大賢者の力
とりあえず命の危機は去ったようなので、周りの様子を見る。みんながぐったりした様子で倒れている。いや、オルトだけいねえ。
あのタコ野郎どこに消えやがった。
「よくもここまでコケにしてくれたな。許さんぞ、こうなりゃこの町事飲み込んでやろう」
「コケにしたのは俺じゃなくね?」
なあ、何でこのタコは俺を睨んでいるんだい。コケにしたのはエクレアだよねえ。多分、催眠が時間経過で解けたのか知らんけど気持ちよさそうに寝ているし。
グランは吹き飛ばされてから起き上がりもしねえ。何で、味方は全滅して敵だけ残ってるんだよ。なんかの嫌がらせか。
「ふん、この町の事なぞどうでもいいわ。本当はこの姿にはなりたくなかったが、真の姿で屠ってくれるわ」
オルトの姿が変化していく。現れたのは子目玉を一回り大きくしたような目玉の怪物だ。目玉達の親玉と考えると相応しい姿だな。
「へえ、だがお得意の催眠は俺には効かないぜ」
「ふん、この姿になれば催眠など必要ないわ」
俺の横顔を何かが通り過ぎていく。気づくと俺の後ろの建物が木っ端みじんに粉砕されてしまった。
「どうだ、魔力を圧縮して生み出されるこの一撃は!!」
「これマジ?」
いや、そういう空気じゃなかったですやん。なんなら、このまま狡猾のオルトは退場ですって流れだったやん。誰がそこまで強化されろと言った。
今までの六魔将は誰一人として第二形態なんてなかったのに。
「フフフ、あいつから力を貰っておいたおかげだな。さあ、命乞いをしろ」
命乞いしよっかな。だって、職業ガチャもねえのにこんなん倒せるわけねえじゃん。頼れる仲間はみんな勝手に倒れていったし。
でもなー、そのセリフ言う奴は実際しても許してくれなさそうだしな。
「アリマさんお待たせしました」
突如、異空間から水の大地の大賢者であるリーン=ポートメントが登場した。どうやら、約束の時間までは時間稼ぎは成功したようだな。
ちょっと忘れかけてたけど。
「待ってたぜ。それで、首尾はどうだ?」
「人質は全員無事に救出を完了しました。後はその大したことなさそうな奴を倒すだけです」
リーンの煽りかと思ったが素で言っているんだろ。だが、オルトにはクリーンヒットだったらしい。目を充血させる程赤く染まっている。
「大したことないだと、この生まれ変わった姿を見てもまだそんな事が言えるとはな!!」
「知ってましたか見てくれだけ変わっても、中身を変えないと意味がないんですよ?」
だが、それでもオルトは余裕そうな感じだ。すると、グランが立ち上がってきた。だが、目は催眠を受けた状態のままだ。
「流石の大賢者も六魔将を二人相手にできるのかな」
勝ち誇った様子だ。確かにいくら大賢者といえども六魔将二人は厳しい気はする。そもそも、大賢者って実際に戦うと強いのだろうか。
「リーン、俺は戦えないぞ」
「ふふ、心配しなくても大丈夫ですよ。この程度の相手ならいくら増えようとかまいませんから。それに私は一人で来たわけじゃありませんよ」
リーンの言葉に答える様に、ある男が土煙を立てて大地へと着地した。見知った人物だった。
「リュカ!!」
「久しぶり、アリマ!!」
お互いに拳を突き合わせた。
王都セイクリアで別れてから、今まで話には聞いていたけど全く会っていなかったので久しぶりな感覚だ。相変わらず背は成長していない様子。
「積もる話はあるかもしれない。けど、話はあとにしよう」
そう言うとリュカはグランの前に立つ。
「グラン、僕に恩があるから返すって言ってたよね。これが君の恩返しかい」
リュカはグランに語り掛けているがグランは催眠から抜け出せないようで、リュカに襲いかかる。エクレアに勝るとも劣らない剛腕がリュカを襲う。
だが、リュカは簡単そうに片手で受け止めて弾き返してしまった。
化物のバーゲンセールかな。
「催眠にかかっていない、戦士としての誇りを持っていた君の方が数倍強かったよ」
リュカは背中の聖剣を抜いた。眩い光を放ち始めた聖剣をグランの体に叩きつける。グランは東の町の外まで叩きだされてしまった。
もう、俺の目にはそこからどこまで吹き飛んだのかがわからねえ。
「馬鹿な!? グランがこんなにあっさりと、これが勇者の力……」
「形勢逆転でしょうか」
「まだだ、私はこの姿で一つ上の領域へと進んだのだ。勇者にだって、大賢者にだって負けはしない!!」
「ええ、私としても気になっているのですよ。どうやってその姿を手にいれたのでしょうか?」
リーンが怒っている。持っている杖を地面強くたたく。普通にトンと鳴るだけだが、そこには大賢者としての威圧感みたいなものを俺は感じた。
「どうやってって、元々ああいう変身能力があるんじゃないのか?」
「いえ、魔物にあんな力はありませんよ。見た所、内面の魔力構造自体をいじくっているようですが、どちらでも構いません。貴方はここで排除します」
リュカが俺の手を引っ張る。
「ここを離れよう。僕たちまで巻き込まれちゃうよ」
「ああ」
俺は気持ちよさそうに寝ている馬鹿なエクレアをお姫様抱っこして、リーンから離れていく。
「抜かせ死ね!!」
変身したオルトの持つ魔力を圧縮した一撃だ。だが、その一撃はリーンまで届く事はなかった。リーンの前に突如出現した球体が全て吸い込んでしまったからだ。
透明感溢れるそれは、奥まで覗こうとすると自分も吸い込まれたような錯覚に陥ってしまう。
「私が開発した消滅魔術です。この球体はあらゆる物を吸収します。この意味が分かりますか?」
優しい笑顔で語りかけるリーン。何度もオルトはリーンに攻撃を仕掛けているのだが、どんな方向から攻撃しようともリーンが作り出した球体に吸い取られてしまう。
何あれ、吸引力の変わらないただ一つの掃除機じゃん。
「でも、弱点があって魔力の消費が激しいんですよ。そこで、私は考えました。私が消滅させた攻撃を魔力に変換する事にしたんです」
それって、攻撃は全部消滅させられて消滅したらリーンの魔力に変換させられるから実質永久機関の完成じゃねえか。
それでも諦めずにオルトは抵抗しているが全て球体に吸い取られて消滅する。リーンは直立状態のままゆっくりと浮遊していく。
それって、ラスボスの浮遊の仕方ですよリーンさん。
「ちなみにこの球体が吸い取った物はどこに行くのかは知りません。では、さようなら」
ゆっくりと丁寧にお辞儀をする。リーンの前に会った球体はゆっくりと動き出した。
「俺に近寄るなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
オルトは必死に逃げようとするが球体の吸い取る力の方が何倍も強いようだ。ついには球体に吸い込まれてしまい跡形もなく消滅してしまった。




