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ありきたりだが俺はそう信じている

 俺の姿はリーンがまとっていたローブを着た姿になり、右手には杖を持っている。俺の姿を見たオービタルがムッとした表情で見ているが、手は出してこない。


「貴様が我が物顔でそのローブを着ているのが気に入らんな」


「そんなにいいローブなのか」


 俺はわざと見せつけながら言った。


「そのローブに袖を通せるのは世界でただ一人の大賢者のみと決まっておるのだ。どこの馬の骨ともわからん馬鹿に着られるのが不愉快なのだ」


「へえー、悪いけど俺には興味ねえな」


 大賢者専用のローブと言った所か、水の大地の奴らはみんな大賢者という称号に余程思い入れがあるご様子だ。そんなもん俺には関係ねえがな。


「しかし、貴様が言っていた特殊能力に自信があるのも頷ける。その魔力はまるで別人のようだ、大賢者リーン・ポートメントと瓜二つと言ってもいいな。どんな奇跡を使ったらそうなれるのか研究したい所ではある」


「さあな、俺もよく知らねえからな。教えてくれるなら教えて欲しいもんだよ」


 聞きたかったら、女神イリステラにでもお願いするんだな。そしたら、どうでもよさそうに教えてくれんじゃねえかな。


 えー、そんな事に興味があるのって感じでな。


「まさか、大賢者リーンと似ているだけではあるまいな。せっかくだ、俺様がリーンを相手にした時に考えていた対策をお前みたいな凡人に使ってやろう感謝するがいい」


 オービタルは空間を広げる。今の俺は大賢者の知識を持っているのでわかる。これは、俺とあいつだけになる結界を作り上げているようだ。


 どうやら、リーンに邪魔されないように戦いになった時には閉じ込めておく算段だったようだな。まあ、俺としても都合がいい。


 助かるよ、面倒がなくてすむ。


「せっかくだし、気になってたことがあるんだがいいか」


「そんな時間があるのか?」


「いや、いいじゃねえか。結構猶予はありそうだしな」


 大賢者の知識のおかげでわかる。この術式は止められはしないが、発動までに結構な時間を要する。同時に、リーンとリュカが水の大地の人達を助けきれない事がわかってしまった。


 どっちにしても無理なら、俺がこいつを倒すか負けるかのどちらかしかねえ。なら、ギリギリまでさぼっていても変わらないだろう。


「まあ、いい。俺様的には時間を潰してくれるなら話に乗ってやらん事もない。それで、何が聞きたいんだ?」


「さっき、リーンも聞いていた動機ってやつだな、。せっかくだし教えてくれてもいいんじゃないか、時間稼ぎにもなるだろう」


 俺が何を目的としてるのかをオービタルは考えているようだ。だけど、残念だな。考えても無駄だぜ、俺は聞きたいから聞いてるだけだからな。


「ふんっ、何を考えているのかわからん奴だ。だが、お前が出していた紋章を見るに女神の関係者である事は明白だ。おおよそ、見当がついているのではないか?」


 紋章ってのはガチャの時に映るマークか。そうか、気にもしていなかったが見ただけで俺が女神から力を借りている事がわかるのか。


 今度から気を付けるとしよう。ただ、今回の場合は勝手に上手くいきそうだがな。


「どうかな」


 どうかなと格好つけてみたがなんも知らんのだが。それでも、オービタルには食えん奴にでも見えているのだろうか。


「俺様は真理を探究している時に偶然見た。俺様達が生きる世界を作り上げたであろう人物達をな。組織の名は『()()()()()』と言っていたな」


「なんだその突拍子もない話は」


「俺様も普段ならおとぎ話と吐き捨てるだろうな。だが実際に見てしまったのだ、見たものは信じるしかあるまい。問題はその者達の態度だ、その者達はこの世界などどうなってもいいと思っているということだ。わかるか、自分達で作っておきながら作り終わった俺様達の世界はどうでもいいというわけだ」


 普段なら知らんで終わる話が大賢者に転生しているおかげで、冷静に嘘か本当かを見分けられてしまう。オービタルが嘘をついているようには見えない。


 だが、全部が正しいと信じるのも難しい話だ。外でこんな話をすれば何言ってんだこいつとなる事請け合いだろうな。


「それで、お前が水の大地の人々を犠牲にするのと何の関係があるんだ」


「至極簡単な事だ。興味がない創造主から世界の主導権を奪う。その為に単純に大量の魔力が欲しいだけなのだ。奴らはどうやら不思議な箱を大層大事に持っていた、あれが世界に何らかの影響を与える物だと俺様は見た」


 その言葉に全てのピースが埋まるようだった。火の大地の運命の塔で見た覚えがある、女神イリステラが見せた創世の箱と呼ばれる存在。


 つまり、女神イリステラはそのメイカーズとやらと何か関係があるんじゃないかと思ったのだ。


「その様子だと箱について何か知っているようだな」


 しまった、あんまりにも考えすぎていて顔に出てしまったか。


「お前の言う箱を見た覚えがある。なんせ、俺は女神イリステラと会話した事があるからな」


「別に驚きもしない、そうだろうと思っていたからな。だが、貴様は女神イリステラを疑いはしなかっただろう。おかしいとは思わないか、どこからともなく『魔力』の王と呼ばれる存在が出現して俺様達の平和を脅かしている。この魔王は何処から来たのだろうな?」


 こちらに語り掛けてくるように話してくる。もう、大賢者の力なんて関係なくこの男が言いたい事が何となくだがわかった。


「つまり、メイカーズが魔王を差し向けたとでも言いたいのか」


「そうだな。俺様からも一つ聞きたい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 沈黙するしかなかった。そう言われてしまうと俺は女神イリステラの事なんざなんも知らねえ。急に転生させてきて、俺に無理難題を押し付けて来た奴としか言えない。


 一番近くで過ごしてきて、その実は何も知らない。あんなに夜にラブコールに答えていたのにだ。最近は忙しいのか通話もしなくなっちまったしな。


 ふむ、だが俺が見た感じだが女神イリステラが俺を騙しているような素振りは見た事がないな。あれがそんなに上手く人を騙せるような奴だとは思わない。


 何だったら、俺の方が人を上手く騙すだろう。


「味方かどうかなんて本人聞けよ。ただ、あいつは自分の世界の事を一番に考えているとは思うぜ」


 それは間違いないだろう。じゃなきゃ、どうにかして勇者と一緒に魔王を倒してくれなんて言わないだろう。それに、これは俺しか知らないが女神イリステラは力を失っていると言っていた。


 創成の箱も手放している。メイカーズと関係があったのとしても、俺達の味方だろう。ありきたりだが、俺はそう信じている。

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