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どっちでもよかったりよくなかったり

 俺は地面で仰向けの状態で気持ちよさそうに寝ているエクレアに近づいた。こいつさ、水の大地に来てから何かしたのか。


 とりあえず思い返してみるか。えっと、料理に失敗して魔術国家リーンでは吹き飛ばされて、最後は催眠で操られたと思ったら好き放題に暴れていたな。


 消えていったダマと交代してくれや。


 なんだか、ムカついて来たので俺は気持ちよさそうに寝ているエクレアの鼻を摘まんでやった。段々と苦しそうな顔色になってきた。


 少しは俺の苦しみを味合わせてやるぜ。そう思った時だ、俺の顔面に急に目覚めたエクレアの顔面とぶつかりあってしまう。


「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 俺は余りの痛さに顔を抑える。聖女さんは顔も筋肉で出来ているようだ。


「えっ、今。あれっ!?」


「なんだよ。どうしたんだ?」


 急に起き上がって、唇を押さえている。そして、顔がとても赤い。


「い、今!! 唇同士が当たりませんでしたか!?」


「はぁ、知らんけど当たってねえんじゃねえか」


 俺はそれ所じゃねえんだよ。お前との顔面同士の衝突でまだ前もまともに見えねえんだよ。やめ、やめろ!! 揺らすんじゃねえよ!!


「当たりました、絶対に当たりました!! ちょっと、どうしてくれるんですか!? 私だって初めてはムードのある所で……」


 最後らへんがエクレアらしくなく、ごにょごにょと何を言っているのかが全くわからん。何を気にしてんだこの聖女様はさ。


 しきりに気にしてんのは唇同士の触れ合いか。あーーそういう事か。


「大丈夫だって、キスとかしてねえから。多分当たってねえよ」


「キスとか言わないでください!! そもそも、アリマも顔抑えていたんですから唇同士に当たったかどうかわからないでしょう!! 証明できるんですか!?」


「いや、わかんねえけどさ。もういいじゃん、仮に当たってたとして事故って事でお互いにノーカンにしようぜ」


 もうこれ悪魔の証明だろ。どっちも確実にお互いの唇が当たったかどうかなんてわかんねえのよ。


「よくないです!! 乙女にとっては死活問題なんですからね!?」


「じゃあ、絶対に当たってねえ」


「じゃあって何ですか!! アリマにそもそもキスの感触がわかるって言うんですか!?」


「わかんねえけどそれはしょうがねえだろ、した事ねえんだからさ!!」


 悪かったな、キスもした事がなくてさ。俺の記憶ではどこかの漫画でレモンの匂いがとか書いてあった記憶しかねえよ。


 でも、それは聖女様も一緒だろうが。


「どうせ、お前もキスをした事ねえんだろうが!! もし、した事あるなんて言ってみろや。ドスケベ淫乱聖女に認定してやるからな!!」


「私は大人なのでキスの一つや二つこう……想像で。そうです、想像で感触ぐらいわかりますとも!!」


 何だその中学生の妄想みてえな言い分はさ。そんなの誰だって理想の相手との妄想ぐらいはするわ。


 それでいいなら俺だって、想像した事あるんで当たってないですが通るだろうが。


 てかさ。


「つまり日頃からそういう妄想しておられるんですね。このドスケベ淫乱聖女がよぉ!!」


「し、し、し、し、してないんですけど。たまにしかしてないんですけど!!」


 最後はしてる事を認めてしまい、エクレアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 そもそも、お互いにキスしたことがない事を熱弁しただけという。ただただ、恥ずかしくなっただけであった。


「はぁー、もういいだろ。今回の事はなしって事にしようぜ」


「そうですね。何だか、気持ちがこもってしまいました」


 何とも言えない空気が漂っている。なんだ、この空気。


「やや、そう言えばオルトはどうなりましたか!?」


「おせぇよ!! 目覚めた時に一番最初に気にしなきゃいけねえ事だろうが!!」


 それを今更思い出したかのように言うのはやめろや。キスがどうとかよりも一番大事な事だろ。


 しかも、オルトの所から記憶がねえから、オービタルの件とか説明するのもめんどくせえ。


「お前が気持ちよさそうに寝ている間に全部終わっちまったよ。ほらっ、水の宝玉も手に入れた」


「おおっ、これが水の宝玉ですか。青くキラキラしていて綺麗ですね。すると、もうこの水の大地でする事はない感じですかね」


「まあ、特にはねえな」


「なら、東の町で催眠された人々を見に行きませんか。気になりますので」


 リュカとリーンが帰ってくるのを待つぐらいだったから、エクレアの案に乗った。


 どうやら、オービタルが作り出した結界のせいで、東の町からだいぶ離れてしまったようだ。


 んっ、なんか声が聞こえるな。


「流石、勇者様と大賢者様だ」

「町をお救いくださりありがとうございます」

「勇者様と大賢者様がいれば、世界は安泰だぁ……」


 東の町に戻ると催眠が解けたであろう町の人々から感謝の言葉を受けているリュカとリーンを発見した。


「いえ、僕は今回大した事をしていません。僕の幼馴染がした事です。それに人々を助けるのは勇者として当然の事ですから」


 とリュカが謙遜する言葉は町の人々には聞こえていない様子だ。


 俺の方に気づくと手を振ってきたリュカだったが、俺は少し手を振り返して東の町を後にした。


「あれあれ、水の大地を救った救世主は行かなくてもいいんですか?」


 俺を茶化すようにエクレアは隣にきて笑顔でそう言った。こいつも俺と旅をしてきて、口が立つようになっちまったな。


「いいんだよ。誰が救おうが誰の手柄になろうが俺には関係ねえからな。結果、よければ後はどうだっていいだろ」


 俺は右手に握られている水の宝玉を見ながら歩く。これでようやく一個目か。先はまだまだ長そうだな。


「大丈夫ですよ。私はアリマがちゃーーんと水の大地を救った事を知ってますからね」


「へいへい、それはよーござんした」


 さて、行ってねえのは風の大地と土の大地か。どっちに向かうかな。

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