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勝負を左右したのは

 俺は自分の出した黒い球体よりも先にオービタルの前に向かう事に成功した。さて、ここまで来たら勝ち確定みたいなもんだぜ。


「近づいて何をするつもりだ?」


 まだ、わかってねえのかこいつは。まあ、散々馬鹿にしていた凡人の戦い方なんてわかんねえよな。これでお前は最後のチャンスを失くしたんだぜ。


 俺は持っていた杖を握りしめる。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そう、話はとても簡単なんだ。お互いに魔術が使えないという事は別の方法で決着をつけるわけしかねえわけ。そうなりゃ、後はどっちの筋力が強いかの勝負だろ?


 シンプルな程の原始的で泥臭い戦いだ。きっと、リーンなら別の方法を考えるだろう。だけど俺はリーンじゃねえからな。


 大賢者リーン・ポートメントの力持つ、村人アリマだからな。


 俺は何が起きたのかわかっていない様子の賢者様に跨る。完全にマウントポジションを確立した。


「ひ、卑怯だぞ!! いきなり暴力に訴えるなぞ、魔術師として恥を知れ!!」


「はぁ? さっきから、変な事ばかり言いやがって。せっかくだから賢者様に教えてやるよ。いいか、お前が戦ってたのは魔術師でも大賢者リーン・ポートメントでもねえ。そこら辺の村に住んでる村人のアリマなんだよ」


 こいつは勘違いしていた。それがオービタルの敗因だろう。頭ごなしに魔術師同士の対決だと思い込んでいたのだ。


 知るか、勝手に戦ってろって感じだよなあ。とりあえず、筋力勝負では流石に勉強ばかりしていたひょろがり賢者に負ける気なんてねえしな。


 最近はな、エクレアのおかげか俺も筋力ついちゃったんだ。てめえ如きにはぜってえ負けねえから。


 俺は気絶寸前になるまで、容赦なく拳をオービタルに叩き込んでいく。途中で何かをオービタルが言っていたようだが、聞こえませーーーーん。


 俺は馬鹿で凡人だから、賢者様が喋る言語がわかりませーーーーん。だが、俺は優しいから死ぬまで殴るなんて野蛮な事はしないよ。


 俺は息も切らしているオービタルに見せるけるようにある物を取り出して見せつけた。


「そ、それは!?」


 どうやら、オービタルもご存じのようだ。そう、俺が取り出したのは五賢者の一人である賢者ヴァイオレットから貰った封印の箱だ。


「ヴァイオレットが言ってよな。確か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あれれ、丁度全部の条件がクリアできてるぞーーーー、偶然だなぁ」


 俺はわざとらしくそう言った。もちろん、偶然じゃなくてすべて狙ってやっての事だ。むしろ、俺としては魔術勝負になった方が面倒だったぐらいだ。


 するとオービタルは今まで見た事がない表情で震えだした。なんかのトラウマでも踏んだのだろうかって程に暴れている。


 まあ、今さらどう足掻いてもこのマウントポジションを崩す事は出来んけどな。往生際の悪い奴だな。


「待て、それだけはやめろ!! 貴様わかっているのか、あの女共に管理されるのはな苦痛でしかないんだぞ。それに最近アリシアの様子もおかしいから出来るだけ距離をとっていたんだぞ。いやだーーーーーー、アリシアとヴァイオレットに何されるかわかったもんじゃない」


「まあいいじゃんか。封印がどうなるかわかんねえけど、二人共性格は見なかった事にすれば顔は美人だったしな。これから可愛い幼馴染に管理されるなんて世界中の男の夢を叶えられるんだ感謝しろよな」


「自分で答えを言っておるではないか!! その、性格が問題なんだ。貴様なんかよりも俺様はあいつらとずぅーーーーと長い間付き合ってきたんだぞ。そんな生易しいもんではない!!」


 水の大地で出会った賢者達は俺が出会った中でも断トツでやべえ奴らの集まりだった。これから、ずっと箱の中であれの相手をすると思うと泣けてくるな。


 だけど、全然可哀そうだとは思いません。


「何故こんな事になったーーーー!!」


「俺と敵対したからじゃね? まあ、残りの余生はこの箱の中で楽しくアリシアと暮らしてくれよな。じゃあな、()()()()()()()()()()()()


 俺は名前を言ったと同時に持っていた箱を開封した。みるみるうちにオービタルの体は箱の中へと吸い込まれていく。


 へえ、こんな感じで封印するんだと人事のように見ている。


「貴様の顔は覚えたからな凡人、必ずやこの封印から抜け出して貴様を殺してやるからな。覚えていろーーーーーーーーーーーー!!」


 断末魔と共に箱に完全に封印された。この箱の中がどうなっているのかは俺にはわからない。外の様子がみえているのか、聞こえてるのか。


 とりあえず言っておくか。


「すまんが、俺はどーでもいい事はすぐ忘れるんだ」


 地面に落ちた箱を拾い上げる。カタカタと箱が震えている。なんか聞こえてそうな感じがするな。


 オービタルが封印されたことで、オービタルが作り出していた空間は消え去った。元の東の町の風景に戻った。


「どうやら、終わったみたいですね。野蛮な猿山大将かと思っていましたが、私の想定よりも使える方だったみたいでよかったです」


 もう、驚かねえからな。この人を小馬鹿にしたような声は水の大地に入ってから何度か聞いた覚えがある。俺が後ろを振り向くとヴァイオレットが立っていた。


「いつから見ていたんだ?」


「えっと、貴方がオービタルと二人きりになった所からですかね」


「最初からじゃねえか!! だったら、助けに来いよ。何で、見てるだけで終わらせてんだゴルァ!!」


「ひぇ……何で怒ってるのでしょうか、やはり野蛮な猿という事でしょうか。怖いですぅ……」


 怖いのはこっちの方なんだが、普通は水の大地の危機って話なんだから見てたら助けに入るよね。そういうのもねえのかよ。常識はどこに忘れてきちまったんだ。


 もういいや、ヴァイオレットに何を言っても無駄だと言う事は身に染みている。


「それで、わざわざここまで来たって事はこいつが欲しいって事だろ」


 俺はオービタルを封印した箱を見せる。ヴァイオレットが俺から無条件で取ろうとしてきたので、俺は手を上に上げて取れないようにする。


 俺よりも圧倒的に背が低いヴァイオレットはピョンピョンしているが全然届くきどうにない。


「何故、こんな意地悪を……?」


「あのさぁ、普通は交換でしょ。俺が渡したら絶対にそのまま消える気だったろ、もうさ慣れてんだよ」


 原理は分からないがヴァイオレットは俺が気づかないうちに一瞬で現れたり、消えたりできるのはわかっている。


 こいつの性格的に自分のやりたい事をしたら、有無を言わさずに帰るに決まっている。するなら、水の宝玉と交換以外ありえねえ。


「仕方がありませんねえ。ほらっ、これが欲しかったんですよね。いやしんぼですね、持っていってどうぞ」


「どうして、仕方がないって言われなきゃいけねえんだよ」


 俺はヴァイオレットが取り出した青く光り輝く宝玉を受け取る。それと同時にオービタルの入った箱を渡した。


 へえ、宝玉ってのは初めて見たがなかなか奇麗じゃねえか。イリステラの説明だと、大した力は残っていないらしいがな。


「サンキューって、もういねえし!!」


 案の定であった。ヴァイオレットは俺の目の前から姿を消していた。まあ、最後までらしいと言えばらしいな。俺としても水の宝玉が手に入ったら文句もねえ。

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