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どうして俺がそんな事しなくちゃいけないんだ

「何で俺が!?」


「いや、一つ聞きますけどこれからどうするつもりだったんですか。私が見るにアリマさんが人助けをしてくれるとは思いませんが」


 リーンは俺の事をよくわかっているようだ。その通りだ、ぶっちゃけ心配なのはエクレアとリュカぐらいだがリュカは死にはしないだろうから放っておく。


 残りのエクレアは俺が背負って逃げれば後はどうでもいいって寸法だ。悪いんだが、水の大地のピンチだ解決するぞという殊勝な気持ちは持ち合わせていねえ。


 俺は正義のヒーローでも何でもないからな。俺が救える数は少ないからその中から選ぶしかねえだろう。


「そうだな、俺は知らない人間がいくら死のうが気にしねえよ。それにどう考えても俺がどうにかできるキャパシティを超えてんだろ。賢者同士の問題は賢者同士で解決してくれよ」


 大地一つの全生命が滅亡しそうです、どうにかしましょうなんてどうにもなんねえよ。アリシアには悪いけど水の宝玉は別の方法を考えるわ。


「勇者様から聞きましたが、アリマさんには特別な力があるみたいですね。それで倒してはいただけませんか、時間稼ぎをしてくれるだけでも助かるんですが」


 隣でさっきから喋らないリュカの方を見るとニコニコである。こいつ、余計な事言いやがって。


「確かに特別な力があるにはあるが今使えないんだよ。残念だったな」


 職業ガチャは現在一回も使えない状態だ。じゃあ、使えたら倒せるんかと言われたらこのレベルの相手では職業次第で負ける可能性も十分あり得るだろう。


 正直に言えば、使えてもやりたくないって気持ちの方が強い。


「アリマなら大丈夫ですよ。口ではああ言っていますがどうにかしちゃいますから」


 リュカ君。前々から思っていたんだけど、お前の中の俺の理想像が変じゃないかい。俺ってこういう時は素直に逃げるタイプだよ。


 だが、リュカの絶対にそうだという目が俺の判断を鈍らせる。くぅーーーーーーーー、どうしろっていうんだよ。


「な、何かリーンが大切にしてる物をくれればどうにかなるかもしれません」


「悪魔の契約か何かでしょうか?」


 そう言われても、職業ガチャを引くためには思い入れのある物が必要なんだよ。そこをクリアしないとどっちにしてもやりたくてもできねえんだよ。


「大切にしてる物ですかいきなり言われると困りますね」


 リーンが自分の持ち物を探している。すると、俺の方にぽろっと一枚の紙きれが落ちてきた。拾うとそれは一枚の絵だった。


 大分古い絵のようで、両親と笑顔の子供が描かれている。特徴からリーンとアリシアである事がわかる。男はリーンの夫だろうか、顔の部分が擦れているのでよーわからんが。


 簡単に言えば、家族写真みたいなもんだろう。


「そ、それ、返してください!!」


「よっぽど大事な物みたいっすね」


「当たり前ですよ!! アーちゃんが笑顔を私に見せてくれるなんてこの頃だけなんですよ!? これを支えに生きてきたと言っても過言じゃないんですからね!!」


 俺から奪い返した絵を握りしめて熱弁しれくれた。なるほど、職業ガチャの餌としてこれなら価値として十分にあるだろう。


「これ貰ってもいいですか?」


「私の話を聞いていましたか!?」


「いや、無理ならいいんすよ。俺も諦めますからね」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!!」


 大賢者のここまでの困り顔なんて見た人間が何人いるのだろうか。今まで、どんなことがあっても大人の余裕を崩さなかったリーンが俺に見せた悲痛な顔だ。


「リーンさん。アリマも無茶を言っているとは思いますが、これが必要な事なんだと思います。どうか、この絵をアリマに渡してあげてくれませんか」


 リュカの説得が入る。


「わ、わかりました」


 そう言って、俺に凄い渋々と家族の絵を渡してきた。俺が受け取ろうとするとリーンの力が強すぎて受け取れない。思いっきり力を入れて引っ張った。


 そして、スマホで絵をガチャのポイントに変換した。絵はリーンの前で消えてなくなってしまった。


「アァッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 おおよそ、成人した女性が発していけないような声を出しながら膝から崩れ落ちるリーン。だが、彼女も大人である目から血を流しながらも立ち上がる。


「アリマさん、絶対に勝ってくださいね!!!!」


 それだけを言い残してリーンは転移魔術で移動した。その後をリュカが追って行く。残されたのは気持ちよさそうに寝ているエクレアと俺。


 そして、面白そうに様子を見ていたオービタルだけとなった。


「いやー、愉快愉快。あの女の苦しそうな表情が見れただけでも儲けものだ」


「待っててくれるなんて大分気前がいいな」


「なぁに、俺様の勝利条件は時間だからな。それで、お前だけが残ったという事はまさかとは思うが俺様と戦うつもりじゃないだろうな。見た所大した魔力もないようだがな」


 そりゃそうか。時間が過ぎれば、魔術が発動して終わりだしな。よく考えりゃ、オービタルから同行する必要性はないのか。


「俺はただの村人だし、魔力がねえのも認めるよ。だけど、俺にはこれがある!!」


 俺はスマホを取り出して、職業ガチャを起動する。その様子を興味深そうにオービタルが見ている。どうやら、俺がここからお前にどう立ち向かうか気になるって所か。


 いいぜ、そんなに見たけりゃ見せてやるよ。ただし、こっからは俺もどうなるかわかんねえ運ゲーの始まりだがな。


 いつものガチャ画面が登場する。空の色は金色。金のカードは確定だ。そこから、青、青、青、青、虹。来たぜぬるりと。


 こりゃ、当たりだな。俺は虹色に輝くカードを握る。このカードは今の状況にとてもおあつらえ向きのカードだ。


「お待たせ。クラスチェンジ、大賢者」


 リーンの姿が映し出されたカードを天へと掲げた。

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