美人は世界の宝です
信託の巫女と呼ばれる女性がいる部屋まで向かう道中。
俺はその道中で落ちていた貴金属を一生拝借していた。すまない、俺にはお金がいるんだ。
恨むなら、俺が一回戦うために五万エン要求してくる女神イリステラを恨んで欲しい。
五万エンはこの世界ではまあまあの大金。俺はこの世界に転生してから職業ガチャをまだ一回しか試せていないのだ。
ちなみに今の状態じゃ一回もガチャできないので、どうにかして五万エンを捻出しなくてはならない。
俺は金策をしながら信託の巫女が待つ部屋の前で移動した。息を整えて部屋をノックする。
俺は楽しみにしていたのだ。信託の巫女という名前から連想される、あからさまに美人なお姉さん。
そう、転生してからおっさんかイケメンかショタしかいなかった俺の人生にようやく美人の女性が登場するのだ。
男なら楽しみでないわけがないだろう。
「はい、どうぞ」
透き通った声、声だけで期待が出来る。俺は意を決して扉を開けた。
そこには、ベッドの上に腰を掛けて座っている女性がいた。きっと、彼女が信託の巫女なのだろう。
白を基調とした服、奇麗な黒い髪の毛、ただ顔はヴェールで目元まで隠されていて全体像は見えない。
しかし、俺の目では骨格の判定から美人である事が判明した。舐めるなよ、女性に飢えすぎている男の目をな。
「よっしゃーーーー、美人確定じゃーーーー!!」
「へえ、僕の部屋に入ってきていきなり叫びだすとは君面白いね。まあ、僕が美人なのは当たり前の事だから仕方がない事だけどね。存分に見てくれて構わないよ」
「あざっす!!」
許可も頂いたので、俺はできるだけこの瞬間を忘れないように目で記憶しておいた。
ただ、彼女の全身を見ている時に俺は重大な事実に気づいてしまった。先に言いたい事があるのだが、女性の好みとは人それぞれであるという事だ。
それを踏まえた上で、俺は胸とお尻が大きな女性が好みである。もうこれは隠しようがない事実だから仕方がないのだ。そして、彼女の胸は断崖絶壁であった。
「理想の女性なのに、なんで胸がないんだ!!」
「わかった。こいつ、失礼で馬鹿なだけだな」
「すみません、俺は貴方を愛せそうにないです」
「何故、僕が君に振られたみたいな感じになっているんだい。そもそも、僕には待ち人がいるんでね。君みたいな奴、こちらから願い下げだよ」
ふむ、どうやら将来を誓い合った人がいらっしゃるようだ。余程の絶壁好きのようだな。
俺とは話が合わなさそうだ。
しかし、俺が失礼な事を考えている事は信託の巫女様にはバレバレだった様子。顔をしかめていたのでそろそろ本題に入ろうと思う。
「気をよくしていただいた所で本題に入ろうと思います」
「全然よくないけど、むしろ君の発言で今日一機嫌が悪くなったと言っても過言じゃないよ」
「俺の名前は……」
「アリマだろ?」
「どうして、俺の名前を」
信託の巫女は不敵に笑った。笑った顔も美人である、まあ顔は見えてないんですけどね。
しかし、まさか俺の名前を知っているとは俺も有名になったという事だろうか。
でも、俺ってここに来てから名前を名乗った覚えがないんだが、だって勇者の金魚の糞としか認識されてないんだもん。
誰も俺の名前になんて興味がないだろう。
「ふふっ、ある意味有名じゃないかい。勇者の友達ってだけで王城に一緒に入って来た変な奴って事でさ。名前を知っているのは僕が信託の巫女だからかな」
「全然答えになってねー」
そもそも答える気がないように見える。俺としては、彼女が女神イリステラの事を知っているのかどうかが知りたい。
女神イリステラとどういう関係なのかを知らなくてはならない。
「とりあえず名前は?」
「信託の巫女」
「役職の話してんじゃねえよ。名前だよ、名前あるだろ」
「名前。ふーん、そうか。名前が必要なのか、うーん、僕の名前はネスト。隣にいる者って意味でネストだ」
「嘘つけ!! なんだその間は絶対偽名じゃねえか!!」
「うん、今考えたからね」
楽しそうにけらけらと笑うネストさん。どうやら、俺をいじって楽しんでいる様子だ。
なんて、性格の悪い女なんだ。顔面偏差値が高いから許すけどな。
「それで、うちのリュカを勇者にって女神イリステラから信託を受けたらしいけど本当なのか?」
「なるほど、疑っていると。僕が口から出まかせで女神イリステラの名を語るゴミカス女の可能性があると思っているわけだ」
「そこまでは言っとらん」
ゴミカスとは思ってないけど、嘘つき野郎の可能性はあるとは思っている。そもそも、女神イリステラの信託なんて絶対にありがたい物でも、役に立つものでもないぞ。
俺なんてな、毎日のように夜には信託のラブコールがスマホにかかってくるんやぞ。しかも、何の価値もない話題ばかりだからな。
「僕は女神イリステラと会った事があるからね。これじゃ、なんの証拠にもならないか。うーん、よし君の未来を女神イリステラに聞いてみようじゃないか」
「はぁ、俺に信託してくれるって事すか?」
「そうそう」
俺は内心ほくそ笑んでしまった。ついにぼろを出したようだな。女神イリステラはな、現在地上には干渉できないってついさっき聞いたばかりなんだよ。
つまり、その信託は嘘確定なわけだ。俺は黙って、嘘の信託を聞いてやる事にした。
せいぜい面白い答えを期待してるぜ。
「君は世界を救う救世主になるよ」
救世主だってさ。
ははっ、面白すぎて笑いそうになるのを必死にこらえる。だってさ、俺みたいな奴を捕まえて真顔で救世主になりますだってよ。
面白い答えを期待していると言ったが、本当に面白い事言う奴がいるか。
「いやいや絶対にならねえよ!! 自分で言うのもなんだけどな、俺は人を救うって気持ちが限りなくゼロに近い男なんだよ。世界を救うってのはリュカみたいなやつの事を言う」
お金も盗むし、世界の事にも女神イリステラの件がなければ興味もなかっただろう。
たまたま、リュカを勇者にして魔王を倒してもらうっていう目的があるから、その目的に対して人助けはするかもしれない。
だが、それはついでだ。あくまで俺は世界を俺の目的のついでに救うわけだ。しかも、実際に救うのはリュカだ。俺じゃねえ。見当外れもいい所だ。
「せめて、救世主になりそうな真面目な人間に言った方がいいんじゃないか。俺みたいな不真面目な人間に救われたら世界も可哀そうだろ」
「ふふっ、僕の信託は当たると自負しているから」
そりゃ、自分の自負だけであれば何とでも言えるだろうが。しかし、信託の巫女の自信満々な様子は気にはなるな。
とりあえず、今日の夜にでも女神イリステラに報告して確認してみるしかないようだ。俺が部屋を出ようとするとまるで独り言のように巫女は言う。
「そう言えば、この王都セイクリアの王城には地下があるんだ。夜に声が聞こえてくるんだけど、お化けかもしれないね。まあ、確認したくても地下に行くのは禁止されているから確認しようがないかな」
まるで、こちらの反応を見る為にわざと言っているようだ。どうして、地下の話をしたのかは俺にもわからない。ひとまずは無視して部屋を出るのだった。
不思議と城の地下という言葉が俺の中に残っている。入っちゃダメと言われると入りたくなるのが人の業だろう。
俺はそろそろ決着のつく頃合いだと思い、リュカ達が戦っているだろう広場へと向かう事にした。