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なんちゃって大賢者VS賢者

「なるほどな、貴様の意見はわかった。あくまで女神の信徒として俺様に歯向かうという事でいいな」


「歯向かうも何も最初からお前を倒すつもりだよ。リュカとリーンとも約束しちまったからな」


 リーンは勝たなかったら、容赦なく消滅魔術をぶち込んでくる気がするしな。ここはどんなやり方でも勝たせてもらう。


「俺様が勝ったら女神イリステラの居場所を吐いてもらおうか」


「いいぜ、勝てたらな」


 女神イリステラがどこにいるのかなんて知らねえけど約束してもいいだろう。だって、負けたらどうせ死ぬから言えんだろうしな。


 俺達はお互いに杖を構える。今回の大賢者という職業はほぼリーンを踏襲しているといってもいいだろう、だから一度見た事がある。それがいつもと違う点だ。


 そして、リーンには消滅魔術がある。ありがたく使わせてもらうぜ。


「先手必勝だ、行け消滅魔術」


 空間を削り取りながら無尽蔵に吸収していく黒い球体を出現させる。これの球体は三個は同時に出現させる事が出来るようだ。


 リーンの恐ろしさが分かるな。球体の速度は決して早くはないが、それでもあらゆる攻撃を吸収してしまう吸引力だ。出しておくだけで牽制にもなるし、とどめにもなれる。


「ほほう、本当に大賢者の力をそのまま使えるのか。だとしたら、大賢者程度の知識や教養もそのまま持っていると考えた方がいいな」


「いいのか、そんな余裕をかましていて。その球体は何でも吸い込むぜ」


「言われなくても、嫌と言うほど見た」


 オービタルの方へと向かって行く球体。しかし、オービタルは決して動く事はない。なんだ、あれが危険な物だとわかっていて動かないのは妙だな。


 俺としてはできる事はねえからとりあえずどうなるのかを見守るしかねえな。


 「な、何だと……」


 俺は声に出して驚いちまった。黒い球体がオービタルの目の前で消滅したのだ。消滅魔術なのに、消えるのは黒い球体の方なのかいという事は置いておく。


 大賢者の知識を使ってもこんな現象は初めてのようだ。該当する知識はない。


「ハーハッハッハッ、馬鹿か貴様は!! 俺様がこの作戦をするに当たって大賢者と戦う事を想定していないと思っておったのか!! 当然だが、他の賢者の想定もしてあるぞ。大賢者の力を選んだ時点で貴様に勝ち目などないのだ」


「驚いてみたがそりゃそうか」


 普通に考えて、水の大地で悪い事をする時に一番の強敵は誰かと聞かれたら、俺だって大賢者リーン・ポートメントと答えるだろう。


 なら、対策の一つや二つしておくのが当たり前だというものだ。


 ふむ、試してみるしかねえな。俺は黒い球体を出現させてもう一度オービタルに向けて放った。


「何度やっても無駄だ。馬鹿の一つ覚えだな!! これが本物だったら、すぐに俺が何をしているのかわかっただろうな」


 黒い球体はオービタルの前でまたも消えてしまう。だが、今回はちょっとわかった事がある。それは、オービタルの一定の距離に入ると消えるという事だ。


 俺の中で大賢者の知識と経験を合わせる事で一つの仮説が生まれた。あれっ、俺って賢いなと錯覚しそうになる。


 俺は適当な石を拾う。本当に道端に落ちている石ころだ。それを、オービタルに投げつけた。石はそのままオービタルに手で弾かれてしまう。


 だが、消える事はなかった。石はそのまま地面まで落下した。


「貴様、人に向かって物を投げるなど蛮族のやり方だぞ。水の大地の大賢者の力を使っておるのだ、大賢者らしく振舞え!!」


「悪いが俺は大賢者どころか魔術師でも何でもないんでね。俺は俺のやり方でやらせてもらう。そして、()()()()()()()()()()()()()


「ほう、聞いてやろうか」


 俺が大賢者の力を持っていても、オービタルは間違えなく俺の事を下に見ていやがる。見てろよ、目にもの見せてやるからな。


「お前の周りに魔術だけを無効にする空間か何かを形成しているんだろう」


 魔術は特定の場所で消え去る、だが石のような物体はオービタルに届く。ここから導き出される答えは簡単だ。魔術だけを阻止する空間を作っているのだ。


 これなら、水の大地の魔術師が相手なら誰が相手でも対応することが出来るからな。


「なるほど、ただの馬鹿ではなかったようだな。しかし、それがわかった所で魔術師の力を借りているお前に攻略できるか。俺様の見立てでは、姿を何回も変える事は出来ないと見たが」


 それは外れだな、賢者様。相手は職業ガチャの事を知らねえから無理もねえ、ガチャをもう一回引けば別の姿に転生する事が可能だろう。


 だが、それは金がねえから出来ねえのは俺が一番よく知っている。やっぱり、金が一番の敵だな。だから、俺は今の状態で戦うしかねえってこった。


 ただあの魔術を無効化する結界には多分だが弱点が存在する。というか見つけた。


「でもさ、お前も魔術を使えねえだろう。だって、使えるなら俺に隙がある時に使ってくるはずだよな。使わねえって事は何らかの要因で使えねえって事だろ。大方、お前はその魔術を無効化する結界を張っている時にはお前も魔術は使えねえって所だろ」


 オービタルの顔が一瞬たじろいだのを見逃さなかった。どうやら、当たりのようだな。魔術師殺しのような結界だが、オービタル自身が魔術師である以上その制約に引っかかるのだろう。


「中々やるではないか。しかし、何度も言わせるなよ凡人。貴様にこの俺の作り出した術式『王の御前』を突破する事は出来んだろう」


 その結界の名前王の御前って言うんだ。ふーん、この世界の人達ってちょっと独特の感性をお持ちの様子だ。でも、オービタルの言う事ももっともである。


 確かに俺とオービタルは魔術が両方使えない。つまり、この場合は時間を稼げば勝利となるオービタルの方が有利って事だな。


 俺の方から仕掛けねえと勝利は見えてこねえわけだ。


「さらに、この『王の御前』は俺の意思によって消したりつけたりする事が出来る。この意味が分かるか」


「お前が魔術を使えるようになるタイミングを選べるって事だろ。確かにそちらに有利だが、それはできんだろう。だって、今の俺にはこれがあるからな」


 俺は手に消滅魔術を出現させる。そう、決まれば一発で勝負が終わるこの技がある以上はオービタルは王の御前を消すわけにはいかない。


 そして、これこそが俺の勝利へのピースだ。俺はオービタルに向けて黒い球体を差し向ける。その球体と一緒に俺はもう一つの魔術を発動する。


 それは、リーンが何度も見せてくれた転移魔術だ。大体、さっきの攻防で魔術が消される距離は掴んだ。そのギリギリまで飛ぶ。

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