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エクレアの手加減が大事だって話

「俺の催眠波は小目玉からも発射できるんだ。この意味がわかるか?」


 まずい。目を見なければ催眠波に当たらないが小目玉は無数に空を飛んでいる。見るなという方が難しいだろう。


「エクレア、グラン、すぐにでも目を閉じろ!!」


「えっ、何ですか」「なんだぁ」


「俺の声に答えるために上を向くな!!」


 そうだった。こいつら根本的に馬鹿だから、声をかけられると上を向くんだよ。


 オルトは隙を逃さないように催眠波を飛ばす。二人はモロに浴びてしまったようだ。


 どうなっちまうんだ!? エクレアは偉そうに催眠にはかからないとか言ってたが。


「フハハハハ、どうやら催眠にかかったようだな。この女は俺が思っている以上に我慢して生きているようだな」


 エクレアとグランの様子を見ると、心ここにあらずと言った様子だ。


 どうやら、俺の予想が当たっちまったみたいだ。馬鹿は催眠にかかりやすいみたいだな。


 やべえぜ。


「さあ、最愛の女と殺し合いをするがいい」


「最愛ではないってだけ言っておこうかな」


 正直、軽口を叩いている余裕は今の俺にはない。エクレアを止める方法は今の俺にはないのだ。


「さあ、やれ女!!」


 オルトはポンと触手でエクレアの肩を叩いた。


「は〜〜、知らねえですよ!! 私に命令すんな!!」


 エクレアはオルトの触手を思いっきり引っ張って、オルトの顔面に拳を叩きつきけた。


 繰り返して目の前で起きた事を話すが、オルトの顔面に容赦のないエクレアの拳が突き刺さった。


 一瞬何が起こったのかわからず、脳が理解するのを拒んだ。


「おいっ、タコ。催眠にかかってる状態でいいんだよなあ」


「確かに催眠にはかかっているが、魔力が高かったから中途半端にかかってしまったようだ。欲望に忠実に動きモンスターになっている」


 なんかさ、催眠っていうよりは酒飲んでフラフラしてる状態なんだよなあ。


「だが、俺にはまだグランがいるからな。やれっ、グラン!!」


 グランはしっかりと催眠にかかってしまっているようだ。オルトの命令通りにエクレアの前に立ち塞がる。


「なんだぁお前。やんのか!? オラっ、顔がワニみてぇです」


 支離滅裂だが、丁寧語なのは変わらない。あれはエクレアなんだなぁというのがわかる。


「邪魔しゅんな!!」


 エクレアから見たことがない程の眩い光が放たれている。多分、魔力だ。


 次の瞬間には、グランの体は勢いよく遠くにある岩に激突していた。


 一発。あんなに頑丈そうなグランがエクレアの一撃で動かなくなってしまった。


 漫画みたいな岩盤の叩きつけられ方してんだけど!?


「どうだー、私は強いぞー」


 謎のガッツポーズをするエクレア。ここで俺は理解した。


 ああ、エクレアって普段から我慢してんだなって。何にも縛られていない状態のエクレアの強さはこんなもんなのだろう。


 とりあえず言える事はとんでもねえ化物が生まれちまったってわけだ。


 頼むから、次の標的はオルトであって欲しい。俺はあの化物をいなす自信がないです。


「おいっ、何見てんだ!! 見せもんじゃねえです!!」


「いや、見てないっす」


「嘘つけ、絶対見てたですよ」


 オルトさんに絡み始めたぜ。やったぜいいぞ、いいぞ。


「あのお連れの方が見てたぞ」


 汚ねえぞ、さすが狡猾のオルトだ。俺の方にヘイトを向かせようとすんじゃねえよ。


「ふざんけんな!! 元はと言えばお前の催眠が作り出したバケモンだろ!! 責任持って一人で処理しろや!!」


「貴様の連れであろう!!」


「黙りなさい!!」


「「はい」」


 エクレアが怒りのまま地面を踏むと振動が起きて、東の町の綺麗に塗装された地面は粉々に粉砕される。


 普段のエクレアなら、町の事を気にしたり人の事を気にしたりしてこんな事は絶対にしないだろうな。


 普段、だいぶ重い枷がついていたんだなぁって実感するね。


「お腹しゅきましたねー。何かないでしょうかぁ〜〜」


 怒ってたと思ったら急に腹が減ったとか抜かしおった。


「町にならいくらでも食べ物があるぞ」


「おおぃ!! 町から食べ物を勝手に盗ったら泥棒ですよ。そんな事もわかんないんですかタコさん。あっそうだ、お前の触手焼いてこいよ」


「いや、ちょっとそれは」


 もはや、エクレアは思いつきで会話をしているようにしか見えない。


「甘えるなーーーーーーーーーーーー!!!!」


 理不尽の権化であるエクレアの拳がオルトに突き刺さった。


 もはや、何が甘えるななのかが全然分からん。ピクピクとオルトは地面位伏せて動かなくなってしまった。


 立っている状態で残っているのは俺一人となってしまった。


 今までで一番世界の終わりを感じる。エクレアはこっちを見ると笑顔で近寄ってくる。


「アリマじゃないでひゅかー、アリマはいつも私に迷惑をかけてますよね。ごから始まっていで終わる言葉を言うべきではないですかー?」


 なんだ、急になぞなぞ始めたんだけどこいつ。ごで始まっていで終わる言葉ってなんだよ。


 あっ、わかった。


「ゴリラは優しい。っ危ねえ!!」


「わたひ冗談は嫌いですよ。もう一回だけチャンスを上げます」


 俺が受けるはずだったエクレアの拳が壁を貫通している。まじかよ、今日のエクレアは手加減とか一切ないからこんなの何発も受けてたらもたねえよ。


 マジでわかんねえ、ごで始まっていで終わる言葉ねえ。そもそもエクレアは何が目的なんだよ、笑わせたら許すみたいな感じか。


「ご……」


「ご?」


「合同企業説明会。危なっ!!」


「ごめんなさいでしょうが!! 謝る時はごめんなさいって言うべきですよ。恥を知りなさい恥を」


 なるほどね。ごめんなさいが正解だったわけか、だけどなエクレアちゃんに残念なお知らせがある。


「俺の辞書に謝るという言葉はない!!」


「うーん、いいでしょう。では、だで始まってきで終わる言葉です。ヒントとして四文字ですよ。四文字!!」


 テンションが狂っている。文字の指定までしてきやがった。じゃあ、一番最初に浮かんだ男性器ではなさそうだな。


 言ったら、とんでもない威力の拳を受けそうだしよかったぜ。四文字かぁ。


「だて巻き。死ぬって、お前あれだな!! 自分が欲しい答え以外を正解としてないだろ!!」


「次に間違えたら、サイキョーの拳が当たるまで殴り続けます」


 死刑宣告かぁ。もう当てるしかねえとこまで追いつめられちまったよ。さっきの解答から察するに、ようはこれってエクレアが欲しい言葉を言えばいいんだろ。


 こいつが難しい言葉を知ってるなんてありえねえから、ごめんなさいみたいに簡単な言葉だろ。一つ浮かんだけど、これでいいかなって感じだが。これ以外答えが出ねえし。


「大好き」


「すみません、良く聞こえませんでした」


「大好きだって言ってんじゃねえか。耳になんか詰まってんのか」


 こんなに近くで言ってるのにさ。


 すると、少し沈黙した後にエクレアがどういう感情なのかわからない表情をしてそのまま後ろに倒れてしまった。


「何なんだよ、お前は何がしたかったんだよ!?」


 一人全然よくわからないまま立っている俺だけが残っていた。

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