっきり出航しているとばかり思ってたんだが、お前も海の魔物のせいで足止め食らった感じか」
「まあ、そんな所だ。だが、それとは別にお前を探していた」
「俺を?」
シルドラに探されていたと聞いて悪寒が走った。ちょっとカジノから金を拝借したのがバレたのではないだろうかと。
「お前に客だ。町を出て大きな木の場所まで向かえ。俺は伝えたからな」
「はぁ、暇だしいいけどさ」
バレてなくて助かったぜ。
「ああそれと、今度俺のカジノから金を盗んでみろ。海に沈めてやるからな」
「おっすお頭!!」
しっかりバレていたようだ。シルドラに言われた俺達は町を出て大きな木の場所まで向かった。
木の元までたどり着いた俺達だが、見渡しても誰もいない。
「人の姿は見当たりませんね」
「シルドラの野郎、適当言いやがったのか」
そんな話をしているとすぐに異変が起きたのに気づいた。
先程まで、昼過ぎだったのにも関わらず夜のように暗くなってしまったのだ。
「アリマ、あれを!!」
エクレアの声に導かれて上を見上げると、俺達を覆うように空から大きな翼を広げた何かがこちらに降りてくるのだ。
「魔物じゃね?」
「いえ、あのシルエットはドラゴンです!!」
俺も近づいてようやくそれがドラゴンであると気づく。
背中には人が乗っているのがわかる。その人物はドラゴンの背中から降りてきた。
「お前さんがリューネ博士の言っていたアリマって男かい」
降りてきたの結構いい歳のおじさんだ。お爺さんではない感じ。
「そうだけどお前は誰だ。顔に見覚えはねえが」
エクレアの知り合いかと思って見るとポカンとしているのでそういうわけでもないようだ。
「俺はジーク。リューネ博士の紹介でお前さん達を探していたんだ」
リューネっていうと火の大地のエンデュミオンの所長だな。なんだか久しぶりな感じがする。
「それで、俺に一体なんのようだ?」
「なぁに、お前さん達海を渡れなくて困ってるんだろう。俺と相棒が土の大地になら乗せて行ってやろうと思ってな」
ジークは優しく自分の乗っていたドラゴンを撫でた。
「それは嬉しい話だが、何故俺達を助けるんだ。俺はお前に何かした覚えが全くねえが」
「そりゃ簡単い言っちまえばお前さん達には恩があるからよ。これぐらいはお安い御用ってわけさ。ささっ、後は相棒の背中に跨りなって、二人ぐらい軽いもんさ」
そう言われて俺はドラゴンの方を見る。なんだか今にも襲いかかってきそうなフォルムをしている。
ドラゴンは魔物が蔓延る前からイリステラに存在しているので、魔物の分類にはされていないようだ。
「土の大地ではドラゴンと共に戦う戦士がいるとお聞きしていますが、それがジークさんの事なのでしょう。さあ、空の旅へと向かいましょうか、ドラゴンに乗るのは初めてなので楽しみです」
恐れを知らないエクレアは楽しそうにズカズカとドラゴンの背中に乗った。
俺も諦めて跨る。なんだか、ゴツゴツしていてとてもじゃないが快適な旅は無理だと思う。
「よぅし、乗ったな。それじゃあ二名様空の旅へとご招待だ!!」
ジークの命令に従ってすごいスピードで上昇して、飛行を開始するドラゴン。
この速度に慣れていないから純粋に怖えよ。後ろの馬鹿は楽しそうにしている。
俺は恐怖を紛らわせる為にも、ジークと会話をしようと思った。
「それで、お前の言っていた恩というのはなんだ?」
「俺はなとある傭兵団の団長を務めているんだが、俺の雇い主がドンという男だったんだ」
ドンは俺が魔導都市で倒した小太りのおっさんだな。
「その男の命令で火の大地の魔導都市に攻撃を仕掛ける所だったんだが、する必要がなくなったわけだ」
「俺がドンを倒したからか」
「そういう事だ。いや、実際に感謝してんだぜ。金を出しているドンの命令には俺達傭兵は逆らえねえからな。それがたとえ悪い事だったとしてもな」
ジーク達の傭兵団は多額の金でドンに雇われていたのだろう。だが、作戦自体はジークも気に入っていなかった。
俺がドンを倒した事で、ドンの命令を聞かずに済むようになったわけだ。
間接的に俺はジーク達が無駄に争わないようにしたわけだ。
「どうだ、まあ一回ぐらいは送り迎えぐらいはする理由にはなるだろう。後は個人的に頼みてえ事もあるしな」
「おいおい、面倒事はごめんだぜ」
「受けるかは降りてから判断してくれりゃいい。それよりもお連れの彼女は大丈夫かい」
「うひょーーーーーー!! 私は風と一体になってます!!」
「気にしないでくれ、大体いつもあんな感じだ」
「そうかい」
俺とエクレアを乗せてジークのドラゴンは土の大地へと向かう。
俺も飛行速度に慣れてきた。しばしの空の旅行を俺も楽しむのだった。




